4話目の投稿になります。
やっぱりまったり進みますが、お付き合いください。
「お金がね、ないんですよ」
「いや、そんなこと言われても」
今日のお客さんは、アメリカ被れ…ではなく、正式にアメリカの血を半分もつ女の子。
小原鞠莉。通称マリーちゃん。
「ここ、そんなにマネーに困ってるの?」
「いや、最低限やっていくだけのお金はあるんだよ。君のとこもそうだけど、固定客も結構いるしね」
「じゃあなんで」
「思ったより、彼女たちが食べたから…かなあ」
「?なんの話しよ」
先日の、ルビィちゃんと花丸ちゃんとの食事。
結局、全額おごったわけだが。
花丸ちゃんが、予想以上に食べた。
それはもう、こちらが驚くほどに。
うちはなんとか黒字でやっていけているものの、間違っても余裕があるわけではない。
何かあったときのために、貯金も結構しておく必要があるし。
なので、自分の趣味に使えるお金は、かなーり少ないのだ。
「久しぶりに会えたというのに、それがファーストトークなの?」
少し残念そうな顔をされてしまう。
「ああ、それは申し訳ない。そうだね、せっかく久しぶりの会話なんだ。向こうでの話しでも聞かせてほしいね」
「ザッツライト!そうじゃないと!」
うって変わって、いい笑顔になるマリーちゃん。
彼女は、現在はアメリカの学校に留学している。
普段は、当然そちらで生活をしているのだが、この町を随分気に入っているらしく、結構な頻度でこちらに顔を出しているのだ。
その手段はなんと自家用ヘリコプター。
さすがに、あのヘリでアメリカと日本を往復しているわけではないと思うが…。
彼女の家は、全国にホテルチェーンを展開する大富豪。
近くにある淡島ホテルもその一角だ。
そのホテルの布団やクッションなどの発注を、うちが引き受けていることから、彼女とは交流がある。
その気になれば、自社でも有名どこでも、どこからでも調達はできるのだろうが、うちの祖母と縁があったらしく、わざわざこのちっこい店で買ってくれているのだ。
いずれにせよ、彼女が俺なんかとは格が違うお嬢様であることは確かだ。
アメリカでの生活、学校、友達などたくさんの話しをしてくれるマリーちゃん。
「アメリカの人って、みんな相当食べる印象だけど、実際そうなのかい?」
「みんながみんなそうではないわ。もちろん、食べる人はとんでもないくらい食べるけど。こーんな大きいピッツァを一人で食べちゃうんだから」
そう言って手で円を描くマリーちゃん。
え、それさすがに拡張表現だよね?
そのサイズ、俺の1日分より多いよ?
「ジョークでしょって顔してるわね。残念ながら事実よ」
ふふんと鼻を鳴らす。
なんてこった。
俺とは常識が違う食事をしているらしい。
「逆に、ハルは食べなさすぎなのよ。もっと食べないと、いざって時にパワーが出ないわよ?」
「布屋さんにいざっていう時はこないから。規則正しく食べてればそれで十分だから」
「じゃあ、昨日の夜は何食べたの?」
「カップラーメン」
「どこが規則正しいのよ!」
ちゃんと三食食べているんだから、食べないよりは規則正しいじゃないか。
「マネー、そんなにないの?」
「なぜカップ麺からその発想に至ったのか。場合によってはたくさんの人を敵に回すよ」
「だって、カップ麺てしょみn…」
「ストップだよ。金に余裕のある人でも、カップ麺食べる人はいくらでもいるんだから」
「ん〜…でもやっぱ、体にはよくないわよ?」
「まあ…それだけにはならないようにしているよ」
俺だって、常にカップ麺を晩御飯にはしていない。
というか、もともと昨日は本にお金使う予定だったのだ。
カップ麺ではなくとも、そうそうお金のかかったご飯は用意しなかっただろう。
ちなみに、自炊しなかった理由は単純に時間がなかったから。
昨日、テレビ見てたら寝落ちしてしまって、気づいたら夜の10時を過ぎてしまっていたのだ。
何か思いついたように、マリーちゃんの表情が変わる。
どうかしたのだろうか。
「そうだわ!今日はうちで一緒にディナーにしましょう!」
「うちって…マリーちゃんの?」
「ザッツライ!ホテルの食事だし、味は保証できるわ!」
マリーちゃんが言っているのは、おそらく淡島ホテルだろう。
この辺でも指折りの高級ホテルで、観光客が減りがちなこの街でも、未だに業績を残し続ける宿泊施設だ。
「さっきも言ったように、俺お金ないよ?」
「私と食べれば、お金はとらないわ」
「それはありがたいけど…仮にも20歳の男が、女子高生にすがるってのは…」
「ああそういえば、今日、卒業旅行の女子高生たちが、集団で予約をとってるんだったわ」
「たまには歳下の厚意に甘えるとしようか」
思わず口をついてしまった。
ほとんど条件反射だったよ。
「オッケー、決まりね!じゃあ7時頃来てね!それじゃ!」
そう言って、店を出て行くマリーちゃん。
てっきり、一緒に行くもんだと思っていたのだが。
「あれ?帰るのかーい?」
「準備があるのよー!」
そういって、急ぎ足で行ってしまった。
はて。
あの子に何かすることでもあるのだろうか。
※
7時10分前。
俺は淡島ホテルの前に来ていた。
歳下、それも女子高生に食事で釣られる20歳というのも、それはそれは滑稽な絵面なのだろう。
しかしながら世の中には、どうしようもない格差があるのだ。
あの子は大金持ち。
俺は貧乏人。
ノブレス・オブリージュ。
富むものは貧しきものに施しを。
「それもまた、世のきまり」
「何をぶつぶつ言ってるの?」
気づいたらマリーちゃんが後ろにいた。
「入って。もう準備はできているから」
そう言って、食事の場に案内される。
こうしてマリーちゃんにお呼ばれされるのは初めてではないので、何度か通ったことがある通路だが、相変わらず高そうな雰囲気でどうも落ち着かない。
「そういえば、件の女子高生たちは?」
「ここに1人いるじゃない」
「チェンジで」
「なんでよ!」
マリーちゃんが美人なのは確かだが、俺が見たいのはそういうものじゃないのだ。
そんなことを考えていたら、顔面にパンチが飛んできた。しかもグー。
「な、なにをするんだい」
「なんだか、ルードなこと考えてたみたいだから。それよりはい、着いたわ」
よくわからない装飾が施された部屋に入る。
マリーちゃん曰く、家族が使うための食事場なんだそうだ。
席、10席くらいあるけど。
「「いただきます」」
机に並べられた食事たちは、どれも美味しそうだ。
一品だけでも、俺の食事の1日分を裕に超える値段なんだろうなあ。
と、そこで気づく。
違和感のある一品が、机にあることに。
なんか奇妙な色の…スープ?
具材も浮いているが…お世辞にも食欲をそそる見た目とは言えない。
マリーちゃんの方を見ると、妙にそわそわしている気がする。
あー…なるほど。
「最初は、スープをいただくよ」
俺は一言そう言ってその禍々しいスープを口にする。
多分、学校の友達にでも振る舞うのだろう。
その練習のために、俺にこれを出したと…。
わざわざ呼んでくれた上に、気合い入れて作ってくれたのだ。
男の見せ所だろう。
などと考えながら口にしたのだが。
「あれ?結構美味しい」
「リアリー!?」
「うん、見た目はちょいアレだけど。味は美味しいね」
「そ、そっか。ふふ、よかった」
マリーちゃんはとても嬉しそうだ。
「見た目に関しては直した方がいいとは思うけど…味は十分、友達に食べさせても大丈夫だと思うよ」
俺がそう言うと、マリーちゃんはキョトンとした顔になる。
「あれ?友達に食べさせる前に、俺に食べさせて味見をさせたんじゃないのかい?」
「…はあ。ここまで鈍感だと、さすがにアングリーにもなれないわね」
※
「そういえば、留学はいつまでの予定なんだい?」
食事をとりながら、疑問に思っていたことを聞く。
彼女の志望進学先は、海外の大学だったはずだ。
やっぱりそのまま卒業まで向こうにいるんだろうか。
と思った矢先だった。
「来年の春には帰ってくるわ」
「…………はい?」
今度は俺が、キョトンとする番だった。
ご視聴ありがとうございます。
ここまでは書き溜めてた分なので、次からはペースがだいぶ落ちると思います。
それでも読んでくださる方は、今後もよろしくおねがいします。