Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。

今回は三年生とのお話がメインになります。



駄弁るAqoursと布屋さん7

「ねえハル」

「なんだい、果南ちゃん」

「ハル〜?」

「マリーちゃん、どうしたのかな」

「ハルさん?」

「ダイヤちゃんまで、どうしたのさ」

 

とある昼下がり。

今日は久しぶりに三年生三人組がうちへやってきていた。

 

ついさっきまでは普通に話していたのだが、トイレに行って帰ってきたらこんな感じである。

名前を呼ばれて、返事をしたかと思えばすぐ別の子に呼ばれる。

 

こんな風に回されること三周目に突入だ。

 

「…そろそろ、何をしたいか教えて欲しいね」

「三周回るまでは律儀に返事するなんて、さすがハルだねー」

「面倒見の良さがでてまーす」

「突っ込むのがめんどくさかっただけだよ」

「別に、大した事情があるわけではありませんわ」

 

そんな言葉とともに、目の前にあるお茶に口をつける。

今日は冷たい緑茶だ。

 

「今日ね、名前の呼び方が話題になったんだよ」

「呼び方?」

「ファーストネームとか、ラストネームとか…」

「あとはさん付けとか呼び捨てとかですわね」

「ああ、なるほど」

 

ファーストネームは…日本語で下の名前だっけか。

俺の場合ならハル。

 

ラストネームは…苗字だっけ?

 

「ハル、それくらいのイングリッシュはさすがに覚えるべきでーす」

「俺、口にしてなかったはずなんだけど」

「頭の上にはてなマークが浮かんでますわよ」

 

なんてこったい。

 

「まあまあそれはともかく、呼び方だよ、呼び方!」

「はあ」

「ハル、Aqoursのみんなのことなんて呼んでるか覚えてる?」

「みんなちゃん付けだね…って忘れるはずないだろう」

「今更だけど、なんでちゃん付けなの?みんな歳下だよ?」

「そう言われてもね。君らだって歳下にちゃん付けすることはあるだろう。ダイヤちゃんなんて、さん付けの子の方が多いと思うがね」

「それはそうですが…なんというか、それとはまた別なのです」

「別なのかい」

 

そもそもそんなこと、今までほとんど意識したことなかった。

 

「まさかと思うけど、さっきわざわざ俺に返事をさせてたのは、そのことを確認するためだったのかい?」

「イエース」

「で、案の定ハルは何度呼んでも私たちを呼び捨てにはしなかったと」

「当たり前だろうに」

「そもそもハルさん、呼び捨てにする間柄の人がいるのですか?」

 

ダイヤちゃんからそんな疑問をかけられる。

 

「ふむ…」

 

改めて聞かれると、確かにあまり呼び捨てしてる人はいないな。

 

「ああ、一応、高校の時の友人とか中学の時の友人は呼び捨てだったよ」

「ま、まさか女の子!?」

「いや、高校男子校だし」

「中学校の時はどうでしたの!?」

「…なんでそんなに食いついてくるのさ。中学の時も、女の子を呼び捨てにはしてなかったよ」

「そっちもやっぱりちゃん付けだったんですかー?」

「いや、さん付けだったよ。同級生の女の子をちゃん付けはちょっと抵抗があってね」

「んー…なるほど…」

 

顎に手を当ててダイヤちゃんが唸る。

何か考え事だろうか。

 

かと思えば、マリーちゃんと果南ちゃんを部屋の端っこに呼んでヒソヒソ話を始めた。

 

 

「…これ、一応ちゃん付けの方が距離は近いんでしょうか…」

「んー…どうなんだろう…」

「というかハル、そんなこと考えてなさそうでーす」

「でも、分けてるってことはちゃん付けとさん付けに境界線自体はあるのでは?」

 

 

なんの話してるんだろう。

残念ながら聞き取ることはできない。

 

「ああ、もしかして、君たちもさん付けで呼んだ方がいいのかい?」

「なんでそうなるのさ」

「いや、ヒソヒソ話してたから」

「別に大したことじゃないでーす。あ、でも、確かにさん付けは一度聞いてみたいかも」

「あー確かにねー」

「悪くないですわね」

「ということではい」

「はいって…いや、構わないけどさ」

 

こほんと一つ咳払い。

では改めて…。

 

「ダイヤさん」

「ぴぎいっ」

 

「果南さん」

「うげえっ」

 

「鞠莉さん」

「ノー!」

 

それぞれが唸ったり悲鳴をあげたりしてる。

なんなんだい一体。

 

「すごく…他人行儀ですわ…」

「なんか、距離を置かれてるみたいで…」

「ハートにダメージがきまーす」

「妙な他人行儀感があるね。とはいえ、ダイヤちゃんに至っては普段からさん付けじゃないか」

「普段からなら問題はないのです!」

「じゃあ普段からさん付けで呼ぶかい?」

 

なんて、なんの気もなく言った瞬間。

三人がすごい形相で机に乗り出してきた。

 

「ハルの鬼!」

「悪魔!」

「セクハラ魔!」

「これは理不尽と言わざるを得ない」

 

挙句にこの言われようである。

 

まあ要するに、さん付けはダメらしい。

俺としても、どうにも今更呼び方を変えるのは難しいからこれでいいんだけどさ。

 

「んー…やっぱさん付けはだめですねー」

「そうですわね。そういう意味では、ちゃん付けの方が距離は近いと言えそうです」

「ハルの中学校の時の同級生達よりは、私たちの方が身近ってことだよねー」

「「「…うふふ」」」

 

三人で話し始めたかと思えば、なんかニヤニヤし始めた。

人のことを鬼だ悪魔だと言った割には、機嫌は悪くないようだ。

 

「せっかくだし、呼び捨てもやろうよ」

「呼び捨てって…君たちをかい?」

「イッツグーッド。普段は私たちが呼び捨てだし、今日はハルの呼び捨てだねー」

「私はさん付けですが…でも悪くないと思いますわ」

「…まじでかい」

 

呼び捨てか…

んー…

 

「何?嫌なの?」

「嫌というか…慣れないんだよ。女の子呼び捨てすることなんてそうそう…というより一度も経験がないからね」

「じゃあ初体験だ!」

「そんな大それたものでもないとは思うけどね」

 

まあだからと言って、そこまで拒絶する理由もないんだけどさ。

向こうも引き下がるつもりはなさそうだし、ここは彼女らのリクエストに答えるとしよう。

 

さっきと同じくして、咳払いを一つ。

 

「えーっと…その、ダイヤ…?」

「は、はいっ…ですわ」

 

「果南」

「うっ…うん」

 

「鞠莉」

「ひゃ、ひゃあ〜っ」

 

三人とも、名前を呼ばれた直後に顔を隠してしまう。

そのせいで、どんな表情をしてるか読み取ることはできないのだった。

 

 

「…は、破壊力、すごいですわね」

「これは…全力でランニングするより心臓がドキドキするね」

「ふ、ふたりとも動揺しすぎでーす。が、外国ではむしろ名前の呼び捨てがノーマルなんだから…」

「顔、真っ赤ですわよ」

「むぐうっ」

 

 

また三人で集まって内緒話をしている。

今日は隠し事がずいぶん多いことだ。

 

 

 

 

「ていうことがあったらしいじゃん?」

「…耳が早いね、君たち」

「鞠莉ちゃんが嬉しそうに話してくれたからねー」

「まあ別に隠し事でもないしね…って、なんか千歌ちゃんと曜ちゃん機嫌悪くない?」

「べっつにぃー。そんなことないもんっ」

「そうだよーだ」

「…そうは見えないよ」

「あ、あはは…」

 

慣れない呼び方を三年生相手にした翌日。

本日は2年生三人組がやってきた。

 

話題は昨日に引き続き名前の呼び方。

ただ、なぜか千歌ちゃんと曜ちゃんが御機嫌斜め。

 

不機嫌そうに口を尖らせている。

梨子ちゃんはその横で苦笑いだ。

 

「…彼女達はなんで怒ってるんだい?」

「なんでって…そりゃ呼び方のことで、よ」

「呼び方って…昨日のことなんて、さん付けと呼び捨てをしたくらいなんだけどね」

「どう考えてもそれが原因よ…」

 

梨子ちゃんが呆れたようにしている。

と言ってもね…。

 

「別に、私たちだって長く一緒にいるのに呼び捨てなんてされたことない、なんて思ってないもん」

「そうそう。別に悔しくなんてないし、羨ましくだってないもん」

「って本人達は言ってるけど」

「ええ!?その言葉そのまま信じちゃうの!?」

「あれ?ダメだったかな」

「ダメっていうか、どう見ても嘘っていうか…」

「ふむ」

 

女心は難しい。

いやまあ、常日頃鈍感って言われてるし、今更なんだけどさ。

 

「じゃああれかい、昨日と同じくあの二人にさん付けすればいいのかい?」

「…一週間くらい口聞いてもらえなくなるわよ」

「それは困るね」

「じゃなくて、呼び捨てよ呼び捨て。あと二人じゃなくて三人よ」

「ああ、そっちかい。…三人?」

 

千歌ちゃん。

曜ちゃん。

 

「梨子ちゃんも呼び捨てにするの?」

「だ、ダメかしら?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね」

 

なんだろう。

呼び捨てが流行ってるのかな?

 

そんなわけないよな。

 

「ハルさん、言っといてなんだけど、それはハルさんが考えるだけ無駄だと思う」

「人の心を読むのも流行りなのかい」

「流行ってるなら、その技術は真っ先にハルさんが習得すべきだと思うわよ」

「その時は頼むよ」

「教えても絶対習得できなさそうね」

 

今度はため息の梨子ちゃん。

そんな話をしてたら、今度は千歌ちゃんと曜ちゃんがこっちへやってきた。

 

「もう、ハルくん!」

「そろそろなんで私たちが御機嫌斜めだったか分かったでしょ!」

「怒ってないんじゃなかったのかい」

「怒ってないもん!御機嫌斜めだっただけだもん!」

「日本語って便利だね」

「「そうじゃなくてー!」」

 

机を乗り出してくる千歌ちゃんと曜ちゃん。

このままだと埒があかなさそうだし、梨子ちゃんの言う通りにするとしようか。

 

「えっと、呼び捨てすればいいのかな」

「そう!そうだよ!ハルくん!」

「なーんだ分かってるんじゃん!」

「…さっきそれで怒ってないとか言って…いや、やめておこう」

 

こほんと一つ咳払いをして、彼女達の名を呼ぶ。

 

「千歌」

「〜〜〜っ」

 

「曜」

「う、うん…えへへ」

 

「梨子」

「は、はいっ…うへへ」

 

反応は…おおよそ三年生と同じかな。

案の定表情を隠してしまい、どう思っているのかは読み取れない。

 

 

「う、うひゃー!こ、これはドキドキするね!」

「う、うん。果南ちゃんたちの言ってた通りだよー!」

「か、顔から火が出そうっ」

 

 

そしておきまりの俺に聞こえない内緒話。

いい話なのか悪い話なのかも分からない。

 

怒っているわけではなさそうだけど…

どうなんだろうか。

 

 

 

 

ちなみに。

さらに翌日、一年生三人組がやってきて同じことがあったのだが…

 

「うわああ!る、ルビィちゃんが気絶したずら!」

「ちょ、ちょっとハル!なんとかしなさいよ!」

「いやいや。名前呼び捨てしてされて気絶する病気なんて見たことないんだけど。どう対処しろと?」

「こ、今度はさん付けで呼び直すずら?」

「逆のショックでトドメになるわ!」

 

プチ騒動になったのだった。

 

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。

さて、アニメ二期がいよいよスタートいたしました。
述べたいことは多々ありますが、ここではやめときます。

ひとまず、今後の進行についてですが、二期が完結するまではアニメ本編の話には入らない予定でいます。
詳細については活動報告にて記載しますので、よろしければそちらをご確認ください。

それでは何かありましたらお願いします。

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