Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましたこんにちは。

今回はルビィちゃんと曜ちゃんとのお話になります。



駄弁るAqoursと布屋さん3

「はあ?嫌いなもの?」

『そうそう。ハルくん、何か嫌いな食べ物あったかなーって』

「んー…。多分ないんじゃないですかね」

『多分って何さ』

「好き嫌いで食べ物を分別できるほど、食事に余裕がなくてですね」

『…ちゃんと食事とってる?』

「とってるつもりです」

 

夜。

もう間も無く布団に入ろうかと思っていた時間。

 

唐突に、千歌ちゃんのお姉さんである美渡さんから着信が入った。

要件はお食事のお誘い。

 

なんでも、親戚からずいぶんたくさんの食材を頂いたらしく、それを一緒に食べないかという事だった。

こちらとしては願ってもいない事なので、もちろん快諾。

 

その際、先ほどのような好き嫌いの話になったのだった。

 

それから少しの間、なんでもない話をしてその日の電話は終了となった。

 

 

 

 

「と言う事があってね」

「んー…好き嫌いかー」

「ハルさん、なんでも食べられるんですね」

「そういう自覚はないけどね。まあ嫌いな食べ物は思いつかないかな」

「そういえばハルくんは好き嫌いないよねー。なんでなんだろう?」

「なんで…まあ理由としては二つかな」

「二つ?」

 

美渡さんとの電話の翌日。

お店にはルビィちゃんと曜ちゃんの二人がやってきていた。

 

以前、俺がルビィちゃんに泳ぎ方を簡単に教えた事があったが、あれ以降もルビィちゃんなりに泳ぎの練習を続けているらしい。

で、曜ちゃんは水泳部なので泳ぎ方に関しては正にプロフェッショナル。

 

少なからず、俺なんかよりはずっと頼りになるだろう。

というわけで、この二人は時々一緒に練習をしているようだ。

 

今日この二人が一緒に来たのは、その帰りという事。

仲良くできているようでなによりである。

 

「好き嫌いがないのに理由があるんですか?」

「一応ね。一つは祖母だね」

「ああ、ハルくんのおばあちゃんかあ。ルビィちゃんはあった事ある?」

「ええ、ありますよ。…あれ?でもハルさんのおばあさん、そんなに厳しかったかなあ?」

「え!?そりゃあもう鬼のように厳しかったじゃん!」

「そうだね。俺から見ても鬼婆って感じだったけど…確かに、ルビィちゃんには優しかった記憶があるよ」

「そうなの!?」

「そ、そんなに驚くことなんですか…?」

「だって…ねえ」

「…まあ、曜ちゃんの言いたい事もわかるよ」

「厳しかったもんねえ。というか、なんでルビィちゃんには優しかったんだろう」

 

などと言う曜ちゃん。

だが、正直考えるまでもなく理由はわかる。

 

「そりゃああれだよ。日頃の行いだね」

「ええー!私の日頃の行いが悪かったみたいじゃん!」

「いくら小学生の時とはいえ、布屋さんに泥だらけの服着たまま釣ったザリガニを持ってくるような行動を、日頃の行いが良いとは言わないんだよ」

「でも餌提供したのはハルくんじゃん」

「だから俺も怒られたよ」

「あ、ハルさんも怒られたんですね」

「千歌ちゃん、私、ハルくんの三人で正座したもんねー」

「あー…あはは…」

 

苦笑い気味のルビィちゃん。

そりゃあ反応に困るよね。

 

「あ、好き嫌いがない理由、二つあるんですよね?えっと、二つ目は…」

「ああ、そういう話だったね」

「まあ私は予想つくけどねー」

「え、そうなんですか?」

「うん。大体ね」

「ほうほう。じゃあせっかくだし当ててもらおうかな」

「ヨーソロー!」

 

敬礼しながら答えてくれる。

自信満々のようだ。

 

俺が好き嫌いがない理由。

曜ちゃんに当てられるかな。

 

「あれでしょ。お金の都合で、食事に贅沢言う余裕なんてないから、でしょー」

 

当てられた。

 

「正解だよ。よくわかったね」

「え、せ、正解なんですか?」

「好き嫌いできるほど贅沢できない生活なんだよ」

「あはは。ハルくんも大変だよねー」

「最低限食べていられるだけでも運が良いと思ってるよ」

「そ、その…大変、なんですね」

「慣れたけどね」

 

逆に言えば、好き嫌いがないからこそ問題なく生活していると言えなくもない。

まあいずれにしても、特に不満がないのは嘘ではないのだ。

 

なんて事を思っていたら、ふと曜ちゃんが何か考え事をしている事に気づく。

はて。

 

「曜ちゃん、何か考えているのかい?」

「んー…ちょっとねー」

「どうしたんですか?」

「いや、どうせなら私だって好き嫌いは直したいんだよね」

「わ、私もです」

「で、ハルくんをお手本にでもしようと思ってたんだけどさー」

「したら良いんじゃないのかな」

「いや、できないでしょ」

「あー…あはは…」

「そうかね?」

「普通のおうちは、好き嫌いしたら食事に困るような生活してないから」

「それもそうだね」

「あ、じゃあ、ハルさんのおばあちゃんは、どうやって嫌いな食べ物を無くそうとしてたんですか?」

「あー、ばあさんの方のやり方かい」

 

小学校低学年くらいの時だったかな。

俺がまだ食べ物の好き嫌いをしてたのは。

 

たしかその頃は…

 

「嫌いだから食べられないって言うと、特に何も言わずに皿を下げられていたよ」

「あれ?そうなんですか?」

「てっきり強引に口に放り込まれると思ってたよー」

「いや、話はもちろんここでは終わらないんだよ。次の日、倍の量になって同じものが出て来るんだ」

「…………うお」

「……き、きついですね…」

「その際にもばあさんは何も言わないんだ。そこでも食べないでいると…」

「い、いると…?」

「次の日、さらに倍になって出て来る」

「……………おおう」

「………ど、どんどん増えてくってことですか?」

「そうだね。一度、一週間くらいそのやり取りを繰り返したことがあったんだけどね」

「いや粘りすぎでしょ」

「もう皿から溢れるような状態になってたよ。しかも、ばあさんはそれを見てニコニコしてた」

「それは…怖いね」

「そうだね。恐怖以外の何ものでもなかったよ」

「る、ルビィには厳しそうです…」

「曜ちゃんも、このやり方をご所望なら俺の方から君の家に連絡を…」

「いやいいから!」

 

鬼気迫る表情で言われた。

まあ嫌だよね。

俺もめっちゃ怖かったし。

 

 

 

 

喉が乾いたということなので、お茶を汲むべく冷蔵庫へ向かった。

3つのコップに冷たいお茶を入れ、お店の方へ戻ってくる。

 

曜ちゃんとルビィちゃんにお茶を渡し、再びお話を始めるのであった。

渡した直後、このお店、店主が裏に下がっても全然問題ないねーと笑いながら曜ちゃんに言われたことは、ここでは流しておく。

 

「そういえばルビィちゃんは何が嫌いなの?」

「食べ物…ですよね?えっと、ルビィはわさびです」

「わさび?あの辛いやつ?」

「え?辛くないのもあるんですか?」

「どうなんだろ?」

「辛くない…というよりは、マヨネーズと組み合わせると辛さを抑えてくれるとは聞いたことがあるよ」

「ほへー」

「マヨネーズとわさびって、組み合わせることある?」

「どうだろうね」

 

少なくとも自分はあまり見たことがない。

 

「やっぱりあの辛さがダメなの?」

「はい。あのツーンとしたのが苦手で…」

「あー。苦手な人には厳しいよねえ」

「マスタードとかとはまた別のタイプだしね」

 

えへへと、苦笑い気味のルビィちゃん。

苦手なものと言っても、わさびを食べれないと困るような状況はあまりないし、そこまで生活に影響はなさそうだ。

 

「曜さんにも苦手なものとかあるんですか?」

「私?うん、私にも苦手な食べ物あるよー」

「刺身…だったかな?」

「お刺身…ですか?」

「そうそう。ハルくん憶えてたんだねー」

「そりゃあね。長い付き合いだから」

「そ、そっか。憶えててくれたんだ。…えへへ」

 

苦手な食べ物の話をしているのに、なぜかニコニコしている曜ちゃん。

どうしたんだろうか。

 

まあそれはともかく。

 

「お刺身、美味しいと思うんだけどね」

「んー…みんなそう言ってくれるんだけどさー。どうにもダメなんだよねー」

「何か理由でもあるんですか?」

「いやー…多分ないはず」

「なんとなく好きになれない、と」

「苦手な食べ物なんてそんなものじゃない?」

「あー…でもわかります」

「ねー」

「そんなもんなんだね。…でも、ここ海の町だよね。刺身を見る機会は結構多いんじゃないの?」

「そうなんだよねえ。私、この町は基本的に大好きなんだけどさー。そこだけ不満かもー」

 

机にぐでーんとしながら言う曜ちゃん。

暑さで伸びる猫みたいだ。

 

「でもね、曜ちゃん」

「んー?どうしたの、ハルくん?」

「お刺身っていうのは、ものにもよるけど基本的には贅沢な食べ物なんだよ」

「まあ…ねえ」

 

食材そのものが高級というのもある。

だがそれ以上に。

 

「お刺身はある一定の技術を持った人のみが調理できる食事でもあるんだ」

「まあ、ちょっとした高級料理にされる理由だよね」

「つまりはお刺身っていうのは…」

「ちょ、ちょっと待ってハルくん」

 

お刺身の魅力について語っていたら、途中で曜ちゃんに遮られてしまった。

 

「どうしたんだい?」

「いや、それこっちのセリフだから」

「ハルさん、お刺身好きなんですね」

「というか何でそんなにお刺身の肩持つの。そんなに好きだったっけ?」

「好き…うん。確かにそれもあるね」

「それもって何さ」

「さっき言っただろう。お刺身っていうのはね、一応は贅沢な食事なんだよ」

「そうだね」

「そうですね」

「つまりは、だよ」

「「?」」

 

頭に?マークを浮かべる二人。

そんな二人に、俺は一言告げるのだ。

 

「俺にとってはね、滅多に食べられない高級料理なんだ。嫌いだから食べないなんて、もったいないじゃないか」

 

そのセリフを口にする俺は、どんな表情をしていたんだろうか。

鏡なんてもちろん置いていないその時は、それは分からなかった。

 

しかし。

 

「…なんか、ごめんね」

「…ハルさん、今度余ったお刺身持ってきてあげますからねっ」

 

曜ちゃんルビィちゃんの二人は。

見たことないくらい憐れみと同情を含んだ表情をしていた。

 

「…私、今後は好き嫌い気をつけるね」

 

非常に複雑そうな表情でそんな言葉を口にする曜ちゃん。

その表情を、俺はしばらく忘れることができないのであった。

 

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。

rapidservice様の案でいただいた組み合わせでした。
話自体はこちらで決めたので、空気はいつも通りですね。

嫌いなものについては、公式のプロフィールを参照しています。
気になる方はご一見を。

ちなみに筆者はトマトが苦手です。

それでは何かありましたらお願いします。

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