本日は美渡さん、曜ちゃん梨子ちゃんが中心のお話になります。
「曜ちゃんってさ、なんでハルくんが好きなの?」
「え、ふぇっ?」
「み、美渡さん?と、突然どうしたんですか?」
「いやー、なんとなく気になってさー。ほら、梨子ちゃんも理由をどうぞ!」
「え、えええ!?」
天気は晴天。
外は蒸し風呂のような暑さの本日。
私、高海美渡はここ、淡屋のお店番をしているのであった。
もう店主の友人の多くが忘れていると思うけど、ここ淡屋はハルくんのお店です。
正しくは、かつてハルくんのおばあちゃんが経営していたお店で、現在はその孫であったハルくんが継いだお店。
そんなお店の店番を、なぜ私がしているのか。
理由は簡単。
私がお仕事の話を持ってきている時に、ハルくんに別のお仕事が入ったから。
別に私の持ってきたお仕事は急ぎのものでもなかったし、そちらのお仕事を優先してもらったのだ。
そんでもって、ハルくんが帰ってくるまでこうしてお店番をしているというわけである。
手伝っていたこともあったし、それくらいどうってことはないんだけど、正直途中から暇になっていた。
そんなところに、千歌の同級生であり友達の曜ちゃんと梨子ちゃんがやってきたのだった。
そうして、今に至るわけである。
「いや、ハルくんがいい人だってのは分かるよ。うちの千歌からしたら、普通であることを全肯定した上、それを魅力として受け取ってくれるんだから、千歌に好かれるのも分かる。でもね」
「は、はあ」
「曜ちゃん、君はまあとても可愛いじゃない?」
「え、えっと…」
「その上、運動もできて性格もよくて、普通とは程遠い魅力の塊なわけじゃん」
「そ、その…」
「梨子ちゃんも、曜ちゃんに負けず劣らず可愛いしさ、ピアノできるんでしょ?」
「い、一応…」
「で、優しくてやっぱどこか都会らしい綺麗さがある」
「あ、あの…」
「どう考えてもハルくんと釣り合ってないじゃん!」
「そ、そんなことないから!」
「そ、そうですよ!」
別に千歌の恋愛成就のために言ってるわけではないよ?
本当に純粋に疑問なんだよねー。
「というわけで、ハルくんの何が好きなのか気になったわけよ」
「そ、そもそも釣り合ってないとかそういうのは…」
「まあまあ、それはいいから。とりあえずほら、あるでしょー?」
「結局、そこに落ち着くんですね…」
曜ちゃん梨子ちゃん共に困り顔。
「ここにはハルくんもいないしさ。たまには惚気もいいもんでしょ?」
「ん、んー…」
まだ納得しきれていない様子。
でも、もうあと一歩かな。
「それにさー」
「は、はあ」
「曜ちゃんも梨子ちゃんも、お互いがどれくらいハルくんを好きなのか知りたくない?」
ニヤニヤしながら。
それでいて煽るように。
私はそんな言葉を口にするのだ。
そんな私の言葉に彼女たちは…
「む、むむむ…」
「そ、それは…」
ふふふ。
悩んでる悩んでる。
ライバルの想い。
聞いてみたい気持ちもあるんだろうなあ。
「まあそんなわけだから、はい、曜ちゃんからとりあえずハルくんの良いところを一つどうぞ」
「うえぇえ…え、えっと…」
ようやく堪忍してくれたらしく、考える動作に入ってくれた曜ちゃん。
さてさて。
どんな惚気を披露してくれるかなあ。
「や、優しいとこ…かなあ」
「ほうほう。例えば?」
「ハルくん、普段はセクハラみたいな発言ばっかりだけど、なんだかんだ言って大事な時は茶化したりしないじゃん?」
「そうだねえ。ハルくんはそういうタイプだねえ」
「Aqoursの時もそうだったけど、困ったり悩んだりしてると、ハルくんの方から声をかけてくれるの」
「…うん。そうだね」
「何でもかんでも手を貸そうとしたりはしないんだけどね。それでも自分のために最善の答を探そうとしてくれてるのがすごく伝わってきて…」
「うんうん。そんなところに惚れ込んでいると」
「う、う〜…」
もう茹でたタコのごとく真っ赤の曜ちゃん。
そのまま目の前のクッションに顔を埋めてしまった。
可愛らしいなあもうっ。
「それでそれで、梨子ちゃんはどうなのかな?」
「わ、私ですかっ?」
「そりゃあ次は梨子ちゃんのターンでしょ。曜ちゃんも頑張ってくれたんだから、ね」
「う、うう…その、私、東京からこっちに来たんですけど…」
「そうだねー。初めて会った時に言ってたね」
「前にいた高校、女子校だったんです」
「千歌から聞いたよー。あれでしょ。μ'sのいたところだったんでしょ?」
「ええ」
確か高校名は音ノ木坂高校だったはず。
梨子ちゃんが入学してきた日、千歌が運命だーって騒いでたし。
「その高校、女子校だったんです。というか、それまで私って男の子と接する機会って全然なくて…」
「浦の星も女子校だしねえ」
「それで、男の人ってちょっと怖いものって思ってたんです」
「あー。なるほどね。で、そんな時にハルくんと会ったと」
「はい」
私も基本女子校だったし、気持ちは分からんでもない。
ただ、生まれも育ちもここ沼津の自分としては、そこまで男性に抵抗はなかったりする。
ただ、梨子ちゃんは私と違って育ちがとてもいいのだ。
男性に対してちょっとした抵抗が生まれても仕方ないと思う。
「ハルさん、大人っぽいじゃないですか」
「あー…。うんうん、そうだね」
いや、あれは大人っぽさっていうよりジジくささでしょ。
もしくはオヤジくささ。
というのは、本人の名誉と梨子ちゃんの夢のために言わないでおく。
「こっちに来て不安ばっかりだった私にとって、落ち着いた物腰の優しさって、すごく安心できたんです」
「おー。なるほどねえ」
恐怖心から安心感へのギャップもあって、大人っぽさがとても魅力に写ってしまったわけだ。
まああれも、落ち着いてるっていうか物事に対して鈍感だから、反応が悪いだけな気もするけど。
「今まで感じていなかった優しさに、梨子ちゃんは惚れ込んでいると」
「〜〜〜っ」
何も言わないけど、表情から伝わってくる意思。
さっきの曜ちゃんよろしく、こちらも真っ赤っかだ。
ハルくん。
君はこんなにも可愛い子たちに惚れ込まれているんだねえ。
だというのに…。
「あの鈍感っぷりは、生まれ変わっても治らなさそうだしなあ」
目の前で赤さを増す茹でダコを見つつ、私は思わず呟くのだった。
※
「やっと帰ってこられた…」
美渡さんとお仕事の話をしている最中、別件が入ってしまったのが今から2時間前。
本来なら1時間程度で終わるはずだったその用事が、思わぬ手違いによりその倍かかってしまった。
早足で戻ってきたために少々あがっている息を整えつつ、扉を開く。
同時に、ひんやりとしたエアコンの風が流れ込んできて、汗を蒸発させていく。
「ただいま戻りましたよ」
「ああ、おかえりハルくん」
「こんにちはハルさん」
「おかえりーハルくん」
「君達も来ていたんだね。いらっしゃい、二人とも」
普段俺が座っているところに、現在座っているのは美渡さん。
そして、そこでお話ししていたのは曜ちゃんと梨子ちゃんのようだ。
二人とも若干顔が赤く見えるのはこの暑さのせいなんだろうか。
「ただいまです美渡さん。店番どうもです」
「はい、冷たいお茶。それと、干してあったタオル、取り込んどいたからね」
「すいませんね。助かりますよ。あ、これ。途中で買ってきたアイスです。よければどうぞ」
「おおー。いいじゃんいいじゃん」
「曜ちゃんと梨子ちゃんもいるみたいだし、多めに買ってきてよかったです」
なんていうやり取りをしていた時だった。
「「じー…」」
横から何やら視線を感じるのだった。
「えっと…何かな、二人とも」
「なんていうか…」
「息ぴったりだなー…って」
「息?」
「ああ、私とハルくんでしょ。そりゃあそうでしょ。何年同じやり取りしてると思ってるのよ」
「店番してもらうの、初めてじゃないですもんね」
「ねー。そろそろお給料をもらっても良いレベルじゃない?」
「あそこに缶の貯金箱ありますよ」
「あれ、中身全部小銭だったよね」
「お金には違いありませんよ」
「それはお給料じゃなくてお小遣いだよ」
呆れる美渡さん。
このやり取りももちろん初めてじゃない。
「…やっぱり」
「…息ぴったり」
「ん?」
またしてもジト目の梨子ちゃんと曜ちゃん。
小声で何かを呟いたようだが、聞き取ることはできなかった。
「二人とも、どうしてこっちを見ているのかな」
「いやいや。理由はわかりやすいでしょ。二人とも私に嫉妬…」
「「わー!」」
美渡さんが途中まで話したときに、二人によって遮られてしまった。
なんて言おうとしたんだろうか。
気になるけど、本人たちが明かしたくなさそうなのでここは追求をやめておこう。
というわけで、適当に話題を変えることにする。
「そういえば美渡さん」
「んー?どうしたのかなハルくん」
「さっきまで3人で何を話してたんですか?」
「「ええ”!?」」
なぜか曜ちゃんと梨子ちゃんがえらく動揺している。
あれ。
これも触れちゃいけない話題だったんだろうか。
「おやおや、気になるかねハルくんや」
「ええ、まあ」
「あっはっは。まあ隠す必要はないしねー。教えてあげ…」
「「だめー!!」」
「おおっと。どうしたんだい二人とも」
「ちょ、ちょっと美渡さん!」
「隠す必要ありますから!」
「まあまあ。好きなとこ伝えたくらいじゃ、ハルくんに気持ちなんて伝わらないって」
「そ、そうかもしれないけど!」
「だ、だめなものはダメなんです!」
「二人とも心配性だなあ」
「なんの話をしてるんですか?」
「「ハルさんには関係ないから!!」」
「だったらなんで隠すんだい…」
関係ないなら教えてくれてもいい気がするんだけど。
「くっくっく…。やっぱり二人とも可愛いねえ」
「なんの話かは分かりませんが、二人が可愛いという話に関しては一切の異議なしですね」
「ハルくんはそういうところあっさり口にするよね」
「嘘は言ってませんし」
「あっはっは。そういう点は確かに大人かも」
「なんのことです?」
「こっちのことだよ」
「はあ…」
まあいいや。
追求しても教えてくれなさそうだし。
「あ、そうだハルくん」
「今度はなんですか?」
「ちょっと質問してもいいかね」
「質問?別にいいですけど、どうしたんです?」
「ちょっとねー。曜ちゃんと梨子ちゃんの好きなところを教えてよ」
「ええええ!?」
「ちょおおおお!」
「好きなとこ…ですか?」
「そうそう。あるでしょ」
「そりゃあいくらでもありますけど」
「そうだろうねえ。曜ちゃんと梨子ちゃんも、聞いてみたいでしょ?」
「うっ…」
「そ、それは…」
「ということでね、どうぞ」
「何がということですか。こんなに注目されると、さすがの俺でも恥ずかしいですよ」
「普段のセクハラ発言をあっさり口にしといてそりゃないでしょ」
「返す言葉がありませんね」
仕方ない。
ここは観念して、二人のいいとこ発表といこうじゃないか。
なに。
実際いくらでもあるのは事実。
少々恥ずかしかったけど、俺は彼女たちのいいところを約2時間ほど語り続けたのだった。
これでもかなり端折ったのだが、どうやら長かったらしく、美渡さんには途中から文句をつけられたのだった。
ちなみに。
梨子ちゃんと曜ちゃんの二人はその間ずっとクッションに顔を埋めていた。
「こんだけAqoursのみんなを大好きなハルくんに、嫉妬なんて必要ないのにねえ」
呆れたように美渡さんがつぶやいた一言。
俺にはなんのことかはわからなかった。
ご視聴ありがとうございました。
芋けんぴさんより、美渡さんとの絡みいいんじゃね?というありがたい提案を採用させていただきました。
内容は相も変わらず会話のみですが。
それでは何かありましたらお願いします。