Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは
アニメ本編の10話前半になります。



合宿と布屋さん

今日から学校が夏休みに入る。

その知らせを聞いたのは、1週間ほど前のこと。

 

毎年、当たり前に訪れるこの長期休暇は、俺のモチベーションを非常に下げるイベントだ。

 

「今日から実に1ヶ月…その間、女子高生がここを通ることはない…」

 

背もたれに体を預けつつ、そんなことを呟く。

目線の先は、もちろん浦の星女学院。

 

ただでさえ暑くて滅入るというのに、さらにはモチベーションまで削られる。

 

「はあー」

 

ため息をやめろと言われても、無茶な話である。

 

「もー、ハルくん、いつまでそうしてるのー?」

「私たちが来てから、もう5分くらいそうしてるよね」

「高校生にとっては、夏休みはビッグイベントなんだよ。外せなんて言われても、それこそ全国の高校生を敵に回すよ」

「…そりゃあ、わかってはいるんだがね」

 

でも、考えてしまうものは仕方ないのだ。

本日来ているのは、2年生3人組である。

 

 

千歌ちゃんが、何かを思い出したように話を始めた。

 

「あ、そういえばね!私たち、合宿をやることになったんだよ」

「合宿…かい?」

「そう!μ'sもやってたみたいだからね!」

 

今日の活動中、ダイヤちゃんが夏休みの特訓メニューを開示したらしい。

その内容はかなりハードだったらしく、千歌ちゃん、曜ちゃん、果南ちゃんがしなくてはならないお家の手伝いに支障が出るものだったようだ。

そこで、練習時間を夕方から夜に拡張するため、合宿をすることにしたんだそうだ。

 

「そうかい。いいんじゃないかい?」

 

泊まる場所は千歌ちゃんのお家らしい。

まあ差し入れくらいは考えておこう。

 

「ちなみにこれ、ダイヤちゃんが最初に提示した練習メニューだよ」

 

そう言って、曜ちゃんが写真を見せてくれる。

円グラフの形状になったそれには、練習メニューの時間バランスが記されていた。

 

「…なんだい、これ。拷問か何か?」

 

遠泳15km、ランニングも15kmに加えて、当然のダンスレッスンに発声練習。

さらには

 

「精神統一?」

 

練習…なのか?

逆に見てみたい気もするが。

 

巻き込まれるのは勘弁なので、夕方には行かないでおこう。

 

「いつからなんだい?」

「明日だよ」

「また随分急だね」

「ダイヤさん、張り切ってたからねー」

「空回り、しなきゃいいけどね」

 

昔からそういうタイプだし。

 

「ちなみに明日は朝4時に海の家集合だって」

 

訂正。

すでに空回っていた。

 

電車もバスも、まだ動いていない時間だろうに…。

 

と、そこで気付いた。

どうも、さっきから梨子ちゃんの言葉がない。

気になってそちらに目をやると、なんだか考え事をしているようだった。

 

どうしたのか。

そう聞きたいところだが、ここでは話しにくいだろうと思い、ひとまず保留。

 

何もないといいのだが。

 

 

 

 

朝4時。

さすがに、本当に来た子はいないだろうと思いつつも、一応海へ出向く。

電車はなくとも車はあるのだ。

 

もしAqoursの誰かがいたとしたら、さすがに暇だろうし、何より危ない。

念のための様子見である。

 

 

 

「あ、ハルさん!おはようずらー!」

「…本当にいたよ」

 

遠くから人影が見えた時はまさかと思ったが、花丸ちゃんがそこにいた。

素直すぎる。

 

「おはよう花丸ちゃん。他に人は?」

「丸以外、誰も来てないずら…」

「…だろうね」

「しゅ、集合時間、4時って言ってたずら!」

「…ダイヤちゃんは後でお説教だね」

 

 

 

「やあっほーう!」

「まっぶしー!」

 

海に向かって走っていく、千歌ちゃんと曜ちゃん。

それにつられて、海へ飛び込んでいく数名。

 

海岸に残っているのは、ダイヤちゃん、梨子ちゃん、花丸ちゃんに善子ちゃんだ。

 

ちなみに俺は引率となった。

先ほど、花丸ちゃん以外のメンバーが来始めたくらいのタイミングで、志満さんがいらっしゃった。

そこで、引率を頼まれたのである。

 

もちろん、店が暇な時間に少しだけ見に来るくらいだが。

 

え?いつも暇?

それが意外に夏休みには人が来るんだ。

エアコンの修理をしてくれ、とかでね。

…仕事内容がおかしいのは、さすがに自覚している。

 

 

 

「今年も、ここのお手伝いなんだね」

 

お世辞にも綺麗とは言い難い様相の海の家。

時々、こちらの手伝いに来ることもある。

 

とはいえ

 

「横のお店、だいぶ賑わってるね」

「去年も売り上げではだいぶ負けてたからね」

 

そろそろお手伝いも必要なさそうだ。

なんて思っていたのだが。

 

「今年は、そうはいきませんわ!」

 

ダイヤちゃんがやけに張り切っている。

どうやら、売り上げを向上させるつもりらしい。

 

成功したら、うちの店の売り上げも向上させて欲しいものである。

 

「「…これ、なあに」」

 

妙な格好に身を包んだ千歌ちゃんと梨子ちゃんが言う。

ごもっともな発言である。

 

「それで、海の家にお客を呼ぶのですわ!」

 

…あれで呼べるのか?

2人の今の格好は、箱から手足と顔だけ出したような状態だ。

箱には『海の家』と書いてある。

 

ダイヤちゃんは、海の家の屋根の上から演説している。

彼女はバカではないはずだが、今日は高いところが好きらしい。

 

「とおうっ!」

 

そのまま飛び降りたかと思えば、チラシを果南ちゃんに手渡す。

なんかよく聞こえないが、果南ちゃんにチラシ配りを任せるようだ。

 

まあスタイルいいしね。

人の目は大いに惹けるだろう。

 

ダイヤちゃんの言葉の中に

 

「他のジャリどもでは女の魅力に欠けますので!」

 

というセリフがあった気がするが、気のせいとする。

 

「そして、曜さん、鞠莉さん、善子さん」

「ヨハネ!」

「あなた方には料理を担当してもらいますわ!」

「ええっ?」

「どうかしましたか?ハルさん」

「ああ、いや、なんでもないよ…」

 

曜ちゃんはまあ大丈夫だ。

うちでご飯を作るときには結構手伝ってもらっているしね。

 

善子ちゃんとマリーちゃんは…

激辛と、見た目超軽視型の料理をしていた記憶があるのだが…

 

そんなことを考えている間に、話はまとまったようで

 

「じゃあ…レッツ、クッキーング!」

「「おー!」」

 

となってしまっていた。

不安だ。

 

そう思いつつも、俺は店に戻った。

 

 

 

夜。

店の戸締りをして、再び彼女たちのところへやって来た。

 

そこにいたのは、ドラム缶に貯めた水で、全身の砂を落とす彼女たち。

手で触ってみたが、結構冷たかった。

 

あのプランを本当にやったかは不明だが、結構な距離を走っていたようだし、体幹トレーニングなどもきっちりやったそうだ。

 

「大したもんだねえ」

 

おそらく、今の俺が彼女たちと運動で勝負しても、まともに勝てないだろう。

 

「うう…冷やっこい…」

「我慢して。まだ砂落ちてないよ〜」

「まったく、お湯はないんですの?」

 

少しして

 

「あんたたちー!他のお客さんもいるから、絶対うるさくしたらダメだからねー!」

 

そんな声がかかる。

 

「わかってるー」

「言ったからねー!」

 

釘を刺しに来たのは、千歌ちゃんのお姉さんである、美渡さん。

目が合ったので、軽く会釈をする。

 

そしたら、手招きのジェスチャーをされた。

こっちへ来い、ということなのか。

 

「どうしました、美渡さん?」

「ハルくん、今日はどこに泊まるの?」

「どこって…普通に家ですよ?」

「え?でもそれじゃあ夜這いもできないよ?」

「ハナっからする気ないです。俺をなんだと思ってるんですか」

「千歌からは、変態って聞いてるけど」

「紳士です。女子高生に手は出しません」

「でも、みんな可愛いよー」

「それは同感ですが、夜這いって」

「でもほら〜。あの子たち、多分ハルくんに襲われても抵抗しないよ〜」

「おっさんですかあんたは」

「お姉さんだよ?」

 

ものすごいニヤニヤしながら言われる。

 

だいたい、9人で一部屋だったはずだ。

そんなとこでどうやって夜這いなんぞしろと。

 

「まあそれは冗談として」

「冗談が重いです」

「今日、というか合宿中はうちの方に泊まらない?」

 

ん?

 

「なんでですか?」

「決まってるでしょー。千歌たちが喜ぶから」

 

そうやって言う美渡さんは、さっきまでのようなニヤニヤした表情じゃなく、優しい笑顔だった。

このテンションの切り替えは、少しずるいと思う。

 

「俺、お金ありませんよ?」

「泊まるのは宿の方じゃなくて、私室の方だよ。部屋、余ってるんだ」

「でもさすがに、少し悪い気が…」

「女子大のサークルが、その一週間泊まりに来るんだよね。その相手もバイトとしてやってもらおうかな」

「なんなりとお申し付けを。命に代えても仕事を全うしましょう」

「あっはっは、それでこそハルくんだよ。変態は間違ってなかったねー。じゃ、部屋案内するから」

 

そのまま美渡さんに着いていこうとした時、後ろから声がかかった。

 

「あれ?ハルくんどっか行くの?」

「ん?ああちょっとね」

「私たち、これから海の家行くから、用が済んだら来てねー」

「りょーかい」

 

海の家?

この時間にお客さんは来ないだろうに。

そんなことを考えていたのだが。

 

 

 

「…これを、完食するのかい?」

「美渡姉が、余った食材は自分たちで処分しなさいって」

「…まあ、言わんとすることはわかるよ。ただ、これは…」

 

余っているもの。

そのほとんどは、マリーちゃんと善子ちゃんが作ったものだ。

 

シャイ煮と堕天使の涙。

 

シャイ煮は、相も変わらず見た目が悪いスープ。

作り方が前と変わっていないのなら、おそらく味はまあ良いんだろう。

 

堕天使の涙は、黒いたこ焼き。

この黒は…こげ、ではないのか?

 

なんにせよ、見た目がどちらも良いとは言い難い。

海の家で売るような商品としては、不適切だろう。

 

みんなが、まずはシャイ煮に口をつける。

彼女らも俺の時と同じで、見た目に反した味に驚いているようだった。

 

それを見て、マリーちゃんは嬉しそうである。

 

「ふっふっふ…シャイ煮は、ワターシが世界から集めたスペーシャルな食材で作った、究極の料理デース」

「…で、一杯いくらくらいするんですの?」

 

恐る恐るといった感じで、ダイヤちゃんが聞く。

 

「んー…一杯10万円くらいかな?」

「「「「「「「ぶーっ!」」」」」」」

 

事も無げに答えるマリーちゃん。

 

そりゃ売れんわ。

どこのアホが、万札10枚持ち歩いて海水浴に来るというのか。

 

「つ、次は堕天使の涙を…」

 

ルビィちゃんが、真っ黒なたこ焼きを口に入れる。

すると、その顔は徐々に赤くなっていき…

 

「ピギャ〜〜〜っ!!」

 

叫びながら外へ駆けていった。

 

「辛い辛い辛い辛い辛い〜〜!!」

 

そう叫びながら、同じところを走り回っていた。

 

「フッ」

「ちょっと、一体何を入れたんですの!?」

 

食ってかかるダイヤちゃん。

そりゃそうだよね。

 

「タコの代わりに大量のタバスコで味付けをした、これぞ…堕天使の涙!」

 

そう言いながら、堕天使の涙を口に放る善子ちゃん。

試しに1つ食べたら、数分間口の中が麻痺状態になった。

 

今度、Aqoursのメンバーで料理教室でもやるべきか。

そう考えさせられた。

 

 

 

夜中になった。

Aqoursのみんなもそろそろ寝た頃だろうか。

 

そんな事を考えながら、海岸を歩く。

自分の家以外で寝るのは久しぶりなのだ。

せっかくと思い、海の周りを散歩する事にしていた。

 

そんな時だった。

 

女の子2人の背中を見つけた。

千歌ちゃんと梨子ちゃんだ。

 

声を掛けようかとも思ったが、そんな雰囲気ではなかった。

合宿前に、梨子ちゃんが何か考え事をしているようだったし、そのことだろうか。

 

放っておくのも気が引けたので、いつ話しかけようかと考えている時だった。

 

2人で笑い合っている。

かと思ったら、梨子ちゃんがそのまま旅館に戻っていった。

 

千歌ちゃんは、少しの間動かない。

やがて梨子ちゃんに呼ばれて、その後を追っていた。

 

梨子ちゃんは笑顔だ。

千歌ちゃんも、笑っているようには見えた。

 

でもそれが

作り笑いだっていうことは、少し遠くからでもわかった。

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。
合宿期間中の主人公は、旅館から職場に行ってます。
ちゃんといつもの開店に間に合うように行ってます。

あと、合宿期間がどれくらいだったのか筆者は把握できておりません。
ご存知の方、お願いします。

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