Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
本編4話の後編になります。
花丸ちゃんのセリフは、本編で語っていたものを抜粋しています。


新メンバーと布屋さん

小さい頃から、目立たない子だった。

 

運動も苦手だったし

 

学芸会も木の役で

 

だんだん1人で遊ぶことが増えていった。

 

本を読むことが大好きになっていった。

 

図書室はいつしか、丸の居場所になって

 

いつもそこで、空想を膨らませていた。

 

読み終わった時、少し寂しかったけど

 

本があれば、大丈夫だと、思った。

 

そんなとき出会ったのが、ルビィちゃん。

 

丸の大切な、友達。

 

 

 

「これ、一気に登ってるんですか?」

「もちろん!」

「いつも途中で休憩しちゃうんだけどねー」

「えへへ〜」

 

こ、これを登るずら…?

角度、結構凄い上に、頂上は見えないほど高い。

 

「じゃあ、μ's目指してー…よーい…どーん!」

 

そんな合図とともに、みんな一斉にスタートする。

みんな、早い。

スタートしてすぐに、大分離される。

少し経つ頃には、もうルビィちゃんの背中も見えなくなっていた。

 

「やっぱり、丸には…」

 

それでも、なんとか上がっていくと、そこにはルビィちゃんがいた。

 

「一緒にいこ」

 

やっぱり、待ってたんだ。

ルビィちゃんは、優しいから。

 

でも。

 

「…だめだよ」

「…え?」

 

思ってもいない言葉に、ルビィちゃんが戸惑うのがわかる。

 

でもね。

 

「ルビィちゃんは、走らなきゃ」

「花丸ちゃん?」

「もっと、自分の気持ち、大切にしなきゃ」

 

息も絶え絶えに、なんとか言葉を紡ぐ。

今、言わなきゃいけないんだ。

 

「自分に嘘ついて、無理に人に合わせても、辛いだけだよ」

 

ルビィちゃんが、否定しようとする。

でも、それも否定して、私は続けるんだ。

 

「スクールアイドル、なりたいんでしょ?だったら、前に進まなきゃ!」

 

少しだけ躊躇したルビィちゃん。

 

でも、前に進んでくれた。

 

これで、大丈夫。

 

ルビィちゃんは、階段を登る。

新しい世界へ、進むんだ。

 

私は、階段を下る。

元の世界に、戻るために。

 

何もかも溜め込んでしまうその子の、素晴らしい輝きを

思い切り、解放してあげたかった。

閉じたその扉を、開けてあげたかった。

それが、丸の夢だった。

 

そして、最後の仕上げは

 

「なんですの?こんなとこまで呼び出して」

 

そこにいたのは、浦の星女学院生徒会長、黒澤ダイヤさん。

ルビィちゃんの、お姉ちゃん。

 

「あの…ルビィちゃんの話を…気持ちを、聞いてあげてください」

「…ルビィの…?」

 

私が伝えたかったのは、それだけ。

その一言だけ伝えて、私はその場を去った。

 

これで、ハルさんと話した作戦は、全部終わり。

ルビィちゃんは、スクールアイドルに、なれるはず。

 

 

 

翌日。

私は、図書館へ、自分の居場所へ向かう。

丸の話は、これでおしまい。

 

もう夢は叶ったから、丸は本の世界に戻るの。

偶然目に入る、ハルさんが買ってくれた、雑誌。

その中で、なぜか丸の目を引き続けた、あるページ。

 

でも

 

「大丈夫。1人でも」

 

だから

 

「…ばいばい」

 

ページを閉じようとしたそのとき。

扉が、開かれる音がした。

 

 

 

 

「やあ。調子はどうだい?」

 

花丸ちゃんが、目を見開いて驚いている。

ああそうか。

 

「なに、新しい本の入荷を頼まれてね。それを持ってきたのさ」

 

言いながら、台車に乗せた本を見せる。

積まれているのは、今学期より入荷された新しい教科書や、新調された辞書など。

 

「ああ…。えと、お疲れ様ずら」

「よければ、手伝ってくれないかい?ここにはあまり来なくてね。置き場があまりわかっていないものもあるんだ」

「うん、手伝うずら」

 

2人で本棚に本を置いていく。

もちろん、場所の指示を仰ぐだけで、本を持たせたりはしていないさ。

 

「…で、これはここずら」

「了解。すまないね、手伝わせて」

「いや。お礼を言うのはこっちずら」

「ほう。何かお礼されるようなことをやったかな」

「ルビィちゃん、スクールアイドル、始めたずら」

「…そうかい。それはよかった」

 

じゃあ、作戦はあと少しで終わりだな。

 

ここから先は、花丸ちゃんが知らない作戦のスタートだよ。

と言っても、俺にやることはないのだが。

 

そうだな。

作戦の要であるルビィちゃんが来るまで、適当にお話でもしていようか。

 

「花丸ちゃんは、やらないのかい?スクールアイドル」

 

その質問に、少し驚いたような様子を見せる。

でも、すぐに諦めたような表情になった。

 

「丸には…無理ずら」

「おや。それはどうしてだい」

「丸は…アイドルみたいな輝き、なにも持ってないから」

 

聞けば。

彼女は昔から人の輪にはあまり入らず、本の世界で生きてきたんだそうだ。

 

気づけばそこが自分の居場所になり

それ以外の場所には、あまりいられなくなってしまった。

 

彼女の言っていた

 

『図書館が、居場所』

 

それは、そういう意味だったんだ。

 

そして彼女は言う。

 

そんな自分には、人を楽しませることなど不可能だと。

 

「丸がアイドルなんてやってたら、Aqoursのファンは喜んでくれないずら」

 

自信がない。

彼女の抱える問題はそれだ。

様子を見る分には、スクールアイドルをやりたくないわけではないみたいだし。

 

でもそれは、自信を持てと言われて解決するものではない。

やってみるしか、自信をつける方法なんてないのだから。

 

まずは、自分に正直に、やりたいことをやってほしい。

だったら、言うべきは一つだけだろう。

 

「自分に嘘ついて、無理に人に合わせても、辛いだけ…だそうだよ」

「っ!」

 

とても、驚いた顔をする。

自分が言われるなんて、思ってもみなかったのだろう。

 

だってその言葉は

昨日、花丸ちゃんが、ルビィちゃんに放った言葉だから。

 

「なんで…」

「偶然、そこにいただけさ。なんとなく、心に残ってね」

 

驚いた顔は変わらない。

でも、俺の話はちゃんと聞こえているようだ。

 

「Aqoursのファン…か。そりゃ、そこまで考えるのは立派だけどね。スクールアイドルが輝くのは、自分がやりたいことを、全力でやっている時なんだ」

 

だからμ'sは、輝いた。

だからAqoursは、輝いた。

 

何を知った口をって、言われるかもしれないけど。

でも、これが俺の持論なのだ。

 

「それに、だよ」

 

結局、俺が言いたいのは、この一言なんだ。

ちゃんと、聞いておいてくれよ。

 

「Aqoursのファン1号である俺はね、花丸ちゃんがAqoursに入ってくれたら、とても嬉しいよ」

「ハルさん…」

 

ここに、喜ぶファンがいること

それは、忘れないでほしいものだ。

 

花丸ちゃんの表情から、何を思っているかはわからない。

まあ後は、花丸ちゃんの親友に任せるとしようじゃないか。

 

「ルビィね!」

「っ!ルビィ…ちゃん?」

 

ルビィちゃんの想いが、打ち明けられる。

親友だからこそわかる、花丸ちゃんの様子。

そこからわかる、彼女の想い。

 

それら全てを踏まえて、ルビィちゃんは

花丸ちゃんと、スクールアイドルがやりたいのだと

言葉を、紡いだ。

 

なんだ。

作戦なんて、何もいらなかったじゃないか。

 

そんなことを思いながら

俺は図書室を、後にした。

 

 

 

 

「ねえハルくん、何読んでるのー?」

「ああ、スクールアイドルの雑誌だよ。ほら」

「ああー!μ'sだ!」

「そうだよ。その子、かわいいだろ?」

「μ'sはみんなかわいいよ!」

「いや、そうなんだけどさ」

 

花丸ちゃんがずっと見ていたページ。

開いていたページに写っていたのは

 

『星空凛』

 

μ'sのメンバーの1人。

かつてその子も、自分にアイドルは無理だと言っていたそうだ。

 

「ねえ、もしかして、ハルくんはこういうタイプが好みなの?」

「「ええっ!?」」

「…なんでそういう話になったのさ」

「だって、このページずっと見てたんでしょ?服装?それとも髪型?」

「見てたのはなんとなくだよ」

 

と、言っても3人の耳には届いていないようで。

なんかよく分からない話を繰り広げていた。

 

「う〜ん…髪の色はそこそこ近い?長さは…どうだろう?」

「長さだけならともかく、私は色は全然だなあ。服装…う〜ん…作ってみようか」

「長さも色もだめ…か、髪型だけなら…。服は…どうやっても無理ね」

「…俺の話、聞いてくれよ」

 

そのページを見てかわいいと思っていたのは確かだが、好みとかそういうのではないよ。

 

「もう!ハルくんはどういう女の子がいいの!?」

「なんでそんな話が出るんだい」

「はっきりして!ハルくん!」

「はっきりしてちょうだい!ハルさん!」

「話を…聞いてくれ」

 

好きな女の子?

普段なら、女子高生だと即答するがね。

 

今は…

話を聞く子が好きです。

 




ご視聴ありがとうございました。
話の都合上、花丸ちゃんの出番が多くなりました。
ルビィちゃんにもスポットを当てたいものです。
それでは、ご意見等ありましたらお願いします。

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