Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
今回は善子ちゃんとダイヤちゃんのお話になります。



よくある1日と布屋さん3

 

「善子ちゃん、この本返すよ。ありがとね」

「ん。どうだった、この本」

「たまにはライトノベルもいいものだね。なかなかエキサイティングで面白かったよ」

「ふふん。そうでしょうそうでしょう」

 

会話をしつつ、先日借りていた本を善子ちゃんに返す。

堕天使のヒロインとともに地上で問題を解決していくお話だった。

 

「堕天使のヒロインっていうのも、味があってよかったよ」

「え、ほ、ほんと?」

「ああ。可愛らしくてあれはあれで素敵だと思ったよ」

「そ、そう。…わ、私もその、堕天使…だからね」

「ん?そうだね」

「…はあ。これはわかってないわね」

「おお?」

 

なんでか善子ちゃんが肩を落としているように見える。

…はて。

 

そんなやり取りを見ていたダイヤちゃんから質問が飛んできた。

 

「それ、なんの本ですの?」

「ラノベよ、ラノベ。ダイヤ、知らないの?」

「ラノベ?…聞き覚えのない単語ですわね」

「うええ。そんなことあるの?」

「ライトノベルだね。明確な定義はないんだけど…まあ普通の文学に比べて挿絵が多くてとっつきやすい本だとでも思ってくれればいいかな」

「へー。ハルさん、そういう本も読むんですのね」

「普段はあまり読まないけどね。たまにはと思ってさ」

 

おだやかな昼下がり。

本日うちへやってきたのは善子ちゃんとダイヤちゃん。

 

珍しい組み合わせではあるが、テンション上がるとよくわからない暴走をするという点では同じの二人だ。

 

「ところで、この本を貸したのは一昨日くらいだったはずなんだけど、案外すぐ読めたのね」

「時間はいっぱいあったからね」

「…一昨日、昨日、今日と、どの日をとってもハルさんの仕事が休みの日はないのですが…」

「店はやっていたよ」

「仕事はそんなになかったと」

「誤解を招く言い方はやめておくれよ。常時暇だったわけじゃないさ」

「でも本を読めるくらいには暇だったんでしょ」

「最近の日本人には暇な時間というものが欠けているとは思わないかい」

「確かにそれはそうですわね」

「ハルの暇な時間が分けてあげられたらいいのにね」

「…話題を変えようかな」

 

分の悪い会話になりそうだ。

言われていることが事実なだけになおさら。

 

 

 

 

「ところでこの本なんだけどさ」

「うん」

「高校生くらいの子たちがいろいろな超能力を使ってたね」

「そうね。学園異能物の本だからね」

「が、学園異能…?」

 

三人でお茶を飲みつつ借りていた本の話をする。

この手のジャンルといえば、ライトノベルではそれなりに一般的だ。

 

「現実世界では見られない力…いわゆる超能力とかそういうのを使う人が、学園生活を送っているような分野のお話だよ」

「学校に通うような人間が超能力を使うということですの?」

「超能力そのものが学園の勉強科目になってたりっていうパターンもあるわね」

「学校で超能力を教えるんですの?それではまるで宗教ではないですか」

「いや、そういう話だとだいたい能力使えることが常識の世界になってるのよ」

「争いの絶えない世界になりそうですわね…」

「戦ってる描写が中心になってることを考えると、当たらずとも遠からずって感じかな」

「そんなこと考えて読む本じゃないわよ、これ」

 

話している中で、ふとこんなことを思いつく。

 

「仮に好きな能力が手に入るとしたら、君たちはどんな能力がほしいかな」

「能力っていうと…さっきから言ってるような不思議な力のことですの?」

「そうそう。こんな力があったらいいなーとか、思ったりしないかい」

「みんな一度は考えるわよね」

「そういうものですの?」

「確かに、異能系の本を読むと思わず考えちゃったりはするね」

「なるほど…」

 

納得すると、少し考え始めるダイヤちゃん。

こんな話でも真面目に考えてくれるあたり、ダイヤちゃんは相変わらず真面目である。

 

とはいえ、大真面目にぶっ飛んだことを言うのもダイヤちゃんの特徴なんだけど。

 

「…そうですわね。私はこれでしょう!」

「思いついたんだね」

「聞かせてよ」

「ええ、もちろんですわ。私が欲しい不思議な力は…」

 

そこで少しためて。

 

「海を割る能力ですわ!」

 

ドヤ顔でそう言った。

なんというか、ダイナミックでダイヤちゃんらしいといえばダイヤちゃんらしい。

 

「海の上を歩くんじゃなくて、割るのかい」

「ええ。その方が現実味が無くて面白いではないですか」

「あえて現実味がない物を選ぶあたり、ダイヤも大概あれよね」

「まあその、現実と仮想の境界がはっきりしてるのは、彼女の長所だからね」

 

少なくとも、堕天使を名乗る善子ちゃんに比べれば、よく現実は見えているだろう。

だからこそ、理想を語ったりするときはそれはそれはぶっ飛んだことを言うわけだが。

 

「それで、善子ちゃんは…まあ聞く必要はないかな」

「なんでよ!」

「いや、だいたい想像つくしね」

「大方、黒魔術関係の何かではないですか?」

「うぐっ」

 

図星だったようだ。

まあそうなるよね。

 

「聞きたいんだけど、黒魔術関係の力って何さ」

「そりゃあもう、サタンより与えられし魔の力のことよ」

「…日本語で頼むよ」

「最初から最後まで日本語よ!」

 

というか、それだったら常日頃自分にはそういう力があるんだって言ってる気がするんだけど。

いや、実際にないのはわかってるけどね。

 

「…その、私だって、む、昔はちょっとだけ別の力が欲しかったりはしたのよ」

「ほう」

「そうなんですの?」

 

それについては初めて聞いた。

善子ちゃんが、中二病関係以外で欲しがっていた異能があったのか。

 

「それはとても興味があるよ」

「ええ。私もです」

「…そ、その、あんまり他の人には言わないでよね」

「他の人に言いにくいことなのかい」

「そ、そうじゃないけど!その…ちょっと恥ずかしいのよ」

「ますます気になりますわね」

 

さっきまでの威勢はどこへやら。

なんかもじもじしている善子ちゃん。

 

少しして、ポツリと言葉を発した。

それは、もちろん彼女が昔欲しかったらしい能力についてだ。

 

 

「と、友達を作る能力が、欲しかったのよ…」

 

 

「………………」

「………………」

 

沈黙が場を支配する。

何か言わないといけないのは分かるのだが、考えれば考えるほど言うべきことが思いつかなくなる。

 

というか、言葉の代わりに涙が出てきそうになる。

 

「…ちょっとハルさん、この空気、なんとかしてくださいましっ」

「…無茶言わんでくれよ」

 

ダイヤちゃんと小声でそんな話をする。

なんとか善子ちゃんに聞こえないようにしないと。

 

「…いや丸聞こえだから」

「なんてこったい」

「なんてこったいじゃないでしょ。…そんなに気を使わなくていいわよ」

「ですが善子さん…」

「ヨハネよ。…言ったでしょ、あくまで昔欲しかった力だって」

「今は違うのかい?」

「そうよ。…だって、その…」

 

なんだか少し言いにくそうに。

それでいて、ちょっとだけ嬉しそうに、善子ちゃんは言葉を続けた。

 

「友達、もうたくさんできたし…」

 

そっぽを向いているが、その顔が赤く染まっているのは後ろからでも分かる。

思わず笑みを浮かべていたら、横からダイヤちゃんが善子ちゃんの方に歩いて行った。

 

そして。

 

「もーっ。善子さん、可愛すぎますわ〜」

「ちょ、急に何よ!」

 

善子ちゃんに後ろから抱きついてそんなことを言いだした。

今にも頬ずりでもしそうな勢いで善子ちゃんを猫可愛がりしている。

 

「そういうことは何も照れて言う必要なんてないのです!私たちは正真正銘の友達なのですから!」

「ちょっ。暑いからあんまりひっつかないでっ。こうなるから言いにくかったのよ!」

「もう。照れなくていいんですのよ〜」

「うがーっ。はーなーしーてー」

 

抱きついてくるダイヤちゃんの頭を押して離そうとする善子ちゃん。

その気になれば力づくで離せるだろうに、そうしないあたり彼女なりに思うところもあるんだろうな。

 

「…何ニヤニヤ見てるのよ」

「いやいや。なんでもないよ」

「なんかむかつくわね」

「それは困ったね」

「ていうか、これ引き剥がすの手伝ってよ」

「満足するまでは付き合ってあげることだね」

「しばらくはこのままですわね」

「なんでダイヤ自身が答えるのよ!」

「まあまあ、友達のじゃれつきくらい付き合ってあげたまえよ」

「あー!もう!だから言いたくなかったのよー!」

 

その後。

数分に渡ってダイヤちゃんと善子ちゃんのじゃれつきは続いていた。

 

 

 

 

「…で、ハルが欲しい能力ってなによ」

 

若干むすっとしながら善子ちゃんが言う。

むすっとしてはいるものの、やっぱりどこか少し嬉しそうで、どうにもそれを見てるとこちらの表情が緩んでしまう。

 

「ハルさん、顔がにやけてますわよ」

「お互い様だね」

「あら。それは困りましたわね」

「…むかつくわね、ほんとに」

「「ふふふふふふ」」

「気持ち悪いわ!」

 

これ以上は善子ちゃんが本当に怒りそうなので、そろそろ本題に入ることにする。

本題っていうのはもちろん、俺が欲しい不思議な力だ。

 

「そうだね…俺が欲しいと思う力は…」

 

どうせなら、普通じゃ絶対できないタイプのがいいかな。

空を飛ぶとか水の上を歩くとか。

 

なんて、純粋に考えていた。

だというのに。

 

「女子高生を生み出す能力かしら」

「女子校に自由に忍びこめる能力とかでは?」

 

そんな風にヤジが飛んできた。

ヤジというか茶々?

 

「君たちは俺をなんだと思ってるんだい」

「自分の胸に聞いてみなさいよ」

「ちゃんと守るべきラインは守っているはずだがね」

「その線引きはかなり危ないとこにひいてますわよ」

 

返す言葉が思いつかない。

一応、その手の話をする相手も選んでいるのだが、その当人に言われてしまうとね。

 

「ま、まあそれはともかく。俺なりに欲しいと思う能力はちゃんとあるよ」

「そうなの?」

「気になりますわね」

「そこまで大それたもんじゃないよ」

 

俺がほしい、ちょっと不思議な力。

それは…。

 

「お金が湧いてくる能力、かな」

「………………」

「………………」

 

沈黙。

 

どうやら、意図せずして空気を凍らせる技を身につけていたらしい。

 

「…なんでしょう。また涙が出てきましたわ」

「…私のと一緒にしないでよ」

 

理想の超能力を語ったら、女子高生に同情された男。

そんな情けなさの塊の男の姿が。

 

そこにはあった。

 

ちなみにその後。

 

「俺が欲しい能力、鈍感を解決する能力っていうのもいいかもね」

「それは無理」

「超能力の限界を超えてますわ」

「…君たちは俺をなんだと…」

 

そんな会話もあったことを付け加えておく。

 

 

 





ご視聴ありがとうございます。

最近週一投稿ができてませんね。
なんとかしたいのですが…。
近況についてはTwitterにこぼしているので、興味のある方はぜひ。

それでは何かありましたらお願いします。

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