黒いオレンジペコさん登場です。
今、大洗の港は大忙しである。
理由は大洗を母港とする大洗女子学園の学園艦と隣には横須賀を母港とする聖グロリアーナ女学院の学園艦が並んで停泊している。そして、港では両方の学園艦に補給作業で大量の大型トラックや大量の燃料を積んだタンカーが押し寄せているのだ。
通常で補給作業が終わるのは約二週間程度で終わる。
特に聖グロリアーナ女学院の学園艦は大洗女子学園の学園艦より大型であるため補給作業は戦場である。因みに、国内最大級の黒森峰の学園艦の補給作業は約三週間程度で終わるがこれでも昼夜問わず行われてだ。
その間、学園同士で交流会が盛んに行われるのだ。
そして、私達のアパートのポストにラブレター?いや、招待状が来ていたのだ。
「エリカちゃんとみほちゃん宛に聖グロのダージリンから手紙が来てるよ!」
「えっ?」
「ダージリンさんから?」
「うん、そうだね」
手紙の内容はどうやら、私達を茶会に呼びたいらしい。呼ばれたのはみほのAチームと何故か私のBチームの二チームが呼ばれたのだ。
しかし、戦車で来るようにとあるが、みほのチームのティーガーⅡは練習試合の後にエンジンが不調で点検整備中で使用出来ず、私のチームのティーガーⅡは練習試合で酷く損傷して修理業者に入院している。
結論から言うと私達のチームに戦車が無いのだ。空きの戦車は在るが、使えるとすればパンターF型が二両とⅣ号戦車F2型しかないのだ。他にも空きの戦車はあるけど主砲の換装作業で主砲が付いていないのだ。
「みほはどれを使うの?私はパンターを使うわ」
「連携を考えたら同じ車両にしようかな」
「みほ、待って。わたし、訓練にパンターを使うよ」
パンターの選択に待ったを掛けたのはパンツァージャケット姿の愛里寿だった。この姿の時だけは恥ずかしがらずに普通に話せるのだ。
「愛里寿ちゃん、パンター使うって誰と?」
「わたし、自動車部の生徒で操縦が上手な人を見つけたの。最初はバレー部のチームでも良かったけど、何かと根性ってうるさくて指示が出しにくいから、自動車部の生徒を戦車道に誘ったらやるって言ってくれたの。だから、自動車部の生徒とチームを組むよ」
「うん、分かったよ。じぁあ、私はⅣ号戦車を使うよ。愛里寿ちゃん、自動車部も初めてだから優しく指導してね」
「うん、分かった。みほ、帰ったら一緒に劇場版を見てくれる?」
「うん、見る!」
どうやら、私と小梅は二人の餌食になる事が確定のようだった。既に小梅は意味を理解していたようで苦笑いをしていた。
愛里寿が部屋に来てから、みほは更に明るくなったと思える。それは、ボコ友を得たからだけでなく同じ傷を負った仲間なのかも知れない。
昨日、愛里寿が来た夜に学園に来た本当の理由を話してくれたのだ。
去年の11月に愛里寿を隊長に執り行われた島田流の門下生を中心に組まれたチームとドイツのプロチームとで練習試合をしたらしい。しかし、結果は惨敗。相手チームの隊長は日本人とドイツ人のハーフでY・陽子・パイパーでドイツ系の重戦車を中心にしたチームらしい。
試合の経過を話している途中は表情は苦しそうだったが私達の後学のために愛里寿のタブレットで試合の映像を見せてくれたのだ。
はっきり言って、同い年の隊長とは思えない指揮だったのだ。ダージリンでは無いが『戦車に通れない道は無い』を具現化した作戦だった。
歴史で例えるなら、アルデンヌの森の戦いを成功させたようなやり方だった。
そう、愛里寿のチームに奇襲をかけるために普通なら戦車が進攻することを避けるような密度の高い森を抜けて来たのだ。
それを、重戦車でやってのけたのだ。
奇襲され、側面を叩かれた愛里寿達は一気に八割の戦力を失い、愛里寿も単騎で八両を倒したが、その時、既に遅く三十両有った戦車は愛里寿のセンチュリオンを残して全滅だった。
結局、十五両の重戦車による集中砲火によりセンチュリオンは修理不可能レベルの大破をしており、センチュリオンの乗組員と愛里寿も全治二ヶ月の重傷を負う事になったのだ。
今は愛里寿は選手として復帰したが隊長としての自信も無くし、自分が弱かったからと責める姿に荒治療ではあるが大洗に行かせたのだ。島田師範がみほ達に預けて元の可愛い娘に戻る事を信じて・・・・・
そして、その間は学生生活を楽しみなさいとの親心も感じ取れたが・・・・・
気にしないでおこう。
私もドイツのプロチームの隊長が気になり調べたが、指揮能力は天才であり奇策を用いた作戦が得意らしい。だが、性格に難があって、必ず隊長車だけを残して全車両でゆっくりと痛ぶりと蹂躙するのが趣味らしい。愛里寿と同い年ながらプロチームの隊長である事に驚くが私は絶対に戦いたくないと思ったのだ。
だが、それは後に悪夢となって実現する事は私達にはまだ知らなかった。
私達はみほと小梅の三人で学園へと向かい、あんこうチームと何故か、私のチームはワニさんチームになっていたが小梅の話しだと、杏さんが電話でとうとう母親に話しを聴いたらしくて偶然にも娘の事でやけ酒中の西住師範と相席中だったらしい。そうしたら、西住師範の酔った勢いで私とみほ、まほの幼い頃の三人が入った写メが在ったらしく母親経由で杏さんに渡ったのだ。
そして、幼い私が抱いていたワニの人形を見て
「逸見ちゃん、ワニが好きならワニさんチームで良いよねぇ」
とその場のノリでワニさんチームになったらしい。
そして、乗る車両にステッカーで貼れるように何枚も作って在ったのだ。
既にみほはあんこうチームのステッカーを貼り、Ⅳ号戦車を暖気していたのだ。私も仕方なく諦め、ワニさんチームのステッカーを貼り、暖気して行く準備をしたのだった。
同時刻、聖グロリアーナ女学院の戦車道隊長室ではメイド姿でティータイムの準備をするメイドがいた。メイドは誰かが来るのが楽しみにしており、彼女達が来る前にいろいろと試そうとしていた。
コンコン
「ダージリン様、呼ばれて参りましたオレンジペコです」
「同じく、アッサムですわ」
メイドはニコリと笑うと扉を開けたのだ。
「お帰りなさいませ、ご主人様♪♪こんな言葉を知ってる?お食事にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・・・♪♪ダージリン?」
「「・・・・」」
バッタン
メイドの姿を見た二人は一瞬で固まり、隊長のメイドに感化された姿を見なかった事にするために扉を閉めたのだ。
ダージリン様が隊長に指名され、私は一年生ながらも隊長車の砲手兼副隊長に任命された。だけど、最近のダージリン様は私に余りにも酷い仕打ちがあった。
みほ様をお慕いしているのは分かってはいるけど、私の髪型までみほ様の髪型にして戯れるのは辞めて欲しいのだ。だって、それでは私がみほ様の代わりだと言っているのと同じだから。
だから、私もヤキモチでダージリン様に仕返しをしたのだ。
紅茶を入れるのに茶葉を使わずに粉末の紅茶にしてやったのだ。
ところが、ダージリン様に一口飲まれただけで分かってしまった。そして、激怒したダージリン様と怒った私はブラックプリンスとセンチュリオンを率いたダージリン様とコメットを率いた私と試合という形で喧嘩をしたのだ。今週末に大洗女子学園と練習試合があるのに・・・・
結果は引き分けだった。
だけど、ダージリン様が乗るブラックプリンスだけは意地でも大破させたのだ。
そして、ブラックプリンスは修理の為に練習試合には間に合わなかった。
だけども、それを差引いても、昨日の大洗の練習試合ははっきり言えば、ダージリン様の個人的な逆恨みだと思う。エリカ様は中学からみほ様を支えていた節がプロフィールからでも判る。だから、ダージリン様がいくらお慕いしても入り込む余地はないのに・・・・・
試合前から大洗の一人の生徒に執着した事がアダとなり逆に利用されて敗北し、大洗の古狸(角谷杏)の黒い笑みで試合の後は思い出したく無いけど全身タイツ姿であんこう踊りをさせられたのだ。
タイツのせいで体のラインがくっきりと出ており、スタイルの良いダージリン様やアッサム様ならまだしも私は体に自信の無い。だって、私の体は見た目が幼児体形だから・・・・・
恥ずかしかった。
もう、お嫁に行けないと思うほどだった。
設立時から学園別のランキングでお嫁さんにしたいランキングで常に一位をキープして来たのにあんまりだと思う。
そして、今日は朝からアッサム様と一緒に呼び出された。
昨日の内にアッサム様がみほ様の自宅に招待状を贈り届けた時点で茶会を開く事は判る。
だけど、何故、私とアッサム様が呼び出されか分からない。
そして・・・・・・
隊長室でダージリン様のメイド姿に呆れる私とアッサム様。
扉を閉めた後、二人同時にため息だった。
「「はぁ・・・またですね」」
正直、ダージリン様が何に感化されたか知りたくも無かった。既にアッサム様は自身に何がこれから起こるのかが判ってしまったようで瞳から光が消えていた。
バァァァン
ダージリン様が勢いよく扉を開けると満面の笑みで
「いやだわ、ペコ。照れなくてもよろしいのに!さぁ、遠慮なくお入りなさい!」
正直、照れていない。むしろ、見逃して欲しい。
ダージリン様に室内を案内されると
「メイド喫茶ダージリンの館へようこそ!」
はっ、はいぃぃぃ!?
心が叫んでいた。いや、叫びたがっていたのだ。
一応、アッサム様と合わせて
「ダージリン様の呼び出しなので何かあると思いましたが・・・」
「今度は何に感化されたのかしら・・・・?」
ダージリン様は紅茶を入れながら答えてくれた。多分、いつものパターンだろう。
「こんな言葉を知ってる?本当に幸福になれる者は人に奉仕する道を捜し求め、ついには、それを見出だした者である」
「シュバイツァーですね」
毎回、そうだ。たまには自分の言葉で言って欲しい。学校の勉強だけでなく、諺や格言を調べる私の身にもなって欲しいのだ。
そして、感化されたダージリン様の暴走は止まらず、私達、二人に感謝を込めてご馳走するらしい。そして、在ることに気付いたのだ。ダージリン様が厨房で調理している間にアッサム様に聞いたのだ。
「アッサム様、ダージリン様の料理の腕って・・・・?」
「ペコ、諦めなさい。多分、死にはしないでしょう・・・・」
「だと、良いですけど・・・・」
そして、ダージリン様が戻られると私の前に出て来たのはオムライスだった。
「はい、お待たせ!ダージリン特製の手作りオムライス!」
見た目はまともだった。
「頂きます!」
まともだったのは見た目だけだった。
一口食べると口の中でご飯の甘味と一緒に広がる、洗剤の味。そして、意識が飛びそうな程のケチャップの塩辛さ・・・
誰もが、口を揃えて言うだろう。
糞マズイと・・・・・
そして、私は副隊長であるが故に言えない。
これを食さなければいけない。
あぁ、哀しいかな。
「ペコ、どうかしら?」
「おいひぃれひゅっ・・・・・・」
「あら、本当?嬉しい!」
食べ切った私は意識を手放したのだ。
となりでは、オレンジペコが変な汗をかきながらオムライスを食べ切り気絶してしまった。そして、次の対象はわたくしである確率は100%だった。震えるわたくしの体。嬉しそうな、ダージリン。
呼ばれるわたくし・・・
「アッサム!」
「ひぃぃっ!はひぃっ!」
裏返るわたくしの声
もはや、これは・・・・
「アッサムの好きなローストビーフだけれど、ちょっと手間がかかってしまって用意出来てないの」
申し訳なさそうに言うダージリン
これは、チャンスだ。
全力で断ろう。
胃腸の弱い、わたくしには致命傷になるなから・・・・
「いえ、いえ、いえ、いえ、お気遣いなく!お腹すいてませんので、全く、コレポッチも、全然!」
「あら、そう?」
よし!断れた・・・・
「じゃあ、軽くフィッシュ&チップスでもつまんでて!」
わたくしの目の前に出て来たのは、油の切っていないフィッシュ&チップスだった。それは、油でギトギトでベチョベチョなフィッシュ&チップスは、もはや食べ物でもなかった。
わたくしは心の中で叫んだのだ。
(おっ、重ぉっ!?)
正直、■田胃酸が欲しい。
いや、■コンの力だろうか?
「頂きますわ・・・・」
やはり、油の味しかしない。魚の風味もチップスの塩気も感じない。
ただの油の味だった・・・・
食べている途中で、ペコが意識を戻したがダージリンの追撃は止まることを知らない。
「こんな言葉知ってる?『食べてるうちに食欲は起こるものだ』二人とも!どんどんお代わりを注文しなさい!」
もはや、死刑宣告だった。
なんとか、食べ切りぐったりするわたくしとペコ。
「モンテーニュですね・・・・・」
「いえ、お腹も胸も、もういっぱいで・・・うぇええっぷ・・・・」
そんな時、戦車道の部室前にエンジン音が聞こえて来たのだ。
「車が入った見たいですね」
「車というか戦車の音じゃなくって?」
「私達以外にも誰かお呼びしたんですか?」
「その通り!大洗のみなさんよ!じぁあ、おもてなししてくるわね!」
それを聞いてしまったわたくしは大洗の皆様に申し訳なさと『逃げて!』と叫びたくなったが、既に、時遅しだった。
既に、ダージリンは大洗の皆様をお迎えしており、手に負える状態ではなかったからだ。
それを、小物動物のように震えながら大洗の皆様を見る、オレンジペコは目から光を無くした大洗の皆様を見て顔を真っ青にしていたのだ。
私はみほ達と一緒に聖グロの隊長室に足を運んでいた。
「エリカさん、お茶会ですね。初めてだから楽しみだね」
「そうね。聖グロリアーナ女学院の生徒が淹れる紅茶は確かに有名ね。まぁ、私は・・・・」
「あっ、エリカちゃんはまたビールと言いたいでしょ!」
「別に良いじゃない。五十鈴さんは?」
「抹茶ですね」
入口で騒いでいると扉が開いたのだ。
バァァァン
「おかえりなさいませ、ご主人様♪こんな言葉知ってる?お食事にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・・・・ダージリン?」
ダージリンのメイド姿に驚きを隠せないが、私以外は全員フリーズしていたのだ。
当然だろう。
ダージリンがしたのは、新婚の新妻が夜に帰って来た旦那を迎える場合だろうと私は思う。だが、隊長のみほの顔を立てるのが副隊長の役目よ。我慢しよう・・・・
だが、出て来た料理に我慢が出来なかったのだ。
出て来たのはダージリンの手料理だろうと思われる、オムライスとフィッシュ&チップスだった。一口食べて判るマズさに私は流石にキレたのだ。
「ちょっと、ダージリン!聞くけど、お米は何で洗ったのよ!」
「洗うのですから洗剤ですわ」
「次に聞くけど、油は何度で揚げたの?」
「えっ?分かりませんわ・・・・」
「ちょっと、オレンジペコさん良いかしら?エプロンある?」
「はっ、はぃぃっ!今、お持ちします!」
「ダージリン、あなたに教えながらやるから見てなさい!本当の美味しいオムライスとフィッシュ&チップスを作ってあげるわ!」
「えっ、えぇぇぇ!?」
私はみんなが見ている前にも関わらず、ダージリンを厨房に連行したのだ。
厨房に入ると、いつも手首に巻いているゴムで髪をひとまとめに束ねると、すぐ様に調理を開始したのだ。
材料は・・・・充分にある。
「ダージリン、まずは下ごしらえよ。お米を洗って、先に炊くわよ。つぎに、幸い二つの料理に共通する食材は玉葱よ!玉葱をみじん切りにして、半分はレンジで三分程チンして苦味を取って、タルタルソースの材料に使うわよ。残りはオムライス中身のチキンライスの材料にするわよ。チキンは一口大に切って・・・・・・」
私は小姑の如く、ダージリンに教えながら調理を実践して教えたのだ。
私にガミガミ言われながら、教わった為にダージリンが半泣きだったのは秘密にしておこう。
調理すること、45分くらいで調理が完成したのだ。
流石にオムライスとフィッシュ&チップスだけでは、バランスが悪いためにサラダや簡単な野菜スープを作り、隊長室へと運んだのだ。
「あの~何故、ダージリン様が半泣きですの?」
私が戻って来た一言目がアッサムからの質問だった。
「余りにも料理の手順が酷いから矯正しながらやったからよ」
「うぅぅぅ・・・・エリカさん、小姑ですわ・・・・」
それを聞いた小梅とみほはダージリンの一言に納得していたのだ。
「あはは・・・・エリカさん、アパートだとお母さんだもんね・・・・」
「うん、みほちゃん・・・それ、判るよ・・・・」
「私だって、悔しいわよ!学園別のお嫁さんにしたいランキングでダージリンは何気にTOP10入りしてるのよ!私なんか、鬼嫁候補で名前が入っているのよ!しかも、黒森峰なんか鬼嫁の一大生産地って言われてたのよ!まぁ、今は私は大洗だけど・・・・」
「エリカさん、紅茶でも飲んで落ち着いて下さい」
「悪いわね。オレンジペコさん・・・・」
「えっ?えりりんって結婚願望有ったんだ・・・・」
「沙織殿、そこはオブラートに・・・・」
ダージリン達を交えた交流会は昼食を挟んで楽しく進んだのだ。
午後は、ダージリン達と共に戦車道の訓練に参加をしたのだ。
確かに、ダージリンの指揮は私やみほに取っては良い勉強になり、砲手の小梅は聖グロリアーナの砲手達に連行され、講義をさせられていた。装填手はオレンジペコさんと一緒に筋肉トレーニングをしたり、ランニングをしたりと充実した訓練をしたのだ。
一通り訓練をすると紅白戦をする事になり、私とみほは別れる事になったが久しぶりにみほに挑んだが、惨敗だった。
こうして、交流会の一日目が終了したのだった。
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