案の定1日空いてしまいました。
アニメ12話の前半になります。
ラブライブ予備予選の結果発表。
それが、今日行われる。
発表自体は、スマホからも閲覧することができ、俺と梨子ちゃんも一緒に結果開示の瞬間を持っている。
大手の喫茶店で、紅茶を片手に優雅に待機である。
昨日千歌ちゃんと電話で話した限りだと、とても緊張しているようだった。
むしろライブ前より緊張しているようにも見えた。
逆に、梨子ちゃんは案外落ち着いている。
「梨子ちゃん、あまり緊張してなさそうだね」
「さすがにそんなことないけど…」
「けど?」
「みんななら、大丈夫。そう信じてるから」
「…そうかい。それはいいね」
「逆にハルさんはだいぶ緊張しているのね」
「お?なんでそう思うんだい?」
「いや、何でって…」
そう言って梨子ちゃんが、俺のティーカップを指差す。
「それ、何いれてるの?」
「甘いのが飲みたくてね。砂糖だよ」
「それ塩よ」
「似たようなものさ」
「さすがに動揺しすぎでしょ」
そんなことはない。
あれ?
この紅茶何かしょっぱいな。
「ハルさん、Aqoursの事になると本当に落ち着かなくなるのね」
「誰かにそう聞いたのかい」
「ダイヤさんたち…3年生のみんなが言ってたわ」
「確かにあの子たちなら言いそうだ」
そんな話をしていた時だった。
スマホに映されていた画面が切り替わる。
はっきりと浮かび上がる文字。
『予選通過者発表はこちら』
意を決して、ボタンを押す。
「Aqoursの…『あ』は!?」
一番上に表示されてる文字。
『イーズーエクスプレス』
血の気が引いた。
スマホを落としそうになる。
「そんな…」
「ハルさん、一応言っておくけどそれ、エントリー順だから名前は関係ないわよ」
「…知ってたさ」
「本当に嘘がつけないのね」
気をとりなおして、『Aqours』の文字を探す。
そして。
「…あった」
上から4つ目。
そこにはっきりと表示される。
『Aqours』
その名前。
「はあああ〜。よかった…」
「ふふ。やっと気が休めるわね」
「隠してたけど、相当緊張してたんだよ」
「まだ隠してたつもりなの!?」
とりあえず、おめでとうと連絡をしよう。
そう思ったが。
「…俺より先に、言葉を送るべき子がいたね」
「ハルさん?」
「電話、してあげてくれ。あの子たちに」
「そうね」
電話をかける梨子ちゃん。
すぐに繋がったらしい。
向こうの様子は当然見えないけど、雰囲気は良さそうだ。
次は、9人で。
そうやって梨子ちゃんが言ったのを、はっきりと聞き取った。
行ける事、信じてるよ。
そんな事を考えて、紅茶に手をつける。
「しょっぱ!何だい、この紅茶は…」
誰ですか、俺の紅茶に塩入れたのは。
器用ないたずらするなあ。
※
「入学説明会希望者?」
『うん…また0人だったの…』
「そうかい」
今回の予選突破を機に、Aqoursはかなり有名なスクールアイドルとなった。
街じゃかなりの知名度となっただろうし、動画の再生数も、これまでとは桁違いに増加している。
でも、入学希望者がそれで増えるかと言われたら、また別の話。
こういうのも、そんなに珍しい話ではない。
『なんで増えないのかなぁ』
「例えば、だ。あるところに、野球が大好きな中学生がいたとする。実力は中の中だ」
『うん』
「その子の街の高校が、あるとき少人数ながら甲子園でベスト4に入ったとしよう」
『うん』
「高校は少人数のままで、入部すればすぐにでもレギュラーをつかめるかもしれない。その子は野球が大好きだが…少年はその高校に入学すると思うかい?」
『…わかんない』
「少年は思うのさ。『あの人たちは特別だった。俺にはできない。足を引っ張るのはごめんだ』ってね」
『…それは…うん』
かつて、千歌ちゃんもそういう考えを持ってた事はあるんだ。
否定はできないだろう。
『でも』
「うん」
『環境とか、今の状況とか、言い訳にしたらダメだと思うの!』
「…うむ」
『それが分かった上で、スクールアイドルやってるんだもん!』
「そうかい」
悪くない考えだ。
停滞的な考えをするより、がむしゃらにでも前を見るその姿勢は、千歌ちゃんらしくていい。
「それで、何かやりたい事でも考えてるのかい?」
『うん…あのね、μ'sは、この時期にはもう廃校は阻止してたんだって』
「ああ、そうなのかい」
さすがだ。
そもそも、生徒の形成する一グループが、学校の存続に影響を与える事自体がすごいというのに。
『でね、もう一度、東京に行こうと思ってるの』
「ほう」
『μ'sと私たち、どこが違うのか。どうしてμ'sは、音乃木坂を救えたのか。何がすごかったのか。この目で見ておきたいんだ』
「いいんじゃないかい」
『うん。みんなも、賛成してくれたんだ』
「そうかい。じゃあ頑張ってくれ」
『あれ?ハルくんは一緒に来ないの?』
「俺は明日には帰る予定なんだ。君たちが来るのは明後日なんだろう?」
『えー!梨子ちゃんは滞在期間1日延ばしてくれるって言ってたよ!』
「東京でもう一泊となると、かかる費用も馬鹿にならないんだよ」
『そこをなんとか!』
「無い袖は振れないんだ」
『けちー!』
「悪いね。それじゃ」
電話を切る。
新幹線も電車も、乗車券自体はまだ買っていない。
つまり、急ぐ必要はない。
だが、宿泊費が持たない。
そもそも、ホテルも取れるか分からないしね。
と、思っていたのだが。
「…は?電車が止まった?」
「はい。申し訳ありませんが、人身事故が発生していまして」
「…それ、解除されるのにどれくらいかかるんですか?」
「まだなんとも言えませんが、今日中は厳しいかと…」
「…なんてこった」
千歌ちゃんと電話した翌日の事だった。
人の多い時間は避けたかったので、夕方に出て遅い時間に沼津に着くようにしようと思っていた。
そしたらこの事態である。
人身事故によって電車が動かない。
「さすがにこれは予想してなかった」
いきなり交通手段を断たれてしまった。
車は無い。
タクシーなど問題外。
バスは昨日の段階で予約が埋まっていた。
「カラオケかネットカフェかなあ…」
とりあえずは一晩明かして、早朝に帰ろう。
そう決めた時だった。
『ブルルルルルル』
携帯のバイブ音。
電話だ。
梨子ちゃんからだ。
「はいもしもし」
『あ、ハルさん?』
「ああ、そうだよ。どうしたんだい」
『いや、電車止まったって聞いてたから。大丈夫かなって』
「そのことかい。まあちょうど足止めを食らったよ」
『え?それって大丈夫じゃないじゃない』
「まあ1日くらいは大丈夫さ」
『どうするの?』
「まあこの辺だとカラオケかな」
『なっ体壊すわよ?』
「夏だし、1日くらい大丈夫さ」
『他に泊まれる場所ないの?』
「お金の問題もあるんだ」
そこまで言ってから、梨子ちゃんが少し黙ってしまった。
少ししてから、また声が聞こえた。
『…ねえ』
「ん?」
『宿泊分のお金が浮いたら』
「うん?」
『その分、明日私たちと行動できない?』
「…仮にそんな手段があればね」
『じゃ、じゃあ…うち、こない?』
「…へ?」
人生初の女の子宅でのお泊まり。
それはまさかの、女子高生宅でした。
寝た部屋?
キッチンで寝たよ。
ご視聴ありがとうございました。
アニメの13話については、本作品では扱わない予定です。
なので、次の話で、アニメ関係はラストとなります。
以降は、適当な日常の話でもしたいなと思っております。
それでは、なにかありましたらお願いします。