僕はこの世界が大嫌いだ   作:イラスト

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 専用機

 代表操縦者および代表候補生や企業に所属する人間に与えられる特殊なIS。最初からパイロットの特性がコアに入力されているわけでなく、「初期化(フィッティング)」「最適化(パーソナライズ)」(合わせて一次移行(ファースト・シフト))を経て、専用機としての性能を発揮する。また、ISそのものが量子化することができるため、普段は待機形態と呼ばれる形で持ち運びされている。待機形態は普通はアクセサリーの形状になるが、どのような形になるかはパイロットからは決定できない。因みに一夏はガントレット。セシリアはイヤーカフス。雅は「禁則事項」です。


八限目 たまに乙女の勘もはずれる

 

 

 あいつとの出会いは最悪だった。

 あたしが転校してから、いきなり中国人というだけで虐められていたあの頃。

 いやあたしだってそれなり、というか思い切りやり返していたけれど、さすがに三、四人相手にするとなると小学生の貧弱な身体では無理があった。

 校舎裏なんて今思えばすごくベターな場所で、いつもと変わらない面子+αを相手にしていたとき、「あ、これは無理かな」なんて思って諦め掛けていたとき、あいつはやって来た。

 白馬の王子様みたいなキザなセリフも、三、四人を圧倒するような実力もなかったけれど、あたしの前に立ってくれた。それだけであたしは嬉しかった。安心した。

 けど結局、あとから参戦して来た弾も巻き込んだ大乱闘はあたしたち敗北で終わった。

 

「大丈夫か?」

 

 うつ伏せに倒れて数分後、先に起きたあいつが手を差し伸べてくれた。でもあたしはその手を握ることはしなかった。それにあろうことか――

 

「なんで、余計なことしてんのよ!!」

「ヘブッ!?」

 

 あいつの顔面をグーパンチした。すごく右手がジンジンと痛かったけど、我ながらいいのが決まったと今でも自負している。

 

「だ、大丈夫か!? 一夏!?」

「ってぇな!! 何すんだよ!!」

 

 織斑一夏。

 それがあいつとの最初の出会いだった。

 

 

****

 

 

「迷った……」

 

 やっと東京ついたと思ったら、まさかIS学園が違う地域にあるとは思いもよらなかった。

 天下のIS学園と呼ばれるんだから、とりあえず東京に行けば見えてくるわよね。なんてあの時の能天気な自分を殴りたい。

 だいだいなんなのよ。道は狭いし人は多いし、路線案内図は分かりづらいし、駅構内なんてまるで迷路だし。

 なに、中央西口と西口とか。どっちかはっきりしなさいよ、メンドくさいわね。どーすんの、ここで国際大会とか開くときとか。ありとあらゆる外国人が路頭に迷うことになるわよ。

 ……まぁ、ちゃんと住所を見ていればこんな無駄な労力を使う必要はなかったんだけどね。

 はぁ、やっぱりあたしにはこのスマホは手放せないのね。素晴らしきかな人類の英知。目的地Siriさんに話すだけでそこは案内してくれるとか本当いつもお世話になっています。

 なのでどうせなら、この学園内も案内してくれないかしら。とりあえず事務室へ行きたいんだけど。

 

『すみません。よく分かりません』

 

 だよね。うん、ここまで連れて来たんだからそれだけでも感謝しないと。はあ……。

 

「なんでエントランスに学園内の案内図がないのよ!! というか、これでも国家代表なんだから出迎えとかあってもいいんじゃないの!?」

 

 そうよ! あたしは中国代表候補生なのよ!? 普通なら学園というか、空港まで迎えに来てもいいと思うんだけど!? ……いやでも、千冬さんに迎えに来られたらそれはそれでどうしよう。

 

「はぁ、やっとあいつに会えると思ってきたのに」

 

 本来ならお昼過ぎに到着予定だったのだが、もう空は茜色に染まり、エントランスホールの大きな窓からは夕陽が差し込んでいる。お世辞にもお昼過ぎとは言えないし、ここまできたら夕飯前という言うのが正しいだろう。

 正直これはさすがにまずい。なんせ中国代表候補生がこんな大遅刻をしてしまったのだ。後で必ず祖国にいる楊の奴に怒られる。

 それならまだしも、学園側から追い返されたりしたらどうしよう。

 

「どうしましたか? なにかお困りですか?」

「あ! あんた、ちょうどいいとこ――」

「――? どうかしましたか?」

 

 ……綺麗な人。

 見た目は「可愛い」という言葉が正しいだろうが、その立ち振る舞いと綺麗な黒髪、そして一際目立つ赤い眼鏡のせいで真っ先にその言葉が出てきてしまった。

 

「あの」

「う、ううん! なんでもない!!」

「……見ないお顔ですね。もしかして、貴女が凰さんですか?」

「そ、そうだけど」

 

 よく見たらその女性は黒スーツに身を包み、片手に書類らしきものを持っていた。

 

「もしかしてこの学園の関係者かしら?」

「はい。それで、確か到着はお昼過ぎと話を聞いていましたが、どうやら今来たばかりの様子ですね」

「え、ええ。少し不都合があってね」

 

 嘘は言ってないわよ。嘘は。

 

「……そうだったんですね。お疲れ様でした」

「それで、あたしはどこへ行けばいいのかしら?」

「では事務室ですね。近くまでご案内いたします」

「ええ、お願いするわ」

「ああ、僕はここの教員の影山雅です。よろしくお願いしますね、凰さん」

「こちらこそ――」

 

 ――僕? あれ普通日本の女性って「私」とか「あたし」よね。もしかしてこれが俗に言う僕っ娘というやつかしら? ま、どうでもいっか。

 

 

「そうですか。(ヤン)さんは元気にしていますか」

「うん。影山先生のことは出発前にいろいろと話は聞いていたわ。なんでも優秀なIS搭乗者(パイロット)だと」

 

 でもなんか楊の奴、この影山先生のことを話すときは尊敬とか羨望とかそんな感じじゃなかったのよね。どこか懐かしむというか、思い出に浸っているとうかなんというか、妙な話し方をしていたから余計に頭に残ってしまっている。

 まぁどうであれ、あの楊が他人をそんな風に言うのは珍しい。

 

「はぁ、あの楊さんがそんなことを」

「ね。だからあたしもびっくりしちゃった。だから今度お手合わせをお願いしたいんだけど。なんなら今でもいいわよ」

「ふふ、機会がありましたらね。ではそこを右に曲がったら事務室ですので、僕はこれで」

 

 そう言って影山先生は廊下を左に曲がって行ってしまった。

 ちぇっ、ふられちゃったわね。まぁ、いつかその力を見せてもらうとして。とりあえず右ね、右。

 ああ、やっとゆっくり出来――

 

「あ、ここにいたのか!」

 ふと、どこか聞きなれた声が、あたしの鼓膜を震わす。まさかこの声は。

 心臓がドキンと跳ね上がると同時に、あたしは半身を、今先生が通って行った廊下から覗かせる。

 

「……一夏」

 

 間違いない。間違えるはずがない。あれはどこからどう見てもあたしの大切な幼馴染、織斑一夏だった。

 

「せ、背がすごい伸びてるし。それに、その、なんというかお、男らしくなったわね」

 

 二年間であんなに変わるものなの? やっぱり鍛えたのかしら。じゃなきゃあんなにがっしりとはならないよね。

 ふ、ふーん、ずいぶんと男磨いているじゃない。か、格好良くなちゃってさ。……いや、うん、なんというか、やっぱりカッコいいなぁ。……うわぁ、やばい心臓が張り裂けそうなんだけど。

 

「おや織斑君。どうかしましたか?」

「頼む! あとでいいから練習に付き合ってくれ!! いや、ください!!」

 

 そう言いながら、ガバッと先生に頭を下げている。

 あいつ本当にIS操縦者になったんだ。というかあんなに熱心に頭下げてお願いしちゃって。そんなにあの影山先生、だっけ? 実力があるのかしら? 言っちゃ悪いけど強そうには見えないんだけど。

 そ、それならいっそあたしが教えてあげちゃうとかどう?

 

『さ、さすが鈴だ。まさかこんなにも腕を上げていたなんて』

『ふふん、当ったり前じゃない! あたしを誰だと思っているのよ!!』

『やっぱり俺は鈴がいないとだめだな。よし、いつかお前の隣に相応しい存在になるためにも、今は俺に色々教えてくれ!!』

『ふふ、変わらないわね、一夏は。その潔いところ、好きよ』

『ば、バカ!! いきなり何言ってるんだよ!!』

『照れるな、照れるな。でも気持ちはわかるけど、今日はこれまでにしましょ』

『いやまだ俺はいける!! それにまだ、鈴との時間を……』

『し、仕方ないわね。じゃあこのあと部屋に戻って今日のおさらいしましょ。もちろん、二人きりで』

『鈴……。ああ、分かったよ』

 

 ……ないわね。くそー、それを断言出来てしまう自分が情けない。というか、そんなことより――

 

「うーん、では夕食前まででいいなら」

「ほ、本当か!?」

「ええ、他でもない一夏君の頼みですからね」

 

 あれ、一夏君? え、なに、生徒を名前呼び? というか他でもないとはどういうこと? いやいやあんたなにそんな慈愛満ちた目で一夏を見てるの? 絶対先生が生徒に向ける眼差しじゃないわよね?

 

「それにクラス代表に推薦するだけしておいて何もしないのは、申し訳ないですしね」

「本当驚いたよ。まさか素人の俺が引き受けることになるなんてさ」

「でもその方が一夏君のためになると思いましてね。しかし知っているように、僕のISは不完全ですしあまり役に立てないかもしれませんよ?」

「いや、白式の戦闘スタイルは雅――影山先生に似ていると思うんだ。だから立ち回りとかそこらへんを頼む!! 剣の腕は箒にも手伝ってもらってなんとかするからさ!」

 

 クラス代表? 白式? ま、まさか、あいつもう専用機を!? いやそんなことより箒って誰!? なによその清掃用具みたいな名前の奴!! というか清掃用具まんまじゃん!!

 

「了解です。では先に行っててください。この書類を届けたら向かいますので」

「分かった!! じゃあ、また後でな!!」

 

 そう言って爽やかな笑顔を残して一夏は走り去ってしまった。

 

 …………なんだろう、この胸の奥から出てくるもやもやした気持ちは。ま、まぁ今は事務室に向かうとしましょうか。うん、訓練を先生にお願いするのは普通のことよね。気にしない気にしない。

 

 ――他でもない一夏君の頼みですからね

 ――影山先生に似ていると思うんだ

 

(……ふ、ふふふふ。まさか先生までも、とはね。でも絶対に負けないんだから!!)

 

 そしてその翌日、あたしはクラス代表になった。

 

 




前回投稿から一か月ぐらい経過してしまいました。そして今月、翌月もスケジュールがつまってまして、また次稿まで長くなるかもしれません。本当申し訳ありません。
では次回もよろしくお願いします。

P.S
コナンの映画を見に行ってきましたが、個人的にはうーんて感じでした。みなさんはどう感じましたか? 
ちなみに僕は沈黙の15秒が一番好きです。

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