Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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初めましてこんにちは。
善子ちゃん回になります。
アニメでは第5話にあたります。
よろしければ、そちらを先にご視聴ください。


治らぬ病と布屋さん

春の温かみが残るこの時期。

我が商売所、淡屋にも緩やかな時間が流れる。

そこに、少女の声が木霊していた。

 

「やってしまったああああああああああ」

「やかましいよ」

「だってええええええええ!うわあああああああああああ!」

「ええい!やかましいと言ってるんだ」

 

目の前で叫ぶ女の子、善子ちゃん。

又の名を、ヨハネちゃん。

 

入学前に、リア充になるんだと宣言してくれた善子ちゃん。

最近、人が少しずつ成長して、変わっていく姿を見ることが増えたので、感覚が麻痺していた。

 

「よりにもよって、自己紹介でえええうあああああああ」

 

人は、急には変われない。

当たり前のこと。

 

まあだからといって

 

「普通、入学式初日にやらかすかね?」

「あああああああー!」

 

俺の机のとこまで来たかと思えば、机をバンバンする。

それ、やめなさいって言ってるじゃないか。

 

「何よ堕天使って!?」

「知らんよ」

「ヨハネって何!?」

「知らんけど」

「リトルデーモン?サタン?いるわけないでしょ!?そんなもーん!!」

「そうだね」

 

言いたいことを言い切ったのか。

それとも単純に疲れたのか。

その場にへたり込む善子ちゃん。

 

「はあ…。お茶でも飲むかい?」

「…うん」

 

一旦席を立ち、お茶を汲みに行く。

冷蔵庫に、今日入れたやつが残っていたはずだ。

 

「はい、これ」

「…ありがと」

「それで…」

 

一息いれ、とりあえずは事情を聞こう。

 

「なんだって自己紹介でやらかしたんだい?」

「き、緊張して。取り繕えなくて…」

「取り繕わないと堕天使が出るって…逆に大したもんだよ」

 

普通は、意識しないと堕天使の真似事などできないというのに。

あいも変わらず、重度の厨二病は継続中のようだ。

 

「学校、行けていないんだって?」

「…ええ。行けるわけ、ないでしょ…」

「気持ちはわからんでもないけどね。…学校、行きたくないのかい?」

「そうじゃないけど…」

 

彼女の場合、顔を合わせられないから学校へ行けないのだ。

入学前からも言っていたが、行けるなら行きたいという意思はある。

であるならば、なんとかしてやりたいのだが。

 

…そうだな。

ここは一旦、彼女たちに任せてみようか。

 

「まあなんだ。一旦、学校の屋上にでも行ってみるといい。いきなりみんなと合流するよりは、まず学校そのものに行く練習だよ」

「屋上…?」

「人、多分あまりいないだろうからね。まだ誰かと会いたくはないんだろう?」

「うん…」

「気が向いたら、行ってごらん」

「…わかったわ」

 

もちろん嘘だ。

屋上は、Aqoursの練習場所。

花丸ちゃんと善子ちゃんは知り合いだったはずなので、顔を合わせるならまずはそこからだろう。

きっと花丸ちゃんなら、助けてくれるだろうしね。

 

 

 

 

数日後。

お店に知った顔のお客さんがいらっしゃった。

 

「こんにちは。今、よろしくて?」

「こんにちは、ダイヤちゃん。何かお仕事の話かい?」

「いえ。今日はそういうわけではありませんわ」

「ほう。まあダイヤちゃんなら余計なことはしないだろうし、中、入りなよ」

「そうさせていただきますわ」

 

俺の作業用机をまたいで反対側に座るダイヤちゃん。

対面ではなく、やや横にずれた位置に座っているのは、外の様子が見えるようにするため。

育ちがいいからこその、自然な気遣いだ。

 

「自然にそういうことができるのは、やはり感心するよ」

「…なんのことですの?」

「いや、なんでもないよ。それで、要件は何かな?」

「これ、見ていただけますか?」

 

そう言うと、手に持っていたノートパソコンを開いて見せてくれる。

画面に映っているのは…Aqours…?

なんというか、随分これまでと方向性が違うようだが…。

 

画面に映るAqoursの面々は、白と黒を基調にしたゴスロリのような服をしている。

 

「この服は、善子ちゃんの作ったのとそっくりだ」

 

しかも、善子ちゃんと思わしき子が、センターになっている。

気のせいではなかったらしい。

 

善子ちゃん、とりあえずは学校に行けたんだな。

しかし…

学校で何をしてるんだ?あの子は。

 

「これは…?」

「お察しの通り、Aqoursですわ」

「…どうしてこうなったんだい?」

「これまでとは違う方向性で攻めた結果だそうですわ」

「…なるほど」

 

まあ確かに。

斬新ではある。

…だが。

 

「若干、いかがわしく感じてしまうんだが」

「同感ですわ。それで、先ほど説教しましたわ」

「まあ、そうだろうね」

 

思わず苦笑いをしてしまう。

きっと、鬼の形相だったのだろう。

ルビィちゃんの自己紹介、確かに可愛いが、ダイヤちゃんが黙っているはずはない。

 

ちなみにルビィちゃんはヨハネちゃんのリトルデーモン4号だそうだ。

善子ちゃん。

まじで学校で何してるんだ?

 

 

「要件は、これを見せることかい?」

「それもありますが…。しばらくの間、彼女達の様子をしっかり見ておいて欲しいのですわ」

「様子…?」

 

彼女によれば。

このくらいの頃は、ランクの変動が起こりにくく、焦りが見え始めるころなんだそうだ。

結果として、今回のように斬新さを求めることも不思議ではない。

個性を出していこうっていうのも、十分わかる。

でもそれは、自分たちの良さの上に成り立たないと意味がないのだ。

 

「あの子達が間違った方向へ行かないように、見張れってことかな?」

「端的に言えばそうなりますわ。仮にも学校の名を背負っているのです。節度をもっていただかないといけませんわ」

 

言っていることは、一つの本音ではあるのだろう。

ただその裏には、彼女達を心配していることも、ちゃんと伝わってくる。

 

「わかった。やれることなんてほとんどないだろうけどね。まあブレーキの役目くらいは承るよ」

「手間をかけますわ」

「気にしなくていいよ。美人の依頼は断らない主義なんだ」

「っ!あ、あなたはまたそうやって…」

 

そっぽ向いてしまった。

まあ怒っているわけではなさそうなので、よしとする。

 

さて…

ブレーキか…。

 

まずやることは…。

 

 

 

夕日が差し込み、月が顔を出す頃。

本日の仕事を終えた俺は、お店に堕天使を召喚することにした。

学校帰りに、ちょっと寄ってもらうだけだが。

 

「善子ちゃん、学校で何があったんだい?」

「…わざわざ聞くってことは、何があったか知ってるんでしょ?」

「俺が知ってるのは、Aqoursが堕天使になって、鬼に怒られたってことだけだよ」

「それが全てよ。私が我儘言ったから、みんなに迷惑かけたの」

 

善子ちゃんは、そう話す。

その様は、善子ちゃんのなりたがっていた、普通の女子高生だった。

つまりこれが、彼女のなりたかった姿。

 

本当に?

 

「大丈夫。スクールアイドルは断ったから。最後に我儘聞いてもらえて、すっきりしたもん」

 

微笑みながら、そう言った。

 

「…堕天使は、もう、卒業」

 

それが君の、決断なのかい?

 

「じゃあ、私は行くわ」

 

そう言って、彼女は出て行った。

お世辞にも上手とは言えない。

そんな、作り笑いだった。

 

 

そうかい。

じゃあ、申し訳ないけどね。

 

「もう一度、堕天してもらうよ」

 

ケータイから、よく知った番号を引き出す。

千歌ちゃん、君なら、堕天使も輝かせられるだろ?

 

 

 

翌日。

早朝から、5人の堕天使が、マンションの前に並ぶ。

それはそれはシュールな光景だ。

 

マンションは、善子ちゃんの住むマンション。

俺は、少し遠くからそれを見ていた。

 

少しして。

善子ちゃんが出てきた。

 

千歌ちゃんが、声をかける。

 

善子ちゃんを

 

いや

 

堕天使ヨハネを仲間にするべく。

 

善子ちゃんは否定するけど

千歌ちゃんはさらにそれを否定するのだ。

 

「いいんだよ!堕天使で!自分が好きならそれでいいんだよ!」

 

俺が言葉にはできなかったことを、彼女はあっさり口にする。

 

その言葉は

まっすぐで、強い。

 

なんて思ってたら

 

善子ちゃんが逃げた。

それを追う、Aqours一行。

 

「…え?」

 

ちょっと待って。

ダメだって。

俺、ここ数年運動なんてまともにしてないんだから。

 

もちろん止まることはなく

 

ようやく追いついた俺が見たのは

 

手を取り合う、千歌ちゃんと善子ちゃんだった。

 

何があったかはわからないけれど。

 

堕天使は

 

笑っていた。

 

 

 

 

「むー…」

「どうしたの?千歌ちゃん」

「最近、ハルくんの周りに女の子が多い気がする…」

「あー…確かにねー…」

 

「ハルさんの周り、昔からあんなに女の子多いずら?」

「うーん…どうなんだろ。よく考えたら、意識したことなかったかも」

「千歌ちゃん以外のライバルがいるなんて、考えてもなかったからねえ」

「曜先輩も、長い付き合いずら?」

「千歌ちゃんと同じくらいだよ」

「へー…」

 

「ルビィちゃんも、好きなのよね?」

「ピギ!?そ、その…はい。な、なんでわかったんですか?」

「ふふ。さすがにわかるわよ」

「そういう梨子ちゃんもでしょ?」

「ええ!?の、ノーコメントで!」

「ええー!自分だけ内緒なのー!?」

 

「善子ちゃんは…聞くまでもないずら」

「ぬあ!?ち、違うわ!この堕天使が、人間ごときとなんて…」

「でも、今日ハルさんが来てくれて嬉しそうだったずら」

「ちっがーう!」

「は、花丸ちゃんは好きじゃないの?」

「丸?丸は…好き、かも」

「は、花丸ちゃんも…!?」

「私は違うってばー!!」

 

 

「ハックショーイ!!」

「あら、風邪ですの?」

「いや、そんなことはないと思うのだが…」

「そーよ!フールはカゼひかないもん!」

「それもそうですわね」

「おっと、頭痛もしてきた。やっぱり風邪みたいだ」

「そんなことより!」

 

バンバンと机を叩くダイヤちゃん。

ねえ、それ叩かないでって言ったよね?

同じこと何回も言われるのは、バカじゃないの?

 

「あのメール、どういうことですの?」

「…読んでの通り、よ」

「…そんな…」

 

清々しいほど透き通る空。

店に入り込む暖かい風。

 

しかし。

 

俺たちの周りには

 

不穏な空気が、流れていた。

 




ご視聴ありがとうございました。
今回は前後編分けずにできました。
3年生の出番、もっと増やしたいですね。
それではご意見等ありましたら、お願いします。

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