Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
今回はダイヤちゃんと果南ちゃんとのお話になります。



駄弁るAqoursと布屋さん6

『ピピピピピピ』

 

大した音量でもない目覚ましが部屋に鳴り響く。

 

時刻は朝の6時半。

いつものように起き、食事をとり、身支度を整える。

 

そうして店の前を箒で掃く。

この段階で時刻は7時半。

普段であれば、この時間に浦の星女学院の女の子たちが登校してくるのだが…

 

もちろん夏休みの今、登校してくる子はあまりいない。

部活で出てくる子もいるにはいるが、そういった子も普段ほど早く登校してくることはないのだ。

 

「花…いや、華が足りないな」

 

思わずそんな言葉が口をつく。

呟いた直後だった。

 

「ハル何言ってるの?お花ならその辺にあるじゃん」

「果南さん、ハルさんの言う花というのは、地面から生えてるようなお花のことを指してはいないのですよ」

 

言いながら、傍に立つ影が二つ。

それが果南ちゃんとダイヤちゃんであることは、そちらを見るまでもなくわかる。

 

「おはよう二人とも。今日はずいぶん早いね」

「おはよー、ハル」

「ハルさんおはようございます。私は普段からこの時間には学校に来てますわよ」

「それもそうだったね」

 

改めて彼女たちの方を向き、挨拶を交わす。

二人ともちゃんと制服を着用しており、これから学校へ向かうのであろうことが伺える。

 

Aqoursの練習は基本的には朝からやっている。

ので、学校がある日は基本的には今日くらい早い時間から練習をしているわけだ。

 

加えて、ダイヤちゃんに関しては練習がない日でも生徒会活動のために朝早く来ている。

ほとんど毎日、この時間には学校へ来ているのだ。

 

「と言っても、まだ夏休み中だろう。練習にしても生徒会活動にしても、さすがにここまで早く来る必要はないと思うけどね」

 

さっきまでのはあくまで平日のお話であり、休日は事情が変わる。

そもそも授業がないのだから、そんな朝早くから作業をする必要はないのだ。

 

だから、こんなに早くから来る必要はないのだが…。

 

「ああ。もしかして夏休みが終わったと勘違いしたのかい?」

「そんなわけないでしょ」

「そんな間違いする人、見たことが…いえ、一人いましたわね」

「君の目の前にね」

「胸をはれることではありませんわよ」

 

何を隠そう、俺は夏休みの終わりの日を間違えたことがあるのだ。

 

「…ハル、そんなことあったの?」

「いやはや、恥ずかしい思い出だよ」

「本当に恥ずかしい経験ですわね」

「言い訳させてもらうとね、夏休みって8月31日までだと思ってたんだよ」

「ああ、それで9月1日に学校に行ったんだね」

「果南さん、一見納得が行くように聞こえますが、その年の9月1日は土曜日です。学校の事情に関わらず、学校は休みだったんですよ」

「土曜日も学校があると思っていてね」

「何年前の教育カリキュラムですの」

「というかダイヤ、よくそんな事情知ってるね」

「その日、偶然会いましたからね。学校帰りのハルさんに」

「お恥ずかしいところを見られちゃったね」

「本当に恥ずかしい姿です」

「あっはっは。ハルも馬鹿だねー」

 

返す言葉もない。

まあそれはともかくとして。

 

「それで、学校に早く来た理由はなんなのかな」

「ああ、そういえばそんな話だったねー」

「そうだよ。間違っても俺の高校時代をいびるために来たわけじゃないだろう」

「それも悪くありませんが…また後日としましょう」

「100年後くらいに頼むよ」

「数日中にしようよ」

「…勘弁してくれ。じゃなくて」

 

話がそれまくりである。

 

「学校に来てたのは、花の水やりです」

「水やり?」

「うちの高校、花壇あるでしょ?あれの水やり」

「あれって、生徒が水をあげてるのかい」

「普段は緑化委員がやってますわ」

「ああ、専用の委員会があるんだね。普段っていうのは?」

「私は生徒会ですし、果南さんは委員会には入っていませんわ」

「そうだよね。俺の記憶だとそうだったはずだし」

 

となると、今回の水やりは本来はこの子達がやることではないのだろう。

 

「今日は、緑化委員の方がみんな予定が入ってしまっているそうです。それで、生徒会に代わりの水やりを頼まれたんですよ」

「まあ夏休みだしね。予定が被っちゃう日もあるだろうさ」

「ですから、今日は代わりに水やりに来たのです」

「そういうことー。私はそのお手伝いだよ」

「なるほどね。とはいえ、マリーちゃんが一緒じゃないのは珍しいね」

「鞠莉も呼んだんだけどねー」

「今日は別の用事があるそうです」

 

彼女も理事長だしね。

夏休みでもお仕事とかあるんだろうか。

 

「それで、緑化委員に代わって花の水やりに来たと。ご苦労様だよ」

「水やりはこれからだよ」

「あれ?終わったからこっち来たんじゃないのかい」

「いえ、これから行くところですわ」

「わざわざ行く前にここに寄ったのかい…嫌な予感がするんだけど」

「あ、察してくれたんだ。ハルにしては珍しいね」

「じゃあわざわざ口にするまでもありませんわね。さ、行きますわよ」

 

つまりあれだ。

手伝えってことだろう。

 

「…外、すごい暑いんだけど」

「そりゃ夏だしね」

「暑いのは当然ですわ」

「…水やりの範囲は?」

「学校全体に散らばってますので、手分けしてやりましょう」

「ハルは大人だし、ちょっと広めにねー」

「はっはっは。殺す気かい?」

 

これからどんどん上昇していく気温の中で、そんな運動したら本当にくたばってしまう。

 

「もう、大げさだなあ」

「まあさすがに、広くやってもらうのは冗談ですわ」

「安心したよ。心底ね」

 

そんなわけで、彼女たちの水やりに同伴することとなった。

花の水やり…俺が高校の時にやった記憶はないから、学校でやるのなんて中学以来だ。

 

 

 

 

「ほーれ、早く大きくなるんだよー」

「果南さん、それは雑草です。これ以上大きくなったら困ります」

「あれ?」

「なんで花壇の外にまで水をやってるんだい君は」

「そこに花があったから?」

「それは花じゃなくて草だね」

 

ホースが一個しかなかったので、結局三人一緒に花の水やりをすることになった俺たち。

これなら間違いなく俺は必要ないとは思うが、たまには朝日を浴びながら学校を歩くのもいいだろうと自分を納得させた。

 

決して、帰ろうとしたらダイヤちゃんから恐ろしいオーラを感じたとかではない。

 

雑草から枯れた花に至るまで、形が植物であれば片っ端から水を与えようとする果南ちゃんと、それを止めるダイヤちゃんとともに学校を歩く。

 

始めてからやく15分程度。

雲ひとつない空から降り注ぐ太陽光は容赦なく辺りを熱している現状。

 

「それにしても暑いね…」

 

言っても意味のないそんな一言が、つい口から漏れてしまう。

 

「夏ですからね」

「夏だもんねえ」

「改めて君たちの体力には脱帽だよ」

「水やり程度で感心されましても…」

「ハル、普段どんな生活してるのさ」

「君たちの知っての通りの生活だよ」

 

特に意味もない雑談。

そんな中、果南ちゃんから唐突にこんな話題が。

 

「そういえば、植物ってなんで歩かないんだろう」

「…はい?」

「果南ちゃん、暑いなら休んでていいんだよ」

「いや、頭がおかしくなったわけじゃないから。ほら、植物ってさ、水がないと死んじゃうじゃん?」

「そりゃそうだね」

「動物もそうですしね」

「そう、それ!動物は自分で動いて水を飲みに行ったり食べ物を取りに行ったりするわけじゃん。でもさ、植物ってそれができないわけだよ」

「んー…まあ、結構環境に命を委ねてるとこはありますわね」

「なるほど」

 

要するにだ。

 

水が必要になっても、その土地が乾いていれば植物は自発的に水を取りに行くことはできない。

太陽光が必要になっても、運悪く影になってしまったらちょっと動いて日向に行くこともできない。

 

動ければ、そういう融通が聞くんじゃないかと、そう言ってるわけだ。

 

「私だったら、すぐそこに水があるのに、飲めないなんて耐えられないしさー」

「確かに…私も、黙って待つのは性に合いませんわね」

「…君たちならそうかもね」

「ハルは違うの?」

「俺は…うん。動かなくていいならそれはそれで」

「…考えがダメ人間のそれですわね」

「大人っていうのはそういうものさ」

「全国の大人に謝ってください」

 

でも確かに、動けないというのもそれはそれで味気ない。

結局、都合のいい時は動きたくて都合の悪い時は動きたくないのが人間という生き物。

 

「とはいえ、植物が動くようになったらそれはそれで気持ち悪いね」

「足の生えたひまわり…悪夢ですわね」

「食虫植物とか?」

「あれはあくまで虫を誘い込むものだしね」

「というか、あれが動くのはより気持ちが悪いですわ」

 

あの恐ろしい見た目をした食虫植物が、虫を捕食するために走り回る姿を想像する。

…人類の存続に関わりそうだ。

 

「ハルさん、一応言っておきますが」

「うん?」

「植物になるということは、基本的にはエネルギーを光合成によって生成します」

「そうだね」

「てことは、昼間は可能な限り日光を浴びて生活をするということを、頭に入れてもいいのでは?」

「…確かに」

「あはは。今日の日差しでダメなんだから、ハルには植物生活は無理そうだねー」

「…1日目で熱中症になりそうだよ」

「史上最も情けない植物ですわね」

「ハル、人間でよかったねー」

「そう思うことにするよ」

 

俺の目の前で、堂々と咲き誇るひまわり。

その花は、一直線に太陽を仰ぎ見る。

 

それはもちろん、この瞬間だけじゃなく。

花が枯れるその時まで、この子達はずっと太陽を見続けるのだ。

 

「考えるだけで、背筋が凍りそうだよ」

「暑さの話なのにね」

「暑すぎる話だからですわね」

 

『植物なめんなよ』

 

足元に生える雑草が、そんなことを言っている気がしたのだった。

 

 

 





ご視聴ありがとうございました。

活動報告にも記しましたが、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
今後はなんとかまた毎週日曜にあげられたらなと思います。

それではなにかありましたらお願いします。

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