Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
AZALEAメンバーと布屋さんのお話になります。


ツツジの花達と布屋さん

『今日の夜、AZALEAのメンバーでハルのとこ行っても良い?』

 

果南ちゃんからそんな連絡が来たのは、営業終了の直後だった。

もちろん構わないという旨の返信をして、何時頃やってくるのかを聞く。

 

だいたい8時くらい。

そういう返信だった。

 

AZALEAというのは、Aqoursの中のユニットの一つである。

ダイヤちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃんの3人で構成されるユニットだ。

 

基本的にはぶっ飛んだ事をやらないメンツなので、夜に来るという事自体が珍しく感じる。

 

「それだけ、大事な用事って事なのかな」

 

だとすれば、しっかり話を聞かなくては。

大人としての仕事を果たさないとな。

 

 

※

 

 

「恋話を聞かせて欲しいんですの」

 

うちに来ていきなりこの言葉である。

本当に脈略なくこの話になった。

 

「…誰か、説明を頼むよ」

「ダイヤ、ちゃんと説明しないとハルが困ってるよ」

「あら?メールで説明してないですの?」

「どう説明れすればいいのか分からなかったし」

「確かに、説明するのは難しそうずら」

「まあ、話は聞こうじゃないか」

 

というか、とりあえず聞かないと、状況が読めない。

 

「そうですわね…ユニットを3つ作ったのは聞いてますわね?」

「ああ、どちらもうちに来ているからね。AZALEA以外だと、Guilty KissとCYaRon!だったかな」

「その通りですわ」

「一応、それぞれにテーマというか、特徴みたいなのがあるんだよ」

「特徴?」

「そうずら。Guilty Kissが小悪魔、CYaRon!が元気って感じずら」

「ああ、なるほど」

 

確かにそんな雰囲気は分かる。

しかし。

 

「それが今回の件にどんな関係が?」

「私たちのテーマ、なんだと思います?」

「君たちの…かい?」

 

ずいぶん突然だ。

 

うーん…

そうだな…

 

花丸ちゃん。

ダイヤちゃん。

果南ちゃん。

 

この3人のユニット…

 

「清楚、とかかな」

「あ、それいいですわね。いただきますわ」

「おー、さすがハルさんずら」

「清楚…かー。そう思ってくれてたんだねー」

 

…あれ?

てっきりそれは決まっていて、そこから話を繋げてくると思っていたのだが。

 

「テーマありきでもってきたわけじゃなかったのかい?」

「ええ、全く」

 

ちょっと待って。

 

「君たちは一体何をするために来たんだい?」

「ハルさんの恋話を聞くためですわ」

「今の会話…君たちのテーマの話ははなんだったんだい?」

「え?なんとなく聞いただけですわ!」

「よし、時間を返してくれ」

 

なんだったんだ、この時間は。

 

「ダイヤ…話が進まない」

「果南さんが説明したほうがいいんじゃないずら?」

「そうしてくれ」

 

ダイヤちゃんが不満そうにしていたが、果南ちゃんから説明を聞く。

 

「ユニットのテーマで悩んでたのは本当なんだ」

「うん」

「それで、ダイヤが恋愛で行こうって言い出してね」

「ふむ。理由が気になるね」

「μ'sのスノハレみたいな歌をやりたいからですわ!」

「発想が千歌ちゃんと同じだよ」

「で、恋愛の話を聞きに行こうって事になったの」

「…いや、テーマが恋愛になったからって、別に話を聞く必要はない気がするんだが…」

「あはは。まあそれは私も言ったんだけどねー」

「ダイヤさん、一度言うと止まらないずら」

 

事情は分かった。

 

「残念ながら、私たちは恋愛経験が少ないですわ。ですので、たとえ人の話であろうと、恋愛というものを知ることが大事と考えましたの」

「それは結構なことだが、君たちのテーマは今さっき変わったじゃないか」

「そうですわね。ハルさんの案で、『清楚』を採用しましたわ」

「…で、恋愛のお話を聞く意味は?」

「………………あれ?」

 

この子は、時々バカなんじゃないかと思わされる。

いや、成績は申し分ないし、基本は頭の回転も早いのだが。

 

そんなわけで早速目的を失った彼女たち。

 

「…で、どうするんだい?」

「困りましたわね」

「ちなみに、清楚というテーマに関しては俺は一切助力できないと思うよ」

「変態ですしね」

「変態だもんねえ」

「変態さんずら」

「俺は今傷ついているよ」

 

それはともかくとして。

 

「あ、でも」

 

花丸ちゃんが何か思いついたようだ。

 

「ハルさんの恋話、丸は少し聞きたいずら」

「はい?」

 

「あ、それは確かに」

「え?」

 

「それもそうですわね」

「いやいや」

 

何を言ってるんだこの子たちは。

恋話?

 

「ないよ、そんなの」

「ないってことはないでしょ」

「そうですわ!よく考えたら、そこそこ長い付き合いなのに、ハルさんからそういう話を聞いたことがなかったですし」

「ハルさん大人だし、聞いてみたいずら」

「いや、だからね、俺は恋人はおろかキスすらしたことがないんだよ」

 

なんか言ってて少し悲しくなってきた。

というか、その辺の事情はダイヤちゃんと果南ちゃんは知ってるはずだ。

 

「え?ハルさん、恋人とかできたことないずら?」

「残念ながらね」

「い、意外ずら…」

「そうかい?」

「ハルさん大人っぽいから、結構モテると思ってたずら」

「まったくそんなことはなくてね。いやはや、悲しいことだよ」

 

告白したこともなければ、されたことなどもっとない。

まさに無縁だったわけだ。

 

「果南さん、どう思います?」

「ハルの場合、ただ単純に気づいてなかっただけっていうのも考えられるよね」

「下手したら、告白されても気づかなさそうなレベルですものね」

 

ダイヤちゃんと果南ちゃんがなにやらヒソヒソ話している。

内容は分からないが、失礼なことを言われている気がするぞ。

 

「まあそんなわけで、人様に話せるような恋話とやらは持ち合わせていないんだ。すまないね」

「へ〜そっかあ」

 

気のせいか、花丸ちゃんが少し微笑んでいる。

なんでだ?

 

「じゃ、じゃあハルさん、今は彼女とかいないずらね!」

「そうだけど、なんで嬉しそうなの?」

 

ちょっと失礼じゃない?

 

「あら花丸さん、そんなことを心配してましたの?」

「ハルに彼女なんているわけないじゃん!」

「君たちは俺の恋話を聞きに来たんじゃないのかい」

 

2人で笑っている。

これはちょっとどころじゃなく失礼だよね。

 

「別に彼女がいなくたって、片想いとかの恋話くらいはあると思ってたのですわ」

「まあなかったみたいだけどねー」

「悪いけどね」

「んー。どうする、ダイヤ」

「そうですわねえ」

 

考える3年2人。

そもそも、恋話ならまだ君らの方があるだろうに。

 

「あ、じゃあ好みのタイプとか…」

「あ、それはいいですわね」

「なるほどー。いいんじゃない?」

「別に話すのはいいが、どう考えても恋話じゃないよ、それ」

「これから恋に繋がるかもしれないじゃん」

「そうですわ!」

「そうずら!」

「…ものは言いようだね」

 

というか、好みのタイプと恋愛は一致しないことも多いと聞いたが。

 

「…まあいいか。好みのタイプ…女子高生?…あ、ちょっと待って果南ちゃん、笑顔のまま拳を構えないで」

「冗談はいいから」

「わ、分かったから、拳はやめて」

 

笑顔なのがとても怖い。

 

「えっと…そうだね、とりあえずは年齢はある程度近い方がいいかな」

「ほう」

「ど、どれくらいまでなら良いずら!?」

「どれくらい…5つくらいかなあ」

「ハル、今年で21歳だっけ?」

「そうだね」

「つまり、ストライクゾーンは16歳から26歳と」

「こ、今年で丸も16歳!せ、セーフずら!」

「ていうか、今のハルが16歳の女の子と付き合うって…」

「犯罪臭がしますわね」

「ま、丸は大丈夫ずら!」

「なんの話をしているんだい、君たちは」

 

「他にはありませんの?」

「他と言われてもね」

「あ、じゃあ、彼女にしたい性格とか」

「性格?」

「そうですわ。大和撫子とか、元気満点の体育少女とか、文学少女とか」

「なるほど…。そうだね」

 

今ダイヤちゃんが挙げてくれたものはどれも非常に魅力的だ。

 

しかし。

正直な話そこまでのこだわりなどない。

 

俺は…

 

「俺としては、自分を好きにさえなってくれればそれでいいよ。というか、それが一番大事だ」

 

性格とかはまあ、好きになってしまえばそれがそれが好きな性格となるだろう。

 

「あら。ずいぶんまともな答えですわね」

「まあたまにはね」

「自分を好きになってくれる人かー」

「す、素敵ずら〜」

「もっとも、そんな人がいるかという話だけどね」

「案外、身近にいるのではなくて?」

 

そんなことを言うダイヤちゃん。

いやいや。

 

「いたら気づいてるだろう」

「「「それはない」」」

「そんなまさか」

「ハルさんには」

「絶対に」

「気づけないずら」

「…そうかい」

 

すごい勢いで言い切られた。

彼女らによれば、俺は自分を好きになってくれた人には気づけないらしい。

 

「あの、改善する方法とかないかな」

「そんなの、私が聞きたいですわ」

「まったくだねえ」

 

呆れているようだ。

 

「…それで、聞きたいのは以上かい?」

「うーん…そうだねー…」

「ま、丸はもう一個だけ聞きたいことがあるずら」

「どうぞ」

 

最後は花丸ちゃんらしい。

なんだろうか。

 

「は、ハルさんは、そもそも恋人がほしいずら?」

「「!!」」

「…ふむ」

 

なるほど。

考えたことがなかったな。

 

よくよく考えたら、自分に恋人がいるという状況を想像したことがなかった。

そう考えると、好みとかタイプとか以前の問題だったな。

 

「そうだね…。いるかいらないかと言われると困るが…まあ、いらないとは言えないね」

 

俺の言葉に、彼女たちは何も言わない。

次のセリフを待っているようだ。

 

「ただ…俺は今の生活をとても堪能していてね。恋人ができたらこの生活が崩れるというなら…正直考えものかな…と、思うよ」

「ハルさん…」

「ふふふ」

「あはは、そっかそっかー」

 

3人の表情から察する分には、悪い印象ではなさそうだ。

 

「まだ、告白はできそうもありませんわね」

「そうだねえ」

「そうみたいずら」

「ん?何か言ったかい?」

「なんでもありませんわ」

 

とはいえ目下のところ。

 

「まあ、このままいくと一生今のままという可能性もあるがね」

 

そんなことを言った時だった。

 

「あ、じゃあその時は私がもらってあげるよ。ハル、ウチの仕事もだいたいこなせるでしょ?」

「果南ちゃんとこ?…まあ、船以外ならね」

「そうでしょー」

「「なあっ!?」」

 

果南ちゃんからの思わぬ提案だった。

かと思えば。

 

「ちょ、ちょっと果南さん、それは抜け駆けですわ!」

「えー。ちょっとくらいいいじゃん」

 

「か、果南さんずるいずら!じゃ、じゃあ丸だって…は、ハルさん!」

「ん?」

「丸のところはお寺だから、け、けけ、結婚すれば、仮にハルさんのお店が潰れても仕事に困らないずら!」

「なんか少し不穏な事を言われた気もするけど…まあありがたい提案として受け取っておくよ」

「は、花丸さんまで!」

「おー。やるね、花丸ちゃん」

 

「くっ…こ、こうなったら私も…!ハルさん!」

「さっきから何だい?」

「う、うちは、男子の兄弟がいませんの」

「そうだね」

「だ、だから…うちに嫁げば、ハルさんが事実上の当主になれますわよ!」

「…何を言ってるんだい、君は」

 

なんかとんでもないことを言い出した。

 

「ダイヤ…」

「ダイヤさん…」

 

2人もちょっと引いてる。

 

というか、万が一俺が黒澤家に婿入りしたとしても、黒澤姉妹を抑えて当主になるというのはありえないだろう。

ダイヤちゃんはそれほどまでに優秀なのだ。

 

「3人が何を言いたいかはよく分からないが、まあありがたく受け取っておくよ。わざわざ同情してくれてありがとう」

「この状況でなおそのセリフが出るのは、さすがとしか言えないよ」

「「はあ…」」

「あれ?なんでため息?」

 

まあ実際、彼女たちに婿入りしたらそれはそれで楽しそうではある。

 

そんなこと、万に一つも起こりえないような確率なんだろうが。

 

ただ。

 

それでももし、そんなことがあるなら…

 

「俺は、尻に敷かれながら生活することになりそうだ」

 

ため息をつく彼女たちを見て

 

そんなことを思ったのだった。

 

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。

今回の件で、布屋さんは彼女達をいよいよ意識するように…
なりません。はい。

それでは何かありましたらお願いします。

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