今回は梨子ちゃんと善子ちゃんのお話になります。
「暇ね」
「そうかい」
「ねえ」
「なんだい?」
「暇なんだけど」
「さっき聞いたよ」
「暇なんだけどー」
「そう言われてもね」
さっきから暇暇とやかましくしている少女。
現代に再誕した堕天使ヨハネこと、津島善子ちゃん。
そしてその横で善子ちゃんとは正反対に、静かにしている梨子ちゃん。
俺、善子ちゃん、梨子ちゃんの三人は今お店の奥の和室にいる。
時刻はお昼時。
そんなわけで、お昼ご飯を食べるためにこちらにいるのだった。
「よっちゃん、そんなに暇って言っても、時間は進まないわよ」
「それはわかってるけどー。あとヨハネよ」
「しかも、待つ時間なんてせいぜい3分くらいじゃないか。我慢しなさいよ」
「くーっ。なんでカップ麺の待ち時間ってこんなに長く感じるのかしら!」
先ほどから善子ちゃんが暇だと嘆いている理由は今のとおり。
今日のお昼ご飯は、梨子ちゃんが食べてみたいというのでカップラーメンになった。
お湯を入れてからの数分間。
長くても5分程度のこの待ち時間。
善子ちゃんはこの待ち時間に文句を言っているのであった。
「そんなに待ちきれないならもう開けたらいいんじゃないかな?」
「麺が固いままじゃない」
「ラーメンには固麺っていうのもあってね」
「カップ麺でそれをやると、スープが絡みにくくなるのよ」
「それなら我慢しておくれ」
「はあー…」
「カップ麺って、どれもこれくらいの時間待つものなの?」
「そうだね。だいたい3分から5分くらいじゃないかな」
「へえー…そういうものなのね」
「梨子、本当にこういうの食べないのね」
「体によくないって、あまり食べさせてもらえなくて」
苦笑いでそんな風に言う梨子ちゃん。
なんというか、育ちの良さを感じさせる。
「逆に善子ちゃんは結構食べてるよね」
「そうね。ハルと一緒に食べることも多いしね」
「君がおうちから持ってきてくれることもそこそこ多いからねえ」
「知り合いが箱でくれたりするんだけど、そんなに食べれないってなるのよ」
「へえー。そういうのもあるのね」
「もらえるのは珍しいけど、箱で買う人は案外いると思うよ」
「どうして?飽きたりしないの?」
「んー…もちろん飽きるんだけど…なんでか、数日したらまた食べれるんだよね」
「あー、気持ちわかるわ」
「ほへー…」
素直に驚いている様子の梨子ちゃん。
そんな話をしているうちに、待ち時間の3分が経過。
ようやく食事にありつけるようになるのだった。
※
「そういえばこのカップ麺の件で思ったんだけどさ」
「うん」
「Aqoursって、育ちの良い子が多いわよね」
「また脈略もなく話が行くね」
「なんとなく思ったのよ」
善子ちゃんと二人、洗面台で洗い物をしている時。
特に前置きもなくそんな話題を出してきた彼女。
ちなみに梨子ちゃんは机を拭いていくれている。
そんな梨子ちゃんを横目に見つつ、善子ちゃんとのお話を続ける。
「育ちの良さっていうと、食事のことかい」
「食事だけじゃないわ。ぶっちゃけお金持ちかしら」
「例えば?」
「そうねー…まあ梨子はさっきみたいにカップ麺すら食べたことがないわけよ」
「そうだね」
よくよく考えると、梨子ちゃんは東京でピアノが弾ける家に住んでいたわけで。
それって普通のお家にはなかなか難しいことのはずだ。
少なくとも俺の今の経済力じゃまず無理だろう。
「で、鞠莉とか黒澤家は言うまでもないじゃない?」
「まあそうだね」
「なんの話をしているの?」
「おや梨子ちゃん。机を拭いてくれたのかな?」
「ええ。ふきん、持ってきたんだけど…なんの話をしていたの?」
「梨子たちはお金持ちよねって話してたのよ」
「なにそれ?」
ざっくり話の流れを梨子ちゃんに説明。
と言っても、そんな長く話していたわけではないけど。
「というわけで、Aqoursは金持ちが多いっていう話だったわけよ」
「もともともは、育ちの良い子が多いって話だったはずだけどね」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
「育ちの良さとお金持ちって、そこまで繋がらない気もするけど…確かに、お金持ちのお家の子は多いわよね」
場所をちょっとだけ変えて、先ほどまでご飯を食べていた机のところへやってきた。
三人で机を囲み、みんなでお茶を飲む。
食後のゆったりした空気を楽しみつつ、先ほどの話を続けるのだった。
「千歌ちゃんも自分を普通だなんだと言っているけど、あれでこのへんじゃ有名な旅館の娘だし」
「曜のとこだって結構立派なお家よね」
「花丸ちゃんのところはお寺だし…」
「庶民は善子ちゃんだけ…ああいや、堕天使だから庶民ではなかったね」
「今それを言われると完全に嫌味ね」
「いやはやまさか。君は立派に堕天使なんだからね」
「はっ倒すわよ」
普段はヨハネって呼ばないと怒るのに。
「ちなみに、育ちの良さに関してはみんな良いと思うよ」
「そうなの?」
「俺が偉そうに判定できることではないけどね」
「年上なんだし、それはいいんじゃない?」
「というか、育ちの良さって何を基準に判断するの?」
「んー…自然に出る態度…とか?」
「言動とか、食事の振る舞いとか、そういうところに出るとは言うわね」
「まあうん、なんとなく君らからは育ちの良さを感じるんだよ」
「曖昧ね」
「はっきりした定義がないからこそ、感じさせるという表現になったんだろうさ」
「難しい話ね」
「どうだろうね。あ、そういえば饅頭があるんだけど、食べるかい?」
「そっちも唐突ね」
「ふと思い出してね」
「もらっていいの?」
「もちろんだよ」
「私もいただくわ」
「ちょっと待っててね」
奥へ行き、饅頭をお皿に乗せる。
それとともにお茶を持って部屋へ戻る。
部屋へ戻ると、さっきまでと変わらず梨子ちゃんと善子ちゃんの姿がある。
和室だからだろうか。
二人とも正座で座っており、背筋も自然な形で伸びている。
「おかえり、ハル」
「おかえりなさい…って、どうしたの、ニヤニヤして」
「いやいや。なんでもないよ。ただ育ちの良さを感じていただけさ」
「なんのこと?」
「なんでもないよ。それより、饅頭をいただこうじゃないか」
梨子ちゃんと善子ちゃんの前にお茶請けのお菓子、饅頭を置く。
スーパーで買ったやつだが、果たして評判はどうだろうか。
「これは…よもぎ饅頭?」
「そうだよ。善子ちゃんでもこれはわかるんだね」
「バカにしてんの?」
「以前よもぎ餅を見せた時は、抹茶の餅とか言ってたからね」
「へ?抹茶?」
「や、やかましいわ!」
三人でお話をしつつよもぎ饅頭をいただく。
お値段のわりには餡も多くて美味しい。
十分お得な買い物と言って良さそうだ。
食べ始めて10分くらい経ってからだろうか。
梨子ちゃんが、再び先ほどのお話を持ち出してきた。
「さっきのお話なんだけどね」
「育ちのやつ?」
「そうそう」
「どうしたのよ」
「うん。ハルさんも、結構育ちの良さってあるんじゃないのかなって」
「残念だけど、お金は本当に全然ないよ」
「いや、育ちの良さとお金持ちはイコールにならないって話したでしょ」
「そうだけど、俺がそんなことを言われてのは生まれて初めてだからね」
「そうなの?」
「でも、私もハルの育ちは結構良い方だと思うわよ」
「おやおや。善子ちゃんまで嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「というか、あのおばあさんの影響でしょ」
「十中八九そうだろうね」
「前にも、厳しいおばあさんだったって言ってたよね」
「まさに鬼婆って感じだったわよ」
「そうだね。仮に少しでも俺に育ちの良さを感じるところがあれば、まああの婆さんの教育の賜物だろうね」
そしてこの会話を見て、きっと天国からほくそ笑んでいるだろう。
「でも、なんでハルさん、これまでそういうこと言われなかったのかしら」
「そういうことって?」
「育ちがいいとか…かな?」
「そりゃああれでしょ。言動」
「言動?」
「そんなにおかしな事を言っている自覚はないんだがね」
「嘘でしょあんた。日頃の変態発言に自覚ないわけ?」
「あー…なるほど」
「ちょっと梨子ちゃん、何に納得しているんだい」
「確かにあの発言があると、品の良さが薄れるわね」
「薄れるどころか完全に上書きでしょ」
「はっはっは。ひどいじゃないか」
さっきまで珍しく褒められていたはずだったのに、なぜか今度は悪いところを指摘される流れになっている。
一応、発言する相手には気を使っているんだがね。
「まあ、とどのつまりあれね」
「あれってなんだい」
「どんな環境で育てられても、頭の中までは矯正できないってことね」
「そうね」
「…否定はできないね」
て事は結局。
育ちの良さとか品の良さをちゃんと見せられるかどうかは。
その人自身によるところが大きい、と。
言い方を変えてみれば。
Aqoursの子達はみんないい子達って事でいいのかな。
いやここは。
いいって事にしておこう。
残り一口のサイズとなったよもぎ饅頭を口に放り込みつつ。
俺はそんな事を思ったのだった。
ご視聴ありがとうございました。
今回も駄弁るだけのお話でしたね。
最近、誰と誰の組み合わせにしようか悩む事が多いです。
組んでほしい組み合わせとかがあれば、感想でもメッセージでも送ってくれるととても嬉しいです。
長くなりましたが、何かありましたらお願いします。