今回はアニメ関係ありません。
東京-沼津間。
新幹線を使うと4500から5000円程度。
要する時間は約一時間半。
「往復で1万円近くかかるけど…大丈夫だったの?」
「さすがに、君たちの晴れ舞台でケチケチしてられないよ」
梨子ちゃんと、そんな話をする。
今いるのは、東京。
梨子ちゃんが案内してくれたカフェで紅茶を飲んでいる。
「そう言ってくれるのはありがたいけど…無理してない?」
「ここで君の演奏を見なかったら、それこそ後悔でやってられなかっただろうからね」
「…もう。簡単に言うのね」
「事実だからね」
今日は、8月21日。
千歌ちゃんたちのラブライブ予備予選と、梨子ちゃんのピアノコンクールがあった翌日だ。
※
Aqours全員の晴れ舞台を見届けるつもりだった。
梨子ちゃんだってAqoursの一人なのだ。
場所がみんなとちょっと違うだけで、見ないなどありえない。
でも、物理的な距離が邪魔をする。
どうしようもない、この移動距離。
神様なんて、普段はお腹が痛くなった時しか頼らないが、今回は頼み込んだ。
淡島神社で、心を込めてお参りした。
そんな時。
運は俺に味方した。
千歌ちゃんたちの発表順位は、くじの結果先頭になった。
梨子ちゃんの発表はかなり後ろの順番だった。
淡島神社で、土下座してお参りした甲斐があったのだ。
そんなわけで、千歌ちゃんの発表を見てすぐに東京へ発った。
ぎりぎりではあったが、梨子ちゃんの発表は見ることができた。
ライブも、ピアノも、見に来て良かったと心底思える出来だった。
表彰式も終わり、余韻を味わうように、会場のロビーで休んでいた時。
後ろから、声を掛けられた。
「ハルさん、本当に来たのね」
「お疲れ様、梨子ちゃん。ちゃんと行くって言ってあったろう。約束は守るのが、大人のマナーなんだ」
「子供でも守るわよ?」
「それはそうだね。これは失言だった」
「ふふふ。千歌ちゃんたち、どうだった?」
「完璧だったよ。千歌ちゃんと曜ちゃんの連携も、文句無しだったさ」
「そう。よかった」
「君の演奏も、とてもよかった。来てよかったよ」
「そ、そう///」
自分が褒められるのは慣れてないのだろうか。
照れているように見える。
でも、このレベルの演奏なら褒められるのは慣れているだろうに。
「わ、私も、ハルさんに聞いてもらえて…」
「ん?すまないが音量を上げてくれるかな」
「なんでもないですっ」
「そ、そうかい」
「ね、ねえ」
「ん?」
「私の演奏、よかったのよね?」
「ああ。感動したよ。賞も取ってたんだし、客観的に見ても魅力的な演奏だったんだろうさ」
「だ、だからそのね…」
「?」
なんか梨子ちゃんに落ち着きがない。
どうしたんだろうか。
「な、撫でて欲しいな…って///」
「ああ、そんなことかい」
椅子から腰を上げ、梨子ちゃんの前に立つ。
綺麗な梨子ちゃんの髪を傷つけないよう、優しく撫でる。
「…こうされるの、好きなの///」
「いいじゃないか」
「ハルさんは、嫌じゃない?」
「まさか。役得だよ」
「ふふ。そっか」
「して欲しい時はいつでも言うといい」
「…うん。ありがとう」
そんな話をしていた時だった。
少し向こうから、梨子ちゃんによく似た女性がやって来た。
「梨子ー。そろそろ…ってあら。お邪魔だったかしら」
「え、お、お母さん!?ち、違うの、これは!」
「あ、梨子ちゃんのお母さんでしたか。初めまして。自分、アワイと申します。梨子さんには普段からお世話になっております」
「あ、じゃああなたが『ハルさん』なのね。こちらこそ、娘がお世話になってます。お話は、梨子からよく聞いてますよ」
「そうですか。どんなお話か気になりますね」
「今日はどういう話をしたーとかですね。いつも、優しい優しいって…」
「ストップ!ストップ!」
梨子ちゃんが割り込んできた。
どうやらセクハラ発言に関しては伝わってないらしい。
安心である。
「お、お母さん、今日はいいでしょ!それよりほら、晩御飯食べに行くんでしょ!」
「あらあら。あ、ハルさんもどうですか?色々、聞きたいこともあるんですよ」
「ご一緒していいんですか?」
「ええ、梨子も喜ぶでしょうし」
「お母さん!」
結局、ご一緒させてもらった。
普段お世話になってるからと言われて、きっちり奢ってもらってしまった。
ありがたいが、大変申し訳ない。
「すみません、出してもらっちゃって」
「いえいえ。あ、ハルさん、明日何かご用事でもありますか?」
「明日ですか?いえ、特にやる事も無かったので、適当に観光でもしようかと思ってましたから」
「じゃあ、この子も一緒にどうですか?」
「ええ!?」
「梨子ちゃんも一緒に…ですか?」
「ええ。そこそこ住んでいますし、道案内くらいはできると思いますよ」
「ありがたいですけど、梨子ちゃんに悪い…」
「大丈夫です!」
「そ、そうなのかい」
「じゃあ決まりですね。ハルさん、明日のデート、お願いしますね」
「あっはっは。リードされるのは俺ですけどね」
「あら、そうでしたね」
「ふ、二人で私をからかって…!バカー!!」
「ぐえ!」
俺の腹に一発ぶち込んで、梨子ちゃんは走って行ってしまった。
痛い。
「あら〜。じゃあハルさん、明日はお願いしますね」
※
そんな理由で、今は梨子ちゃんとデートしている訳である。
「この後どうしようか」
「ハルさん、どっか行きたいとこある?」
「行きたいとこ…そうだね。あ、電気街かな」
「電気街?…秋葉原のこと?」
「ああ、そうだね」
「何か見たいものがあるの?」
「いや、単純に電化製品を…」
「前から思ってたけど、ハルさん、電化製品見るの好きなの?」
「機械いじりとか、男はみんな好きなんだよ」
「そうなの?」
「そうなんだ」
「じゃあ行きましょうか。他に見たいものとかあったら言ってね」
「こちらとしては、梨子ちゃんに先導を任せたいのだがね」
「住んでいると、案外観光の場所っていうのは分からないものなのよ」
「ああ、なんかわかるよ」
秋葉原に着く。
そっから先は、割と普通のデートだった。
適当に電化製品を見て、その価格を見て二人で苦笑いをした。
羽のない扇風機も売っていた。
服の店では、せっかくなので試着をしてもらった。
元が可愛いので、どんな服も合うなーとか思っていた。
ゲームセンターにも行った。
二人で1000円ほどかけて、ぬいぐるみをとった。
ダンスゲームで勝負したら、トリプルスコアの差をつけられて大敗した。
そりゃ勝てんよ。
気付けば日は沈み、星も見え始める時刻になっていた。
「晩御飯、どうだったかな」
「すごくおいしかったわ。ハルさん、あんな場所よく知ってたわね」
「修学旅行で来た時に行ったことがあったんだ。まだあってよかったよ」
「へー…そういうの、覚えてられるものなのね」
「なぜか忘れてなかったんだよね」
今いるのは、東京タワー最上階。
ここだけは、必ず行っておきたかったのだ。
「スカイツリーじゃなくて、東京タワーなのね」
「修学旅行の時に来たことがあってね。ここからの夜景を見てみたいと、ずっと思ってたんだ」
「そうなんだ」
「悪いね、付き合わせて」
「…私が、一緒に来たいから来てるのよ」
「そうかい。ありがたいね」
梨子ちゃんも東京タワーに来たかったらしい。
偶然行きたいところが同じでよかった。
「多分、私の気持ちは伝わってないんだろうなあ…」
「?」
違うのか?
仕方ない。
何か別の話題でもするとしよう。
「昨日も言ったけど、君の演奏、素晴らしかったよ」
「急にどうしたの?」
「なんとなく、ちゃんと伝えたくてね」
「ふふ。ありがと」
「緊張はしなかったのかい?」
「しなかった、なんてことはもちろんないわ」
でも、と言って、梨子ちゃんは続ける。
「みんなと、一緒にやってるんだって思ったら、緊張より楽しさの方がずっと大きかったの」
「そうかい」
スランプになっていたと、梨子ちゃんは言っていた。
大好きだったピアノが、弾けなくなってしまったと。
とても辛かったはずだ。
苦しかったはずだ。
でも、彼女はそれを乗り越えた。
ピアノを、楽しく弾けたと言った。
「よかった、本当に」
思わず、口をつくそんな言葉。
「人のこと、そこまで心配してたの?」
「当たり前だろう」
「ハルさんにとっては、人の心配は当たり前なのね」
「友人を心配するのに、理由も条件もいらないだろうさ」
「そう…そうね。千歌ちゃんも、いえ。Aqoursのみんなも、お互いを大事にしてるものね」
「君だって、その一人だ」
「ええ。そうね」
「それに、だ」
「ん?」
「俺は、女の子には優しいんだ。心配するのも、大事にするのも当たり前だね」
「ふふ。ハルさん、やっぱり千歌ちゃん以上に変な人ね」
「どういうわけか、よく言われるよ」
「でも、そんなハルさんだから…」
腕を、組まれた。
暗いから怖いんだろうか。
それとも、人肌が恋しくなったのか。
なんにせよ、振り払うつもりもない。
「好きに、なったのよ」
囁くように、何かを呟いた梨子ちゃん。
周りの音もあって、あまりよく聞き取れなかったけど。
悪い気分では、なかった。
ご視聴ありがとうございました。
アニメ全く関係ない梨子ちゃんのお話でした。
といういかイチャイチャするだけでした。
次回から、また本編に合流します。
それでは何かありましたらお願いします。