黒澤姉妹とのお話です。
『ピンポーン』
大きな門についているインターホンを押す。
いつ来ても、門の大きさには圧倒される。
「は、はーい!」
向こうから家の住人がやってきた。
「こ、こんにちは、ハルさん」
「こんにちは、ルビィちゃん」
「今日はえっと…すいません、呼び出しちゃって…」
「いや、構わないよ。ここの方が広いしね」
今日ここに来たのは、1日家庭教師のためである。
休み明けのテスト対策で、ルビィちゃんから勉強を教えて欲しいと頼まれたのである。
見慣れた廊下を通って、とある一室に案内される。
部屋の真ん中に大きな机があり、すでにノートと教科書が開かれていた。
「お茶を持ってくるので、少し待っててもらえますか?」
「ああ、お構いなく」
トタトタと駆けていくルビィちゃん。
こけないか心配になる。
待っている間に、教科書を拝見する。
ついでに、勉強用のものならいいだろうと思い、ノートも見せてもらう。
「ふむ…」
丁寧に書き込まれた文字達。
大事なところもペンでしっかりマークされている。
しかし。
「こんなにきっちりやっていては、効率が悪いな…」
明らかにテストには出ないであろう場所まで、マーカーが引かれている。
ノートも、提出するわけでもないのに相当丁寧にまとめれている。
このやり方では、どうあっても時間が足りない。
一つ一つを丁寧に処理しようとするのはいい事だが、効率よくやるのも重要な事だ。
そういう意味では、ルビィちゃんはダイヤちゃんに比べて勉強が不得意だ。
一言で言ってしまえば、要領が悪いのだ。
そんな風に考えていたら、ルビィちゃんがお茶を持ってやってきた。
「すいません。お待たせしました」
「いやいや、気にしないでくれ」
「あ、それ…」
「ああ、勉強ノートを見させてもらってたんだ。もしかしてまずかったかい?」
「い、いえ、大丈夫です。その…どう思いますか?」
「んー…そうだね」
さっき思った事を伝える。
効率が悪いやり方をしている事。
ポイントの押さえ方が若干悪い事。
「うー…やっぱり、そうなんですね…」
「とはいえ、努力自体は十分に評価できるくらいしてるんだ。やり方さえしっかりすれば、十分結果は出るだろう」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。そのために来てるんだからね」
「お、お願いしますっ」
「あいよ」
勉強を始める。
思った通り、ルビィちゃんのやり方は不器用な勉強法だ。
教科書の端から端まで、無理にでも覚えようとしている。
結果、大事なとこがふわふわした状態で覚えてしまっているわけだ。
染み付いたやり方はすぐには変わらないが、なんとか記憶の強弱を身につけてもらう。
ちなみに、俺が勉強を教えられるのはあくまで基本レベルである。
教科書の解説を分かりやすくする程度。
赤本の解説?
それは無理。能力が圧倒的に足りません。
「ふう…ひとまず数学はこんなものかな」
「ありがとうございます。ハルさん、教えるの上手ですね」
「いや、そうでもないさ」
もともとやる気はあるので、こちらとしては教えがいがあるのだ。
そんな会話をしている時だった。
「ルビィー。そろそろお昼にしますわよー…って、ハルさん?」
「やあこんにちは、ダイヤちゃん」
「ああ、こんにちはハルさん。いらしてたんですのね」
「ルビィちゃんと勉強をしてたんだ」
「あらそうでしたの。ご苦労様ですわ」
「いや、頑張ったのはルビィちゃんだからね」
「午後も勉強ですの?」
「ルビィちゃん次第だよ」
「は、ハルさんが良ければ、午後も…」
「ということなので、午後も勉強会だね」
「ふむ…」
ダイヤちゃんが何やら考え始めた。
かと思えば、すぐに言葉を続けた。
「午後は、私も参加してよろしくて?」
「ダイヤちゃんも?」
「うゅっ」
俺はもちろん構わないが…
ルビィちゃんはどうだろうか。
「わ、私は良いですけど」
まあそりゃそうか。
「もちろん俺も賛成だよ。ただ…」
「ただ?」
「俺が君に教えられる事は何もないよ?」
「ふふ。それは構いませんわ。勉強は自分で進めますから」
「そうかい。それならそれで構わないが、かえって集中しにくくないのかい?」
「それくらいで途切れるほど、やわな集中力ではありませんわ」
「それもそうか」
「それに…」
「それに?」
俺とルビィちゃんを見て、ダイヤちゃんは続ける。
「一人でやるより、好きな人の側で勉強する方が、私は燃えるタイプですの」
「うゅ!?」
「ほう。それはいい」
「え?あれ?」
この場合の好きな人というのは、ルビィちゃんの事だろう。
素晴らしい姉妹愛だ。
「ルビィ、この朴念仁には絶対に私の想いは伝わってないですわ。だから心配はいりません」
「あ、そ、そうなんだ」
なにやらよく分からない会話を繰り広げているようだが、気にしない事にする。
「それより、先にお昼にしましょう。用意してありますわ」
「あれ?俺もいいのかい?」
「ハルさんがいたのは想定外でしたけど、まあ、あまりはいくらでもありますから」
「ありがたいよ」
そんなわけで、一緒に食事をいただいた。
今日はお母さんが作ってくれたらしい。
とても美味しかった。
※
午後。
お昼をいただいてから勉強を再開し、さらに数時間。
ダイヤちゃんもルビィちゃんも、ぶっ続けで勉強をやっている。
すごい集中力だ。
だが、さすがに午前からの勉強で疲れたのだろう。
ルビィちゃんの瞼が重そうである。
「ルビィちゃん、眠たいかい?」
「うゅっ!だ、大丈夫です」
「眠い時に無理やりやっても集中できないだろう。昼寝でもするといい」
「え、で、でも…」
「1時間したら起こしてあげるからね」
「えと…」
「私も、いいと思いますわよ」
「お、お姉ちゃん…」
少し考えたが、一眠りする事にしたようだ。
「じゃ、じゃあ少しだけ…」
「ん。掛けるものがあるといいんだが」
「み、短い時間ですから」
「いやいや、体を冷やすのは良くないよ」
「持ってきますわ。ちょっと待っててください」
「頼むよ」
「あ、ご、ごめんね、お姉ちゃん」
「ふふ。構いませんわ」
そうやって部屋を出て行くダイヤちゃん。
すぐにタオルケットを持ってきてくれた。
それを被って寝転がるルビィちゃん。
だが、どうにも落ち着きがない。
「どうしたんだい?」
「…えと、ハルさんにお願い事、してもいいですか…?」
「お願い?」
なんだろうか。
まあ余程の事でもない限りは断るつもりもないが。
「そ、その…」
「ふむ」
大分言いあぐねている。
はて。
「ひ…」
「ひ?」
「ひ、膝枕、してもらってもいいですか!」
「膝枕?」
「は、はい!」
「あら」
「もちろん構わないよ。どうぞ」
そう言って、自分の膝を叩く。
恐る恐るといった感じに、ルビィちゃんが頭を乗せる。
そういえば髪を解いていないが、痛くはないのだろうか。
「し、失礼します」
「高さ、大丈夫かい?」
「は、はい…」
最初は緊張していたようだが、数分してから寝息が聞こえてきた。
可愛らしい寝顔である。
「疲れていたのかな」
「練習も毎日ありますからね」
「あのメニューをこなしているんだ。感心するよ」
「ハルさんも参加します?大丈夫、手を引っ張ってあげますわ」
「足を引っ張るのはごめんだよ」
「それは残念ですわ」
笑っているダイヤちゃん。
そのまま、視線をルビィちゃんの方にやる。
「この子も、頑張っていますわ」
「ああ、そうだね」
ルビィちゃんの頭を撫でる。
触り心地のいい髪だ。
「ルビィ、気持ち良さそうですわね」
「そうなのかい」
「ええ。とても」
「ダイヤちゃんも、お昼寝するかい?」
「そう…ですわね。そうさせてもらいますわ」
すぐに2枚目のタオルケットを持ってきたダイヤちゃん。
「ダイヤちゃんはどこで寝るんだい?」
「ふふ。もう決めていますわ」
そう言うと、ルビィちゃんとは反対側にやってきた。
そのまま、体重を預けてきた。
「右側、お借りしますわね」
「構わないよ」
「重いですか?」
「まさか。もっと体重をかけてもいいくらいだよ」
「ふふふ。それは良かったですわ」
左側に、膝枕で寝ているルビィちゃん。
右側に、体重を預けてくるダイヤちゃん。
「両手に花…いや、両手に宝石だね」
「うまいこと言ったつもりですの?」
「どうだろうね」
さらに数分して、右側からも寝息が聞こえてきた。
ルビィちゃんだけじゃない。
ダイヤちゃんだって、がんばっているのだ。
これで、少しでも気が休まるといいな。
2人の寝顔を見て。
そんなことを、思った。
ご視聴ありがとうございました。
大変起承転結に欠けていましたが、ご了承ください。
アニメの2期でも来ない限りは、このテンポが続くと思われます。
それでは何かありましたらお願いします。