今回は果南ちゃんと曜ちゃんとのお話になります。
「頭で考えてることを…」
「文字にする機械?」
「そうそう」
「うーん…」
「胡散臭いなあ」
「まあそうだね」
夏休みのお昼頃。
今日は曜ちゃん果南ちゃんの幼馴染組がうちへやってきていた。
いつものようにお茶をすする彼女たちの前には、普段は目にしないような商品が置いてある。
一辺40cm程度の立方体をしているそれは、下の方にはプリンターのような機械が付いている。
パッと見はちょっと形の変わったプリンター。
ただし、普通のプリンターと大きく異なる点が一つ。
そこから伸びる配線。
本来ならUSBケーブルになっているような配線の先には、血圧測定器のような腕に巻くバンドが付いている。
「これを腕に巻いて言葉を話すと、頭で考えてることが文字になってプリントアウトされるらしい」
「嘘発見器の超発展版?」
「とても本当にそんなことができるとは思えないんだけど…」
「まあ掘り出し物だし、試す価値くらいはあるだろうと思ってね」
「試す?」
「ハルが試せばいいじゃん」
「もちろん試したんだけどね。サンプル数は多い方がいいだろう」
「試したんだったら、さっきの『らしい』ってどういうことなのさ」
「それにサンプルって…ハルくん、この機械何かに利用したいの?」
「いや、全然」
「じゃあなんで…」
「興味本位だよ。本当に人の思っていることが読み取れるなら、単純に面白いだろう?」
「まあ確かに、ハルくんにはかなり欠けてる力だもんね」
「不本意ながらね」
呆れるように納得している曜ちゃん。
そんな話をしている最中、果南ちゃんがリストバンドをいじり始めた。
「これ、着けるだけで本音を書き出してくれるの?」
「そうだよ」
「ふーん…。というか、こんなのどこで手に入れてきたのさ」
「昨日リサイクルショップに売ってた」
「胡散臭!」
「絶対偽物だよこれ!」
「偽物も何も、本物なんてないだろう、これに」
「そうだけど!」
ちなみに店員さんからは、『え、これ買うんですか…?ああいえ、買っていただけるなら良いんですけど…』と言われた。
さすがの俺でも、店員さんもこれが胡散臭い商品だと思っているのは察しが付いたよ。
とはいえ、間違ったこと書き出しまくってくれてもそれはそれで面白いと思い買ってきた次第である。
「はあ…まあいっか。じゃあ最初は…はい」
そう言って、果南ちゃんがリストバンドをこちらに差し出す。
「あれ?果南ちゃんが最初にやるんじゃないの?」
「こういうのは言い出しっぺからでしょ」
「俺は構わないけど…あんまり意味はないと思うよ」
「そういえばさっき、自分でも試したって言ってたよね」
「意味がないってどういうこと?」
「んー…そうだね、結果を見てもらった方が早いと思うよ」
リスドバンドを装着し、機械のスイッチを入れる。
普通のプリンターと似たような起動音の後、『スタンバイ』の文字が青く点灯した。
『準備オッケーだよ。何か適当に質問しておくれ』
と、書いた紙を二人に見せる。
「…なんでスケッチブックで会話してるの」
『声を出すと片っ端から文字にしちゃうからね。紙がもったいない』
「そういう融通は効かないんだね」
『安物だからね』
「多分そういう問題じゃないと思うよ」
まあいっかという言葉とともに、果南ちゃんが改めてこちらに向き直る。
ちなみに、話していない間に頭で考えたことは文字に起こされることはない。
そんな説明をスケッチブックでした後、二人が俺に質問をしてきた。
「えっと…じゃあそうだね、まずは、今日の朝ご飯は?」
「無難な質問だね。朝はパンを食べたよ」
「ハルくんが朝洋食って珍しいね」
「昨日安売りしているのを見つけてね」
「そんなことだろうと思ったよ」
「次…ハルくんの好きなものは?」
「女子高生」
「リストバンドじゃなくて手錠にするべきだったかな」
「手は出さないから勘弁してほしいね」
「はあ…じゃあ三つ目…夏の好きなところは?」
「女の子が水着になってくれることかな」
「これ、嘘じゃないならそれはそれで問題があるんじゃない?」
「君たちの質問が悪いよ」
「ハルくんの答えが悪いんだよ!」
そんな話をしていたら、ガガガ、ピーという音とともに装置から紙がプリントアウトされて出てきた。
もちろんそこには、俺が会話した際に頭に思い浮かんだことが文字になっている。
出てきた紙を果南ちゃんが取り、曜ちゃんとともに早速確認。
眺めている二人の表情が、少しずつ曇っていくのがわかる。
「…あの、これ、どういう装置だったっけ?」
「頭で考えてたことを文字にする機械だね」
「…話してたことを文字にしてくれる機械じゃないよね?」
「そりゃあそうだよ」
「「………………」」
苦い顔をする二人。
理由はちょっとだけ想像つく。
多分、俺が昨日自分で試した時と同じことが起こったんだろう。
「俺が話したことと、全く同じ文章がプリントされているだろう?」
「なんで知ってるの!?」
「自分でも試したって言っただろう?その時も全く同じ結果だったんだよね」
「何それ。やっぱりこの機械、偽物なんじゃない?」
リストバンドを外しつつ、二人と会話をする。
呆れというか、案の定というか、そういう表情の果南ちゃん。
対して、曜ちゃんは何かを考えているようだ。
「曜、どうかしたの?」
「んー…確かに、話すことと頭で考えてることが全く同じっていうのはおかしいとは思うんだけど…」
「だけど?」
「ハルくんだしなあ…と」
真面目な顔でそんなことを言い出した。
いやいや。
「どういうことかね」
「…確かに、曜の言う通りかも」
「果南ちゃん?」
曜ちゃんの言葉に、納得を示す果南ちゃん。
ちょっとちょっと。
「ハルくんのことだし、どうせ嘘はつけないからって頭で考えたことそのまま口にしてそうなんだよね」
「ありそう!」
「俺は単細胞生物かい」
「じゃあ逆に聞くけど、さっき質問に答えてた時、頭で何考えてたのさ」
「何って…」
…あれ。
何か考えてたっけ。
「…そもそも考えてなかったって顔ね」
「だから話したことがそのままプリントされたんだねえ」
「機械を使ってないのになんで俺の考えがわかるんだい」
※
「じゃ、せっかくだし私たちもやってみようか」
「ヨーソロー!」
敬礼をしつつリストバンドを装着する曜ちゃん。
なんだかんだ言いながらも付き合ってくれる二人。
「スイッチを入れたら、話す度にプリントアウトされちゃうからね。巻いたらこれを使って会話してくれ」
「了解であります!なんかこれはこれで新鮮ー」
「確かに、あんまりやらないよね」
「君ら二人はアクティブだし、15分静かにしてくれって言っても難しいタイプだもんね」
「…あれ?バカにしてる?」
「元気なのはいいことさ」
「…やっぱりバカにしてるような…まあいっか。はい、装着完了ー」
「オッケー。じゃあスイッチ入れるねー」
果南ちゃんのそんな合図とともに、機械のスイッチがONになる。
さっきと同じく、プリンターの立ち上がるような音がし始めた。
「さて…それじゃあ早速質問と行こうかね」
『カモーン』
「じゃあ…Aqoursの活動は楽しいかい?」
「もちろん!毎日が新鮮だし、やっと見つけた千歌ちゃんと全力で取り組めることでもあるし、みんなといるのも楽しいし、すごく充実してるよ」
「そうかいそうかい。それはよかったよ」
「って、明らかに本音のこと聞いても、機械が嘘を発見できてるかわからないじゃん」
「ああ、それもそうだね。わざと嘘で答えてもらうかい?」
『多分それだと、なんて嘘をつこうか頭で考えちゃうから、結局口で言ったことがそのまま文字になっちゃうよ』
「確かにね。…文字数長いのによくすぐに書けたね」
『そうでしょー』
ドヤ顔の曜ちゃん。
「ということは、嘘をつこうって思わないで、思わず本音を隠しちゃうような質問が良いわけだね」
「早い話、隠したいことを聞けばいいんだね…なるほど」
納得した様子の果南ちゃん。
その顔には、若干悪い笑みが浮かんでいることがわかる。
この表情は、小さい頃にイタズラとか思いついた時にしていた表情と同じだ。
何か思いついたんだろうか。
「…曜」
「…果南ちゃん、なんか嫌な予感がするよ」
「あはは。大丈夫大丈夫。そんなきつい質問はしないって」
『絶対だよ?』
「おっけーおっけー。じゃあねえ…曜の好きなものは?」
「ほう」
「なあ!?ちょ、ちょっと果南ちゃん!」
なぜだか曜ちゃんが焦り始めた。
身を乗り出して果南ちゃんに詰め寄る。
対して果南ちゃんは、曜ちゃんのこの反応を予測してたらしく、落ち着いている。
「まあまあ、曜ちょっと落ち着いて。私は別に、好きな人なんて聞いてないよ」
「どういうこと?」
「好きなものならなんでも良いんだよ。食べ物でもスポーツでも」
「まあ、それなら…」
よくわからないけど、納得した曜ちゃん。
好きなものか…。
「ええっと、私の好きなものは…」
と、そこまで話して、曜ちゃんがなぜか口を止めた。
何か思いついたようだ。
表情を見ると、あまり良いことを思いついたわけではないみたいだが。
(だ、だめだ…。好きな人を言うわけじゃないのに、さっきの果南ちゃんとの会話で意識しちゃったせいで何を言ってもハルくんの顔が頭に…!こんなの、後で文字にされたら絶対にバレちゃうじゃん!)
「どうしたんだい、曜ちゃん」
「どうしたの、曜」
「う、うぅぅぅ…い…」
「い?」
「言えるわけないでしょハルくんのばかあああ!」
なぜか怒鳴られた。
ちなみに、その際に考えてたことはちゃんとプリントアウトされたらしいけど、出てきた直後に曜ちゃんに隠されて見せてもらえなかった。
果南ちゃん曰く、機械はちゃんと機能してたらしい。
※
「さて、じゃあ機械が壊れていないことも分かったし、今日はこれでお開きってことで」
「あれ?てっきり果南ちゃんもやると思ってたんだけど」
「いやいや、機械が壊れてないかの確認でしょ?だったらもう十分じゃない?」
「なるほどね。確かにそうかもね」
「うんうん。じゃあ私はそろそろ…」
果南ちゃんがそこまで言った時だ。
ガッという音とともに、果南ちゃんの方が掴まれた。
「かなんちゃ〜ん…なに、帰ろうとしているの?」
「あ、あれ、曜、どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ〜?私はあんな恥ずかしい思いしたんだから、もちろん果南ちゃんも同じことやるんだよね〜?」
「あ、あはは…な、なんのことかなー…ダッシュ!」
「逃がすか!」
急に走り出そうとした果南ちゃんに、それをものすごい反射で捕まえた曜ちゃん。
さっきからどうしたんだろうか。
「はーい、果南ちゃん、リストバンドつけるねー」
「ちょ、曜?あの、ニコニコしてるのが逆に怖いんだけど…」
「気のせいだよー。お返ししようなんて考えてないからねー」
なんて言いながら果南ちゃんの腕にリストバンドを巻きつける。
若干強引にも見えるのは果たして気のせいなのか。
その直後、なんの迷いもなく装置のスイッチを入れた。
「さーて果南ちゃん…質問には正直に答えてねー…」
「あ、あはは…その、お手柔らかに…」
「大丈夫大丈夫。私だってちゃんと分かってるからね」
「だ、だよね。曜ならちゃんと…」
「果南ちゃんの好きな人は?」
「曜の嘘つき!」
「ほうほう。果南ちゃんの好きな人かい」
そういえば前にもいるって言ってたような…。
誰かっていうのは、確かに俺も気になるね。
「ハルくんも気になるでしょ?」
「まあそりゃね」
「い、い…いないよ!」
「あれ、そうなのかい。前はいるって言ってた気がしたんだけど」
「い、いや、それは…」
「まあまあハルくん。それこそ、嘘かどうかは後で機械がちゃんと教えてくれるから」
「確かに、それもそうだね。結果を楽しみにしとこうか」
「う、ううぅぅ…ハルのばかああああ!」
また怒られた。
プリントされた答えだが、途中で紙が尽きたらしく、大事なところは文字になっていなかった。
気にはなったけど、まあ確かにこういうことはこんな方法で聞いていいものではないだろうしね。
これはこれでよかったんだろう。
ちなみに。
これ以来この機械は倉庫に封印になった。
「ほ、ほら、人の心の中を覗くなんてやっぱりいいことじゃないでしょ?」
「は、ハルはただでさえ人の心に鈍感なんだから、機械になんて頼ったら、ますます鈍感になっちゃうでしょ?」
二人にそう言われたためである。
言っていることはごもっともだし、言われたようにしまうことにしたが…。
なんとなく、本音で言っていなかったように見えたのは気のせいかな。
機械を仕舞ってしまった今、それを確かめる術はないのだけどね。
ご視聴ありがとうございます。
そしてあけましておめでとうございます。
今年も皆様どうぞよろしくお願いします。
あ、筆者名は今年も2017で行くことにしました。
変わるといろいろ迷惑かかりそうですし。
それでは何かありましたらお願いします。