Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。

今回は鞠莉ちゃんとのお話になります。



イングリッシュと布屋さん

ランドセルを背負った果南ちゃんが、学校帰りにうちにやってきた。

宿題をやっていた俺は、その果南ちゃんに呼び出されて店の外にいる。

 

『ハルー、この子だよー』

 

『え、えっと…コ、コンニチハ…』

 

果南ちゃんの手招きのもと、金髪の女の子が俺の前にやってきた。

前情報によると、彼女はつい先日果南ちゃんの小学校に転入してきた女の子らしい。

しかも外国からだ。

 

『ああ、こんにちは。名前は…小原鞠莉ちゃん、だったかな』

 

『イ、イエス』

 

『日本語はどれくらい話せるんだい?』

 

『まだあんまり話せないんだって。だから、ハルが通訳になってよ』

 

この子をここに連れてきた理由はこれだ。

果南ちゃんは言語が通じなくても問題はないのだろうが、この小原さんはそうじゃない。

 

自分の言語がまったく通じない環境など、恐怖で仕方ないだろう。

だから、少しでも会話が通じる人を探しておく必要がある。

 

この前俺がそういう話を果南ちゃんにしたら、じゃあお前が通訳をやれと果南ちゃんに言われたのだった。

 

『果南ちゃん、かなり無茶を言っている自覚はあるかい?』

 

『英語習ってるんでしょ?』

 

『学校で勉強してるだけだよ。コミュニケーションがとれるものじゃないんだが…』

 

『え、えっと…』

 

『ほら、鞠莉も困ってるでしょ。ほら、とりあえず自己紹介してよ!』

 

『…それもそうだね。小原さん…いや、ミス小原?』

 

『イ、イエス』

 

だいぶ不安そうな表情を見せる目の前の女の子。

そりゃそうだ。

 

『あー…まいねーむ、いず、ハル』

 

できる限り優しく、ゆっくりと話しかける。

この子の恐怖心を少しでもやわらげるように。

 

『ハル…?』

 

『いえす。えっと…』

 

『ハル、英語下手すぎない?』

 

『水を差すんじゃないよ。じゃなくて…』

 

『?』

 

次は何を言おうかと思ったが…

わりとすぐ思いついた。

 

『みす小原』

 

『い、いえす』

 

まだ緊張の色が残る彼女の前に立ち、目線の高さを合わせる。

そして。

 

 

『あいあむ、ゆあ、ふれんど』

 

 

彼女の目を見て、そう言った。

 

 

 

 

『ピピピピピピピピピピピピ』

 

「ンンー」

 

朝の目覚ましの音で目を覚ます。

 

「懐かしい夢だったねー」

 

思わず口をつくそんなワード。

 

机の上に目をやると、つい最近撮った写真がそこにある。

そこに写っているのは、私と先ほど夢に出てきた男の子が成長した姿。

 

あれから、数年が経った。

私は日本語を不自由なく話せるようになった。

結局彼も果南も英語はできなかったから、自然に私が日本語を覚えていった。

 

「ふふふ。ハル、Englishは本当にへたっぴだったな」

 

そんな言葉を口にするけど、どうしても笑みがこぼれる。

 

今日は、ハルのところに行こう。

 

そう思うと、自然にテンションが上がってきちゃった。

 

 

 

 

 

「うーん…困った」

 

言葉にしながら頭を抱える。

 

つい先ほど、いつもうちの店を贔屓にしてくれてるお客さんから電話があった。

電話内容は簡単な衣服の修繕依頼。

 

お客さんの中には忘れている人もいるが、うちの店は布の発注のみだけでなく、簡単なものであれば裁縫も受けるのだ。

もちろん、修繕もその一つ。

 

そんなわけで、この依頼そのものはそこまで問題はない。

問題はそこではなくて…

 

「外国のお客さんかあ…」

 

うちがいよいよ海外へ名前が知られた…というわけではもちろんない。

なんでも、今回電話をくれたお得意さんの友人からの依頼だそうだ。

 

依頼があったのは普通の衣類の修繕。

それくらいなら直接コンタクトを取らなくてもいいのでは?と思ったが、その外国人さんは海外で会社を経営してるらしく、今のうちにコネを作っておくためにも話しておけと言われたのだ。

 

確かに、海外とはいえ経営者に名前を覚えてもらえるのは大きい。

そういうわけでこの依頼を受けたのだが…。

 

「日本語が話せないというのは予想外だった…」

 

そのお客さんが来るのは明日。

英語でのコミュニケーションを身につける暇はない。

 

「さて…どうしたものか」

 

 

そうぼやいた時だった。

 

 

「チャオー、ハル」

 

店の扉を開けて、店に入ってくる少女が一人。

 

「マリー…ちゃん…?」

「ん?そうだけど…どうしたの、ハル。いつもに増して間抜けな顔して」

「マリーちゃん!」

「ひゃあ!ど、どうしたのよ///」

 

思わず彼女の手を取ってしまう。

 

「君に、お願いがある!」

 

 

 

 

 

「つまりは、Translateしろってこと?」

「そうだね。通訳をお願いしたいんだ」

 

マリーちゃんに事情を話し、力になってくれと頼み込む。

俺が話せないなら、話せる人間に頼む方が得策だ。

 

今年21歳になろうという男が、女子高生に仕事の手伝いを頼む絵面。

それはそれは滑稽だろう。

 

でも仕方ないのだ。

高校の時から平均点を維持し続ける俺の英語は、会話という点にはまったくと言っていいほど適応できていないのだから。

 

「私は別に構わないけど…」

「ほ、本当かい?」

「ハルから頼られるってあまりないしねー」

 

表情に笑みを浮かべながらそんなことを言われる。

ありがたい限りだ。

 

「助かるよ。お礼は必ずするからね」

「realy?」

「ああ。俺にできることならね」

「OK!気合入れちゃうよー!」

「頼むよ」

 

そんなわけで、頼もしい味方がついたのだった。

 

 

 

翌日。

店のエプロンを着用したマリーちゃんとともに開店準備をする。

 

「何も、開店時間から付き合ってもらわなくてもよかったんだがね。件のお客さんがいらっしゃるのは昼過ぎらしいし、それくらいにいてくれれば良いんだよ?」

「何度も言ってるでしょ。やるからには中途半端にはやらないわ。今日はworkをする日なんだから」

「その心意気はありがたいんだけどね…」

 

土曜日とはいえマリーちゃんにしてみれば立派な休日だろう。

それをほぼ1日消費させてしまうというのは…

さすがに気が引けるというものだ。

 

「お礼はしてくれるんでしょ?」

「それはもちろんだけどね」

「じゃあいいのよ。それにね」

「ふむ」

「…ふふ。なんでもない」

「?」

 

(ハルと1日一緒に居られるんだから。それだけでご褒美だよ)

 

なんだかよく分からないが、マリーちゃんは楽しそうだ。

まあ、本人が良いと言うのであれば…いいのかな?

 

 

仕事に入る。

今日は珍しく客足が多く、幸か不幸かマリーちゃんにもよく仕事がまわってきた。

 

慣れていないだろうし大変かと思ったが、あまり心配はいらなかったらしい。

まったく問題なく接客をこなしていた。

 

 

「あら、今日は随分きれいな店員さんがいるのね〜」

「ふふ。1日だけのアルバイトです」

「そうなの〜?お客さんは少ないけど…頑張ってね」

「おばさん、余計なことは言わないでください」

 

確かに普段はお客は多くないが…

今日はそこそこいるんだから。

 

 

「お、今日は可愛らしい子がいるじゃないか」

「1日だけ手伝ってもらってるんですよ」

「そうかいそうかい。てっきり嫁さんでももらったのかと思ったよ」

「よ、嫁!?///」

「…この子はまだ高校生ですよ」

「女の子は16歳で結婚できるんだ。問題はないだろう」

「…マリーちゃんに悪いですから」

「満更でもなさそうに見えるけどなあ」

 

ニヤニヤしながら言うおじさん。

さっさと用事を済ませて帰ってもらおう。

 

マリーちゃんのことを知っているお客さんも結構いらっしゃったが、知らないお客さんからもこんな感じで悪くない評判をもらっていた。

 

 

昼過ぎ頃。

予定通りに外国人さんがやってきた。

 

マリーちゃんに訳してもらいつつ事情を聞く。

なんでも、誕生日に娘さんにもらった衣服なんだそうだ。

 

衣服そのものは買い直すことがいくらでもできるだろう。

でも、娘さんの気持ちがこもったこの服は世界に一つしかない。

 

そこで、穴の空いてしまったこの服を急いで持ってきたらしい。

 

見た所、修繕は十分に可能だろう。

安心してくれと伝えるようマリーちゃんに頼んだ。

 

マリーちゃんが英語でそのことを伝えると、彼はとても嬉しそうな表情をしていた。

修繕のサイズなどから大体の必要日数を出し、それも伝える。

 

まだ日本にいるかも確認した上で後日取りに来るようお願いをし、今日のマリーちゃんの本来のお仕事が完了した。

 

 

その後も、滞りなく仕事を行う俺とマリーちゃん。

定刻通りに営業終了となった。

 

「ふう…お疲れ様、マリーちゃん」

「これくらい大したことないよ…って言いたいんだけどねー。ちょっと疲れたかも」

 

苦笑いでそんなことを言うマリーちゃん。

慣れていない環境で1日働いたのだ。

無理もないだろう。

 

「今日はお客さんも多かったからね。だいぶ助かったよ。ちょっと待っててくれ、お茶を入れるからね」

「うん。Thank you」

 

コップにお茶を入れてマリーちゃんに渡す。

いい飲みっぷりである。

 

「改めて今日はありがとう。本当に助かったよ」

「こっちもいい経験になったよ。働くって大変なんデスネー」

「あはは…そうだねえ」

「でも…大切なことだなって思ったよ」

「そうかい」

「お客さん、みんな嬉しそうだったし。ハルも、普段は見ないような真面目な顔してた」

「普段は見ない…と」

「今日のハルは…大人っぽかったよ」

「普段から大人で紳士のつもりだけどね」

「普段は変態だよ」

「そいつは困ったね」

 

冗談を言うくらいには体力が残っているらしい。

…冗談だよね?

 

「ねえ、ハル」

「ん?どうしたんだい、マリーちゃん」

「昨日ね、夢を見たの」

「夢?」

「ハルと初めて会った時の夢だよ」

「あー…そういえば、あの時も英語で苦戦した記憶があるよ」

「覚えてるの?」

「もちろん。忘れないさ」

「そっか」

 

こちらに来たばかりのときのマリーちゃんは、今ほど日本語が話せなかった。

そのため、俺は学校で習っていた英語を最大限駆使して話そうとしたのだ。

 

「あの時の英語は…今思い出すとめちゃくちゃだったね」

「アハハ。そうだね。文法は間違いだらけだったし、単語も全然バリエーションがなくて…『この人、英語は話せないんだなー』って思ったよ」

「ばれていたのかい。それは恥ずかしいね」

「でもね。なんとかして私と話そうとするハルの姿が、私には嬉しかった」

「そうかいそうかい」

 

 

『あいあむ、ゆあ、ふれんど』

 

『Friend?』

 

『いえーす、いえーす。うぃーあーふれんど』

 

『Friend!』

 

 

そんな会話をしたことを覚えている。

 

「ハルは、こっちに来てから3人目の友達だったんだよ」

「果南ちゃん、ダイヤちゃんに次いで…ってとこかな」

「イエス。それでね…」

「ふむ」

 

「…私の…初恋の人…」

 

呟くように口にするマリーちゃん。

その声はあまりに小さくて、俺には聞き取れなかった。

 

「えっと…もう一度言ってくれるかい?」

「ノー。もう言わないよ」

「うーん…まあ無理にとは言わないけどね」

 

消化不良な感じである。

 

「それより、お礼っていうのは何をくれるの?」

「それに関しては君の希望を聞くよ。何か考えといてくれ」

「うーん…あ、じゃあ一つだけいい?」

「まあお手柔らかに頼むよ」

「簡単だよー」

 

そう言うと、マリーちゃんはポケットからスマホを取り出した。

そのまま何か操作をしている。

 

なんだろうか。

通販とか…?

あまり高いものは買えないが…。

 

「ハル、こっちきて」

「ん?このへんでいいかな?」

「もうちょっとこっち…うん、これくらいかな」

「…だいぶ近くない?」

「外国じゃnormalなんだよ!」

「そうなのか」

 

ほとんどくっついた状態になる。

ここまでくれば、マリーちゃんが何をしたいかはわかった。

 

「…写真を撮るのがお礼になるのかい?」

「いえーす!」

「君がいいならそれでいいんだけどね」

「ほら、笑って笑ってー。ほら、撮るよー」

「カッコよく撮ってくれよ」

「自己責任だよー」

 

そんな経緯で撮った写真を見せてもらう。

 

うちの店のエプロンをつけた俺とマリーちゃんが写っている。

同じものを装着しているのに、その華々しさは段違いだ。

 

「ふふ。いい写真デスネー」

 

なぜかマリーちゃんはご満悦だ。

 

「みんなに自慢しちゃいまーす」

 

なるのか、自慢に。

 

ちなみに、アルバイト代はちゃんと払った。

さすがに、あれだけ働いてもらってタダ働きにはできないからね。

 

 

 

 

その日の夜。

あの写真はなんだというメッセージが8件。

 

なんだって…

普通の写真じゃないか…。

 

メッセージから怒りが伝わってきたのは、気のせいだと思いたい。

 

 




ご視聴ありがとうございました。

鞠莉ちゃんとの初対面のときの思い出とお仕事の話でした。

言わずと知れた大金持ちの鞠莉ちゃんですが、留学等の話を見るに頭もいいのではと思われます。
加えて運動が得意で友人が多くて美人…実は万能型の超人タイプですよね。
そしてバストが大きい。

はい、今回も長い後書きでした。

それでは何かありましたらお願いします。

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