筋肉はすべてを解決する   作:素飯

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筋肉


筋肉はパワー

 筋肉はパワー。それは世界の真理である。

 どこぞの世界の魔術師は筋肉に至るために魔術を極めるし、筋肉戦争という呪われた儀式も存在する。

 どこぞの天災はマッチョにしか扱えないパワードスーツを作って既存の兵器を鉄くずに変えるし、マッチョ・グロッソなる大会も開催される。

 どこぞの世界には現実世界の肉体の出来で全パラメーターが決定する鋼鉄の城が舞台のデスゲームだって存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は、筋肉でできている。

 この物語は、少年が英雄に至る物語でもなければ、少年が少女たちと過ごして青春を謳歌する物語でもない。

 この物語は少年が筋肉と共に筋肉する筋肉である。

 

 

 

 

 

 

 

「ッハァッ!」

 

 半裸の少年の大胸筋が、音を置いていくほどの速度で飛ぶ光弾を玉砕させる。

 ちりちりと胸が痺れるのを感じながら、少年の後ろで控えているフェレットのような小動物に少年は視線を向ける。

 

「ユーノ」

「あ、うん……」

 

 ユーノと呼ばれた小動物が薄い緑色の魔力光をまとい、少年の大胸筋を一瞬で治療する。

 ユーノの治癒魔法は確かに優秀だが、それを加味しても先ほどの攻撃を生身(・・)で受けた者の傷を一瞬で治癒するなど、到底不可能である。

 ではなぜ一瞬で治癒が完了したのか。

 

「よし……。おい、そこの金髪の少女よ」

「いや生身って……いや……えぇ……」

 

 少年の肉体が、生身で魔力弾を粉砕出来るほどの強靭さを備えていたからである。

 少年は再度、反応を示さず呆然としている少女に向けて声を発した。

 

「聞いているのか、少女」

「え、あ、はい」

 

 未だ混乱から抜け出していない少女は、いつもなら無視して攻撃を再開するかその場から撤退するかするはずだったところを、普通に返事をしてしまった。

 少年は満足そうにうなずき、少女に問いかける。

 

「うむ。返事はきちんとな。して少女よ、なぜなのはを攻撃したのだ」

 

 先ほどから少年の完全に出来上がってキレッキレなマッスルボディに隠れている栗色ツインテールの少女は、少年の背から顔をひょっこりとだし、金髪の少女を見た。

 

「……ジュエルシードを、回収するためです。というか服を着てください!」

 

 少女は努めて冷静に、しかしそれでも少年の出来上がった良いカラダに気恥ずかしさを覚えるのか、頬を上気させ唇をかみしめる。

 

「ふむ、それはあの青い宝石の様な物のことか」

「……そうです。渡してください」

「だそうだが、なのは」

 

 少年は腕組みをして仁王立ちし、服を着ろという指摘を受け流す。視線を金髪少女に向けたまま栗色ツインテールの少女、高町なのはに声をかけた。

 

「えーっと、とりあえず私にもジュエルシードを集める理由があるわけで……とりあえずお話聞かせてくれない?」

 

 なのはは努めて冷静に、相手と自分の目的の落としどころを探そうとする。

 だが、少女は一向に返答をせず、黒光りするハルバードを少年たちに向けていた。

 

「どうやら口にできぬ事情、こちらのように管理局絡みというわけではないらしいが……。少女よ、そちらの事情が分からなければこちらも手の打ちようがない。どうか訳を教えてもらえないだろうか」

「できません。ジュエルシードを渡してください」

「……いよいよもって交渉決裂。やるしかないようだ」

 

 少年の心が戦闘態勢に切り替わる。体は仁王立ちのままだが、少年からあふれ出る闘志を少女は感じ取り、自身の得物を持ち直す。

 

「ま、まってって! 話し合おう! 出会ってすぐの私たちが、戦う理由なんてないはずだよ!」

「そうは言うがなのは、話し合いとは相互間での話し合いの意思があることが前提の行為だ。少なくとも今は、筋肉で語るしかあるまいて」

 

 少年は仁王立ちを解き、なんかそれっぽい構えをとる。

 

「……なんですか、その構えは。馬鹿にしてるんですか」

 

 少女の視線がややキツくなる。

 それもそのはずだ。少年の構えは武の心得があるものからしてみれば、かけらも技術を感じられず、尚且つ次の行動が読みやすすぎる『隙の多い』構えなのだから。

 

「馬鹿にする意図はない。右の拳を引き、踏ん張る。これが俺の最強の構えなのだ」

「……」

 少女は、少年の返答を無視して魔力弾を四つ生成。先ほども見せたい超速射撃で少年を狙い撃った。

 

「ふんッ!」

 

 瞬間、少年が気張る(・・・)

 立ちはだかる筋肉はその魔力弾を通さないッ!

 筋肉にぶち当たった魔力弾は、雷光を弾けさせながら空中に霧散した。

 少年の圧倒的な肉体は、少女の魔力を一切通さないようだ。さすが筋肉。

 

「そんな……なら、接近戦で――」

「やめておけ」

 

 ハルバードの形状を鎌のように変化させ、魔力刃を通したところで少年が待ったをかけた。

 怪訝に思いながら鎌を構えて少年を窺い見る少女の目は、幼いながらも獲物を狩る狩人のごとき鋭さをたたえていた。

 

「接近戦では、間違いなく君は俺には勝てない」

「何を根拠にッ!」

 

 声を張り、特攻をかます少女。

 だが悲しくも、少女の渾身の力でもって振り下ろされた斧は、少年の体に傷一つすらつけられなかった。それどころか、打ち込んだ少女が衝撃により痛みを覚えていた。

 

「っ……」

 

 痛みを殺しながら、電光石火のごときスピードで先ほどまで立っていた空中に舞い戻る。

 

「なんて、堅い……」

 

 少年は崩さなかった硬い表情をほころばせて、得意げに頷いた。

 

「マッチョなら当然のことだ」

「マッチョでも普通なら死んでたと思うの……」

 

 今までもこういうことがなかったわけではないが、それでもなのはは突っ込まずにはいられなかった。このことを責められる人間は、おそらくいないだろう。

 

「これなら!」

 

 少女が先ほどの魔力弾を、より鋭く、大きく生成する。

 少年の筋肉は金城。散発を繰り返すだけでは到底突破できないと悟った少女は、自身の生成できる魔力弾を最大の威力に引き上げ、圧縮して一点突破の一撃を見舞うつもりなのだ。

 

「よかろう。それが今の君の本気ならば、男として、そして年長者として全力で受け止めてやろう」

 

 バチバチと雷を纏い、いかつい音を立てる魔力弾……否、魔力槍とでも言うべきこの技は、今の少女が打てる正真正銘最強の魔法。

 

「さぁ来いッ!」

 

 少年はさらに拳を引き絞り、迎え撃つ構えをとる。

 少女はさらに魔力を放出し、つき穿つ構えをとる。

 かくして、少年と少女の短いながらも苛烈な一騎打ちは終幕となり、筋肉が脈打つフィジカルな筋肉が筋肉することとなった。

 




筋肉

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