Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。

雨の日のお話2回目になります。


雨の日と布屋さん2

「またやってしまった…」

 

自分の浅はかな行動を嘆きつつ、これからどうするべきかを考える。

手に夕飯の食材が入ったビニール袋を持って、バス停から外を眺めている現状。

 

眼前に広がる景色。

雨、雨、雨。

 

足元に存在する水たまりには絶え間なく水が供給され、波紋が休まることは無い。

そして俺は、そんな中で帰る術が無い。

 

はい、またやってしまいました。

傘を忘れました。

 

今日は普通に買い物に来ていた。

そして、朝は天気予報を確認していたし、出かける前は傘を持っていくつもりでいたのだ。

いたのだが…

 

「なーんで直前で忘れちゃうかなあ」

 

自分に向けてそんなことを呟く。

こういうことは、案外よくある…気がする。

 

できれば買ったものを濡らしたくはない。

だが、ここから店に戻って傘を買いに行っても、その過程で濡れることは避けられ無いだろう。

 

であるならば、ここから家まで走った方が良い。

そう考え、早速スタートの構えを取る。

 

その時だった。

 

「…あんた、何してんの」

 

不意にそんな声がかかる。

振り向くと、そこには堕天使ヨハネこと善子ちゃんがいた。

 

「もちろんクラウチングスタートだよ」

「ハルさん、ランニングでもするずら?」

「まあ走ろうとはしてたね」

「い、今、雨降ってますよ?」

「最近暑いからね。涼もうと思ったんだ」

「嘘つくならせめてビニール袋隠しなさいよ」

「ハルさん、傘忘れたずらね」

「あはは…」

 

善子ちゃんだけでなく、花丸ちゃんとルビィちゃんも一緒だったようだ。

 

善子ちゃんと花丸ちゃんは呆れ。

ルビィちゃんは苦笑いをしている。

 

そんな彼女達について、一つ気になることがある。

それは今の彼女達の格好についてだ。

 

「ん?どうかしたの?」

「ああ、その、変わった格好だな…と」

「格好?あ、この服ずら?」

「服…といえるのかい、それ」

「今日は雨だったんで、こういう格好なんですよ」

「俺の知ってる雨の日の格好とは少し違うね」

 

彼女達は今、傘をさしていない。

だからと言って、雨具を装備していないわけではない。

 

彼女達が身にまとっているのは、雨合羽…でもない。

確かこれは…

 

「ポンチョ…って言うんだったかな」

「その通り!」

 

ふんすと聞こえてきそうな表情を見せてくれる善子ちゃん。

 

「またなんでポンチョ?傘はなかったのかい?」

「あったんですけどね」

「ばあちゃんがポンチョをくれて…」

「くくく…この堕天使には、傘よりポンチョの方が似合うでしょ?」

「ああ…なるほど」

 

くれたそれを、善子ちゃんがノリノリで装備したと。

 

ポンチョ。

傘や雨合羽とはまた異なる雨具である。

 

形式としてはマントに近いかな?

フードが付いているものもあれば、そうでないものもある。

 

着方によっては、確かに堕天使っぽく見えなくもない。

 

「しかし、よくポンチョなんて持ってたね」

「花丸ちゃんのお家にあったんです」

「昔はよく使ってたみたいずら」

「へー。そうなのかい」

「ふふふ。どう?かっこいいでしょ!」

 

そう言って、バサアとポンチョを広げて見せてくれる善子ちゃん。

 

ああ、こらこら。

そんなに前を開けたら雨具としての役割を果たせないじゃないか。

 

そんなことを思いながら、花丸ちゃんとルビィちゃんを改めて眺める。

 

善子ちゃんとは違い、きっちり前を閉めてフードも被っている。

小さいカバンでも背負っているのだろう、背中のあたりに若干の丸みが感じられる。

 

小柄の二人がポンチョに身を包むその姿。

これは…

 

「丸い…」

 

ついそんな一言が口をついた。

 

「…もしかして、丸たちのことずら?」

「ふ、太って見えますか!?」

「ああいや、そういうわけではなくてね」

 

二人してショックを受けているように見える。

違う違う。

 

「てるてる坊主みたいで可愛らしいなって思ったんだよ」

「そ、そうずら…?」

「そ、そうですか…えへへ」

「…いやそれ、褒められてるの?」

「善子ちゃんは堕天使っぽくて素敵だよ」

「そ、そう。…うへへ」

 

うへへて。

 

まあなんにせよ三人ともよく似合っているなあとは思う。

それが褒め言葉なのかはなんとも言えないが。

 

「そういえばハル、傘ないのよね?」

「そうなんだよね」

「それで雨宿りしてたずらね」

「さっきまでね」

「走り出そうとしてたのはどうしてなんですか?」

「もちろん、雨宿りを諦めて走って帰ろうとしてたんだよ」

「…結構雨降ってるわよ」

「見ればわかるよ。でもどうしようもなくてね」

「止む気配もないですもんね」

「そういうことさ」

 

そんな会話をしているこの時間も、雨はその強さを弱めることはない。

夕飯の準備もしたいし、そろそろ帰らないと時間がもったいないな。

 

「まあそういうわけだから、俺は行くよ」

「いやいや、ちょっと待ちなさいよ」

「どうしたんだい?あんまり時間に余裕はないんだが」

「とりあえずそのクラウチングスタートをやめてくれる?」

「ハルさん、その構えしないと走れないずら?」

「その通りだよ」

「適当言うんじゃない!」

「あ、あはは…」

 

そんなやり取りの後。

 

「雨具、ないんでしょ?ほら、これ貸してあげるわよ」

 

善子ちゃんがそう言いながら何かを差し出してくる。

これは…

 

「折りたたみ傘?」

「そ、そうよ。私はその…使わないから」

 

黒を基調とした折り畳み傘。

サイズは大きくないだろうが、荷物を濡らさないようにするには十分だろう。

これはありがたい。

 

「えっと…いいのかい?」

「いいから!ほら、早く受け取ってよ」

「ありがとう。助かるよ」

「う、うん…」

 

お礼を言って傘を受け取る。

なんでか善子ちゃんが少し照れているように見える。

 

「…善子ちゃん、ハルさんの笑顔で照れてるずら」

「そうだね。私も折りたたみ傘持っておくべきだったなあ…」

 

花丸ちゃんとルビィちゃんが横でコソコソ何かを話しているが、あまりはっきりは聞こえない。

気にしないでおこう。

 

刺してみると、傘のデザインはいかにもな中二スタイルだった。

…周りに人はいないし、たまにはこういう傘もいいだろう。

ということにしておく。

 

雨が降る中を四人で歩く。

 

「そういえば、みんなは何してたんだい?」

 

横を歩く善子ちゃんにそんな質問をする。

そんな質問に返事をしてくれたのは、後ろの花丸ちゃんとルビィちゃんだった。

 

「もともと、今日はみんなでうちに来てたずら」

「花丸ちゃんの家にかい」

「そうなんです。だから来た時は私も善子ちゃんも傘持ってたんですよ。天気予報では降水確率100%でしたし、当然だとは思うんですけどね」

「…当然…うん、そうだね」

「…ルビィ、傘持ってないハルにそれはきつい一言ね」

「え?あ、ち、違うんです!こ、これはその…」

「うん、まあ、言ってることは間違ってないからね。気にしなくていいよ」

「あはは…」

 

聞いた話によると、この子達は買い物の帰りだったそうだ。

買い物に行く際、花丸ちゃんのおばあちゃんがポンチョをくれたらしく、カッコイイという理由でそれを着て来たんだそうだ。

 

おばあちゃんの考えたこととして予想できるのは…

買い物のために両手を空けさせるため。

風が少し吹いているので、傘が飛ぶ可能性を考えた。

といったところかな。

 

ちなみに彼女達の買ったものについては、傘を貸してくれたお礼として俺が今持っている。

片手で傘を持っているので、もう片方の手に荷物が集中して若干歩きにくいが、これは仕方ない事とする。

 

「…あれ?じゃあなんで傘を持ってきたのさ。花丸ちゃんの家に置いてきてもよかったと思うんだけど」

「う”っ…そ、それは…」

「善子ちゃん、もしかしたらハルさんが雨宿りしてるかもしれないからって、わざわざ持ってきたずらよ」

「ほう」

「ず、ずら丸!」

 

俺が傘を忘れて出かけることを予測されていたのか。

びっくりである。

 

「善子ちゃん、前2年生の人たちがハルさんと相合傘したって聞いて、羨ましそうだったもんね」

「なあっ!る、ルビィまで!ち、違うのよ!べ、別にハルがいたら真っ先に傘を貸してあげようとか、あわよくば私も相合傘をなんて考えてないんだから!」

「そ、そうかい」

 

すごい剣幕で迫られながらそう言われる。

 

いまいち内容が掴めない。

が、まあ一応心配してくれて傘を持ち歩いていてくれたようだ。

感謝である。

 

「…ハルさん、言葉のまま受け取っちゃったずら」

「あはは…さすがだね」

「にしても、よくここにいる事まで読めたね。傘忘れの件といい完璧な予想だよ」

「そ、そう?ま、まあ、これでも堕天使だしね」

「善子ちゃん、今日以外も毎日傘持って歩いてたずら。道もハルさんがいそうな道を歩こうとしてたし、そんなに偶然でもない…」

「ぎゃあああああああああああ!」

 

慌てたように花丸ちゃんの口を塞ぐ善子ちゃん。

 

「ち、違うから!ふ、普段持ってた傘は日傘だから!あ、歩いてたのはその…たまには別の道を歩こうと思っただけだから!」

「わ、わかったから、花丸ちゃんを解放してあげてくれ」

 

そんな会話をしながらさらに歩く事数分。

もう間も無く花丸ちゃんのおうちに着こうかというくらいのとき。

 

 

それは起きた。

 

 

歩道の隅にとある花を見つけた。

 

「これ、アジサイだね」

「わー本当ですね。綺麗です」

「ずら〜」

「ふふ。そうね」

 

雨の日の定番といえばやはりこの花だろう。

もともと5月から7月にかけて花を咲かせるらしいが、どうにも雨の日の花というイメージがある。

 

そんなアジサイが薄暗い道端でその存在をアピールしている。

 

思わず足を止めていたら、花丸ちゃんとルビィちゃんがそこにしゃがみこんでアジサイを眺め始めた。

 

「二人とも、裾を地面につけないように気をつけてね」

「「はーい」」

 

仲良く返事をする二人。

 

「ハルも、そこ大きい水たまりあるから気をつけなさいよ」

「おっと。ご忠告ありがとう。でもまあ大丈夫だよ。誰かに押されたりでもしない限り、落ちたりしないさ」

「…なんか、フラグにしか聞こえないわね」

「フラグ?」

「あんたがAqoursに立てまくってるものよ」

「おお?」

 

なんのことかはよく分からなかった。

 

アジサイを見て喜ぶ二人と、それを外から眺める俺と善子ちゃん。

実に平和な絵面である。

 

そこまではよかった。

 

「ん?あれ、カエルかしら」

「そうだね。これも雨の日の定番だね」

「…結構大きいわね」

「んー…そうだね。って、顔が少し引きつってるよ。カエルは苦手なのかい?」

「女子でカエルが好きな人ってあんまりいないわよ」

「へえー」

 

花丸ちゃんとルビィちゃんの視界には入っていないらしい。

二人はカエルの方を見ていない。

 

それを知ってか知らずか、カエルは徐々に二人に近づいていく。

 

「…これ、まずいんじゃない?」

「そうなの?」

「いや、だって…」

 

善子ちゃんがそこまで言った時だ。

 

「あ、カエルずらー」

「え?」

 

花丸ちゃんが、その存在に気がついた。

そして、それにつられてルビィちゃんもそちらを向く。

 

直後。

 

それまでゆっくり進んでいたはずのカエルが突如猛ダッシュ。

振り向いたルビィちゃんの顔に張り付いた。

 

「あ」

 

「え?」

 

「うわ」

 

「…………」

 

思わず声が漏れる俺、花丸ちゃん、善子ちゃん。

ルビィちゃんは、数秒無言になった。

 

そして。

 

「ぴ…ぴぎゃああああああああああああああああ」

 

とてつもなく大きい悲鳴をあげて体を大きくのけぞらせた。

 

「ごふうっ」

 

そのままルビィちゃんの頭部が後ろにいた俺の腹部を直撃。

不意をつくその一撃に、俺は大きくバランスを崩す。

 

「って、ちょっ」

 

ただでさえ荷物の持ち方のせいで不安定だった俺に、これはクリティカル。

当然、バランスを保つ事はできず転倒する。

 

その転倒先は…

さっき善子ちゃんと話していた水たまり。

 

まじかー…

 

姿勢を保つ事を諦めて、ゆっくり倒れていく俺はそんな事を考えながら倒れるのであった。

 

 

『バシャーン』

 

 

「ハルさん大丈夫ずら!?」

「わ、わわわ、ごめんなさいハルさん!」

 

水たまりに倒れている俺にそんな声をかけてくれる花丸ちゃんとルビィちゃん。

 

「ああ、大丈夫だよ。心配しなくても、荷物は濡らしてないからね」

 

倒れる際、傘と荷物だけは濡らさないように位置をキープし続けた。

うん、ここから見ても荷物は大丈夫そうだ。

 

まあそのせいで受身は取れなかったので、体はまるまる水たまりに浸かっているが。

そんな俺を見て、善子ちゃんはなんだか呆れ気味である。

 

「恋愛フラグは回収できなくても、こういうフラグはきっちり回収するのね」

「…なにを言ってるかはわからないけど、とりあえず荷物だけ受け取ってくれ」

 

その後。

 

花丸ちゃんの家でシャワーを貸してもらった上に、ご飯までご馳走になってしまった。

 

こういうのも、怪我の功名…と言うことになるんだろうか。

 

帰り道、そんなことを考えるのだった。

 

 




ご視聴ありがとうございました。

ポンチョって、今の人は知ってるのか疑問に思いながら書いてました。
使った経験のある人なんて、ほぼいないよなあと思ってます。

それでは何かありましたらお願いします。

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