Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは

今回はGuilty Kissとのお話になります。



とある夜と布屋さん

とある夜。

いつもなら睡眠に着くこの時間。

 

俺はいつもと違うベッドに寝転がっていた。

 

天井に広がるのはいつもの和室の風景…ではない。

シミなど一切ない綺麗なその天井は、逆に俺から落ち着きを奪う。

 

夜でもエアコン完備。

 

冷蔵庫の中の飲み物は飲み放題。

 

一人で使うには大き過ぎるベッド

 

そして、ふかふかの布団。

 

何一つとっても、俺が普段寝ている環境とは異なっている。

 

その環境というのは…

 

「まさか、マリーちゃんのとこのホテルに泊まる機会があるとは…」

 

この辺でも最高級のホテルである小原家所有のホテル。

その一室に、俺は宿泊しているのである。

 

なぜこんな事態になっているのか。

理由は非常に簡単である。

 

家の近くの電線が断線し、電気がストップしたため。

1日くらい電気がなくても大丈夫だろと言われればその通りなのだが、いい機会だからと宿泊させてもらう事になった。

 

いい機会というのは。

 

 

『今日は、Guilty Kissのメンバーでお泊まり会をやるのよ』

 

『どうせハルも家で電気が使えないなら、うちに泊まるといいと思いまーす』

 

『できればその、ハルさんがブレーキ役としていてくれると嬉しいな…なんて』

 

 

という事である。

こちらとしても願ってもいない機会なので、喜んでお願いした次第である。

 

しかし。

しかしだ。

 

どうやらこの環境は俺には贅沢過ぎたらしく、現状のように寝つきが悪いという事態になったわけだ。

我ながら、貧乏生活が板についていると思う。

 

 

 

 

「…一旦散歩でもするかな」

 

あれから10分ほど目を瞑っていたが、やはり眠りにつく事ができなかった。

なので、気晴らしに外を散歩する事にする。

 

散歩といっても、本当にホテルの周りをうろうろした程度。

ほんの15分程度だ。

 

それでもほどよい疲れが体を包み、気分良く寝れそうな状態で布団に入ろうとしたその時。

布団の妙な膨らみに気付く。

 

「…なんだこれ」

 

どう見ても妙な状態で膨らむ布団。

若干の警戒をしつつ、ゆっくりとめくっていく。

 

すると。

 

「…………グッドイブニーング、ハル」

「…………うん、こんばんはマリーちゃん」

 

そこにはマリーちゃんがいた。

 

「…………………」

「…………………」

 

お互い、目は合わせているものの言葉を発する事ができない。

しばらくして、ようやくマリーちゃんが口を開くのだった。

 

「…その、これには事情があるの」

「…とりあえず聞くから、話して見てくれ」

「…トイレ行って、帰り道が分からなくなって」

「…ここ君の家だよね。しかも部屋にトイレあるよね」

「…………………」

「…………………」

 

再びの沈黙。

なんというか、とても反応に困る。

 

とはいえ、ずっとこのままというわけにもいかない。

仕方なく、こちらから事情を聞く事にする。

 

「怒らないから、事情を話してくれると嬉しいよ」

「ハルの布団に入り込み…間違えた、人肌恋しくなったんでーす」

「いやいや。君の部屋には今日善子ちゃんと梨子ちゃんもいるだろう。その二人で我慢しておくれ」

「なんていうか…サイズの問題で」

「だからって男と二人で寝るわけにはいかんだろう。諦めてくれ」

「ぶー。ハルは私と寝るのが嫌なんですか?」

「そんなわけないでしょうに。でもね、俺がここで選択を誤ると、明日から俺の寝床は家じゃなくて監獄になるんだよ」

「…なんでハルのとこに来たか全くわかってないでーす…」

「なんか言ったかい?」

「言ってないでーす。この鈍感!」

「ぐえ。枕を投げたら痛いじゃないか」

「ハルなんて枕の山に埋もれて寝れなくなっちゃえばいいんだ!グッナイ!」

 

そのまま部屋を出て行ったマリーちゃん。

なんで怒ってたんだろう。

 

 

 

 

「…寝れない」

 

マリーちゃんとのやり取りで目が覚めてしまったこともあり、結局あの後また寝れなくなった俺。

 

「…もう一度散歩でもするかな」

 

今度はホテルから少し離れたところまで歩いた。

時間はさっきの散歩から少し長く、20分ほど。

 

再び程よい疲れをまとった状態で布団に入り込もうとしたとき、またしても違和感に気付く。

布団に膨らみがある。

 

「…マリーちゃん、また忍び込んだのかい」

 

ため息を吐きながら布団をめくると…

 

「…あ」

「…………………」

 

そこには堕天使の姿が。

じゃなくて。

 

「…善子ちゃん」

「な、何よ」

「…俺の言いたい事が分かるかい」

「…きょ、今日はその、堕天使が横で寝てあげるわ」

 

もじもじしながら言うヨハネちゃん。

慣れていないセリフは言うもんじゃないね。

 

「理由を聞こうか」

「そ、その、冷蔵庫が止まってお気に入りのお菓子が全滅したハルを励ましてあげようと思って」

「とてもありがたい提案だけど、丁重にお断りさせてもらうよ」

「な、なんでよ!」

「堕天使と一晩明かすと、今度は俺が堕天しそうだからね」

「は、ハルも堕天使になるの?」

「どちらいうと獣とか狼か…いややめておこう」

「へ?」

「ともかく、簡単に男の部屋に忍び込んだりしてはいけないよ」

「…ハルのとこ以外行かないわよ…」

「もう一度頼むよ」

「なんでもないわよバカ!」

「いた。…まさか一晩で二回も枕を投げつけられるとは思わなかったよ」

「ふん!ハルなんて、枕の山に埋もれて寝れなくなっちゃえばいいのよ!」

 

怒って部屋を出て行く善子ちゃん。

マリーちゃんの時とデジャヴを感じる。

 

わざわざ励ますために来てくれたのはとても嬉しいが…

マリーちゃんといい善子ちゃんといい、もう少し危機感を持って欲しいものである。

 

 

 

 

「…やっぱり寝れない」

 

善子ちゃんとやり取りにより、再び四散してしまった睡魔。

あの堕天使はこの睡魔という魔物だけはきっちり退治してくれたようだ。

 

などとくだらない事を考えていても、睡魔が蘇るという事はしばらくなさそうだった。

 

「…散歩かな」

 

本日三度目の散歩。

さすがにもう遠くまではいけない。

 

今度は非常に短い距離の散歩。

だいたい5分程度歩いてから部屋に戻ってきた。

 

なんだかんだ言って疲れがたまりつつある事もあり、比較的すぐ眠くなってきた。

うん、これなら寝れそうだ。

 

思いながら布団に入ろうとして、違和感に気付く。

布団にまたしても膨らみがある。

 

「…………………」

 

さてどうしたものか。

などと考える事はもうない。

 

もう三度目ともなれば慣れたもの。

躊躇なく布団をめくるとそこには…

 

「…あ」

「……こんばんは梨子ちゃん」

「あ、えっと…こ、こんばんは」

「理由を話してくれると嬉しいんだけど」

「…その、みんながハルさんの布団に潜り込んだって聞いて…」

「…わざわざ話したのかい、あの二人は」

「それでその…わ、私だけやってないっていうのは…」

「ああ、仲間はずれみたいで嫌だったのかな」

「え?いや、そういうわけじゃ…いえ、それでいいわ」

「お?」

 

少し違ったらしい。

 

「他の二人にも言ったけど、仮にも男の部屋に夜忍び込むのはさすがに危ないよ。俺じゃなかったらどうなってたことか」

「…ハルさん以外の人のとこに忍び込むわけないでしょ…」

「もう少しボリュームを上げてくれると嬉しいよ」

「朴念仁って言ったのよ」

「そんなに短い言葉だったかな」

「もう!ハルさんのバカ!」

「ぐえ。…二度ある事は三度あるってやつかな」

 

枕が投擲された。

今晩三度目である。

 

「ふん!ハルさんなんて、枕の山に埋もれて寝れなくなっちゃえばいいんだ!」

「なんでみんなそのセリフを残していくんだい」

 

どう考えても偶然かぶる言葉じゃないはずなのに。

 

 

 

 

あれからどれくらい経ったんだろうか。

彼女たちとのやり取りで、程よく疲労が溜まったらしくあの後すぐ眠る事ができた。

 

のだが、どうにも寝苦しさを感じ目が覚めてしまった。

なんというか、体の動きが制限されているような…

 

重たい瞼をなんとか開け、自分の体を視界に捉える。

真っ先にそこに映ったのは、自分の腕ではなく、とある女の子。

 

というか。

 

「…マリーちゃん…」

「んん…ハルー…」

 

完全に寝ているらしい。

こうなるとさすがに起こし辛いな。

 

なんて思っていたら。

 

「私と一緒に堕天…うへへ」

「…善子ちゃんもかい」

 

というか、その一緒に堕天したのって俺じゃないよね?

いや、どうでもいい事なんだけどさ。

 

「うーん…ハルさん…ふふ…」

「…で、息苦しさの正体は君かい」

 

胸のあたりに顔を乗っけている梨子ちゃん。

 

どうやら三人に取り押さえられるようにして掴まれていたようだ。

これ自体は男としてはこの上ない幸福なわけだが…。

 

「…さすがに、ちょっと寝苦しいんだけど」

 

なにせ身動きがまともにとれないのだ。

せめて寝返りが打てるくらいのスペースくらいは確保したい。

 

そう思い、彼女たちの拘束を解こうとした。

しかし。

 

「気のせいか、解こうとすればするほど締め付けがきつくなっている気がする」

 

というか気のせいじゃない。

動こうとすればするほど、腕を掴む手に力が込められている。

 

って、いやいや。

 

いたたたたたっ。

折れる、というか外れるっ

 

ぬぐおおおおおおおおお。

 

声を出すと彼女たちを起こしてしまいそうなので出せないが、これは痛い。

いっそ一旦起こして解いてもらおう。

 

そう思った時だ。

 

「すー…」

「むにゃむにゃ…」

「すぴー…」

 

三人の天使のような寝顔を見てしまった。

 

ああ。

これは…

 

体の痛みと、彼女たちの可愛らしい寝顔が天秤にかけられる。

結果は言うまでもない。

 

「今のうちに、きっちり目に焼き付けておくとしようじゃないか」

 

徐々になくなりつつある感覚を無視し、全神経を目に集中するのだった。

 

 

 

 

翌日。

 

全身が痛みのあまりしばらく動かせなかったのは、言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

「ハル、本当に手はださなかったねー」

「分かってはいたけど、なんとなく複雑だわ」

「女として魅力がないのかって思っちゃうよね」

「ハルの事だし、魅力は感じてるんだろうけどねー」

「口ではセクハラ発言ばっかりのくせに、結局一線を越えようとはしないわよね」

「それだけ大人って事なのかなあ」

「それもあるんだろうけど、多分ハルのおばあちゃんの影響だと思うヨ」

「…ああ、そういえば厳しかったわね」

「だとしたら、まだまだ先は長いのかなあ」

「でしょうねー」

 

そんな会話があったことは、ハルには知る由もなかった。

 

 

 





ご視聴ありがとうございました。

今回はちょっと短かったですね。
本当はもうちょっと細かく描写しようと思っていたのですが、そしたら逆に文字数が伸びすぎてやめた次第です。

そしてこの後書きでも文字数が重んでしまっていますね。

それでは何かありましたらお願いします。

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