僕はこの世界が大嫌いだ   作:イラスト

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ISスーツ

 ISを効率的に運用するための専用衣装。バイタルデータを検出するセンサーと端末が組み込まれており、体を動かす際に筋肉から出る電気信号などを増幅してISに伝達する。ISの運用に必ずしも必要ではない。学校指定の専用タイプが用意されているが、多数の企業からさまざまなスーツが発表されており、女子はたいてい自分専用の物を用意している。
 ISを起動させると自動的にスーツも展開されるようになっているが、エネルギーの消耗が激しいため、緊急時以外はスーツを着用してからISを展開するのが一般的である。
男性用(一夏)は臍上丈の半袖インナーシャツとスパッツ、女性用はスクール水着状のレオタードと膝上サポーターを合わせたデザインをしている。毎日水着がみられるとか、うーわ、たまらんわこれ(Wikipediaから一部抜粋)



三限目 休日は遊びましょう

 

 

 生徒会。

 それは学園の生徒たちの風紀を守り、意見を纏め、より良い学園を創造するために創られた生徒たちによる自治的な組織である。

 もちろん、世界で唯一のIS操縦者育成用の特殊国立高等学校、通称IS学園にも生徒会は存在するが、ここは少々特殊である。

 その中でも最も特筆すべき点は、ここの生徒会は学園のあらゆる権力を握っている故、生徒会の長を勤める学生は学園の支配者と言っても過言ではないということだ。

 なんでも好き勝手出来そうな印象だが、逆を返せばこのIS学園の全責任を背負うという大役とも言えるので、並大抵の精神、人格、人望だけでは務まらない。あらゆる知識と技術、そしてそれを上手く使いこなす柔軟性が求められるのだ。

 

「ねぇ、虚ちゃん」

「……なんでしょう」

 

 二階の中央に位置する豪華な扉の先にあるのが、IS学園生徒会室。

 数ある栄光を証明するトロフィーやら盾やらが飾られた教室一つ分の室内。その約半分には真紅の絨毯が敷かれ、その扉の正面突き当たりには生徒会長が座るであろう机と背もたれが高い椅子が配置されている。そして、その両脇に会計やら書記やらが座る椅子と机があり、それぞれ必要な書類やらpcやらが乱雑に置かれていた。

 残りの半分は書棚と作業が快適に出来るように豊富な生活用品揃っている。因みにそこで得たものや食べたものはすべて学園の経費で落とされるというなんとも羨ましい待遇である。

 現在、そんな生徒会室にいるのは二人の生徒。一人は最奥の机に座り、一人は湯沸かしポッドのすぐ横で紅茶を淹れる準備をしている。

 一年生は通常授業なのだが、二、三年生は入学式に出席したらその後は自由となっているのだ。

 

「雅先生ったら、今年はやらないのかしら?」

 

 香ばしい香りが漂う中、制服に青いリボンをつけた蒼髪の生徒は、ポツリと呟く。

 

「……」

「虚ちゃーん?」

 

 虚と呼ばれた、桃色の長髪を後ろで一本に束ねた生徒は無言のまま紅茶を主のためだけに(・・・・・・)淹れる。

 

「はぁ、今年もあるそうですよ。ほらお嬢様、紅茶を淹れましたから、ちゃんと椅子にお座り下さい。はしたないですよ」

「ごめんごめん」

 

 お嬢様と呼ばれた蒼髪の少女。彼女こそ、この学園全生徒の頂点に君臨する生徒会会長、更識楯無その人である。

 虚に言われ、スルスル素直に席につく。

 

「で、相手は?」

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットです」

「ああ、やっぱりそうなったか」

 

 自分の推測が的中したことにうんうんと首を縦に振り、ほのかに漂う香りを楽しみながらカップに口をつける。

 

「うん、今日も虚ちゃんの淹れた紅茶は最高だね!」

「はい、ありがとうございます」

 

 まるで機械のように返答する虚は、いつの間にか洗面台へと移動しており、明らかに急いで洗い物を片付けに取り掛かっていた。

 

「あら? どこかへ行くの?」

「ええ。ちょっと用事が」

「ふ~ん」

 

 楯無がカップの中身を空にして受け皿にそれを置くころには、虚は足早に出入り口へと歩を進めていた。

 

「……ちょっと待って」

 

 取手に右手が触れたところで楯無から呼び止められる。もちろん虚はその場に立ち止まり、されど右手は取手に触れたまま顔だけを楯無へと向ける。

 

「はい、なんでしょうか?」

「何か私に隠し事、いえもしくは報告するべきことを忘れてはいないかしら?」

 

 肘をつき、両手を組んで、疑惑の目を向ける。

 休日の虚はまず全ての仕事を午前中に終わらせてから、自由行動へと入るのだが、今はまだ午前10時と普通はまだ仕事の真っ最中なはずなのだ。

 少し早く起きて頑張りましたと言われればそれまでなのだが、今日は入学式があったし、それに昨日楯無が残した仕事の数はいつもより多かったはず。それなのにも関わらず、こんなに早く終わるのはいくら優秀な虚であっても不自然なのだ。

 因みに楯無が何故仕事が終わったのか分かるのか。それは虚が仕事の事で生徒室を出るときは必ず、何処へ何のために何をしにと詳細を述べてから出て行くからだ。

 

「いえ、特にありませんけど?」

 

 我が主に察知されまいと必死にとり繕い、そう答える。

 だが楯無が疑った通り、虚には報告していないことがあった。

 

(少し白々しかったか)

 

 内心で虚は悪態をつく。

 ちょっと用事、だなんて普通の人間が聞いても少しは「怪しい」と思うだろう。ましては今日の虚はいつもよりも数倍早い時間に仕事を終わらせて、その用事とやらへ向かうのだから楯無が気にならない筈がない。

 だが、虚は今から行く用事、雅先生の試合を観戦するという用事を楯無に言うつもりは皆無だった。

 何故か。それは楯無の仕事が全くもって終わってないからである。ましては今日は入学式。目を通しておくべき書類は普段よりも数倍あるのだ。

 故に前々から楯無に忠告していた。雅の試合は前例から言えば放課後の可能性が高いが、何が起きるか予測不能だから早めに仕事を終わらせておくようにと。だが楯無はやらなかった。それが全ての理由だ。

 今それを言えば100%私も行くと言い出し、残った山のような仕事は雪崩の如く虚に降りかかってくる。

 折角雅の試合を観に行くために前日から今日分までの仕事に取り掛かり、さらには朝早くに起きてやっと終わったのにそれはあんまりだ。人でなしだ。

 

「ふーん、じゃあ質問を変えるけど、何処に行くか教えてもらえるかしら?」

「職員室へ、ですが?」

「「……」」

 

 淡々とそう答えた後に、しばらくジンワリと妙な空気が漂う。

 

「分かったわ。行ってらっしゃい」

「はい」

 

 だが楯無は表情を崩しながらそう言って、虚を送り出したのだった。ホッと、無事生還出来たことに内心胸を撫で下ろして扉の取手を引く。

 

「じゃあ、雅先生によろしくね」

「はい!」

 

 廊下へと繰り出し、そう元気良く答えた虚――だったが、たった今、己の犯した大失態に一瞬で気づき、冷や汗がブワッと噴き出す。ピシッとまるで両足を何者かに掴まれたかのように身体が固まった。そして辛うじて動く首だけをゆっくり半転させると、扉の隙間から楯無が首を傾けてニッコリと笑っているのが見えた。

 

 パタン。

 

 扉が設計通りに静かに閉まる。

 この時、「お願い、開かないで」と思った虚を誰も責めることは出来ないだろう。

 

「……」

 

 ギィイイイ。

 

 しかし数秒後、その願いは虚しくその扉は再び開かれた。

 

「へぇ、おかしいわね。確か雅先生って、今授業の真っ最中じゃなかったかしら?」

 

 まるで、悪魔か何かが封印を破って這い出てくるかのように。

 

****

 

「ああ、分かってる。大丈夫、気をつけるよ」

 

 第三アリーナAピッドへつながる更衣室で一人、これから行われる試合のために着々と準備を進めていた。

 とは言っても、あまり特別なことはしていない。外へと出掛ける時のように、衣装を整え、必要な物を持って、ブーツを履く。ただそれだけのことだ。

 

「さて、相手は待ちくたびれているだろうし、行くとしますか」

 

 雅の視線の先には40インチのモニタ。そこには第三アリーナのフィールドと、どこから噂を聞きつけてきたのか大勢の観客たち。そしてまだ開始7分前なのにも関わらず、準備万端のセシリア・オルコットが映し出されていた。

 目を瞑り、精神統一の真っ最中である彼女は、すでに愛機ブルー・ティアーズを展開しており、両の手には巨大なレーザーライフル、スターライトMkⅢが握られている。

 

――コンコン。

 

 Aピッドへと向かおうと立ち上がったところに、Aピッド側の扉からノック音が鳴る。

 

「はい、今行きます」

「雅先生、そろそろで――」

 

 扉を開けて出迎えたのは箒だった。だが、雅の姿を見た瞬間、目を見開いて固まった。

 

「――篠ノ乃さん? どうかしましたか?」

「そ、そのお姿は?」

「ああ、これ? 僕専用の戦闘服」

 

 IS操縦者は自信の筋肉から発せられる電気信号をISへ効率よく伝達するために、ISスーツという専用のスーツを着用する。

 しかし雅の場合は全身黒ずくめの、まるでSF映画に出てくるサイボーグのような兵装だった。

 箒が驚愕するのも無理はない。ISスーツ自体も拳銃の弾丸を受け止めるほどの強度を誇り、ましてはISをその身に纏うので、雅のような完全防備はむしろ、自信を動きを制限する枷と言えるのだから。

 

「おーい、箒。雅兄は――って、雅兄、どうしたんだその恰好!?」

 

 扉を開けたまま固まっている箒の背後から、ひょこっと一夏が顔出す。そして雅の姿を拝見すると同時に、箒と全く同じ表情へと変わった。

 

「一夏君まで来たんですか。せっかくだから二人とも、観客席で試合を見ていてほしかったんですけど」

 

 雅は呆れたようにそう言うと、カツカツとAピッド内へ侵入する。

 

「おいおい雅兄、忘れちまったのかよ」

「馬鹿者、今は雅先生だ。……ですが雅先生、私も一夏と同じことを言おうと思っていました」

「――? なんです?」

 

 肩を回したり、手を握ったり開いたりして身に纏うボディスーツの感触を確かめながら、視線だけを背後の幼馴染たちへ向ける。その二人は少し、寂しそうな表情をしていた。

 

「いつも俺たちは、試合前には必ずこうしてみんなで集まっていただろ?」

「雅さん、覚えていませんか?」

 

 雅はふと過去へと遡る。

 一夏の言う通り雅たちは、誰かがこれから大事なことがあるという時には、決まっていつものメンバーで集まり、各々の言葉を伝えて、その人を送り出すことが習慣になっていた。

 だが、ISが誕生してから全員が集まる機会はなくなり、雅の自身も単身で動くようになってしまったせいで、いつしか忘れ去ってしまっていた。

 

「今は先生だけど、俺たちの大事な兄さんなんだ。それぐらいはしてもいいよな?」

「……ありがとう」

 

 唐突に、そして鮮明に蘇ってきた過去が現在(いま)と重なり、目頭が熱くなる。

 それは昔のように送り出してくれる幼馴染がいてくれるからか。それとも、いつものメンバーが、もう二度と揃うことがないという現実を突きつけているからか。それは誰にも分からない。

 

「「いってらっしゃい」」

「ああ、いってくるよ」

 

 そう言って、雅はAピッドから太陽が照り付けるフィールドへと飛び出していった。

 

****

 

 雅が飛び去って数秒後のAピッド内。二人は観客席へと移動することはせず、その場に立ち止まっていた。

 

「余計なこと、だったろうか?」

「心配すんな。気持ちはちゃんと伝わってるって」

 

 箒を不安にさせないよう、陽気に、そして暢気にそう伝えたが、一夏も心に引っ掛かるものがあった。

 今した一夏たちの行為は、強制的に雅を過去へと誘う行為だ。それはつまり、必然的に姉を思い出させるということに他ならない。

 

「じゃあ、俺たちも行こうぜ」

「……」

「箒?」

 

 思うことはあるが、とりあえず観客席へと移動する一夏。しかし箒は返事をすることなく、呆然と雅が飛び出していったゲートを見つめていた。

何か様子がおかしいと思った一夏は側まで駆け寄る。そして覗き込むと、箒の顔は青ざめ、身体は僅かにだが震えていた。

 

「ど、どうしたんだ。具合でも悪いのか?」

「いや、その、だな」

 

珍しく歯切れの悪い箒に、一夏にも動揺が感染る。そして、次の箒の言葉に一夏はモニタへ釘付けになる羽目になるのだった。

 

「み、雅さんって、その、ISを展開していたか?」

「……は?」

 




活動報告で言いました風邪ですが、感染性胃腸炎でした。もう四日間熱、下痢、頭痛のトリプルパンチで死ぬかと思いました。
ですが、なんとか三話今週中に投稿出来てよかったです。ここまで読んでくださりありがとうございました。
では次回もよろしくお願いします。

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