Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
アニメ12話の後半になります。


μ'sの背中と布屋さん

 

「それで、何か遺言はありますの?」

「ハル〜?ちゃんと説明してよね」

「嫁入り前のレディーのうちに泊まるなんて」

「お、お姉ちゃん、降ろしてあげないとハルさん、多分話せないよ」

「は、ハルさんが死んじゃうずら!」

「3年生って、割と脳筋よね」

「脳筋?」

「千歌ちゃんは知らなくていいと思う」

 

ダイヤちゃんと果南ちゃんに胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。

足が完全に浮いてる。

すごい力だ。

 

昨日、交通の関係から梨子ちゃんのお家に泊まらせてもらった。

もちろん、手を出すなんてしていないし、ラッキースケベの一切に至るまで可能性を除去するために手を尽くした。

 

にも関わらずこの有様である。

そりゃあ、悪いことをしたとは思っているが、ここまでしなくてもいいじゃないか…

あ、意識が。

 

「わー!ハルさん、白目向いてる!」

「は、ハルさーん!!」

 

 

 

 

「それで、本当に何もしていませんのね?」

「当たり前だろう。梨子ちゃんにも確認したらいい」

「ええ。何も…そう、本当に何も…」

 

なぜか梨子ちゃんが複雑そうな表情をしている。

なんだろうか。

 

「…お風呂出る時、下着とか悩んだ私が馬鹿だったわ…」

 

よく聞こえないが何か言っている。

はて?

 

「だいたい、俺が何かすると本気で思っているのかい?」

「日頃の発言から、それが通ると思ってるの?」

「…手は、出さないから」

「信用ナッシングねー」

「今更ながらに、日頃の発言について反省しているよ」

 

多分改善はされないが。

どうせ嘘が付けないんだしね。

 

 

 

「まあまあ、ダイヤさんたちも少し落ち着いて。そろそろ移動しよう?」

 

千歌ちゃんがそう言って仕切り直す。

ありがたい。

 

「とは言っても、まずはどこから行く?」

「タワー?ツリー?ヒルズ?」

「遊びに来たんじゃありませんわ」

 

ダイヤちゃんのそんなセリフに、横の果南ちゃんは苦笑い気味だ。

まあ、彼女たちの本来の目的は、μ'sと自分たちの違いをはっきりさせる事だったはずだ。

 

「まずは神社!」

 

千歌ちゃんがそう言った。

どうやらそれは決まっているらしい。

 

「実はね、ある人に話聞きたくて、すっごい調べたんだー。そしたら会ってくれるって」

 

ある人?

考えたが、特に心当たりがない。

 

「ある人?誰ずら?」

 

心当たりがないのは、俺だけではないらしい。

 

「話を聞くにはうってつけのすごい人だよ!」

 

へえ。

そうなのか。

 

「東京、神社…」

「すごい人…まさか…」

 

ルビィちゃんとダイヤちゃんが目を輝かせ始めた。

いや、多分君らの予想は違うと思う。

 

μ'sではないと思うよ。

絶対。

 

 

 

 

「「お久しぶりです」」

「お久しぶりー」

「「なんだ〜」」

 

案の定である。

神社に向かったAqoursを待っていたのは、2人組のユニット。

 

千歌ちゃんたちから一度聞いた事がある。

確か、Saint Snowという名前のスクールアイドルたちだったはずだ。

 

彼女たちが東京でライブをした時に、その発表を見たと言っていた記憶がある。

というか、ダイヤちゃんたち若干失礼じゃないかね。

 

そのまま、Aqoursを歓迎すると言って、UTXの方に移動となった。

 

「お兄さんは…マネージャーですか?」

「久しぶりにお兄さんと言ってもらった事に、俺は大変感動しているよ。それはそうと、マネージャーではないね。まあAqoursのファンって事で」

「ファン…そうですか。私たち、Saint Snowという名前で、スクールアイドルをやってます」

「ああ、一応話には聞いてますよ。予備予選突破、おめでとうございます」

「ふふ。どうもです」

「じゃあ、あの子たちの事、頼みますね」

「あれ?一緒に来ないんですか?」

「さすがに、都会の女子校には入れないですよ」

 

田舎ならいいのかと言われるとそんな事はないが。

まあ、完全アウェイの女子校に、男一人で入れるほどメンタルは強くないのだ。

 

「そんなわけで、適当に辺りをうろついているから、終わったら連絡してくれ」

「ん、わかったー」

「ヨーソロー!ハルくん、迷子にならないようにねー」

「もしもの時は迷子センターを使うから、よろしく頼むよ」

 

入り口で、彼女たちを見送る。

 

さて。

どう時間を潰そうか。

 

そうだ。

お腹が減って来たし、饅頭でも買いに行くとしよう。

ちょうど、興味のある店が近くにあるんだ。

 

 

 

 

歩いて来れるほどの位置に、その店はあった。

扉を開けて、中に入る。

 

店員さんの、元気な声で迎えられた。

 

「いらっしゃいませー」

 

オレンジの髪を片側で結ぶ女性。

表情や声から、明るい印象を与えるその人。

 

画面で見たのは、もう数年前のもののはずだったが。

その可愛さは、今もまだ色褪せていなかった。

 

「ん?お兄さんどうしました?」

「ああ、これは失礼。つい見惚れてしまって」

「えー。なんですかそれ」

 

笑って返される。

その笑顔も、画面越しに見るそれよりもずっと魅力的だった。

 

「お兄さん、観光ですか?」

「んー…まあそんなところですね」

「もしかしてデートですか〜?」

「だったら彼女連れてきてますよ」

「それもそうですねー。作らないんですか?」

「簡単に言わんでください。それ、俺の今年中の目標なんです」

「達成できそうですか?」

「前途多難ですね」

「あはは!あ、じゃあこれあげますよ」

「…鳥の羽?」

 

真っ白な羽だった。

なんだこれ。

 

「それ、人の想いを感知する羽。つまり、想いをつなぐバトンなんですよ!」

「ほう。人の想いを」

「強い目標を持っている人のところに舞い降りるんです。で、持っていると目標が叶うんです」

「それは凄い。なんの鳥なんですか」

「私が高校生の時に、空から落ちてきたんです」

「…………」

「あー!お兄さん、信じてないでしょ!」

「俺、理系なんですよ」

「私もです!」

 

そんな会話をしながら、饅頭を詰めてもらった。

ついでに羽ももらった。

 

どうすんだ、これ。

困っていた直後、強い風が吹いた。

 

そして。

 

「あー…」

 

羽は風にさらわれていった。

 

「…強い目標を持っている人のところに舞い降りるんだっけ」

 

どうやら俺は、大した目標を持っていないと判断されたらしい。

間違ってないがカンに触るな。

 

とはいえ。

 

「いやー…あれがかつて、スクールアイドルの頂点に立った女性ですか」

 

やっぱり。

すごい可愛かったな。

 

 

 

 

再びUTXまで戻ってきた。

千歌ちゃんたちからの連絡はまだない。

 

あとどれくらいか。

そう思ってた時だった。

 

上方に存在する大きなモニター。

そこに、今年のラブライブのファイナルステージについて映し出されていた。

 

そこにはっきりと表示される『AKIBA DOME』の文字。

例年通り、今年もあそこが会場らしい。

 

ぶらぶらしていようかと思ったら、偶然にも千歌ちゃんたちを見つけた。

彼女たちもこれを見に来ていたらしい。

 

声をかけようとしたが、少々躊躇われた。

モニターを見ている彼女達の表情が、少し沈んでいたのだ。

 

雰囲気に、少し気圧されてしまったようだ。

なんと声をかけようかと思っていた時だった。

 

「ねえ。音乃木坂、行ってみない?」

 

そんな声が聞こえた。

声の発信源は梨子ちゃんだ。

 

みんな、少し驚いていた。

千歌ちゃんは、心配そうに確認までしていた。

 

でも。

梨子ちゃんは、今度は大丈夫だと、そう言った。

 

ならば、俺から言うことは何もない。

 

 

 

 

音乃木坂学院下。

高校の階段下に、俺たちはやってきた。

 

坂、長いな。

毎日これを登って通学するのか。

 

なんというか…

 

「スカートの中、見えそう」

「とぉう!」

「ぐえ…痛いじゃないか」

 

思ったことを口にしたら、マリーちゃんに一発もらってしまった。

脇腹に。

 

「っ!」

「あっ」

「千歌ちゃん!?」

「待って待ってー!」

 

唐突に千歌ちゃんが走り出した。

それを追うみんなが走っていく。

 

俺は、それをゆっくり歩いて追いかける。

走る?それは無理。

 

前方を駆けていく行く彼女達。

疲れた俺は、踊り場で一休みする。

というか、ここで待っててもいいかもしれない。

 

やがて頂上についた9人は、横並びにそこに立つ。

 

なかなか様になってるじゃないか。

 

そんな風に思っていた時だった。

気づいたら、ダイヤちゃんの横に誰か立っている。

 

制服から察するに、音乃木坂の生徒かな?

休日に出校してるとはご苦労なことだ。

 

みんなと何か話している。

あまり聞き取れないが、はっきりと分かったのは、ここにはμ'sに関する痕跡は残っていないこと。

何も、残していかなかったことだ。

 

物なんてなくても、心は繋がっているから。

 

それで、いいんだ。

 

そう、その子は言った。

 

それがμ'sなりに出した、最後の答え。

 

「大した物だね」

 

そう呟いた時だった。

 

「転ぶわよ〜」

「だーいじょーぶ!それ!」

 

小さい女の子が、階段に向けて走ってきているのが見えた。

その子は勢いに任せて手すりに乗り、そのまま滑って降りてきた。

 

そして綺麗に着地。

両手を広げて、体操選手のようにポーズをとる。

 

「お見事」

 

拍手と共にそんな言葉を送る。

 

「えへへ!」

 

満面の笑みで返された。

この子の髪型、さっきの饅頭屋さんと同じだ。

この子も将来、スクールアイドルでもやりたいんだろうか。

 

「でも危ないよ。怪我をしてしまう」

「大丈夫だよ!」

「怪我をする子はみんなそう言うんだ」

「私は大丈夫!」

「そうかい」

「すいませーん。もう、危ないでしょ」

「さっき言われたよー!」

 

この子のお母さんが追いついてきた。

軽く会釈をしてから、手を引いて歩いていく。

 

別れ際、笑顔と共に手を振ってくれた。

あれは将来美人になる。

 

その後すぐに、Aqoursのみんなが戻ってきた。

みんな、いい笑顔だ。

 

「ハルくん、結局上まで来なかったね」

「あそこはスクールアイドルの聖域だよ。俺が踏み込める領域じゃない」

「なにそれ」

 

笑われた。

まあいいか。

 

 

 

 

帰りの電車。

人気のない駅に電車が停まった。

根府川あたりだろうか。

 

海が少し遠くに見える。

ぼーっと海を見ていたら。

 

「ねえ!海、見に行かない!?みんなで!」

 

不意に、千歌ちゃんがそう言った。

そしてそのまま電車の外に行ってしまった。

 

「千歌ちゃん!」

 

みんな、弾かれたように走っていく。

俺も、後を追った。

 

 

 

 

海まではすぐに着いた。

 

水平線に飲まれる直前の太陽が、海を赤く染め上げる。

内浦とはまた違った海の景色。

 

「私ね、わかった気がする。μ'sの何がすごかったのか」

 

海を見ながら、千歌ちゃんが言う。

 

「多分ね、比べたらダメなんだよ。追いかけちゃダメなんだよ。μ'sもラブライブも」

 

μ'sは、何かを追いかけてアイドルをやっていた訳ではない。

みんなの夢を乗せて、自由に走って、飛んだ。

 

でもそれは、目標が無いってことじゃない。

目標も、自分たちで決めたんだ。

そこに向かって、走った。

 

自分たちが本当にやりたいことを、目標にしたんだ。

そんなμ'sの目標は、何だったのか。

 

それは、今となってはわからない。

でも、彼女たちはちゃんと、そこにたどり着いた。

 

そして。

 

「Aqoursは、どこに向かって走っていくんだい?」

 

Aqoursの目標は、何なのか。

 

「私は、ゼロをイチにしたい!」

 

0を1に。

そうやって、千歌ちゃんははっきり言った。

 

「あの時のまま、終わりたくない!」

 

千歌ちゃんのその声に、反論する者はいなかった。

みんな、同じ考えのようだ。

 

μ'sの背中を追うんじゃない。

彼女たちに考えて、見つけた、ゴール。

 

9人が、円陣を組む。

親指と人差し指を伸ばし、みんなで一つの大きな0を作る。

 

そして。

 

「ゼロからイチへ!今、全力で輝こう!Aqoursー」

 

『サンシャイン!!』

 

みんなが、手を掲げる。

その手が示すのは、人差し指で作られた1。

 

 

 

 

駅で、改めて電車を待つ。

横に立つ千歌ちゃんの表情は明るかった。

 

「答え、見つけたんだね」

「うん!」

「そうかい。それは良かった」

「うん!」

「その目標、大事にするといい」

「ハルくん?」

「俺にはできなかったんだ。そんな風に走ることは」

「どうして?」

「どうして…まあ、良くも悪くも普通だったからかなあ」

 

でもそれだと、普通の人は高校時代に大きな目標なしで生きてるみたいだな。

それは違うし…。

 

「まあとにかく、目標持って走り抜けるなんて、誰にでもできることじゃないんだ。頑張ってくれ」

「ハルくんは」

「ん?」

「ハルくんは、今は目標はないの?」

「俺かい?…そうだね…」

 

俺の、今の目標。

売り上げとか、最近傷つき方が大きい俺の名誉回復とか、いろいろあるが…

 

一番の目標は、まあこれしかないだろう。

 

「君たちの手助けをすること、かな」

「それ、目標なの?」

「君らの目標が達成されれば終了だからね。そういう意味では、君らと同等と言える」

「屁理屈だね」

「大人なんてそんなものさ」

 

そんな会話をしている時だった。

 

空から、羽が落ちてきた。

真っ白の羽。

 

そしてそれは、ゆっくりと千歌ちゃんの手元に降りてくる。

 

驚いた。

この翼は…

 

「きれい…」

「…そうだね」

「なんだろう、これ」

「何って、そりゃ…」

 

鳥の羽。

そう言おうと思った。

 

でも、思い出した。

饅頭屋さんでの出来事。

 

「…バトン…かな」

「バトン?」

「そうだよ。想いをつなぐバトン、だそうだ」

「…そっか」

 

 

μ'sの想い。

 

μ'sの背中を追っていては決して手に取れないそのバトン。

 

それは今、Aqoursに、伝わったのだ。

 




ご視聴ありがとうございました。
ここまで閲覧頂いた方、誠にありがとうございます。

アニメ本編に関しては、アニメ2期がやらない限りはここで一区切りとします。
理由は、ここが一番区切りがいいと判断したからです。

ここからは、ちまちままったりした話を書いていくつもりです。
よろしければ、今後もお付き合いください。

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