Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
アニメの9話前半になります。
アニメに則る都合上、真面目な話が続いてしまいます。



心残りと布屋さん

『スクールアイドル、やめたんだ』

 

果南ちゃんからそれを聞いた俺は、どんな表情をしていたのだろうか。

 

理由は何なのかとか。

 

本当にやめなきゃいけなかったのかとか。

 

思いつくことはいくつもあったけど

 

言葉にはならなかった。

 

東京でのライブが失敗に終わったことは聞いていた。

 

でも、それを理由にするなんて思えなかった。

 

マリーちゃんが海外へ留学したのは、そのすぐ後。

 

スクールアイドルをやめたのは、

 

メンバーがいなくなってしまうからだったのか。

 

それとも…

 

 

 

 

「夏祭りでライブを?」

「そうなんです。一応、運営委員会の方からオファーがあったみたいです」

「向こうから話を持ちかけられたのかい。それはすごいじゃないか」

「ただ…」

「練習時間、あまりないずら」

 

それもそうだ。

 

今日、店に来ているのは1年生3人。

話しているのは、今度行われる夏祭りのこと。

 

夏祭りのステージで、Aqoursのライブをやってほしいと言われたんだそうだ。

東京でのことを乗り越えた彼女たちに、これはいい追い風になるだろう。

参加は大いに賛成だ。

 

「まあでも、君たちならなんとかなるだろうさ。がんばってみたらいい」

「千歌先輩も、今やれることを全力でって言ってました」

「そうかい。いいじゃないか」

「まったく。この前から妙にやる気にあふれちゃって。ついてくこっちの身にもなってほしいわ」

 

そんなことを言うのは善子ちゃん。

口で言うわりには、ずいぶん嬉しそうだ。

 

最初は少し心配だったものの、最近は善子ちゃんもだいぶ学校に馴染んできたみたいだ。

心底安心である。

 

「なんにせよ、元気でやってるようで安心したよ。ラブライブ予選まで、このまま突っ切ってくれ」

「んー…」

「それが…」

「そうともいかないのよ…」

「おお?」

 

おや。

どうしたんだろうか。

 

今のこの子たちに、何か不安材料があるのか。

俺には心当たりがないのだが…。

 

「その…詳しいことは、千歌先輩に聞いてほしいずら」

「そうかい。じゃあまあ、そうさせてもらうよ」

 

なんだろう。

気になる。

 

 

 

 

夜。

時間もあったので千歌ちゃんに電話をかけることにした。

 

最近、女の子と電話することが少し増えたな。

着信履歴を見てそんなことを思う。

 

『プルルルルルガチャ』

 

「もしもしハルくん?どうしたのー?」

「ワンコールかい。早いね」

「そんなことのために電話したの?」

「いや、違うよ。ちょっと聞きたいことがあってね」

「聞きたいこと?」

 

昼に1年生たちとした話をする。

 

祭り参加は賛成であること。

自分はそれを大いに応援していること。

ただ

何かまだ問題があるんじゃないかということ。

 

「問題っていうかね、果南ちゃんのことで…」

「ああ、なるほど。そういうことかい」

 

果南ちゃんと千歌ちゃんは昔から付き合いがある。

小さい時は、一緒に遊んでいた記憶もある。

 

加えて、実は果南ちゃんたちもスクールアイドルをやっていたことを知ったのだ。

色々、気になる部分もあるのだろう。

 

「スクールアイドル、なんでやめちゃったのかなって」

「東京のライブ、失敗したからじゃないのかい?」

「…ハルくんは、それが本当に理由だと思う?」

「…思わないね」

 

千歌ちゃんからの質問は思わぬものだった。

意図せぬ返しに、本音が口をつく。

 

「やっぱり、ハルくんもそうなんだ」

「彼女は昔からとにかく前進思考だ。一つの失敗が、立ち直れないくらいのストッパーになるとは思えないよ。それに」

「それに?」

「彼女がスクールアイドルをやりたくないようには、見えないんだ」

 

先日修繕した彼女の服。

あれは、スクールアイドルをやっていたときの練習着だった。

 

果南ちゃんは今でもあのシャツを着て、日課だった練習をやり続けている。

スクールアイドルが嫌なんて、到底思えない。

 

「あのね、ルビィちゃんが言ってたの」

 

 

『逃げてるわけじゃありませんわ。だから、果南さんのことを逃げたなんて言わないで』

 

 

そうやって、ダイヤちゃんがマリーちゃんに言っていたのを聞いたらしい。

 

逃げたわけじゃない。

 

「…そんなこと、マリーちゃんだってわかっているだろう」

「うん。私もそう思うんだ。だからね」

「ああ」

「果南ちゃんたちにも、もう一度スクールアイドルやってもらえないかなって」

「…そうかい。いいと思うよ」

「本当!?」

 

電話越しに聞こえる、千歌ちゃんの驚いた声。

何か驚かせるようなことを言っただろうか。

 

「なんで聞き返すんだい」

「ハルくんのことだから、『人の考えにはあまり踏み入らないほうがいいよ』とか女々しいこと言うんじゃないかって」

「女々しいは余計だよ。それは大人な意見というんだ」

「あはは。でも、果南ちゃんたちを仲間に入れるのは、賛成なんだね」

「ああ。俺も見てみたいんだ」

 

あの子達が、もう一度スクールアイドルとして輝くところを。

 

いつかまた、ステージに戻ってきてほしいって、思ってた。

でも、それは俺にはできなかった。

 

だから。

 

「千歌ちゃん」

「ん?なに?ハルくん」

「あの子達を、頼むよ」

「うん!でも、ハルくんも協力してね!」

「俺にできることならね」

 

俺1人ではできなかったけど。

 

千歌ちゃん達となら

 

果南ちゃん達の止まった時間も、動かせるはずだ。

 

 

 

 

「神社でね、ダンスの練習してたの!」

「昨日の今日で、いきなり核心付いた情報を持ってきたね」

「あと、すごい距離ランニングしてた」

「ああ、それは日課みたいだね。昔、一度だけついてったことがあったよ」

「ハルくん、ついていけたの?」

「そんなわけないじゃないか」

 

彼女の半分も持たなかった。

距離もペースも、俺には歯が立たないレベルでした。

 

しかしまあ、ダンスといいランニングといい、どう考えてもスクールアイドルに未練があるのは明らかだ。

わからないのは…

 

「なんであそこまでするのに、スクールアイドルはやらないんだろう?」

 

まあそういうことだ。

性格、能力、やる気。

どれをとっても、あの子はスクールアイドルをやりたがってるようにしか見えない。

 

「今日ね、鞠莉先輩もいたの」

「マリーちゃんも?」

「うん…でもね、なんというか…」

「喧嘩でもしていたかい?」

「うーん…喧嘩ではないとは思うんだけど…うーん…」

「なにやら説明しづらいことがあったみたいだね」

 

要約すると。

マリーちゃんは、今のAqoursと一緒にスクールアイドルをやろうと果南ちゃんに言ったそうだ。

果南ちゃんはそれを拒絶した。

最後に、もうマリーちゃんの顔を見たくない、とまで言ったらしい。

 

「それはまた…朝からきついね」

「さすがに鞠莉先輩がかわいそうだったよ…」

「それは…うん、そうだね」

 

そこまでギスギスしていたのか。

アイドルとか関係なく、これはなんとかしなくては。

 

果南ちゃんの休学も、間もなく終わる。

そうすればまた、マリーちゃんと果南ちゃんは学校で顔を合わせるのだ。

 

それが、こんな喧嘩状態でなんて、辛すぎる。

あの子達には、笑っていて欲しいのだ。

 

 

仕方ない。

少しずつ彼女達を引き込んでもらうつもりだったのだが。

予定変更だ。

 

ここは

 

大人の俺が、人肌脱ごうじゃないか。

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。
そろそろ、のたのたした話を書きたいです。
それでは何かありましたらお願いします。

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