AZALEAのメンバーたちとボウリングに行くお話になります。
『カコーン!』
ピンがボールに弾かれ、音を立てて倒れていく。
複雑な形で残ってしまったピンを見て、先ほどボールを転がした女の子が苦笑いをしながら友達と話している。
そんな平和な姿を見て、俺は思わず微笑んでしまうのだった。
「モノローグで嘘をつかないでくださいます?」
「どうせひらひらしてるスカート見てテンション上がってたんでしょ?」
「ハルさん、顔に出てるずら」
「最近の君たちは超能力でもあるかのように心を読むね」
今日はAZALEAのメンバーたちとボウリングにやってきた。
お客さんからボウリングの券をもらったので、偶然うちに来ていた彼女らを誘ったのだ。
「んー…ボウリングなんていつ以来かなー」
「私も久しぶりですわ」
「おらは初めてずら」
「そうかいそうかい。まあせっかくだし楽しんでってくれ」
ちなみに俺も相当久しぶりである。
感覚が鈍ってなきゃいいんだけど…どうだろうか。
受付とシューズのレンタルを済ませ、自分たちのブースへやってきた。
頭上に存在するモニターには、俺含めて四人の名前が表示されている。
『カナン』
『ハル』
『ハナマル』
『タイヤ』
「ちょっと待ってください」
「なんか一人名前がおかしいね」
「あはは!タイヤって!」
「変わった名前ずら!」
「笑い事ではありませんわ!なんでこうなってますの!?」
お腹を抱えて大笑いしているカナンちゃん。
遠慮しながらも笑いを堪えきれていないハナマルちゃん。
対して、怒っているタイヤちゃん。
じゃなくてダイヤちゃん。
「受付に名前書いて出した時に、何かの不備があったのかな」
「誰ですの!?名前表を提出したのは!?」
「私じゃないよー」
「俺も違うよ」
「…あ、丸だったずら」
思い出したような花丸ちゃん。
「…よく果南さんと笑ってられましたわね」
「か、完全に忘れてたずら。えっとその…ごめんなさい」
「…素直に謝られると怒る気が削がれますわね」
「まあまあタイヤちゃん。花丸ちゃんもきっとわざとじゃないだろうからね」
「そうそう。ここは抑えてね…ブフッ!」
「二人はバカにしてますわよねえ!」
「いや、そんなことはな…ぐえ」
ダイヤちゃんからドリンクが投擲された。
250mlの小さいやつだ。
「はあ…まあいいですわ。気を取り直してボウリングをやりましょう。花丸さんも気にしなくていいですわ」
「ダイヤさん…っ。優しいずらっ」
「花丸さんがドジするのは今に始まったことではありませんしね」
「そうそう。さすがダイヤ」
「うんうん。さすがダイヤちゃん」
「…それに、怒りの矛先はあちらに向きそうですからね」
「?」
ダイヤちゃんの怒りの視線がこちらに向いた。
まあ、花丸ちゃんが萎縮しているよりはいいだろう。
…俺と果南ちゃんが萎縮することになりそうだけど。
※
「さあ!チーム対抗戦ですわ!」
「ダイヤちゃん、勝負好きだね」
「私もだよ!」
「そういえば君もだったね」
「チーム対抗ずら?」
「ええ。分け方は…くじ引きでいいでしょう」
「くじなんて用意してないよ?」
「スマホのアプリであるのですわ」
「そんなのもあるのかい。便利なもんだね」
「昨日曜さんに教えてもらいました」
「ダイヤ、それが見せたかったんだね」
スマホのアプリでくじ引きを行う俺たち4人。
その結果…
ハル・花丸 VS 果南・ダイヤ
「…いやいや。なんでこの組み合わせ?」
「なんでって…くじ引きだしね」
「年齢的なバランスは取れてるずら」
「能力は?」
「ハル、経験者なんでしょ?」
「俺の運動神経がよくないことは知っているだろう?」
「球技のコントロールだけやたらいいのは知ってるよ」
「いや、確かにボウリングの球もコントロールは自信があるけど…」
「じゃあ大丈夫だね!」
「さあ、最初は果南さんからですわよ!」
「最近の君たちはスルー率が少し高いね」
「いよーし!って、まだボール持ってきてないよ」
「ボール、取りに行くずら?」
「そうだよ」
「私が荷物を見ておくので、とりあえず3人で取りに行ってください」
「ん。頼むよ」
そんなわけで果南ちゃん、花丸ちゃんとともにボウリングの球を借りに行く。
棚に重さの違うボールが並べられており、好きなように持ち出せることになっている。
その種類は結構多く、初めて来た時はどの重さがいいか悩んだものだ。
歳をとって、それまで投げられなかった重さが投げられるようになったときは、自分も成長したものだとしみじみ思ったりもする。
「んー…ど、どれを持ってったらいいずら?」
「とりあえず最初は軽いやつにしたらいいんじゃないかな」
「じゃあこれずら?…おお、結構重たいずらっ」
「大丈夫かい?俺が持とうか?」
「だ、大丈夫ずら〜」
若干心配だが、まあさすがに一番軽いやつだし大丈夫だろう…多分。
それよりも俺は自分の心配をしないといけない。
何と言っても、俺のボールは…
「あれ?ハル、一番重いやつ使うの?」
「その通りだよ」
「大丈夫なの?」
「とりあえず片手で持てるくらいには大丈夫だよ。ほら」
「…顔が引きつってるけど」
「…気のせいさ」
両手持ちの状態から、実際に転がすまでに片手で持っている時間は非常に短いのだ。
だからうん、なんとか大丈夫。
その後、ダイヤちゃんもボールを持ってきて、全員の準備が完了。
いよいよ勝負開始である。
「よし!じゃあ行ってくるね!」
ボールを持ってブオンブオン回しながらレーンに向かっていく果南ちゃん。
それを見て花丸ちゃんが戦慄している。
「ま、まる、あんな風にボールを振り回せないずらっ」
「うん。大丈夫。あれは完全に悪いお手本だからね」
「果南さん!危ないですわよ!」
「え?ああ、ごめんごめん」
「…ボール、すごく重いずら。あんなに動かせないずら」
「そうだね。俺を含めた普通の人間にはあれはできないし、あんな動きはボウリングに必要ないから」
そんな話をしながら果南ちゃんを眺める俺と花丸ちゃん。
『パコーン!』
果南ちゃんの手を離れた球は勢いよくピンをなぎ倒していった。
「おおー!全部倒れたずら!」
「初っ端からストライクかい。容赦ないね」
「ただいまー!どうどう?なかなかいい感じでしょー?」
「とてもいい感じだと思うよ。さすがだね」
「そうでしょー。えへへ」
話していたら、画面の表示が切り替わった。
『次に投げる人:ハルさん』
そんな表示になっている。
「次は俺の番だね」
「ハルさん、ファイトずら!」
「コントロールはいいようですし、期待してますわよ」
「かっこいいとこ見せてよね」
「ハードルがどんどん上がっていくね」
ボールを両手で持ち狙う場所を決める。
息を一つ入れ、モーションへ入る。
自分の身体能力には明らかに不釣り合いな重さのその球を、遠心力と慣性に任せて動かす。
そして放たれたボールは、徐々にピンの方へ向かっていき…
『カコーン』
9本のピンを倒すことに成功した。
うむ、なかなか悪くないじゃないか。
などと思っていたら。
「球遅っ!」
「ハルさん、ボウリングでも球遅いんですのね」
「で、でも、フォームは綺麗だったずら!か、かっこよかったずらよ!」
「花丸ちゃんは励ましてくれてるのかな?」
まあ彼女たちのコメントもおかしいわけではない。
俺の投擲する球は、コントロールこそ人並み以上だが、そのためにスピードを大幅に犠牲にするのだ。
当てるだけならまだしも、ある程度の威力あってこそのボウリングで、スピードが皆無というのは案外手痛い。
俺が重たいボールを使うのは、この威力不足を補うためなのだ。
そのせいで余計スピードが落ちてるのは確かだが。
ちなみに、人並み以上のコントロールという自信はあるが…
『ガコン』
「あー、惜しかったね」
「あそこが残ると難しいですわね」
「でも9本なら多いずら!」
といった感じに、確実にスペアとかストライクが取れるほどの制球があるわけではないのだ。
そういうわけで、俺と素人の花丸ちゃんペアは、勝負するにはあまりに戦力不足なわけである。
「…まあ、別に頑なに勝たないといけないわけではないからいいか」
「ん?ハル、なんか言った?」
「いや、何も言ってないよ。こういう時間もいいなって思ってね」
「どうしたんですの、突然」
「なんとなくだよ」
「つ、次は丸ずらっ」
花丸ちゃんがボールを持ってレーンへ向かう。
その後ろ姿を見てると、なぜか心配になるのは、俺だけじゃないはず。
「花丸ちゃん、力抜いて投げるんだよ」
「そうそう。スピードはいらないからね」
明らかに未経験であることが伺えるフォームから投擲された一球。
スピードもなければ回転も綺麗とは言えないその一球。
いや、俺よりは早いけど。
それは、ゆっくりとピンの方へと吸い込まれていき。
『カコーン』
やがて全部のピンを倒すのだった。
「…あれ?」
「おお!」
「なんてこった」
「ぜ、全部倒しちゃったずら!」
まさかのストライク。
ビギナーズラックってやつかな。
「すごいじゃん花丸ちゃん!」
「ええ、ハルさんより立派な数字ですわ」
「それは言わなくてもいいんじゃない」
「ハルさん、丸、やったずら」
「ああうん。ナイスだよ、花丸ちゃん」
そんな一言とともに花丸ちゃんとハイタッチする。
小さい手だなあ。
「えへへ。嬉しいずら〜」
「さて。それじゃあ私の番ですわね」
「ダイヤー、かっこいいとこ見せてよー」
「ふふ。最善を尽くしますわ」
ダイヤちゃんのダイナミックなフォームから投げ出された一球。
果南ちゃんほどではないが、結構なスピードでピンに向かっていき
『カコーン!』
8本のピンをなぎ倒した。
「うーん…嫌な残り方したね」
「スプリットっていうんだっけ、こういうの」
「すぷりっと?」
「そうそう。ああやって真ん中が空いて両サイドが残っちゃうことだよ」
「あの形だと両方倒すのは難しいんだよね」
倒し方としては、片方に上手いこと当てて弾いたピンでもう一本を倒すのが一般的。
もしくは、コースと回転で球を曲げて両方に当てるかかな。
前者は、スピードのない俺にはまず不可能である。
いや、後者も狙ってできるほど技術はないけど。
ダイヤちゃんは前者のやり方で倒そうとしたみたいだが、残念ながら一本倒すのが精一杯の結果となった。
「んー…ダメでしたわ」
「いやいや、9本は別に悪いスコアじゃないでしょ」
「同感だよ」
「これでチーム同士のスコアは同点ずらね」
「勝負はここからだね」
※
帰り道。
助手席に花丸ちゃんを乗せ、後ろに3年生二人という布陣で車を走らせる。
筋肉痛で震える腕を動かし、ハンドルを握っている現状。
結果的に。
やっぱり俺と花丸ちゃんのチームが負けた。
しかしながら、予想を裏切って思いの外善戦できた。
その理由として大きなのは、花丸ちゃんの活躍である。
果南ちゃんほどではないものの、結構なスコアを稼ぐことができていた花丸ちゃん。
一方俺の方は比較的安定して点が取れるのだが、大きく稼ぐというのはできず、ジリジリ差をつけられることになったのだ。
ちなみに果南ちゃんは言うまでもなく安定してハイスコアを稼いでいた。
逆にダイヤちゃんは相当なムラがあった。
稼ぐ時は一気に稼ぎ、稼げない時は平気でガーター連発とかやってたし。
「うーん、楽しかったね!」
「ええ。勝負も無事勝てましたし」
「丸も負けちゃったけど楽しかったずら!」
「そうだね。筋肉痛がとんでもないことになりそうだけど」
「それはハルが運動不足だからでしょ」
「否定はできないね」
「もう。適度な運動は重要ですわよ?」
「それはわかるけどね」
「ハルさん、運動嫌いずら?」
「そういうわけじゃないよ。体を動かす機会がなかなかないんだ」
「じゃあ私たちと練習する?」
「体力が着く前にお陀仏になりそうだし遠慮しとくよ」
ボウリング3ゲームで腕が震えている俺の体力で、Aqoursの子たちと練習なんてしたら、本当に命が危険に晒されそうだ。
なんてことを思っていたら、花丸ちゃんが質問をしてきた。
「そういえばハルさん、前にもボウリングをやった経験があるって言ってたずら」
「そうだね。それがどうかしたのかな?」
「いつ、誰とかなー…なんて」
「誰って…高校生のときに、友人とね」
「友人?ハルさん、男性のご友人がいたのですか?」
「それは一体どういう意味で受け取ればいいんだい?」
「ハルの周り、女の子多いもんね」
「それに関しては偶然だよ。そもそも高校は男子校だったわけだしね」
「ああ、そういえばそうだったね」
「じゃあ男性の友達と行ったんですのね」
「ああ、安心したずら」
あれ?
なんか勘違いされてるな。
「いやいや、一緒に行ったのは女の子だよ」
「…え?」
「…は?」
「…ずら?」
その瞬間。
車内の温度が少し下がった気がした。
凍る…とまでは行かないが、ひやりとするような感覚が肌を襲う。
あれ?なんで?
「…ハルさん、冗談はやめていただけます?」
「…うん、ほんとにね」
「…俺が嘘をつけないのは、君たちがよく知ってるはずだけどね」
ちなみに、その一緒に行った女の子というのは、美渡さん。
つまりは千歌ちゃんのお姉さんである。
テスト終わりの打ち上げで遊びたいから付き合えと連れ出されたのだ。
5ゲームやって、腕がしばらく使い物にならなくなったのをよく覚えている。
今でこそあれだが、美渡さんだってその当時はまだ立派に女の子だったのだ。
なんてことを直接言ったら本当にしばかれそうなので、口にはしないが。
そんな話をしようと思ったのだが。
「そんな、ハルが…高校生の時に女の子と…」
「ありえませんわ…」
「お、おらたちの知らないところにライバルが…」
失礼なような、そうでないような。
なんにしても、とてつもなく驚愕している彼女たち。
そして、理由はわからないものの溢れている負のオーラ。
心臓を直接締め上げるような空気に、口を開けなかったのは言うまでもない。
ご視聴ありがとうございました。
書いてて思ったんですが、この子たちのスカートの短さを考えると、制服のままボウリングなんてやったらぜったい中身見えますね。
あ、この日はみんな私服でした。夏休み中なので。
どんな服装してたかはご想像にお任せします。
それではなにかありましたらお願いします。