Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは
9話の後半になります。
3年生が沢山出せて私は満足です。


新生Aqoursと布屋さん

『放課後、3人を部室に呼びました!詳しい話をここで聞くのです!』

 

敬礼するよくわからないキャラクターと一緒に、そんなメッセージが送られてきたのは少し前。

確か今日は、果南ちゃんの休学か明ける日だったはずだ。

 

そんな日からこうして3年を部室に呼びつけるとは。

 

「さすが千歌ちゃん。動きが早いね」

 

感心感心。

千歌ちゃんの事情聴取に、あの子達がどれだけ正直に答えてくれるものか。

 

3人が学校で顔を合わせたのは、ずいぶん久しぶりのこと。

ここで仲違いをすれば、おそらく今後にも支障がでるだろう。

 

今日、ちゃんと心の内を明かせるかどうかが、以後の生活に関わってくる。

 

「今日が勝負どころかな」

 

空を仰ぐ。

少し遠くに雲が見える。

 

「雨、降らないでくれよ」

 

外に出る予定なんてないのに、そんな言葉を口にしていた。

 

 

 

『果南ちゃんが怒って出て行っちゃいました(泣)』

 

そんなメッセージが届いたのは、心配していた雨が少しずつ降り始めていた時だった。

 

 

 

 

少しずつ降り始めた雨が、石の階段を湿らせる。

ところどころ、滑りやすくなっている階段を、注意して登っていく。

 

目的地は、私の好きな場所。

淡島神社。

 

ランニングのゴールで、隠れて歌やダンスの練習にも使う場所。

千歌達にはばれちゃったけど、昔は、私がここで練習しているのは、一人しか知らなかった。

 

『ここ、ダンスの練習にはいいんだよ』

『ほうほう。頂上なのに踊り場とは、なかなか洒落ているじゃないか』

 

その朴念仁はそんなことを言っていたっけか。

最高に寒いギャグだった。

 

『ちなみに今のは、ダンスの場所で踊り場っていうのと、階段の踊り場というのをかけていて…』

『いや、説明しなくていいから、余計に哀れになるから』

 

彼は納得いってなかったが、そんな彼しかここで私が練習していることは知らなかった。

 

何か悩んだり、落ち込んだりした時も、よくここに来ていた。

何も考えずにここで体を動かすと、それだけで気が晴れるのだ。

 

さっきまで、千歌達としていた話しを思い出す。

何を隠しているのかと聞かれた。

 

私が隠し事をしてるって、あの子達は確信していた。

 

それは正しい。

 

スクールアイドルが嫌いなわない。

まして、やりたくないなんて大嘘だ。

未練だってもちろんある。

自分でやりたいと言ったことをやりきらないなんて、私らしくないのもわかってるんだ。

 

でも、そんなことより

ずっとずっと大切なものが、私にはあるんだ。

 

「鞠莉の大切な未来を、私なんかが潰しちゃいけないんだ」

 

東京でのライブの時、鞠莉は足に怪我を負っていた。

そのまま踊れば、大けがになるかもしれないほどだった。

 

鞠莉の性格だ。

言ってもやめないのなんてわかってた。

 

だから、私は歌わなかった。

そうすれば、ライブは始まらずに終わるから。

 

鞠莉には、海外の学校への留学という話しが来ていた。

タイミングとしては、ここしかないと思った。

 

だから、スクールアイドルを私はやめた。

これで、あの子は正しい未来へ進めるから。

 

そう。

正しい、未来に。

あの子の進むべき未来に、私はいない。

 

「これで…いいんだよ」

 

すぐそこにある鳥居に向かってつぶやく。

誰に言ったのかもわからない言葉。

 

 

返事はない…はずだった。

なのに

 

「いや、残念ながらよくないんだ」

 

そんな声が、聞こえた。

 

 

 

 

果南ちゃんが出て行った。

そう連絡を受けた俺は、迷いなくこの神社に向かっていた。

 

ここに来ることに、根拠はないが、確信はあった。

長い付き合いからくる勘だ。

 

どうやら、正しかったらしい。

散々やれ朴念仁だとかやれ鈍感だとか言われる俺だが、そんなことないじゃないか。

 

「なんのことかは全くわからないけど、とりあえずその結論は間違ってると思うよ」

 

「ハル…なんでここに」

 

驚いている果南ちゃん。

理由なんて、わかっているだろうに。

 

「決まっているだろう。君を迎えに来たんだ」

「…千歌達に何か言われたの?」

「そんなんじゃないさ。君がここに来たのは、俺以外は誰も知らないよ」

「……」

 

果南ちゃんは何も言わない。

今彼女は、何を考えているのか。

表情からは読み取れない。

 

「そんなに警戒しなくていいじゃないか。ほら、傘。そろそろ雨も本降りになる。長居は得策じゃないよ」

 

そう言って傘を渡そうとするが、果南ちゃんは受け取ってくれない。

これは困った。

などと思っていたときだった。

 

「聞かないの?なんでスクールアイドルやめたのか」

 

そんなことを、果南ちゃんが口にした。

 

「ここに来たってことは、いろんなこと、千歌達に聞いてるんでしょ?」

「そうだね。君たちを勧誘しようとしていることは聞いてるよ。その度に、断られていることもね」

 

雨粒が、少しずつ大きくなってきた。

もうあと数分もすれば、傘なしじゃ厳しくなるだろう。

 

雨と同じように。

果南ちゃんが、ポツポツと話し始める。

 

「私がスクールアイドルをやったら、多分鞠莉も付いて来ちゃうんだ」

「そうだろうね。多分、ダイヤちゃんも一緒に来るだろうさ」

「でもね、それって、鞠莉から未来を奪うってことなんだよ」

「…ほう。詳しく聞かせてくれよ」

 

傘も受け取らず、果南ちゃんは話してくれた。

 

独り言のように。

自分に言い聞かせるように。

 

この2年、どういうつもりでいたか。

マリーちゃんの言葉を、どんな気持ちで躱してきたか。

 

早い話。

果南ちゃんが、どれだけマリーちゃんを好きかってことを話してくれたのだ。

 

ちょうど、話がひと段落したくらいだろうか。

 

『ブルルルルルル』

 

携帯のバイブが鳴った。

長い。

電話みたいだ。

 

「ちょっとごめんよ、電話だ。もしも…」

『ハルくん!大変!鞠莉さんが出てっちゃった!』

「落ち着いてくれ。出てったって、この雨で?」

『うん!ダイヤさんから、果南ちゃんの話を聞いて…』

「あー、なるほど。…そうだね。そっちはしばらく待機しててくれ」

『え!?ちょ、ハルくん!?』

「大丈夫だ。マリーちゃんの居場所は大体想像つくから。俺が今から君たちのとこ行くから、それまで待機」

『ほんとに?ほんとに大丈夫!?』

「大丈夫大丈夫。じゃ、またあとで」

 

そうして、電話を切る。

俺は改めて、果南ちゃんに向き直った。

 

「マリーちゃんが、部室で待ってるそうだ」

「鞠莉が?どうして?」

「さあねえ。まあ行ってあげてくれ。言いたいこと、そこでぶちまけてくるといい」

「…どういうこと?」

「君の想い、素晴らしいことだよ。でもそれは、マリーちゃんだって同じなんだ。あの子だって、留学や編入なんかよりずっと大事にしたいものがある。それをちゃんと、聞いてあげるといい」

 

何か心当たりがあるのか。

それとも何もわからないから考え込んでいるのか。

黙り込む果南ちゃん。

 

「それに、だ」

「?」

「お互い、我慢の限界だろう。いい加減、喧嘩の一つでもしてきたらいい」

 

どっちも、お互いを思いすぎているが故に、互いに身動きがとれていないのだ。

いっそ、ぶつかって砕けてしまった方がいい。

 

大丈夫。

彼女たちなら、壊れてもすぐ治るから。

 

走っていく果南ちゃんの背中を見て、そんなことを考えていた。

 

 

 

果南ちゃんが学校へ向かって30分くらいしてからだろうか。

千歌ちゃんたちにも学校へ来るように電話し、自分も学校へ向かう。

 

部室の前まで行くと、そこにはダイヤちゃんの姿があった。

 

「おや。てっきり、千歌ちゃんたちといると思ってたよ」

「一応様子見で、先に来たのですわ」

「そうかい。で、様子はどうだい?」

「…ちゃんと、お互いの気持ちを理解できたみたいですわ。今あそこに割り込むのは、いくらハルさんでも野暮ってものです」

「はは。違いない。門のとこまで行こうか。千歌ちゃんたちもそろそろ来るはずだよ」

「ええ。そうですわね」

 

2人で、ゆっくりと校門まで歩く。

ダイヤちゃんの横顔は、憑き物が落ちたようにすっきりしていた。

 

「仲直り、できてよかったね」

「もともと、彼女たちは険悪になどなっていないのです。ただ、すれ違っていただけ」

「そんな2人をずっと見守ってきたんだろう?君も、大概世話焼きだねえ」

「お互い様ですわ」

「まったくだよ」

 

大好きな親友2人がすれ違っているのを、ずっと横で見守り続けてきたダイヤちゃん。

その胸の内は、言葉になどせずとも伝わってくる。

 

そして俺も。

 

「ハルさん、さっきからニヤニヤしすぎでは?」

「女子校を歩いているんだ。健全な男子なら当たり前だろう」

「出禁にでもいたしましょうか」

「手は出さないんだ。勘弁してくれよ」

「生徒会長にそういう話をするのですよ?誠意ってものを見せていただかないと」

「おっと、そうくるかい。いいだろう。今度、その誠意とやらを見せることにするよ」

「ふふふ。楽しみにしときますわ」

 

軽口をたたき合う俺たち。

誠意…ね。

考えておこうじゃないか。

 

 

校門のとこまで来ると、千歌ちゃんたちが待っていた。

 

「ダイヤさんて、ほんとに2人が好きなんですね」

 

顔をあわせるなり、いきなりそんなことを言う。

ダイヤちゃんの方は、少し顔を赤らめている。

間違ってはいないし、否定もできないのだろう。

 

「それより、これから2人を頼みましたよ。ああ見えて、2人とも繊細ですから」

 

それは君もでしょうに。

なんて思っていたら、千歌ちゃんがダイヤちゃんに寄って行って、こう言った。

 

「じゃあ、ダイヤさんもいてくれないと!」

「えっ?私は生徒会長ですわよ。とてもそんな時間は…」

 

ここに来てまだそんなことを言うのかい。

素直じゃないね、まったく。

 

「ハルさん、なんですのその顔は?」

「いやいや。なんでもないよ」

「なんかムカつきますわね」

「不本意ながらよく言われるよ」

「生徒会の仕事なら大丈夫です!鞠莉さんも果南ちゃんも、それに」

 

千歌ちゃんが、視線をやる。

そこにいたのは、Aqoursのメンバーたちだ。

 

千歌ちゃんだけじゃなく、ちゃんとみんな来ていたらしい。

ルビィちゃんが、何か持っていることに気づく。

あれは…衣装?

 

「ルビィ?」

 

そう言われたルビィちゃんが、ダイヤちゃんに歩み寄る。

とても嬉しそうだ。

 

「親愛なるお姉ちゃん!ようこそ、Aqoursへ!」

 

言って、衣装を手渡す。

どうやら、ダイヤちゃん用の衣装だったらしい。

 

見たことのない衣装。

Aqoursの子達が作った訳ではないだろう。

 

つまり。

2年前からずっと、ダイヤちゃんたちを待ち続けた衣装なんだ。

俺と、同じで。

 

 

 

 

空いっぱいに、光の花が咲く。

それを背景に、彼女たちAqoursが舞う。

 

2年前にすでに存在したスクールアイドルグループ、Aqours。

 

はじめは、3人だったそれは

 

今では9人になった。

 

その9人で初めてのライブ。

 

曲名は

 

「『未熟DREAMER』か。すくなくとも今の彼女たちは、俺なんかよりずっと大人なんだが」

 

そんなことを呟いてしまう。

 

綺麗だ。

 

彼女たちを見て思う。

 

こんな景色を見れる日を、ずっと、ずっと、待ってたんだよ。

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。
これでシリアスラッシュが一時終了です。
ストックがなくなったので、次回から投稿ペースを少し落とします。
それでは何かありましたらお願いします。

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