僕はこの世界が大嫌いだ   作:イラスト

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IS(インフィニット・ストラトス)
 宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。開発当初は注目されなかったが、束が引き起こした「白騎士事件」によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まり、各国の抑止力の要がISに移っていった。(Wikipediaから一部抜粋)


プロローグ

 

「はぁ、ついにこの日がやってきてしまったか」

 

 出席簿を片手に、黒いスーツに身を包む男性(・・)教師がため息をついていた。ひっそりと、静かに光が降り注ぐIS学園の廊下を歩くその足取りは重く、首が若干下に傾いている。

 

「ていうかなんで、入学式が終わった直後に会議なんて開くんだ。そうゆうのは前もってやっておいてよ」

 

 ブツブツと悪態を呟く黒髪の教師。

 これから彼は自分の担当クラスに赴き、入学式を終えた生徒たちの自己紹介を兼ねたSHR(ショートホームルーム)を行う予定となっている。

 しかし本来、その役を担うのは副担任である彼ではなく担任教師なのだが、彼の言う通り、その担任教師は会議に出席中のため不在なのだ。

 

「珍しいですね、ため息なんてついて」

「うわッ、びっくりした! いきなり驚かさないでくださいよ山田先生」

「ふふ、すみません。でもこれだけ近づいても気づかない先生も先生ですよ?」

 

 突然と彼の隣にひょこっと現れ、子供のように可愛らしい笑顔を見せる女性は、一年二組の副担任である山田麻耶だ。緑髪と眼鏡が特徴的な彼女も、男性教師同様に出席簿を抱えている。

 

「山田先生は一年二組でしたっけ?」

「はいッ」

「はぁ、羨ましいです」

「――? なんでですか?」

「二組の生徒は少なくとも一組の生徒よりは手がかからなそうですからね」

「もう影中先生。確かにお気持ちは分かりますが、そのセリフは教師として失格ですよ」

 

 影中の担当するクラスは一年一組。その中にはイギリス国家代表候補生且つかなりの男性嫌いであるセシリア・オルコット。天災、篠ノ乃束の妹、篠ノ乃箒。それだけでも厄介なのに、ここに世界初男性操縦者、世界最強(ブリュンヒルデ)の弟、織斑一夏が加わる。故に他のクラスよりも苦労するのは、火を見るより明らかなのだ。

 だからと言って、教師が生徒を選ぶような発言をしていいという理由にはならないのだが。

 

「失礼。失言でした」

「分かってくれればいいのです」

 

 ムフーとその豊満な胸を張って先輩風を吹かせる麻耶だが、その子供っぽさが残る見た目のせいで、影中の目には威厳というものは皆無だった。とはいえ、麻耶の言うことは概ね正しいので素直に反省した。

 

「それで、ため息の理由はアレですか?」

「まぁそうです」

「ふふふ、今年もやってきたのですね」

「笑い事ではないですよ」

 

 男性教師はこの学園で彼だけだ。

 ISは女性だけしか扱えない故に、教師も女性が務めるようになるのは必然と言えるので、彼は女子生徒に予想すらされない存在と言っても過言ではない。

 

「じゃあ、あえて男性というのは伏せてみては? 影中先生は可愛らしい顔だちをしていますし、男性にしては髪は長めな方なので案外気づかれないと思いますよ」

「そ、そうでしょうか?」

「そうですよ。ぜひ試してみてください」

「うーん、でも――あっ!」

 

 麻耶の言う通り、影中は中世的な顔だちをしており、身長も165cmと男性にしては低めだ。おまけに彼は赤のアンダーリムメガネをかけており、そのせいでより女性っぽさが際立ってしまっている。

 

「おりむ――」

「――というか影中先生は生徒もそうですけど、担任の織斑先生にも気を付けないといけませんよ」

「え!? や、山田先生?」

「まぁまぁ聞いてください。知っての通り、昨年私も織斑先生が受け持つクラスの副担任を勤めていましたけど、これがもう大変で」

 

 人差し指を立てて得意げに話すが、影中はその話の内容が全く入ってこなかった。口をポカンと開けて、摩耶の後ろを見ている。

 

「わ、わかりました。で、ではその話は織斑先生を入れて後日にしておきましょうか」

「何言ってるんですか影中先生、こんなこと織斑先生に言えるわけないじゃないですか~。し、仕方ないですね、今度一緒にご飯でも食べながら――」

「――いやいや、ぜひ私も参加させてほしいのだが?」

「いやいやいや、やはり影中先生と――」

 

 そこまで言い終えたところでようやくこの場に第三者がいることに気が付いた麻耶。悪寒がすると同時にぶわっと滝のように冷や汗が流れ出す。そして、恐る恐る振り返る。

 

「いいかな、山田君?」

 

 鬼――でなく、織斑千冬(世界最強)が立っていた。

 眉間の皺は嘘のようになくなり爽やかな笑顔を浮かべている。だが織斑千冬という人物を知っている二人にとって、それは恐怖以外のなにものでもなかった。

 

「お、お疲れ様です、織斑先生。会議はもう終わったので?」

「いや、抜けてきた。今日ばかりは影中先生だけでは大変だと思ったのでな」

「あ、ありがとうございます。ホント頼りになります。ねっ、山田先生?」

「……」

「やまだせんせっ!」

「はっ!――そ、そうですね。あ、あははははは」

「二人とも褒めても何も出んぞ。――と言いたいところだが、今日の私は気分がいい。という訳で今週末飲みに行くぞ。もちろん私の奢りだ」

「「……」」

 

 奢りなのにも関わらず、二人の顔色は血液が通っていないのではないかと思うほどにドンドン青ざめていく。まるで地獄への片道切符を手渡されたかのようだ。

 

「ではいくぞ、影中先生」

「は、い」

「山田先生」

「ひゃい!」

「覚悟、しとけよ?」

「……ハイ」

 

 涙目の摩耶にその一言だけを告げると、千冬は自分の担当するクラスへと先に向かったのだった。残ったのは二人だけ。

 

「山田先生……」

「ど、どうしよう、雅君」

 

 プライベートの時のように影中を名前呼びしているあたり、かなり追い込まれているのは明白だが、なにせ相手はあの千冬なので雅に出来ることない。

 

「……なんとかなりますよ、たぶん。お互い失言には気をつけましょうね」

 

 無情な一言だけを残して、雅は千冬の背中を追いかけたのだった。

 

****

 

「よし、これで全員自己紹介は終えたな」

 

 最後の生徒の自己紹介が終えた一年一組の教室。

 一見静まり返っているようだが、この後一限目前の休憩時間に世界初男性操縦者である織斑一夏に近づこうと、スタートダッシュの準備をしている生徒が見受けられる。つまりこれは嵐の前の静けさというやつだ。

 もちろん担任教師である千冬はその空気をしっかり読み取っている。そして楽しみにしているのだ。影中の登場で生徒が文字通り凍り付くさまを見るのを。

 

「各々これからのことで期待や不安があるとは思うが、精々振り落とされぬよう頑張ることだ。我々教師はそんなお前らのことを出来るだけサポートしよう。では、ここまでで質問はないか? ひとつ言っておくが、そこに座っている織斑一夏のこと以外で、だ」

 

 聞かれないとは思うが、それでも不安があった千冬は念のため釘を刺しておく。

 

「はい、織斑先生」

 

 右奥から左に二つ、下に二つの席に座る金髪の女子生徒からピッっと手が上がる。その整った容姿、姿勢から育ちの良いお嬢様の片鱗が垣間見える。

 

「なんだ、オルコット」

「はい、確かIS学園には担任教師以外にも副担任がいるとお聞きしましたが、このクラスにはいないのでしょうか?」

「うむ、いい質問だ。その話はこれが終わったら紹介しようと思っていたのだ」

(千冬姉?)

 

 織斑千冬の弟である一夏以外でも、千冬が明らかに嬉々としているのが分かった。

 

「紹介? 今からですか?」

「何故今更と思うだろう。だが、それはしっかりした理由がある」

「――? なんですの?」

「まぁそれは本人を見れば分かるさ。では、入ってくれ」

 

 千冬の合図で、ウィーンと教室の前のドアが開く。そこから入ってくる人物に、クラスの生徒の大半は息を呑み、目を見開いて各々の驚愕の表情を見せる。

 

「み、雅兄?」

(雅さん!?)

 

 そんな生徒の注目を全身に浴びる中でも雅は動じることもなく、いつも通りに壇上に立った。

 

「では、自己紹介をよろしく頼む」

「はい、織斑先生」

 

 そう告げると、千冬は雅から離れて教室の端で見守る。その表情はどこか満足げで、笑いを堪えているかのようだった。

 

「では、改めて。今日からこの一年一組の副担任を勤めます、影中雅(かげなかみやび)です。これからよろしくお願いします。念のため言っておきますが、僕は男です。年齢は――」

「「「――えええええええええええええええッ!!??」」」

 

 もはや毎年恒例となった驚きの声が、今年もIS学園に響いたのだった。

 

「また最後まで言えなかった……」

 

 




初めまして、イラストです。小説を自体を書くのは初めてなので、様々な感想、アドバイスよろしくお願いします。
一週間に一本ぐらいのペースを目標に投稿出来たらいいなと思っております。

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