Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

43 / 95
はじめましてこんにちは。

今回は主人公のちょっとした過去話になります。
そんなに興味ねえよって方は、すみません。


たまには昔の話と布屋さん

『いいかいハル。お前は、特に何か凄い才能はない』

 

「…え?ちょ、ばあちゃん?」

 

『死んだお前の父も母も、そりゃあ絵に描いたような普通人間だった』

 

「と、突然どうしたの?」

 

『最近お前が、ちょっと勉強に力を入れていると聞いたんじゃ。でも、才能的にそこまで実を結ばないだろうから、身の丈に合った努力にするようアドバイスをしようと思ってのう』

 

「小学生の孫に言うことじゃないよね!?」

 

『お前に唯一与えられた才能は、隠し事ができないその性格じゃ』

 

「そ、それは才能なの?」

 

『もちろんじゃ。嘘に慣れるというのは、人としては寂しいことじゃ。だったら、いっそ嘘なんてつけない方が良い』

 

「ばあちゃん…」

 

『正直に生きるんじゃ、ハル。そうすれば、自ずとお前の周りには人が集まる』

 

「人…」

 

『お前に才能はなくとも、周りにいる人は、その才能でお前を助けてくれるじゃろう』

 

「助けてくれる?」

 

『そうじゃ。人を助け、人に助けられなさい。そのために、お前は正直に生きなさい』

 

 

 

 

『チュンチュン』

 

朝の日差しが、カーテンの隙間から差し込んでくる。

時計を確認。

目覚ましの音がなるより少しだけ早く、目が覚めたらしい。

 

懐かしい夢を見た。

祖母が亡くなる前にした会話の夢。

 

今にして思えば、小学生の子供に対してなんて話をしてるんだと思わされる内容だ。

 

とはいえ、今の状況を鑑みると、あながち間違ったことは言っていなかったのかもしれない。

 

祖母に言われたように生きた結果、今自分は笑って生きているのだから。

 

 

 

 

「こんにちはーハルくん」

「ハルさん、こんにちは」

 

昼下がり。

千歌ちゃんと梨子ちゃんが挨拶とともに店にやってきた。

 

「いらっしゃい。今日は二人かい?」

「曜ちゃんは部活なんだって」

「ああ、なるほど」

 

あの子は水泳部なのだ。

夏は部活真っ盛りの頃だろう。

 

「あれ?ハルくん、珍しいもの見てるね」

「これは…アルバム?」

「ああ、そうだよ。ちょっとそういう気分だったんだ」

 

机に広げられているアルバム。

広げられてもの以外にも、数冊のアルバムが机の上には置かれている状態だ。

 

「懐かしいねー」

「これ、私も見て良いの?」

「もちろんだよ。といっても、何も面白いことはないと思うがね」

「わー!この時のハルくんかわいいー!」

「ほ、本当っ」

「…いつのを見てるんだい」

 

見ると、こっちに来たばかりのときに祖母と撮った写真を見ていたようだ。

 

「これ…ハルさんのおばあちゃん?」

「そうだよー。優しいおばあさんだったんだよ」

「そうだったかな。結構厳しいばあさんだった記憶があるんだけど」

 

先にも述べたような話以外にも、生き方を説かれたことは数知れず。

結構な頻度で怒られたものだった。

 

「…写真、おばあちゃんと写っているのは多いけど…ご両親は?」

「あ、えっとね…」

「俺が小さい時に事故で死んでしまったんだ。だから、写真もまともに残っていないんだよ」

「あ、ご、ごめんなさい…」

「いや、いいんだ。気に病まないでくれ」

 

このまま気を使われると、逆にこちらが気にしてしまう。

 

「そうだね。ちょっとした過去話でも聞くかい?」

「過去って…ハルさんの?」

「もちろん強制はしないけどね」

「あ、私は聞きたーい!」

「千歌ちゃんは大体知ってるじゃないかい」

「なんとなく!」

「まあいいんだけどね」

「えっと…じゃあよければ私も」

「おっけー。先にお茶を入れてくるからちょっと待っててくれ」

 

3人分のお茶をコップに入れ、話をする。

 

なんてことはない。

ただの一人の、普通の過去話。

 

 

 

 

「元々、俺はこっちには住んでいなくてね。両親が死んですぐに、こっちに住んでいた祖母に引き取られたんだ」

「そうだったの…」

「祖母の店…まあこの布屋だけど。それが、古くからこの街と繋がりが深かったこともあってね、街の人にもいろいろ面倒を見てもらったよ」

「この街は、みんな優しいからね」

「そうだね。本当にそう思うよ。千歌ちゃんたちと会ったのは…俺が小学生くらいのときだったかな」

「そうだよー。懐かしいねー。その時の写真が…あ、ほらあったよー」

「本当ね。ふふ、四人ともかわいいわ」

 

写真に写っている、俺、千歌ちゃん、曜ちゃん、果南ちゃんの4人。

川沿いを散歩している時に、ザリガニ釣りをしている彼女たちを見つけたのが出会いだった気がする。

 

「ハルくん、性格はこの時から変わってないよねー」

「え、小学校の時からこの性格なの?」

「今の発言は、どう受け取れば良いのかな?」

「あ、いや、悪い意味じゃないのよ。その、小学校の時から変た…大人っぽい性格だったのかなって」

 

今、明らかに口を滑らしたよね。

変態って言おうとしてたよね。

 

「…まあ、小学校に入るまでは大人に囲まれて生活していたからね。影響を受けながら育ったんだ。店の手伝いも少しだけしていたからね」

「なるほど」

 

ちなみに善子ちゃんと黒澤姉妹との出会いはこの接客関係である。

 

善子ちゃんとの出会いはその制作の手伝い。

黒澤家は、祖母の仕事について行った際に出会ったのだ。

 

「そのまま中学に上がって…高校へも無難に進学したよ。両親が他界しているとはいえ、そこまで不自由なく生活してたさ」

 

そう考えると、かなり恵まれているもんだと思う。

 

「ただ…そこでね、一つ問題があったんだ」

「問題?」

「…あー…私は聞いたことがある。梨子ちゃん、馬鹿馬鹿しいからあまり聞かなくても良いよ」

「何を言うんだい。俺にとっては重大な問題だったんだよ」

「何かしら。見当がつかないわね…」

 

高校への進学。

学力相応の高校へ進んだ俺は、そこでとんでもないことに気づいたのだ。

 

 

「…高校がね、男子校だったんだよ…」

 

「……………………」

 

「だから言ったでしょ、馬鹿馬鹿しいって」

 

「…そうね」

 

そうねとはなんだ。

もうあの時の絶望感と言ったらなかった。

 

「…事前に調べることなんて、いくらでもできたでしょう」

 

梨子ちゃんにため息をつかれながら言われる。

まあその通りだが。

 

「完全に調査不足…というよりは、まさか男子校ではないだろうと思ってたんだよ」

「さすがにハルくんがバカだと思う」

「反論はできないね」

 

ちなみに。

高校生活は楽しかった。

 

男子校ならではのバカみたいなノリとか、妙な団結とか、楽しいことはいくつもあったのだ。

決して、灰色ではない青春だった。

 

 

しかし。

しかし、だ。

 

 

「…結局、女の子とは無縁の生活だったんだよ…」

「そりゃそうだよねー」

「東京だと、男子校と女子校で交流があるとこもあったけど…ハルさんのとこはなかったのね」

「そうだね。学校単位でそういうのはなかったよ。…あ、でも一度だけ合コンに誘われたことがあったんだよ」

「え!?」

「何それ!?聞いてないよ!ハルくん!」

「わざわざ言ってないからね。それに、別に何かあったわけでもないし」

「「本当に!?」」

「…なんでそんな食い気味なんだい」

 

アドレスの交換すらなかったのだ。

ただまあ、女の子との久しぶりの会話は大変楽しかったことだけは覚えている。

 

「話を戻すけどね。高校生の時は、そのまま大学に進学するつもりでいたんだよ」

「そうだったの?」

「うん。ただ、2年の冬くらいに祖母が病気になってね。そのまま春に亡くなったんだよ」

「…そう」

 

倒れてからも、祖母は相変わらずの振る舞いだった。

息を引き取るその直前まで冗談を言っていたし。

 

 

 

『私が今死ぬと、お前は自分の名前を書くたびに私を思い出すじゃろう』

 

『どういうことさ』

 

『私が春に死ぬ。お前の名前は春。ほら、思い出すじゃろ』

 

『笑えない冗談な上に遠回りすぎる。他に言うことがあるだろう』

 

 

 

結局、あの会話のせいで名前を書くたびに意識するようになってしまった。

精神的な呪いの装備状態である。

 

とはいえ、店主を失ったこの店をどうするかというのは、地域の人たちの間でも話し合われた。

地味ながらも、この街に深く根付き、人々の相談もよく受けていたここをあっさり潰していいものかと言う声が多かったのだ。

 

そこで、俺が後継として立候補したというわけである。

 

「大学はよかったの?」

「もともと、そこまで進学に強い意志はなくてね。これも一つの道だろうくらいにしか思っていなかったよ」

「周りからは無理してないかって心配されてたけどねー」

「そりゃそうよね」

 

お前にはできないだろうというセリフは、ほとんど無かった。

純粋に、俺の将来を気にかけてくれる人が大勢いたのだ。

 

でも、そんな人たちだったからこそ、俺なりにこの街に何か恩返しがしたかった。

視野の狭い俺は、店を継ぐことで街の人の力になれると考えたのだ。

 

そんなわけで、高校を卒業してすぐにここの店主となったのである。

 

それが、果たして正しかったかはまだわからない。

今はまだ、とにかく仕事をこなす段階だ。

 

「ハルさん、大変だったのね」

「まあ楽ではなかったが…何度も言うように、周りの助けがすごくあったからね。絶望したことはなかったよ」

 

 

 

『正直に生きろ。そうすれば人が集まって、お前を助けてくれる』

 

 

 

祖母のその言葉は、あながち間違いでは無かったのだろう。

 

 

そして。

 

 

アルバムに視線を落とす。

 

幼い自分と祖母が共に映る写真。

 

その横に並ぶ、もう一枚の写真。

 

Aqoursのみんなと、俺が映るその写真。

 

「今度は、俺が人の力にならないとね」

 

自然と、そんな言葉が出る。

 

「なんかハルくん、今日は妙にノスタルジックな感じだね」

「そうね。何かあったのかしら」

「そうだね…」

 

何か適当な理由でもつけようかと思ったけど。

 

それはやめた。

 

「なんとなく、そういう気分だったんだよ」

 

嘘は、どうせつけないのだ。

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。

はい、主人公がこの街で店をやっている理由でしたね。

これを基盤にしてAqoursメンバーとの出会いが書けたらなと試行錯誤しております。

それでは何かありましたらお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。