Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
今回は、千歌ちゃんがメインかなと思います。


帰ったAqoursと布屋さん

「一緒に、駅まで迎えに行かないかい?」

「電話も使わず、わざわざ直接言いに来るなんて。よっぽどですわね」

「正直、今回はかなり強く頼み込むつもりだったからね。断られたら土下座でもしようと思って直接来たんだ」

「…家の前でそれは、勘弁していただきたいですわ」

 

結果を受け取り、電車に乗った時間を聞いた俺はダイヤちゃんの家に出向いていた。

インターホンで彼女を呼び、入り口のとこで話しているのが現状である。

 

「…まあ、今回は、こちらからもお願いしようと思ってました」

「ルビィちゃん、心配だもんね」

「…ええ。もちろんそれもありますわ」

 

ルビィちゃんだけじゃない。

きっと、Aqoursみんなのことを心配してくれているのだろう。

 

得票のことはまだ聞いてないみたいだ。

俺から伝えるのは、今はやめておこう。

 

「よし、とりあえず迎えに行こうか」

「もう帰ってきますの?」

「今から行けば、2時間前には着けるよ」

「…そんな早くついてどうしますの?」

「迎えてあげるに決まってるじゃないか」

「少し落ち着いてください」

 

呆れたようにため息を吐くダイヤちゃん。

焦っていること、ばれたらしい。

 

結局、みんなが到着する5分ほど前に駅に到着した。

 

長く感じる5分が経過してから、彼女たちと思わしき集団を見つけた。

ところが。

 

「…彼女たち、人気なんだね」

「スクールアイドルとしての活動は、よく知られていますわ。だからこそ、今の彼女たちには少し辛いかもしれませんが…」

 

そう言うダイヤちゃん。

彼女たちは、クラスの女の子たちに囲まれていた。

結構な人数の子に囲まれており、この状態では話しかけ辛い。

 

それを見るダイヤちゃんの表情は複雑そうだ。

ダイヤちゃんは得票数はわからなくとも、結果が芳しくないのは予想ができているのかもしれない。

 

「迎えに行ってきますわ。ハルさんはここで待っててください」

「ああ、わかった。頼んだよ」

 

少しだけ遠くから、彼女たちを眺める。

 

ダイヤちゃんが、Aqoursに声をかける。

 

すぐに、ルビィちゃんが飛びついて泣いているのが見えた。

 

それを優しく撫でるダイヤちゃん。

 

俺は、少しの間その場を動けなかった。

 

 

 

 

帰る前、少しだけ海を見に行くことにした。

ダイヤちゃんが、話したいことがあるんだそうだ。

 

きっと、自分たちの過去のことだろう。

打ち明けるんだと、車で言っていた。

 

相変わらず俺は、みんなと少しだけ距離を置いてついて行った。

すぐ近くに行かないのは、かける言葉が見つからなかったから。

 

同じ経験を、俺はしていないのだ。

だから、この場はダイヤちゃんに任せていた。

 

我ながら情けない。

何かしたいのに、できることが思いつかない。

 

でも、それで時間が経つのを待つだけにはいかない。

今、ダイヤちゃんが時間を作ってくれている間に、俺は俺のやれることを探さないと。

 

海辺までやって来た。

ダイヤちゃんが少しずつ語り始める。

 

今のスクールアイドルの状況を。

A-RISE、μ'sの活躍以降、その数は爆発的に増加し、レベルが飛躍的に上がったこと。

 

Aqoursのやったことが、決して悪かったわけではなく

ただただ、相手が悪かったのだということ。

 

そして。

 

彼女たち、つまりはダイヤちゃんたちが東京でライブをやったときは

 

歌えなかったということ。

 

 

 

 

みんなをそれぞれのおうちに送り、最後に千歌ちゃんと梨子ちゃんを送りに来た。

結局かける言葉も碌に見つからなかったが、それでもなんとか言葉を繋ぐ。

 

「じゃあ、今日はゆっくり寝るんだよ」

「ええ。ありがとう」

「千歌ちゃんも、早くお風呂に入るんだよ?」

「うん…」

 

千歌ちゃんの返事は、生返事だ。

 

「千歌ちゃん…大丈夫?」

「…うん。少し、考えてみるね。私がちゃんとしないと、みんな困っちゃうもんね」

 

そう言って、力なく微笑む。

 

結局今日は

誰も、笑っていなかった。

 

 

ああ、ダメだ。

 

こういう空気は、苦手なんだ。

 

励ます言葉は、全く思い浮かばない。

 

励ます方法も、考えられない。

 

それでも。

 

俺にできる何かを、やらないといけない。

 

うまい言葉を考えることはできなかった。

 

だけど。

 

「言葉で示せないなら、せめて行動で示さないとね…」

 

義理のためでも、同情でもない。

 

ただ俺が、あの子達のあんな表情を見たくないってだけ。

 

あの曇った顔を、晴らしたいだけ。

 

「励ます話ができないなら、せめて話を聞くくらいはしようじゃないか」

 

空を見て、誰にでもなく呟く。

 

電話じゃなく、直接話したい。

 

この時間は無理だろう。

 

でも、できる限り早めがいい。

 

であるならば、待ち伏せしよう。

 

「場所は…あそこしかない…かな」

 

 

 

 

朝。

結局あまり寝れなかった私は、海に来ていた。

 

自分でもよくわからないけど。

海に来たら、何か見える気がした。

 

ここからじゃ、何も見えない。

いっそ、このまま水に浸かろうか。

 

そんな風に、考えてたときだった。

 

見たいものは見えなかったけど

 

思わぬものが、見えたんだ。

 

 

「おはよう、千歌ちゃん。君も海水浴かい?」

 

 

そこにいたのは

 

昨日と同じ服のまま海に浸かる

 

ハルくんだった。

 

「よかったら、話し相手になってくれるかい?」

 

 

 

 

やっと来てくれた。

もともと海に浸かって待つつもりはなかったのだが、見ていたら入りたくなったのだ。

 

それがどれくらい前のことかはもう忘れたが。

 

とはいえ、予想通りここに来てくれたのだ。

案外、俺の直感も当てになることがあるらしい。

 

「なに…してるの?風邪ひくよ?」

 

それが、最初の一言。

とても驚いているようだ。

 

そりゃそうか。

 

「海水浴だよ。人が多いのが苦手だからね、人の少ない時間に来たんだ」

 

今度は何も言わない千歌ちゃん。

なんだい、反応してくれないのか。

 

じゃあ、話を続けるとしよう。

千歌ちゃんの方は見ないで、言葉を発する。

 

「けど、さすがにそろそろ寂しくなってきてね。話し相手を探していたところなんだ」

「そんなの、来るわけないじゃん…」

「ああ、俺もそれに気づいたところだったんだが…君が来てくれた」

「それは…」

 

そこから、何を続けたかったのか。

それはわからない。

言い切る前に、千歌ちゃんはまた黙ってしまったから。

 

「千歌ちゃん」

「ん?」

「スクールアイドル、続けるのかい?」

「…っ」

 

千歌ちゃんの方は見ずに、質問だけ投げかける。

その質問に、ちょっとだけ驚いたようだが。

それでも、ちゃんと返事はくれた。

 

「…うん。続けるよ。ここでやめたら、何もわからないままになっちゃうから」

 

その言葉を聞いた俺は、どんな表情をしていたんだろうか。

まだ日も差していない海面に、俺の顔が映ることはない。

 

バシャリという音が聞こえる。

後ろで、千歌ちゃんも海に入ったようだ。

 

「だってまだゼロだもん。ゼロ、だもん。…ゼロなんだよ…」

 

ちょっとずつ、声は近づいてくる。

でも、その声はどんどん弱くなる。

 

 

歌の練習をして

 

ダンスの練習をして

 

衣装を練って

 

PVも作って

 

みんなで努力して

 

 

「スクールアイドルとして、輝きたいって…っ」

 

ダムが、決壊する。

溜め込んでた想いが、溢れ出す。

 

「なのに0だったんだよ!悔しいじゃん!」

 

何かを叩く音がする。

振り向くと、千歌ちゃんが自分の頭を叩いたようだった。

 

さらに手を振り上げて

そのままもう一回叩こうとするその手を、止める。

 

振り払おうとは、しなかった。

 

「差がすごいあるとか、昔とは違うとか、そんなのどうでもいい!」

 

そのまま、もたれかかってくる。

千歌ちゃんは続ける。

 

「悔しい!やっぱり私…」

 

海水で濡れた俺の服に

千歌ちゃんの涙が染み込む。

 

「悔しいんだよ…!」

 

涙は、止まらない。

袖までびしょ濡れの俺が今彼女を抱きしめたら、髪まで海水で濡れてしまう。

 

だから代わりに、腕まくりをして頭を撫でる。

もちろん、その手は乾いていることを確認したよ。

 

「…それが君の気持ちだろう。柄にもなく我慢なんて、似合わなかったよ」

「だって私が泣いたら、みんな落ち込むでしょ?今まで頑張ってきたのに。せっかくスクールアイドルやってくれたのに…悲しくなっちゃうでしょ?」

 

涙は止まらず、声はますます震える。

我慢、しすぎだよ。

 

「だから…っだからぁ…っ」

「…そうかい、よく頑張ったじゃないか」

 

リーダーとして、全部背負い込もうとした千歌ちゃん。

辛くて、きつい体験だっただろう。

 

それでも、頑張り通した目の前の女の子。

 

ちょっとでも、ほんのちょっとでも彼女の頑張りを労うように。

 

俺は、手を動かしていた。

 

 

 

 

しばらく、嗚咽だけが聞こえていた。

その間俺は、ずっと彼女の頭を撫で続けた。

 

それから、少しして。

こちらに向かってくる5つの影を見つける。

 

遠目にも分かる、Aqoursのメンバーたち。

小走り…じゃないな、ほとんど全力疾走でこっちへやって来る。

 

みんな、やっぱり気にしてくれてるらしい。

いいメンバー達だよ。

 

「いいかい、千歌ちゃん。みんな、千歌ちゃんのためにスクールアイドルをやってるわけじゃないさ。自分で決めてやってるんだ」

「そうよ」

「…え?」

 

俺の言葉に答えてくれたのは梨子ちゃん。

驚いてそちらを向く千歌ちゃん。

 

そこには

Aqoursのメンバーが揃っていた。

 

服が濡れることなんて、気にもせず。

みんな、気づいたら千歌ちゃんのすぐ近くまでやってきていた。

 

ここから先は、彼女たちの出番かな。

 

入れ違いになるように、俺はその場を離れる。

途中、曜ちゃんに話しかけられた。

 

「ハルくん?」

「あとは、君たちに任せたよ」

「帰っちゃうの?」

「タオルをとってくるだけさ」

「…ん。ありがとね」

 

それだけの会話。

俺がやることはやったのさ。

 

後ろから、また千歌ちゃんの鳴き声が聞こえる。

せっかく泣き止んだというのに。

 

今度はAqoursのみんなに泣かされてしまったようだ。

 

「戻ってきたときには、笑っていてくれよ」

 

雲が開け、陽の光が差し込む。

 

空は、やっと晴れた。

 

 

 

 

「ごほっげほっ。っく、まさか、本当に風邪をひくとは」

「そりゃあ、陽も出てない時間から、3時間も海に浸かってれば風邪もひくわよ」

「むしろよく凍死しなかったね」

「バカは風邪ひかないっていうけど、今回はバカだからひいた風邪ね」

 

みんながよく勉強とか食事とかに使っているうちの和室。

そこで、今俺は寝込んでいた。

 

理由は風邪。

だるいし、咳が出る。

なのに、曜ちゃんと梨子ちゃんがあまり優しくない。

呆れられているようだ。

 

「ごめんね、ハルくん。私に気を使って…」

「違う。ただの海水浴だ。君に気を使ったからじゃない」

 

逆に、千歌ちゃんが随分しおらしい。

なんだい、その顔は。

調子が狂うじゃないか。

あ、もう狂ってたな。

 

「世話をしてくれるのはありがたいが、君たちにまで風邪をうつすわけにはいかないんだ。早めに帰りなさいよ」

「でも、私のせいでひいた風邪だし…」

「だから気にしなくていいと言っているのに」

「ハルくん、ちゃんとマスクしてるし大丈夫でしょ」

「責任はとれないよ」

「そうは言っても、千歌ちゃんたちが風邪を引いたら、ハルさんだって心配するでしょ?それと同じよ」

「…反論はできないね」

 

大事な知人が病気になれば、当然心配くらいする。

そういう意味では、ちゃんと看病したいと思うのも自然なのだろうか。

 

「ハルくん、私たちが風邪引いたら看病してくれるの?」

「あ、じゃあ私にうつしていいよ!」

「曜ちゃんずるい!私が原因作っちゃったんだから、私が責任持って風邪をひきとるよ!はい、うつして!」

「無茶言わんでくれ。ってこら、マスクをとるんじゃない」

「あの、わ、私にうつしてもいいのよ?」

「君まで何を言ってるんだい…。みんな、そんなに学校が休みたいのかい」

「「「そうじゃない!」」」

 

とりあえず、マスクを返してくれ。

のど、痛いんだ。

 

あと、耳元で叫ばないでくれ。

 

そんな文句を言う元気は

もう俺にはなかった。

 

風邪、辛いなあ…

 

 

千歌ちゃんは、笑ってる。

俺が笑えるようになるのは、まだ数日かかるらしい。




ご視聴ありがとうございました。
シリアスは苦手です。
緊迫した雰囲気を出す文章力は、自分にはないのです。
それでは何かありましたらお願いします。

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