Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
4話目の投稿になります。
やっぱりまったり進みますが、お付き合いください。


大金持ちと布屋さん

「お金がね、ないんですよ」

「いや、そんなこと言われても」

 

今日のお客さんは、アメリカ被れ…ではなく、正式にアメリカの血を半分もつ女の子。

小原鞠莉。通称マリーちゃん。

 

「ここ、そんなにマネーに困ってるの?」

「いや、最低限やっていくだけのお金はあるんだよ。君のとこもそうだけど、固定客も結構いるしね」

「じゃあなんで」

「思ったより、彼女たちが食べたから…かなあ」

「?なんの話しよ」

 

先日の、ルビィちゃんと花丸ちゃんとの食事。

結局、全額おごったわけだが。

花丸ちゃんが、予想以上に食べた。

それはもう、こちらが驚くほどに。

 

うちはなんとか黒字でやっていけているものの、間違っても余裕があるわけではない。

何かあったときのために、貯金も結構しておく必要があるし。

なので、自分の趣味に使えるお金は、かなーり少ないのだ。

 

「久しぶりに会えたというのに、それがファーストトークなの?」

 

少し残念そうな顔をされてしまう。

 

「ああ、それは申し訳ない。そうだね、せっかく久しぶりの会話なんだ。向こうでの話しでも聞かせてほしいね」

「ザッツライト!そうじゃないと!」

 

うって変わって、いい笑顔になるマリーちゃん。

 

彼女は、現在はアメリカの学校に留学している。

普段は、当然そちらで生活をしているのだが、この町を随分気に入っているらしく、結構な頻度でこちらに顔を出しているのだ。

その手段はなんと自家用ヘリコプター。

さすがに、あのヘリでアメリカと日本を往復しているわけではないと思うが…。

 

彼女の家は、全国にホテルチェーンを展開する大富豪。

近くにある淡島ホテルもその一角だ。

そのホテルの布団やクッションなどの発注を、うちが引き受けていることから、彼女とは交流がある。

その気になれば、自社でも有名どこでも、どこからでも調達はできるのだろうが、うちの祖母と縁があったらしく、わざわざこのちっこい店で買ってくれているのだ。

 

いずれにせよ、彼女が俺なんかとは格が違うお嬢様であることは確かだ。

 

アメリカでの生活、学校、友達などたくさんの話しをしてくれるマリーちゃん。

 

「アメリカの人って、みんな相当食べる印象だけど、実際そうなのかい?」

「みんながみんなそうではないわ。もちろん、食べる人はとんでもないくらい食べるけど。こーんな大きいピッツァを一人で食べちゃうんだから」

 

そう言って手で円を描くマリーちゃん。

え、それさすがに拡張表現だよね?

そのサイズ、俺の1日分より多いよ?

 

「ジョークでしょって顔してるわね。残念ながら事実よ」

 

ふふんと鼻を鳴らす。

なんてこった。

俺とは常識が違う食事をしているらしい。

 

「逆に、ハルは食べなさすぎなのよ。もっと食べないと、いざって時にパワーが出ないわよ?」

「布屋さんにいざっていう時はこないから。規則正しく食べてればそれで十分だから」

「じゃあ、昨日の夜は何食べたの?」

「カップラーメン」

「どこが規則正しいのよ!」

 

ちゃんと三食食べているんだから、食べないよりは規則正しいじゃないか。

 

「マネー、そんなにないの?」

「なぜカップ麺からその発想に至ったのか。場合によってはたくさんの人を敵に回すよ」

「だって、カップ麺てしょみn…」

「ストップだよ。金に余裕のある人でも、カップ麺食べる人はいくらでもいるんだから」

「ん〜…でもやっぱ、体にはよくないわよ?」

「まあ…それだけにはならないようにしているよ」

 

俺だって、常にカップ麺を晩御飯にはしていない。

というか、もともと昨日は本にお金使う予定だったのだ。

カップ麺ではなくとも、そうそうお金のかかったご飯は用意しなかっただろう。

ちなみに、自炊しなかった理由は単純に時間がなかったから。

昨日、テレビ見てたら寝落ちしてしまって、気づいたら夜の10時を過ぎてしまっていたのだ。

 

何か思いついたように、マリーちゃんの表情が変わる。

どうかしたのだろうか。

 

「そうだわ!今日はうちで一緒にディナーにしましょう!」

「うちって…マリーちゃんの?」

「ザッツライ!ホテルの食事だし、味は保証できるわ!」

 

マリーちゃんが言っているのは、おそらく淡島ホテルだろう。

この辺でも指折りの高級ホテルで、観光客が減りがちなこの街でも、未だに業績を残し続ける宿泊施設だ。

 

「さっきも言ったように、俺お金ないよ?」

「私と食べれば、お金はとらないわ」

「それはありがたいけど…仮にも20歳の男が、女子高生にすがるってのは…」

「ああそういえば、今日、卒業旅行の女子高生たちが、集団で予約をとってるんだったわ」

「たまには歳下の厚意に甘えるとしようか」

 

思わず口をついてしまった。

ほとんど条件反射だったよ。

 

「オッケー、決まりね!じゃあ7時頃来てね!それじゃ!」

 

そう言って、店を出て行くマリーちゃん。

てっきり、一緒に行くもんだと思っていたのだが。

 

「あれ?帰るのかーい?」

「準備があるのよー!」

 

そういって、急ぎ足で行ってしまった。

はて。

あの子に何かすることでもあるのだろうか。

 

 

 

 

7時10分前。

俺は淡島ホテルの前に来ていた。

歳下、それも女子高生に食事で釣られる20歳というのも、それはそれは滑稽な絵面なのだろう。

しかしながら世の中には、どうしようもない格差があるのだ。

あの子は大金持ち。

俺は貧乏人。

ノブレス・オブリージュ。

富むものは貧しきものに施しを。

 

「それもまた、世のきまり」

「何をぶつぶつ言ってるの?」

 

気づいたらマリーちゃんが後ろにいた。

 

「入って。もう準備はできているから」

 

そう言って、食事の場に案内される。

こうしてマリーちゃんにお呼ばれされるのは初めてではないので、何度か通ったことがある通路だが、相変わらず高そうな雰囲気でどうも落ち着かない。

 

「そういえば、件の女子高生たちは?」

「ここに1人いるじゃない」

「チェンジで」

「なんでよ!」

 

マリーちゃんが美人なのは確かだが、俺が見たいのはそういうものじゃないのだ。

そんなことを考えていたら、顔面にパンチが飛んできた。しかもグー。

 

「な、なにをするんだい」

「なんだか、ルードなこと考えてたみたいだから。それよりはい、着いたわ」

 

よくわからない装飾が施された部屋に入る。

マリーちゃん曰く、家族が使うための食事場なんだそうだ。

席、10席くらいあるけど。

 

「「いただきます」」

 

机に並べられた食事たちは、どれも美味しそうだ。

一品だけでも、俺の食事の1日分を裕に超える値段なんだろうなあ。

 

と、そこで気づく。

違和感のある一品が、机にあることに。

なんか奇妙な色の…スープ?

具材も浮いているが…お世辞にも食欲をそそる見た目とは言えない。

マリーちゃんの方を見ると、妙にそわそわしている気がする。

あー…なるほど。

 

「最初は、スープをいただくよ」

 

俺は一言そう言ってその禍々しいスープを口にする。

多分、学校の友達にでも振る舞うのだろう。

その練習のために、俺にこれを出したと…。

わざわざ呼んでくれた上に、気合い入れて作ってくれたのだ。

男の見せ所だろう。

 

などと考えながら口にしたのだが。

 

「あれ?結構美味しい」

「リアリー!?」

「うん、見た目はちょいアレだけど。味は美味しいね」

「そ、そっか。ふふ、よかった」

 

マリーちゃんはとても嬉しそうだ。

 

「見た目に関しては直した方がいいとは思うけど…味は十分、友達に食べさせても大丈夫だと思うよ」

 

俺がそう言うと、マリーちゃんはキョトンとした顔になる。

 

「あれ?友達に食べさせる前に、俺に食べさせて味見をさせたんじゃないのかい?」

「…はあ。ここまで鈍感だと、さすがにアングリーにもなれないわね」

 

 

 

 

「そういえば、留学はいつまでの予定なんだい?」

 

食事をとりながら、疑問に思っていたことを聞く。

彼女の志望進学先は、海外の大学だったはずだ。

やっぱりそのまま卒業まで向こうにいるんだろうか。

 

と思った矢先だった。

 

「来年の春には帰ってくるわ」

「…………はい?」

 

今度は俺が、キョトンとする番だった。

 




ご視聴ありがとうございます。
ここまでは書き溜めてた分なので、次からはペースがだいぶ落ちると思います。
それでも読んでくださる方は、今後もよろしくおねがいします。

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