この紅魔の剣士に栄光を!   作:3103

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そっけと、と入力する毎に予測変換に出てくる鼠蹊部(そけいぶ)という文字にドキッとしてしまう今日この頃です。



第11話

「すいません。単刀直入にお聞きしますが、お二人は付き合ってらっしゃるのでしょうか?」

 

 師匠、そけっととの修行中。

 剣と剣を交えて殴り合っている最中、いきなり現れた姉さんが開口一番、そんな事を尋ねてきた。

 いきなり何なのだろうか? というかどうして俺達の居場所がバレたのだろうか? そしていきなり現れたこの姉は何を口走っているのだろうか?

 発言の意図を尋ねたかったものの、あまり知られたくなかった場面を姉さんに見られた俺は、冷や汗をかきながら目を逸らす。

 対照的に、そけっと師匠は小首を傾げながら姉さんに言葉を返した。

 

「付き合ってるって……、それは男女交際的な意味でよね?」

 

「はい、そうです。修行に付き合ってるだのそういう事が聞きたいのではありません。あくまでそこの愚弟と、貴方が深い仲なのかを聞きたいのです」

 

 姉さんは強張った表情で師匠に尋ねる。

 そけっと師匠は姉さんの言葉を聞くと、堪らずといった様子で笑い出し、

 

「……ぷっ、あははははははははっ!! 私とよろろんが? ないない! それはない!」

 

「……貴方にその気は無いと認識してよろしいのですね?」

 

「ぷっ、くくく……。よ、よろしいわよ。もう、ぜんっぜん、まったく、よろろんをそういう対象で見た事なんてないから。だから安心して」

 

 そけっと師匠は笑いながら答えた。

 ……姉さんは俺達の修行風景を見てて、そんなこと考えてたのか。この姉、ちょっと色ボケ過ぎじゃないですかね?

 普通に考えたらあり得ないだろ。だって俺と師匠、十個以上歳離れてんだぞ。

 俺はともかくとして、師匠はそういう目で俺を見れないだろう。見てたら確実にヤバイ人だろうが。

 

「いやー。まさか私が嫉妬されちゃうとはねー。剣を振り回すことにしか興味が無さそうなよろろんくんも、案外隅に置けないってことかー」

 

「……なんで俺の頬をぐりぐりするんですか、師匠」

 

「いえ、嫉妬しているのは私ではなくそこのーー」

 

「あ、あー!? め、めめめぐみん! こんな所に居たんだ探したよー!!」

 

 姉さんが最後まで言い切るのを遮るように、ゆんゆんが近くの茂みから突然出て来た。勢いよく出て来たからか、身体中に葉っぱや木の枝が引っ掛かっている。

 

 一体いつからそこに居たのだろうか? というかそんな距離まで近づいて来てるのに何故気付かなかった。今日こそは師匠に一本打ち込んでやろうと集中していたからだろうか。

 

 と、改めて修行に打ち込み過ぎていて、周りの事に全然気づけてなかった事に気づく俺。

 こういう時、素早く乱入者に気づくためにも、もう少し周りの気配を探れる術を身につけた方がいいのかもしれない。

 

 ……まあでも、そんな事より。早急に対処すべき問題は姉さんにこれ以上あれこれ聞かれないようにする事である。

 特に弟子入りした理由とか、そけっとを師匠と呼ぶようになった理由とか。

 聞かれたら確実に馬鹿にされる。それだけはなんとしても回避しなければ。

 俺は顔に受かんでくる表情を悟られないように、心を平静に真顔で姉さんに話しかける。

 

「まあ、なんにせよ。姉さんが知りたがってた事はわかったろ? だったら早く帰って」

 

「それでお二人はどんなきっかけで師弟関係を結んだんです? よろしければ教えて頂けないでしょうか?」

 

 この姉、俺が聞かれたくない所をピンポイントについて来やがる。

 恨みを視線に込めて向けると、にやけている姉の顔が見えた。間違いない。確信犯だコイツ。

 

「きっかけ、ねぇ……。別に聞いても面白い話じゃないわよ? ただ普通に、修行しに森に入ったら涙目で一撃熊に追いかけられてる彼を見つけ、一人で修行するのにも飽きてきてたし弟子にしてあげたの。子供が一人で森に入ってるのも、危ないと思ったしね」

 

 比較的真面目に、姉さんの質問に答える師匠。

 ……あ、ありがてぇ。この調子ならなんとか誤魔化せそうだ。

 真相を闇に葬るために、俺は顔を赤らめてやり取りを見守っていたゆんゆんに声をかける。

 

「そ、そういやゆんゆん。ゆんゆんはどうしてこんな所で隠れてたんだ? また姉さんに勝負を仕掛けるために隠れて機会を窺ってたのか?」

 

「……え、あっ、いや。今日は別にめぐみんと勝負をする為じゃなくて、ぶっころりーさんの依頼で……」

 

「……ぶっころりー? ぶっころりーって靴屋の息子さんのぶっころりーよね? ここで隠れてた貴方の口からどうして彼の名前が出てくるの?」

 

 師匠が小首を傾げると、がさがさと近くの茂みが揺れた。

 動物か何かだろうか。目を凝らしてよく見ると、風景の一部が不自然に歪んでいる様に見えた。

 ……明らかに不自然だ。流し見ただけでは気づかなかっただろうが、こうしっかり見ればアレが自然現象ではない事がわかるだろう。

 

 関わりなぞ皆無な筈なのに、何故かゆんゆんの口から出てきたぶっころりーの名前。

 光を屈折させ透明になったかの様に姿を隠せる魔法の存在。

 この所続いたという、師匠に対する何者かのストーカー行為。

 そして何より。姉さんが呆れた様にしたため息。

 そこから出される結論はーー

 

「……ちょっと待っててくれる? 今からストーカーをしばき倒して来るから」

 

 俺は知り合いがヴァルハラに誘われないよう、師匠の制裁がなるべくすぐ済む事を心から祈った。

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

「……全く。占いをして欲しいなら素直にお店を訪ねて来てくれれば良いのに」

 

「いや、その……。……ちょっと手持ちが無い上に占いとかあんまりやった事がないから、なんだか妙に恥ずかしくて……。いやほら、そけっとの占いはよく当たるって評判じゃないか。それで悪い結果が出たら、なんだか悪い未来を回避出来なくなるような気がして怖かったんだよ」

 

 場所は変わり、現在俺達はそけっと師匠の占いの店に来ていた。

 師匠の本業が占い師なのは知っていたが、こうして店を訪ねるのは初めてだ。

 ちゃんと占い師してたんだなぁ、と感慨が生まれる一方。師匠の対面に座り照れ臭そうに頭を掻くぶっころりーに、占いくらいにそんなにビビるなよ、と情けなさを感じていた。

 

 この所師匠を付け回していた犯人の正体は、やっぱりぶっころりーであった。

 理由は先ほど本人が話していた通り、師匠に自分を占って貰いたかったものの、イマイチ門戸を叩く勇気を持てず、機会を窺って後を追いかけていたらしい。

 そのあまりの情けなさに、姉さんもその隣のゆんゆんも、ぶっころりーにとびきりの根性無しを見る時のような、白い目を向けていた。

 

「そんなに気負わなくても大丈夫よ。確かに私の占いは精確だけれども、天気を占った時に曇りって結果が出たのに、五分ほどにわか雨が降ったりするくらいの誤差はあるから」

 

「それ殆ど誤差ゼロじゃないか!? そんな精度で未来を見られるの俺!? これで悪い結果しか出なかったら立ち直れそうにないんだけど!」

 

 師匠の言葉に涙目になるぶっころりー。

 そけっと師匠はそんなぶっころりーに微笑みながら、

 

「まあまあ。そんな気負わずに、軽く考えて。初回だし、今回のお題はサービスしてあげるから、気楽に占って欲しい事を言ってみなさい?」

 

「……え、本当にいいの? じゃ、じゃあ……。俺の将来の恋人、いやお嫁さん……。ああ、どうしよう! 悪い結果が気になって素直に頼めない!」

 

 頭を抱えて唸るぶっころりー。

 ……いやもうそこまで選択肢が出てるなら、素直に頼んでしまえばいいのに。

 俺と同じ事を思ったのか、師匠もぶっころりーを見ながらため息を吐いた。

 

「……はいはい。要するに貴方の未来の恋について占えばいいのね。じゃあ早速始めるから。さっさと覚悟しちゃいなさいよ」

 

「……は、はい」

 

 そけっと師匠が机の上に置いてあった水晶玉に手をかざす。室内に僅かながら緊張感が生じた。

 果たしてぶっころりーの未来の恋人はどんな人なのだろうか?

 恋愛事に疎い自覚がある俺でも少し気になって来た。

 師匠が静かに水晶を見つめて、そしてしばらく。

 放っていた水晶の淡い光が収束していき、そして……!

 

「……何も映らないんだけど」

 

「え、えぇっ!?」

 

 ただ光が治っただけの水晶玉を見て、師匠が慌て始める。

 

「お、おかしいわね。普通どんな人だって最低でも一人は映るのに、どうしてなにも映らないのかしら? 水晶の故障? いやでもこれこの前買い替えたばかりだし……」

 

「あ、あのっ。壊れてないか確かめる為に、他の人を占ってみるのはどうですか? それで確かめてダメなら、ぶっころりーさんも色々諦めがつくだろうし……」

 

「君やっぱりさらっと毒吐くよね!? 大人しそうな顔して言葉のエッジがヤバイ時あるよね!?」

 

 ゆんゆんに毒を吐かれて驚愕するぶっころりー。

 一方そけっと師匠は慌てた様子のまま、

 

「そ、そうね。私の力が不調なのかも知れないし、ちょっと確かめてみましょう。誰か占って欲しい人はいない? ついでみたいで悪いけど、この分のお代は要らないから」

 

「じゃあ、そこの愚弟なんかどうですか? 一応貴方の弟子ですし、実験台には丁度良いでしょう」

 

「軽々しく弟を生贄に差し出さないでくれませんかね? あと師匠も納得顔で占い始めないで下さいよ」

 

 俺の意思に関係なく、なぜか俺の将来の恋について占われ始めてしまった件。

 ……いやまあ、この中のメンバーなら一番恋愛ごとに興味が無いのは俺だろうし、変な結果が出ても気にしないから別にいいんだけど。

 その結果を複数人に見られるのは恥ずかしい。姉さんとぶっころりーだけじゃなく、なぜかゆんゆんまで興味津々だし。

 そうこう考えている内に、俺の事を占い始めていたそけっと師匠の水晶玉から光が収束していくのが見えた。

 

「……ふんふん。なるほど。……いやー、これは中々。……一筋縄じゃいかない感じねぇ」

 

「な、なにが見えたんですか? そんな含みを持った感じで言われると、流石に気になるんですが……」

 

「……う、うーん。せっかく未来を見たんだし教えてあげたいのは山々だけど、これは君に結果を教えない方が良いかも……。よろろん、変に意識しない方が上手くやりそうだし。だから君の未来の為にも、この場じゃ秘密にさせて貰うわ。ごめんね?」

 

「……まあ、師匠がそういうなら無理には聞かないですけど。正直そんなに興味も無いですし」

 

 若干尾を引かれる感じはするが、未来なんて解らない方が普通だしな。

 複数人の未来を見てきた師匠が言うなら、その方が良いのだろう。未来の恋路について知るのは、すっぱり諦めようか。

 

「……あれ? そけっとさん。よろろんの未来は教えないだけで見えたんですよね?」

 

「ええ、はっきりと。私の力も水晶も問題は無い様に感じたわ」

 

「……じゃあそんな万全な状態で占われたにも関わらず、なにも未来が見えなかったぶっころりーは……」

 

「や、やめてくれ! 今必死に現実逃避してたんだからわざわざ傷をえぐる様なまうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

 ぶっころりーは半泣きで、叫びながら店を飛び出して行った。

 

 




「……ゆんゆんだっけ? よろろんのこと、大変かもしれないけど諦めちゃダメよ?」

「……へっ!? あ、ななんでっ、なんで私の肩を叩くんですか!? 占ったのはよろろんの未来なんじゃ!?」

主人公の見えない所でこんなやりとりが、あったりなかったり。

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