Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
アニメ11話の話になります。
タイトル悩みましたが、マリーちゃんがいい味してる話だったので、そこからいただきました。


嫉妬ファイヤーと布屋さん

真夏の太陽が、容赦なくプールを熱する。

その熱は、プールにばらまかれた水を躊躇いなく蒸発させ、湿度を上昇させる。

 

水は蒸発するとき熱を奪う。

それを利用して涼しくなるのが、水撒きだ。

 

だがそれは、この高音高湿度の環境下では、まさに焼け石に水という状態なのだ。

つまり。

 

「もう、帰りたい」

「文句言ってないで、手を動かすのですわ!」

「…なんで俺が、こんなことを…」

 

 

 

梨子ちゃんが東京に行った当日のことである。

見送りには俺も参加しており、見送りも済んだし、店に戻ろうとしたときだった

 

「ハルさん、今日はまだ仕事が残ってますわ」

 

そうダイヤちゃんに呼び止められた。

そのまま部室に連れて行かれ、ミーティングにも参加。

 

俺は必要ないだろうと思いつつも聞いていたときだった。

 

ダイヤちゃんが特訓と称して、プール掃除を一同に言い渡したのだった。

 

「もちろん、ハルさんも参加ですわ」

「え、いや、仕事あるから…」

「今日は月曜ですわ」

 

背景からすごい音が聞こえてきそうな気迫で迫られた。

断れませんでしたとさ。

 

 

 

「ずらー!」

「ぴぎゃー!」

 

花丸ちゃんとルビィちゃんが転倒した。

床は、かなりつるつるだし仕方ない。

 

あ、立ち上がろうとしてまたこけた。

 

「ハル、大丈夫?」

「暑すぎて死にそうだよ」

「日ごろから外に出てなーいですからねー」

「そうなんだよ。暑さに耐性が全くできてないんだ」

 

果南ちゃんとマリーちゃんに同情される。

女子高生に同情される20歳の姿である。

 

「まあでも、みんなで約束したもんね。生徒会長の仕事は手伝うって」

 

それはAqoursのみんなだね。

俺は関係ないね。

 

と、考えた直後だった。

 

「そうだよ!みんなちゃんと磨かなきゃ!ヨーソロー!」

 

そんな声が響いた。

こんな中でよく元気を保てるものだ。

 

そんなことを思いつつ、声の方を見る。

 

「デッキブラシと言えば甲板磨き!となれば、これです!」

「…水兵?」

 

そういう服装をしていた。

よくは知らないが、少なくとも、今この場に似つかわしい服ではないのだけはわかった。

 

「どうハルくん?ってうわー!」

 

感想を聞いてきた直後にこけた。

 

「ああ、似合ってるよ、可愛い可愛い」

「そっかー。えへへ」

「あなた!その格好はなんですの!?」

 

ダイヤちゃんはお怒りのようだった。

 

掃除が完了したのは、それから数時間後。

相も変わらず太陽は絶好調だが、プールの滑りはとれたので、もう転倒することはなさそうだ。

 

「そうだ、ここで1回ダンスレッスンやってみない?」

「…危ないんじゃ…」

 

と言ったが、案外みんなは乗り気なようで、その提案を飲んでいた。

まあ、かなり滑りにくくはなったし大丈夫…か?

 

みんなが各々のポジションにつき、スタートしようかというタイミングになったとき。

 

「…あれ?」

 

千歌ちゃんが、ことの重大さに気付いた。

 

本来梨子ちゃんがいたそのスペース。

当然、今は空白だ。

 

奇数人でのダンスは、基本的には必ず真ん中が存在する。

それに対して偶数人の場合は、中心がない。

中心を作ろうとすれば、左右での対象性が取れなくなる。

 

つまりは。

 

「今の形は、少し見栄えがよろしくないかもしれませんわね」

 

ダイヤちゃんが言った。

まあそういうことである。

 

彼女らのできる選択は2つ。

ダンスそのものを変える。

 

もしくは

 

「誰かが、梨子ちゃんの代わりに入るか…」

 

代役を立てる。

梨子ちゃんの代わりに、千歌ちゃんと最も上手に連携が取れるであろう人物。

みんなの答えが出るまで、そんなに時間はかからなかった。

 

自然に、その人物に視線が集中する。

 

「…え?私!?」

 

曜ちゃん。

俺も、君が適任だと思うよ。

 

 

 

そんなわけで、2人で合わせる練習をする。

流れで、俺もその場に居合わせることにした。

 

しかし。

思いの外、うまく連携が取れない。

 

2人が背中合わせになる動き。

そこで必ずぶつかっている。

 

「私が悪いの。同じとこで遅れちゃって」

「ああ違うよ。私が歩幅、曜ちゃんに合わせられなくて」

 

そんな感じで、失敗しては謝るを延々繰り返している。

両名共、よく頑張っているのはわかるが…

 

「案外、簡単にはいかないのね」

「これ、気持ちの問題もあると思うよ」

「ハート?」

「そうだね…心の問題って言ってもいいかもしれない」

 

マリーちゃんとそんな会話をする。

千歌ちゃんも曜ちゃんも、互いを気遣い過ぎだ。

 

そんな風に合わせるだけじゃ、いつまでたっても連携などできないだろうに。

 

「なんかハル、複雑そうだね」

「…なんというか、昔の君たちを見ているみたいでね」

 

簡単にいってしまえば。

じれったい。ものすごく。

 

 

 

1年生と2年生は先に帰ることになった。

そのまま俺は帰っても良かったのだが、まだあの2人の様子が気になったので、途中まで着いていくことにした。

3年生は、生徒会の事務仕事が残ってるんだそうだ。

 

ダイヤちゃんのことだ。

どうせ自分一人でやろうとしていたんだろう。

果南ちゃんとマリーちゃんには見透かされていた。

 

帰りにコンビニに寄る。

1年生がアイスを食べてる間、千歌ちゃんと曜ちゃんは練習を続けていた。

 

俺はそれを見ているが…

やはり合わない。

 

どうしたもんか。

そう思っていた時だった。

 

「千歌ちゃん」

「ん?」

「もう一度、梨子ちゃんと練習してた通りにやってみて?」

「え?でも…」

「いいからいいから。ほら、いくよ」

 

そうして練習を始める。

今度は、ぶつかることはなかった。

 

曜ちゃんが、千歌ちゃんに合わせたのだ。

運動神経がよく、それでいてフォームを柔軟に変えていけるからこその芸当。

 

さすがだと思う。

けど…

 

『プルルルルルル プルルルルルル』

 

千歌ちゃんの携帯が鳴る。

着信らしい。

 

練習はここらで一区切りだろうし、コンビニに飲み物を買いに行く。

この時期は、冷たいお茶が美味い。

 

アイスのところが視界に入った。

 

そこにある、みかん味のアイス。

2つに割って食べられるそれは、昔、千歌ちゃんと曜ちゃんが分けて食べてたものと同じだ。

最近、そんな景色を見ていない。

 

帰り際。

曜ちゃんの持つビニール袋に、割られたまま食べられてない、そのアイスがあった。

 

 

これは…

 

 

このアイスはね。

2人で食べるから、美味しいんだよ。

 

 

 

その日の夜。

 

最近利用率が上がってきたSNSアプリで、曜ちゃんにメッセージを送る。

 

『今、少しいいかい』

 

返事はすぐ来た。

 

『どうしたの?』

『電話してもいいかい?』

 

送信してすぐに、曜ちゃんの方から電話が来た。

 

「もしもし」

『ハルくんどうしたの?珍しいね』

「ちょっと気になる事があってね」

『気になる事?』

「君の調子が悪そうって事についてね。気になってるんだ」

 

余計な話は思いつかない。

単刀直入に話を切り出す。

 

『…ハルくんにも、ばれちゃうんだ』

「他に、同じ事を言った人がいたのかい?」

『うん。鞠莉ちゃんにね』

「ほう。それはちょっと驚いた」

 

自分の境遇があったからこそ、声をかけるべきと判断したのだろうか。

 

「先に、マリーちゃんに言われた事を聞いてもいいかい?」

『いいけど…どうして?』

「同じ話をしたら恥ずかしいだろう」

『ああ、そういう…と言っても、話を聞いてもらうことが多かったから、鞠莉ちゃん自身はそんなに話してないよ』

「そうかい。あの子に聞き上手な一面があったとはね」

『鞠莉ちゃんに言われたのは…そう、本音をちゃんとぶつけなさいって』

「…なるほど」

『2年間も本音を言えなかった自分が言うんだから、間違いありませんって』

「…そうだね」

 

…やっべ。

困ったな。

言いたいこと、鞠莉ちゃんに言われちゃってるじゃないか。

 

しかも、経験のことを考えたら重みが違う。

俺が言うより、全然価値のある言葉になってしまっている。

 

だんまりが続いたからだろうか。

曜ちゃんがこちらの様子を気にしてくれた。

 

『…ハルくん?』

「ああ」

『どうしたの?大丈夫?』

「大丈夫だ。後輩に完全にいいとこ取られたからって、落ち込んでなんてないよ」

『隠す気はないんだね』

「正直困ってるんだ」

『ハルくんも、同じこと言うつもりだったの?』

「そうだね。本音でぶつからないと伝わらないよって、言おうとしてた」

『あはは、そのまんまだね』

「びっくりだよ」

 

ある意味、先に聞いておいてよかったのかもしれないが。

 

『…でもね』

 

電話越しに、曜ちゃんのトーンが下がる。

 

『本音って、どうやってぶつければいいんだろうって…』

 

ああ。

その悩みにやっぱり行き着いたのか。

 

彼女たちは、みんな俺とは違う。

言うべきことを考えて、言葉を口にする。

 

本音をポロポロこぼす俺とは、正反対。

だからこそ、俺とは違うところで悩むのだ。

 

『ぶつけるべき本音って、なんなのか、自分でもよくわからないんだ』

 

あはは、と

乾いた笑いが聞こえる。

 

表情は見えなくとも、本気で笑っていないことなど簡単にわかる。

 

こんな状態の曜ちゃんを、放っておけるわけない。

何か、手を考えるんだ。

 

ぶつけようにも、自分の本音がわからない。

曜ちゃんはそこで悩んでる。

 

だったら…

 

「だったら、千歌ちゃんの本音を聞くしかないね」

 

俺には、それしか思いつかなかった。

 

「明日まで待ってくれ。君に、千歌ちゃんの本音を見せてあげるよ」

 

 

 

 

 

次の日の夜。

結局私は、本音を打ち明けることはできなかった。

 

「はあ…」

 

今日もらったシュシュを見て、ついため息をついてしまう。

私、何やってるんだろう…。

 

ハルくんからも、連絡はまだない。

千歌ちゃんの本音って、なんだったんだろう。

 

そう思ってたときだった。

携帯に着信が入る。

画面に表示されているのは『桜内梨子』の文字。

 

それを見た私は、どんな表情をしてたんだろう。

きっと、複雑な顔をしてたんだろうな。

 

「…もしもし」

 

意を決して、電話に出る。

 

まず最初は、梨子ちゃんからごめんと言われた。

自分が抜けたとこ、埋め合わせしてもらったから、らしい。

 

それから、千歌ちゃんに合わせず自分のやり方をするようにと言われた。

千歌ちゃんも、そうして欲しいって思ってるから。

そう、梨子ちゃんは言った。

 

でも

 

「…そんなこと、ないよ…」

 

私は、そんな風に返してしまった。

ダメとわかっているのに、言葉はどんどん出てしまう。

 

「千歌ちゃんの側には、梨子ちゃんが一番合ってると思う。だって千歌ちゃん、梨子ちゃんといると嬉しそうだし」

 

わかってしまった。

多分、これが私の本音なんだ。

 

「梨子ちゃんのために頑張るって、言ってるし…」

 

少しずつ、目に涙が浮かんでしまう。

 

「…そんなこと、思ってたんだ」

 

梨子ちゃんが、言う。

 

少し、驚いたように。

少し、呆れたように。

 

「千歌ちゃん、前話してたんだよ?」

 

 

 

 

「ーうん、じゃあ」

 

電話を、切る。

 

梨子ちゃんが教えてくれた、千歌ちゃんの気持ち。

千歌ちゃんの、本音。

 

「千歌ちゃんが…」

 

そう、口にしたときだった。

 

「曜ちゃん!!」

 

声が、聞こえた。

慌てて後ろを振り返ったけど、そこには誰もいなかった。

 

気のせいかと思ったときだった。

 

「よーうちゃあーん!」

 

やっぱり、聞こえた。

聞こえたのは、玄関の方。

 

そこには。

練習着を着て、肩で息をしている千歌ちゃんがいた。

 

「千歌ちゃん…どうして?」

「練習しようと思って!」

「練習?」

「うん!ハルくんと話したの!やっぱり曜ちゃん、自分のステップでダンスした方がいい!」

 

突然のことに、私は言葉が出なかった。

それでも、千歌ちゃんは続ける。

 

「合わせるんじゃなくて、一から作り直した方がいい!曜ちゃんと私の2人で!!」

 

そうやって、言ってくれた。

 

思わず、言葉が詰まった。

流れそうになる涙を隠して、急いで玄関に走る。

 

『あのね、千歌ちゃん前話してたんだよ?』

 

『曜ちゃんの誘い、いっつも断ってばかりでずっとそれが気になっているって』

 

『だから、スクールアイドルは絶対一緒にやるんだって』

 

『絶対曜ちゃんとやりとげるって』

 

梨子ちゃんが教えてくれた千歌ちゃんの本音。

それが、頭に流れる。

 

玄関まで来たけど、泣いているとこ見られたくなくて

後ろ向きのまま、千歌ちゃんに近づく。

 

手だけ伸ばして、千歌ちゃんの肩に触れた。

シャツが、汗で濡れてる。

 

「…汗びっしょり。どうしたの?」

「バス終わってたし、美渡姉たちも忙しいって言うし…」

「…ハルくんは?一緒にいたんじゃないの?」

「なんでか知らないけど、今日は自転車で行きなさいって。もうわけわかんないよねー」

 

ハルくんに文句を言う千歌ちゃん。

 

「ハルくん、今日いきなりうちきてさ、ダンスはどうかって聞いてきたの」

 

「曜ちゃんが合わせてくれてるって言ったら、君はそれでいいのかいとか言ってきてね」

 

「そんなの、ダメに決まってるじゃんって返したの」

 

「っ!」

 

「だったら、ちゃんと練習してきなさいって言われたんだよ。じゃあ送ってくれてもいいのに!」

 

私はバカだ。

バカだったんだ。

 

「バカ曜だ…」

「バカ曜…?わあ!」

 

千歌ちゃんに抱きつく。

二人して、地面に倒れこむ。

 

涙は、もう止まらなかった。

 

「ちょっとー汚れるよー」

「いいの!」

「もう…風邪ひくよー?」

「いいの!」

「もう、恥ずかしいってー」

「いいの!」

「もー、何、なんで泣いてるのー?」

「いいのー!」

 

結局私は、不安だったのだ。

私は、千歌ちゃんには必要ないんじゃないかって。

 

でも

そんなことは全くなくて。

 

千歌ちゃんは、ちゃんと私も必要としてくれてて。

 

そんな本音を

千歌ちゃんは最初から、私にぶつけてくれてたんだ。

 

 

 

 

「もしもし?」

『あ、ハルさん?』

「ああ、どうだった?」

『どうって…普通に曜ちゃんと電話したよ』

「すまないね、手間かけて。その…あの子、元気なかっただろう」

『元々、穴埋めしてもらったお礼は言うつもりだったから。曜ちゃん、千歌ちゃんは自分を必要としてないんじゃないかって。そんなわけないのにね』

「まったくだよ。千歌ちゃんにとってみれば、君も曜ちゃんも、唯一無二だというのに」

『ふふ、そうね。そう言ってあげればよかったのに』

「状況が悪かったんだ。俺が言っても軽い言葉にしかならなかった。…まあ、それを理由に女子高生に頼むのも情けない話だが」

『適材適所ってことよ。それより、あの話本当なの?』

「ああ、時間はなんとかなりそうだよ」

『嬉しいけど、無理しない程度にね』

「注意はしておくよ」

 

 

 

 

「「こんにちはー!」」

「いらっしゃい。暑いのに元気だね」

「もう明後日が予備予選だからね!気合入ってるよ!」

「ヨーソロー!」

「そうかい、がんばってくれ。ああ、冷凍庫にアイスがあるよ」

「「わーい」」

 

2人が、奥の部屋に駆けていく。

 

冷凍庫にあるのは、みかん味のアイス。

2つに割って楽しむやつだ。

 

「最近、2人で食べていなかったようだからね」

「私はついこの前食べたよ?」

「2人で食べたわけではないだろう?誰かと食べるから美味しいんだ、それは」

「ハルくん…ふふ、そうだね!」

「なになに?なんの話し?」

「なんでもない、こっちの話しさ」

「そうそう」

「あー!2人で隠し事してるー!ずるいー」

「ハルくんが変態っていう事についてだよー」

「そんなの、隠れてないじゃん!」

「ちょっと待つんだ、今のはスルーできない」

 

誰が君たちの仲介役をやったと思ってるんだい。

…あ、梨子ちゃんか。

 

 

やってくるラブライブ予備予選。

決戦の日は、明後日だ。

 

 




ご視聴ありがとうございました。
書いてて思ったのは、この話は主人公なくても成立するなあと。
友情テーマのお話ですしね。
あと、挿入歌の『想いよひとつになれ』はとても好きです。
歌ももちろんですが、絶妙に梨子ちゃんを描写していく演出がたまらんです。

またストックが尽きたので、どこかで1日空くかなと思います。
それでは、何かありましたらお願いします。

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