Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。
アニメ3話の前半になります。
先に、本編ご視聴をお勧めします。


ライブ準備と布屋さん

「それでね、急にぐわーってヘリコプターがやってきてー」

 

今日も今日とて、身振り手振りで話しをしてくれる千歌ちゃん。

なんでも、新しい歌の練習中にヘリコプターが襲来したんだそうだ。

このへんで、そんな無茶苦茶ができるのは、おおよそあそこの家庭くらいだろう。

 

「で、降りてきたのは小原家の人かい?」

「あれ?見てたの?」

「他にそんな悪趣味なことやる人はいないし、できる人もいない」

 

などと言っていたら。

 

「悪趣味とは、またバッドな言い方してくれるわねー。ハル」

「砂浜にヘリコプターなんて、砂が飛び散って危ないんだ。悪趣味と言わずになんというのか」

「減らず口は相変わらずねー」

 

やれやれといったような反応を示すのは、マリーちゃん。

いつから聞いていたのやら。

それとも地獄耳的な感覚で駆けつけてきたのか。

 

「あれ?理事長とハルくん、お知り合いなの?」

「ノー!マリーだよ!」

「あ、あはは。おーけーおーけー」

「ちなみに質問にはイエスだよ。いつからの付き合いだったかは憶えてないけどね。それより、わざわざどうしたんだい?こんなとこに来て」

「オー!これ、どう!久しぶりに着た浦の星のユニフォーム!」

「1、2年前に散々見たよ」

「あの時とは、色気が全然違うでしょ!」

 

そういってその場で回って見せてくれるマリーちゃん。

いやいや。

 

「スカート、そんなに短いんだから、回ったら中見えるよ」

「ノー!エッチ!変態!」

「ハルくんのばか!」

「…理不尽じゃないかい」

 

スカートを抑えて怒るマリーちゃん。

そして一緒に怒る千歌ちゃん。

 

「それで、本当にそれだけのために来たのかい?」

「明日、ダイヤのとこに挨拶に行くの。一緒に来て?」

「…はい?いや、理由が全くわからないんだが」

「大丈夫!ちゃんと関係者として話は通してあげるから!」

「人の話はちゃんと聞きなさいよ。あと、明日は仕事があってだね」

「月曜は定休でしょ?」

 

ばれていたか。

ちなみに現状、台車に段ボール積んで、店のエプロンつけて学校に行けば、特にお咎めなしで学校へは入れるのだ。

なぜ、ダイヤちゃんのところへ一緒に行かないといけないのか、それが知りたい。

 

「…だって」

「だって?」

「ダイヤ、多分怒るだろうし」

「…ああ」

 

なるほど。

そりゃあ怒るでしょ。

マリーちゃんにとって留学は、間違いなくプラスになる。

そう判断して、かつてダイヤちゃんと果南ちゃんは彼女を海外へ送り出したのだから。

それが、まさか1年程度で帰ってくるなど、想定外だろう。

 

「というか、ダイヤちゃんにも話していなかったのかい?」

「ハル以外には話せないわ。みんな怒るもん」

「俺が怒ることは考えなかったのかい?」

「それは怖くないから大丈夫」

「真面目な顔で言うことじゃないな。千歌ちゃんも、『あーなるほど』みたいな顔しないで」

 

俺にそう言われ、さっきまで黙っていた千歌ちゃんが話しに入ってくる。

 

「そもそも私、全然話見えてこないんだけど、ここにいていいの?」

「ノープロブレム。どうせ詳しいことは明日話すからねー」

「…わかった、わかったよ。明日、頼まれてた依頼もやらなきゃいけないしね。同行しよう」

「ザッツライト!そうじゃないと!」

「頼まれてた依頼?」

「発電機の動作確認だよ」

「へー。そんなのもやるんだ」

「専門的なことをやるわけじゃない。ネットにあがってる確認手順をたどるだけだよ」

「それじゃ、明日の授業後にダイヤを理事長室に呼ぶから。そのときに来てちょうだい」

「あいよ。りょーかい」

「それじゃ、ハワイユー」

 

言いたいことだけ言って帰るマリーちゃん。

明日、大丈夫だろうか。

 

「なんか、大変そうだね」

「千歌ちゃんから見てもそう見えるかい?」

「うん。でもなんというか、ハルくん、ちょっとだけ嬉しそう」

「嬉しそう…かい」

「なんとなくね」

 

たしかに。

あの3人がまた揃うのを、俺はちょっと期待しているのかもしれない。

千歌ちゃん、君はやっぱり、そういうのは本当に鋭いね。

 

 

 

 

「わからないに決まってます!」

 

理事長室にダイヤちゃんの声が響く。

案の定である。

今、理事長室にいるのは千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃんの2年生一同。

ダイヤちゃんとマリーちゃんの3年組。

そして俺。

 

「ん〜。ダイヤ久しぶり〜。随分大きくなって〜」

「触らないでいただけます?」

「…胸は相変わらずねえ」

「やかましい!…ですわ」

 

昨日、怒られるのを嫌がっていたのはなんだったのか。

どう見てもマリーちゃんの方からいじり倒してるじゃないか。

 

「まったく…1年のときにいなくなったと思えば、こんなときにどういうつもりですの」

「シャイニー!」

 

マリーちゃんはカーテンを開けて、太陽の光をめいいっぱい受けていた。

これにはダイヤちゃんもブチ切れ寸前。

マリーちゃんのリボンを掴んで引き寄せる。

 

「人の話を聞かないのは相変わらずのようね」

「ごもっともだ」

 

これ、俺は確実にいらないだろう。

 

「とにかく。高校3年生が理事長なんて、冗談にもほどがありますわ」

「そっちは本当よ」

「は?」

 

そういって、任命状と書かれた紙を見せてくれるマリーちゃん。

その旨は、たしかにマリーちゃんが理事長として認可されたことを示している。

さすがは小原家。

金に物を言わせて、生徒を理事長にしてしまうとは。

というか、理事長ってことはもしかして収入があるのか?

あるとしたら、俺は確実にこの子に収入で負けていることになるのでは?

…なんとも言えない気分だ。

 

マリーちゃんが言うには。

浦の星女学院に新しくできたスクールアイドル、これをダイヤちゃんが妨害しないようにするため、理事長になったんだそうだ。

1年以上の間が空いてもなお、2人、いや3人の間には、スクールアイドルを介したわだかまりが存在しているらしい。

喧嘩をしているわけではないというのに。

 

 

マリーちゃんは、3人を連れて体育館へ向かった。

どうやら、彼女たちの最初のライブはそこでやるらしい。

その間に、俺は依頼されていた発電機の話をダイヤちゃんとすることにした。

そのために、学校の備品室に向かう。

 

「まったく。鞠莉さんはどういうつもりなのかしら」

「さあねえ。彼女なりに、いろいろ思うとこはあるんだろうけど」

「それにしたって、まさか留学を中断してまで…これでは果南さんが…」

 

彼女たち3人の複雑な事情は知らない。

聞いたら教えてくれるかもしれないけど、それはまだ、やるべきことではない。

聞くのは、彼女たちが前に進むときにしようと。

そう、決めたのは、彼女たちの表情を見たからだ。

みんな、互いを大事にしようとしているのがわかったから。

誰かに話を聞けば、誰かの味方になってしまう気がしたから。

それは、誰かを敵に回してしまうことと同じ。

そんなの、公平ではない。

 

「着きましたわ。えーと…これですわ。これの整備、お願いしますわ」

「はいよ。メーカーも型番もはっきり残ってる。これなら手順を探すのは簡単そうだ」

 

あとは実際に整備できるかだが。

これは運次第だな。

 

「それと」

「ん?」

「体育館の照明設備、あれも見ていただけますか?」

「あー…オッケー。追加注文、承ったよ」

 

敵なんて、俺の周りには誰一人いないのだ。

 

 

 

 

マリーちゃんから、千歌ちゃんたちにはグループ存続の条件が提示されたらしい。

その条件は

 

「体育館を、お客さんでいっぱいに…だって」

「ほう。それはまた、結構な難易度で」

 

あそこをいっぱいにするとなると、100人じゃ全く足りないだろう。

つまりは、浦の星の生徒全員集める程度では足りないということ。

味方と言いつつ、なかなかえげつない条件だこと。

 

「それでね、早速作戦会議をしようと思って」

「町内放送で呼びかけたら?多分できると思うよ?」

「あとはチラシ配りとかかなー」

 

というのを、うちの店でやってくれる件のスクールアイドルたち。

 

「…はあ。もうごちゃごちゃ言わないから、せめて奥の部屋でやっておくれ」

 

 

次の日から、彼女たちの宣伝活動が本格的に始まった。

昨日の間に作ったチラシをあちこっちで配り、

町内放送であえてグダグダに話すという高度テクニックで人々の関心を引きつけた。

 

そうして、あっという間にその日はやって来た。

 

彼女たちスクールアイドルは、

 

いや。

 

Aqoursは。

 

ライブの日を迎えたのだ。

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。
次回、初ライブの話になります。
ご指摘等ありましたらよろしくお願いします。

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