Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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初めましてこんにちは

善子ちゃんと曜ちゃんとの日常回です。


普通の1日と布屋さん6

『ぐう〜』

 

とある昼下がり。

いつもなら、お昼ご飯を食べるこの時間。

 

俺の胃袋は、いつも通りにご飯が供給されないことにお怒りらしく、音を出して食事の摂取を要求してきていた。

その音は近くにいた曜ちゃん達にも聞こえたらしい。

 

「ハル、お腹減ってるの?」

「ちょっとね」

「でもすごい音なってたよ?」

「お腹の減り具合に関わらず、13時になるとなるんだよ」

「いや、目覚ましじゃないんだから」

「へー。便利だね。まさに体内時計ってやつ?」

「曜も信じないでよ」

 

俺が会話をしているのは曜ちゃんと善子ちゃん。

珍しい組み合わせに見えるが、帰るバスが同じということもあり案外よく一緒になるらしい。

 

曜ちゃんはともかく、善子ちゃんはお世辞にも交友関係が広いとは言い難い。

こうして歳上と仲良くなっているというのは、こちらとしても嬉しいものである。

 

「…ハル、なんか失礼なこと考えてない?」

「考えてないよ。善子ちゃんは友達が多くて羨ましいなって思ってたんだ」

「やっぱバカにしてるでしょ」

「そんなまさか」

「ハルくん、羨ましがるほど友達いなかったっけ?」

「そうでもないつもりだけど、たくさんってほどでもないとは思うよ」

「そっかー」

「ちなみに恋人は?」

「友達を作るので精一杯でね」

「あっそ」

「聞いといてそれはひどいじゃないか」

 

『ぐう〜』

 

話している最中、またしてもお腹がなった。

消化するものなどないはずなのに、今日はずいぶん元気なことだ。

 

「13時になるんじゃなかったの?」

「10分ごとになるんだよ」

「うるさいからそのアラーム止めてくれる?」

「残念だけど食事を取らないと止められなくてね」

「不便な目覚ましだねー」

「まったくだよ」

 

曜ちゃんがにししと笑う。

善子ちゃんは呆れている感じだ。

 

「ていうか、お昼ご飯どうしたのよ」

「最近金欠でね」

「なんか大きな買い物でもしたの?」

「この前古本屋で大量の本を買ってね」

「アホなの?」

「安くなっててつい」

「それで大量に買ったら完全に向こうの思う壺よね」

「返す言葉もないね」

 

『ぐう〜』

 

三度目のアラーム音。

 

「もう10ぷ…」

「まだ10分経ってないわよ」

「…たまには目覚ましが不調を起こすこともあるさ」

「不調なのはあんたの頭でしょ」

「手厳しいね。否定はできないけど」

「でも、ご飯食べてないと本当に体調崩しちゃうよ?ハルくん、ただでさえ体力ないんだから」

「それもそうなんだけど、ない袖は振れないんだ」

 

一応、朝と夜はしっかり食べているし、睡眠もそれなりには取っている。

一食抜いた程度で体調を崩すことはないと思う。

 

「これから夏真っ盛りなんだから、体調管理はしっかりしなさいよね」

「お、心配してくれるのかい」

「なあっ!ち、違うわよ!Aqoursの衣装はここで買うことも多いから、あんたがいなくなるとちょっと困るってだけで…」

「心配してくれてありがとうね」

「話聞きなさいよ!」

 

机をバンバンしてくる善子ちゃん。

普段なら注意するところだが、こういうときくらいは良しとしよう。

 

「お昼ご飯、いつまで抜きにしてくつもりなの?金欠が原因なら、ある程度経ったらまたお昼食べるんでしょ?」

「そうだね。多分後一週間くらいかな」

「そっかー…あ、そうだ!」

 

曜ちゃんが何か思いついたらしい。

 

「明日から私がお弁当持ってきてあげるよ!」

「お弁当?でも君学校があるだろう」

「朝持ってきてあげるから、お昼に食べてよ。それなら大丈夫でしょ?」

「もちろん大丈夫だけど…」

「じゃあいいじゃん!…それとも、迷惑…かな?」

「いやいや。ありがたいよ。でも、曜ちゃんに悪くないかい?」

「全然!美味しいの作ってくるね!」

「まあその、無理しない程度でいいからね」

「うん!…ここでハルくんの胃袋を掴んで、アピールしないと…!」

 

最後に小さく何かを言っていたようだが、中身を聞き取ることはできなかった。

しかし、さすがに歳下の女の子から食べ物を恵まれっぱなしというのは気がひけるな。

 

何かでお返しといきたいところだが…

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「ん?善子ちゃんどうかしのかい?」

「そ、その…わ、私もお弁当を作ってもいいわよ」

「ほう」

「え?」

 

善子ちゃんのそんな一言。

思いもよらぬ言葉だった。

 

「あれ?でも善子ちゃん、料理上手だったっけ…」

「あ、味付けが少し辛くなるだけよ!」

「ああうん、できれば辛過ぎないと嬉しいんだけどね」

「ええー!よっちゃん!最初に言ったのは私なんだよ!」

「ヨハネよ!でもほら、曜だけだと毎朝大変でしょ?」

「なるほど。まあ確かに毎日は大変だろうね」

「ちょっとハルくん!」

「そういうことよ」

 

 

(ちょっとよっちゃん!よっちゃんも作りたいのは分かるけど、よっちゃん料理得意じゃないじゃん!)

(だからヨハネよ!わ、私だって弁当の一つや二つ、なんとかなるわよ)

(そういって前も辛すぎるラーメン作ってルビィちゃん泣かせてたじゃん!)

(ぐ、偶然よ!)

(すごい心配なんだけど…大丈夫なの?)

(大丈夫よ。そ、それにその…わ、私だって、ハルにその…)

(アピールしたいの?)

(ぐぬっ!…そ、そうよ!)

(はあ…もう、わかったけど、ハルくんのお腹に優しいもの作ってあげてね)

(わ、わかってるわよ)

 

 

二人が向こうでヒソヒソ話をしている。

なんかの相談だろうか。

 

「とりあえず、1日交代で作るね」

「再三になるけど、本当にいいのかい?朝、結構忙しいだろう」

「大丈夫だよ!やりたくてやるんだし!」

「善子ちゃんもいいのかい?」

「もちろんよ。わ、私だってその…やりたくてやるんだから」

「そうかい。二人ともすまないね」

 

そんなわけで、明日から弁当を持ってきてくれることになった。

思わぬ提案だったが、正直すごく助かる。

 

手作りかどうかは分からないが、朝から美少女と顔を合わせることができて、その上お弁当まで貰えるのだ。

お腹がなったというだけでこの状況。

いやはや、なんともツキがあるなあ。

 

 

 

 

「ハルくん!おはよーそろー!」

「おはよう曜ちゃん。本当に持ってきてくれたんだね」

「あれ?嘘だと思ってたの?」

「そういうわけじゃないけどね。朝大変だっただろう」

「曜さん、意外に朝は強いんです」

「そうだね。よく知ってるよ」

「えへへー。そういうわけなんで、はいこれ」

 

曜ちゃんから水色の袋を渡される。

もしかしなくても、中に入ってるのはお弁当だろう。

感触としては、プラスチックの容器にでも入っているんだろうか。

 

「どうもありがとうね。感謝しながらいただくよ」

「ん。じゃあ行ってくるねー」

「ああ、行ってらっしゃい」

 

手を振って曜ちゃんが学校に向かうのを見送る。

 

「さて、こちらもお仕事頑張りますかね」

 

朝からのプチ幸福に背中を押され、ちょっとだけ気合が入るのだった。

 

 

 

 

「いただきます」

 

お昼時。

手を合わせてから、曜ちゃんにもらった弁当をいただく。

 

お昼にこうして普通の食事を食べるのは実に5日ぶり。

人によっては大したことないかもしれないが、これまで普通にお昼ご飯を食べていた俺には、この5日間は結構大変だった。

 

そんなわけで、このありがたいご飯に最大限の感謝を込めつつ食事をいただくことにする。

 

風呂敷を解いて弁当箱の蓋を開ける。

パッと目に飛び込んできたおかずたち。

 

卵焼きにウィンナー、ブロッコリーにりんご。

定番かつカラフルなそれらは、シンプルでありながら食欲をひく魅力的なおかずたちだ。

 

一緒に入っていたご飯用の容器も開けることにする。

俺がそんなにたくさんは食べないことを知っているからだろう。

比較的広さのある容器だが、深さがあまりなく、多すぎない程度にご飯が詰められていた。

 

そこまでは特に違和感はない。

が、少しだけ気になることがある。

 

「これは…」

 

ご飯には、桜でんぶで装飾が施されていた。

その絵は…。

 

 

 

 

「ああああああああああああー!」

「うわあ!よ、曜ちゃんどうしたの?」

「急に大声出したらびっくりするじゃない」

「ま、間違えた…」

「間違えた?…何を?」

「…お弁当…」

「お弁当って…今日ハルさんに渡したっていうお弁当?」

「…うん」

「間違えたって…じゃあそれがハルくんに渡すはずだったお弁当なの?」

「うん…といっても、間違えたのは渡すはずのご飯なんだけどね」

「ご飯って、お米のこと?間違えて渡すって何さ」

「あのね…」

 

 

『ふふふ〜ん。でーきた!ハルくん、喜んでくれるかなあ』

 

『おっと、いけないいけない。テンションのままに作ってたら、桜でんぶがハートの形に』

 

『さすがにこのまま渡すのは恥ずかしいしなあ。渡すのは普通の白米でいいよね』

 

『よし、準備もできたし行きますか!』

 

 

「…ということがありまして」

「で、ハートの桜でんぶが乗ったご飯が、今ハルさんの元にある…と」

「ちょ、ちょっと取ってくる!」

「って、いやいや、お昼休憩終わっちゃうから!」

「いやー!あんな恥ずかしいのだめえええ!ハルくん!開けないでえええええええええ!」

 

 

 

 

「うーん。恋人からのお弁当気分を味わわせてくれるとは。さすが曜ちゃん、気がきくなあ」

 

そんなことを考えつつ俺はご飯をいただくのだった。

 

『開けないでえええええええ!』

 

「浦の星女学院は今日も賑やかだねえ」

 

そんなことを呟きながら。

 

 

 

 

「じゃ、じゃあこれあげるから」

「ありがとう。すまないね」

「や、約束だしねっ」

「ん、いただくよ」

「わ、私は学校行くから!それじゃ!」

「あ、気をつけるんだよー」

 

今日は善子ちゃんから弁当をいただいた。

明日はまた曜ちゃんが持ってきてくれるらしい。

 

感謝感謝である。

 

ちなみに、昨日お弁当箱を返す際に曜ちゃんに

 

「ありがとう。心がこもっててすごく美味しかったよ」

 

と言ったら

 

「〜〜〜〜〜っ!うわああああああああ!」

 

といった感じで、顔を真っ赤にして叫びながら走って行ってしまった。

そんなわけであまりお礼を言えなかった。

 

「今日はちゃんとお礼を言わないとね」

 

 

 

 

「さて…いただきます」

 

昨日に引き続き2日連続でお弁当。

しかも女の子からいただいたもの。

 

ありがたい。

って、感想のバリエーションがなくなりつつある。

が、まあ事実なので仕方なし。

 

そんなしょうもないことを考えつつ、お弁当の蓋を開ける。

今回のメニューは…

 

「カレーライスか」

 

昨日の曜ちゃんのものとは打って変わって、一品もの。

これはこれで大いにありだとは思う。

 

味についても、よっぽど大失敗はしにくい料理だし、それも大丈夫だろう。

問題は辛さ。

 

善子ちゃんは極度の辛党だから、それだけが不安要素だ。

そう思いつつも、スプーンに掬ったカレーを口に運ぶ。

 

これは…

 

「おお…おいしい」

 

予想以上に普通に美味しかった。

 

味を合わせたのか、それとも作り方通りに手順を踏んだのか。

いずれにしても、文句無しの出来栄えだ。

 

「ジャガイモが多くて食べ応えがある。肉は…これは豚肉か」

 

誰に聞かせるわけでもないカレーの具実況をしつつ、食べ進めていく。

そんなとき、お弁当箱の下に一枚のメッセージカードを見つけた。

 

さっきまで気づかなかったが、お弁当と一緒に入っていたらしい。

 

 

『ハルへ

 

せっかく私が作ったんだから、感謝して食べなさいよね!』

 

 

そんな文が書かれていた。

言われずとも感謝はしているんだけどね。

 

だがたしかに、せっかくこう言われているのだ。

なんか特別な形で感謝でも…

 

あ、たしか善子ちゃんはお昼ご飯外で食べることが多いって言ってたっけか。

 

…ふむ…よし。

 

思いついたことを実行すべく、扉のところに立つ。

浦の星女学院すぐそばにあるうちの店。

 

当然、ここに立てば目の前にはその校舎が存在する。

 

そこに向かって俺は…

 

 

「すううううううー…善子ちゃああああああん!ありがとおおおおおお!」

 

 

大声で叫んだ。

感謝をこの場で大声で伝えることにしたのだ。

 

なんでそんな方法なのかって?

もちろん、なんとなくさ。

 

 

 

「今の声、ハルさん…かな?」

「なんか叫んでたずらね」

「多分善子ちゃんの名前叫んでたね」

「そうずらねえ。ってあれ?善子ちゃんどうしたずら?」

「〜〜〜っ!なんであのバカ、感謝を直接叫んでるのよ〜っ!」

「善子ちゃん?」

「大丈夫ずら?というかどうしたずら?」

「〜〜っ!なんでもないわよ!ハルのばかあああああああ!!」

 

 

 

善子ちゃんが叫んだ気がした。

 

うーん…

 

気のせい…かな?

 

 

夕方、弁当箱を取りに来た善子ちゃんから強烈なアッパーをくらった。

感謝を示したつもりだったんだが、それじゃあだめだったらしい。

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。

一部の方は、記憶喪失の話はどこいった?
と感じているかもしれません。
それについては申し訳ありませんが一時停滞になると思われます。
詳しくは活動報告に記載するので、関心のある方はそちらをお願いします。

それでは何かありましたらお願いします。

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