難産だった・・・・
市街地に誘い込まれた私はエリカ達がみほの作戦に乗せられ孤立したように、私もミカの作戦に乗ってしまい孤立してしまった。だが、唯一の救いは黒森峰の選抜メンバーの士気が赤組も白組も高いことだろう。
そして、目の前でも遭遇したIS-3を相手に黒森峰選抜の山崎が乗るティーガーⅡはエリカがプラウダ戦で見せた体当たりを慣行して急カーブにある旅館の一階の玄関へと押し込む所だった。
『黒森峰をナメるなぁぁぁぁ!やられたら、私は引退なのよ!突っ込めぇぇぇぇ!』
『あんた、キチガイじゃないの!大洗の時といい、あんたといい、キチガイばっかりよ!』
どうやら、IS-3の車長は白百合戦車旅団の選抜メンバーだったらしい。不運にも砲身が長いIS-3は砲塔の旋回が出来ない。そのまま、一階へと押し込まれティーガーⅡは旅館へと榴弾を撃ち込む。
『旅館に榴弾を放て!』
『えっ!?旅館を壊して、私を生き埋めにする気!?』
『そのまんま、埋もれなさい!』
ズッドォォォン
ガラガラガラガラ・・・・
『いっ、イヤァァァァァァ!?』
シュポン
そのまま、IS-3は崩壊した旅館の下敷きになり白旗を掲げる。
そして、何処からか店主の叫び声が聴こえて来る。
『あっ、あぁぁぁぁぁぁ、ワシの旅館(店)がぁぁぁぁぁ!?やったね!新築出来る』
それよりも、ミカ達が見つからない。
「レンならどう思う?」
「西住隊長、私なら継続高校の練習試合の時の様に数両で足止めして、砲撃支援を叩きますね」
「まさか?」
「そのまさかだと思います」
レンの予想が当たり、アナウンスが流れる。
『赤組、シュトルムティーガー、ブルムベアー、ブルムベアー行動不能!』
「なっ、カルパッチョ無事か!」
『はい、無事ですが長距離から狙撃されました。先ほど狙撃して来たのはIS-3二両とIS-2にISU-152とKV-2です』
やはり、ミカは神社に向かったか・・・・
逆に神社を取られたら・・・・・
「マズイ!みほ達が逆に砲撃に晒されるぞ!」
「隊長、ゴルフ場にはカチューシャ達が合流していますが?」
「いや、無駄だろうな・・・・・・」
「では?」
「私も神社に向かう!」
私はペアを組んでいるティーガーⅡを引き連れ神社へと急いだのだ。
カツコフの見立て通り、神社にはシュトルムティーガーと四両のブルムベアーを見付けたのだ。これが居る限り、妹の愛里寿達は囲まれて身動きが出来ないのだ。私達は即効で共同で神社の部隊を排除した所だったのだ。
「カツコフ、君はみほが神社を取ると読んでいたのかい?」
「えぇ、読んでいた。まさか、シュトルムティーガーとブルムベアーが居たとは驚いたけど」
「ねぇ、此処からゴルフ場に狙撃は出来る?」
「アキ、狙撃は可能だ。だが、問題もある」
「なら、私が問題とやらを解決しよう。それなら、狙撃を頼めるかい?」
私は一か八かでカツコフとジェーコフに狙撃を頼んだのだ。ここからなら、囲っているみほ達を一望出来るからだ。
「ミカ、なら西住姉の足止めを頼む。彼女が居る限り、あの包囲網は抜けない。私とジェーコフでカチューシャ達の火力担当を排除する」
カツコフとジェーコフのIS-3が長距離射撃体制にはいる。
私はやる事は一つだけ。
この神社に西住まほを到達させない事だ。
「ミッコ、神社の麓の小学校に移動するよ。そこなら、まほを釘付けに出来るからね」
「わかったよ」
私が乗るIS-2は小学校に移動する。途中、中隊に集結命令を出したから味方も来るだろ。
そして、向こうも合流命令を出したのか市街地の出口付近で再び衝動が起きる。
「パンターF型だね。あれを所有するのは大洗女子の戦車隊だよ」
「アキ、此処でパンターは葬るよ。ゴルフ場に行かせたら愛里寿がかなり危険だ」
私は手元にあるカンテレを弾きはじめる。
♪♪♪♪♪♪~
リズムに乗ったミッコが操縦するIS-2は砲手を勤めるアキ、装填手のマイがテンポ良く大洗女子のパンターF型を葬る。葬ったパンターの絵柄はウサギさん、カバさん、アヒルさんと大洗女子ではお馴染みのパンター小隊だ。そして、バイキング高校選抜のKV-1と戦うのは黒森峰選抜のパンターG型の二両と黒森峰のヤークトパンター中期型だ。
「アキ!ヤークトパンターに照準!」
『狙われた!?』
「トゥルータ!」
黒森峰選抜の生徒が気付いてキュポーラから身を乗り出して慌てるが既に遅い。
ヤークトパンターの側面に主砲を叩き込み沈黙させる。
しかし、バイキング高校の一両のKV-1がパンターG型に側面を叩かれ沈黙する。
「ミカ中隊長、すいません!青師高校のパンターにやられました!」
「ミカ、青師高校のパンターも合流して来てるよ!」
私はキュポーラから身を乗り出し、確認すると青師高校のパンターD型だ。
それにしても、まほの中隊は四個小隊も居るのだろうか?
先ほど叩いたのは大洗女子パンターF型が三両、黒森峰のヤークトパンターの他に確認出来たのは青師高校のパンターD型型二両、大洗女子のヤークトパンター後期型、黒森峰選抜が大洗女子学園附属中から借りたパンターⅡが二両、まほのティーガーⅠ、黒森峰のティーガーⅡにマジノのルノーB1disの十二両の編成だろう。
足止めさせていた、私の高校のT-34/85とプラウダのニーナとアリーナが乗るISU-152とKV-2がゴルフ場に行かせまいと道を塞ぐ。
『あたしらも行くべ!ここはカツコフ様に良いとこさ見せて、赤組をゴルフ場には行かせないべ!』
「うんだ!主砲放て!」
ニーナのKV-2がマジノのルノーB1disを152ミリ砲で吹き飛ばす。次期副隊長候補のアリーナのISU-152も負けずに青師高校のパンターD型へと主砲を叩き込み沈黙させる。そして、ニーナとアリーナは唯一ゴルフ場へと繋ぐ道を塞ぐ形で赤組を通せんぼうをする。
それでも、赤組は私をゴルフ場へと行かせまいと攻撃を続行する。
そして、ニーナのKV-2から白旗が上がる。
『追い付いたぞ!』
私には最悪のタイミングだろう。
黒森峰の隊長の西住まほがティーガーⅠを駆り追い付いたのだ。
「まさか、追い付くとは思わなかったよ」
「私を舐めるなよ?私はみほのお姉ちゃんだからな!お前をみほの所には行かせない!」
「それは、残念だ」
「何だと!?」
「私は風に流されて、あなたを足止めに来ている」
神社から砲声が響く。
『赤組、オイ車、ファイヤフライ走行不能!』
睨みつけるまほを余所に私は愛里寿が無事だと一安心する。
だけど、まほはみほの所に行こうと私を排除しようとする。
急加速する、ティーガーⅠにミッコが反応して急加速でバックする。
目の前にはティーガーⅡとヘビのマークのヤークトパンター後期型までも追い付いて来た事に気付いたのだ。そのまま、一度停車すると発砲したのだ。
気付くのが遅すぎた。
自身を囮にティーガーⅡで狙撃させた事に気付いたが後の祭だった。
「やるようだね・・・・」
ティーガーⅡがギリギリの射程から背面装甲を曝したIS-3を狙撃したのだ。
シュポン・・・・
やられたのはジェーコフの車両だった。
それでも、ゴルフ場の包囲が崩れたようだがこれ以上、戦力を失うのは芳しくない。
やる事は一つしかなかった。
「カツコフ、アリーナは私に続いてくれないかい?三両でみほとカチューシャの包囲を崩す」
私はカンテレを弾きはじめる。
その旋律は激情のままに奏でる。
意図を理解したように各車両はまほの中隊の足止めに徹しており、ミッコもいつも以上に激しい操縦に集中する。
「行くぞ!」
『ミカ、逃げる気か!』
まほが叫ぶが、今は愛里寿の救助が優先だ。
「悪いね。私も愛里寿のお姉ちゃんだから行かせて貰うよ」
まほが叫ぶのを無視したまま、カツコフ、アリーナを引き連れゴルフ場へと突入したのだ。
試合開始30分で完全包囲された私。
みほさんの作戦に見事なまでに嵌められた事になる。
「ダージリン様、スコーンの様に堅く囲まれてますね」
「そうね。でも、硬いスコーンほど割れやすくてよ。ただ、時が経つのを待ちしょう。ペコ、わたくしに貰えるかしら?」
「はい、ダージリン様」
ペコから紅茶を注いでもらい、紅茶に口をつける。
でも、十六両に囲まれる状況の中では堪えるしかない。
しかも、動きを見せれば降ってくる榴弾と狙いを澄ましたしように主砲を叩き込まれるだろう。
それにしても、緒戦からの惨敗は・・・・・・
ズッドォォォン
パッシュ
カッシャァァァン
「!?」
ティーカップを想わず落とすアッサムに未だに平然を装うわたくし。
「ダージリン様、すいません!」
「いっ、一体何が起きましたの?」
驚きを二人に無理矢理隠しつつ、わたくしはキュポーラから顔を出して確認する。
多分、酷い顔だとは思う。
わたくしでも、バンカーの穴は違えど赤組の四個小隊に囲まれるといった失態を犯したのだ。
だが、やられたのは味方では無かった。
オイ車とシャーマン・ファイヤフライが白旗が上がっていたのだ。
そして、二両を失い愕然とするみほさん。
そうか、スコーンが割れたのだ。
わたくしは叫んだのだ。
「皆さん、ティーカップをお捨てになって・・・・」
「「えっ?」」
わたくしの叫びに固まるペコとアッサム
「聴こえなかったですの?ティーカップを捨てなさい!優雅にではなく獰猛に行きますわよ!」
意味を理解した聖グロリアーナの生徒は一斉にティーカップを捨てる。鳴り響く、ティーカップが割れる音に目付きが変わる生徒達。
無線の意味を分かった愛里寿隊長も叫ぶ。
『全車、前進!我に続いてゴルフ場より離脱する!』
常に優雅に・・・・
それを平然と出来るまでの訓練は怠ってはいない。
「わたくし達は離脱しつつプラウダの戦車を削りますわ!』
向こうのバンカーでもエリカ様とエミ様率いる三両もバンカーより離脱してわたくし達と同じカチューシャの居る方へと突撃する。
『包囲が厚い方にくるなんて気でも狂ったの!?』
「全車、走行間射撃を開始!」
センチュリオンの主砲が一斉に火を噴いてプラウダのカチューシャ達を襲う。
倒したのはプラウダのT-34/85にIS-2など六両を撃破。
もちろん、カチューシャとノンナの車両も撃破してゴルフ場より離脱したのだ。
途中、ゴルフ場へと突入したミカさんと合流して破棄されさ遊園地へ逃げたのだ。
ただ、エリカ様とエミ様が居ない事に誰も気付かなかった・・・・・・・・
私は少しでも、戦力を削るべくエミと残っていた。
ゴルフ場へと続く深緑の林道の中、みほが追って来るのを待ち伏せしていた。
みほとこうして対峙するのは黒森峰以来だろうか?
いや、大洗女子学園での初めての戦車道の授業以来だ。
「エミ、行くわよ!」
「タイミングは任せなさい!」
向こうから、履帯と戦車特有のエンジン音が聞こえてくる。
「小梅、自由射撃で構わないわ」
「うん・・・・・」
先頭を走るプラウダのT-34/85に照準を合わせる。小梅は息を整えるとトリガーを引く。
砲弾は面白い様に車体と砲塔の間に吸い込む様に命中する。
ここは、先頭車両を潰せば簡単なバリケードに変貌する。
道を挟んで隠れるエミのティーガーⅡもプラウダのT-34/85を蹴散らしていく。
「藤木、残弾は!」
「残り、48発よ!」
「エミ、向こうが味方が邪魔して撃てない内に削るだけ削るわよ!」
だけど、それがおかしい事に私は気付いて居なかった。
カチューシャの中隊の残りの二両を撃破した時に身をもって体験する事になる。
私の前方に現れたのは松山西女子学園の五式中戦車と五式砲戦車の二両だった。
多分、戦車道ルールで日本の戦車では最高位にある戦車だろうか?
二人の車長は身を乗り出してハンドサインだけで狙いを決めていた。
狙われたのは私ではなかった。
エミは砲塔を向けて五式中戦車を狙うが交わされ、砲塔を向けたままだった。
二両が急加速するとエミのティーガーⅡに体当たりをしてティーガーⅡを奥地へと押して行く。
『きゃぁぁ!何よ!主砲が挟まれて砲塔が向けられない!?まさか、最初から狙われていたの!?』
ズルズル・・・・
『ちょっと、私を何処に連れて行く気よ!』
「エミ!?」
私はエミを助けようとするが、目の前にはみほのティーガーⅡが進路を遮っていたのだ。
「エリカさん、ここで撃破させてもらいます」
「上等じゃない。みほ、やれるものならやって見なさい!」
「行きます!」
こんな狭い場所ならみほのティーガーⅡでもあれは出来ないはずだ。
そして、パンター並の装甲しかないみほのティーガーⅡは私のティーガーⅠの主砲で簡単に撃ち抜ける。そう、正面を向けたままなら撃ち負けることはないのだ。
だけど、不安なのは何故?
分からないまま、みほは木々を薙ぎ倒しながら私に突撃してくる。
「小梅、一発ぶちかましなさい!」
ズッドォォォン
主砲が放たれるが、嫌がらせだろうか?
「沙織さん、機銃でティーガーⅠの操縦席ののぞき窓に撃ち込んでください!」
みほ、いまなんて言った?
機銃でティーガーⅠの操縦席ののぞき窓に機銃の雨が降り注ぐ。まぁ、完全防弾仕様だから割れる心配がないが跳弾するので全く見えない。
「逸見さん、前が見えない!」
「内法、何とかならない?」
「華さん、いまです!」
「はい」
ズッドォォォン・・・・・ジャラジャラ・・・
「えっ?」
「逸見さん、操縦不能!?左に寄ってくよ!」
まさか、みほの狙いは・・・・・
キュポーラから身を乗り出して確認すると、左側の履帯が切られていたのだ。しかも、ご丁寧にも左側の四番転輪が壊されており転輪を全て外さないと直せない様にされていたのだ。降りて履帯を直そうとするが、みほに止められる。
「ぬぅぐぐぐ・・・・みほ、覚えておきなさいよ!」
「エリカさん、ごめんね。あっ、でも降りない方がいいですよ!」
「なぜよ?」
ズッドォォォン
パッシュ
「やったであります!初撃破であります!」
「えっへへ、こういう事だから」
そう、私は知波単の福田が乗る五式中戦車にやられたのだ。
私は嵌められた怒りより、福田にやられた悔しさが上回り叫ぶ。
「覚えてなさい!」
「エリカちゃん、仕方ないね。みほちゃんが上手だったから」
小梅に慰められつつも、私はみほにやられた事が悔しかった。
そして、エミもやられたらしい。
回収車の上でエミから聞き、二人揃ってみほに嵌められたのだ。
ゴルフ場入口でも小競り合いは続いていた。
脱出して来た愛里寿達は逆襲するために私の中隊が餌食となったのだ。
私もミカを追い、ゴルフ場まで来たが他の車両に足止めされてしまい突入できなかったが、ゴルフ場で足止めしたKV-1やT-34/85は全て撃破している。
しかし、こちらも被害甚大で残ったのは大洗女子のヤークトパンター後期型に乗るヘビさんチームと黒森峰選抜のティーガーⅡをのみだった。
「仕方ない。みほと合流しよう」
「隊長、沙織さんからの通信では私達の方に白組が逃げて来ているようです」
「待ち伏せが出来るが、愛里寿には効かないだろう。その前にダージリンに読まれる」
「まほさん、それなら、聖グロリアーナだけを狙いません?愛里寿副隊長のセンチュリオンとは見分けが着きやすいですしティーガーⅡ、ティーガーⅠ、ヤークトパンターの主砲なら簡単に撃ち抜けると思いますよ」
こうして、話し合っている内に白組が私達の前を通過していた。
だが、幸いなのは林に隠れていたのだが、ダージリン達が通過するまで気付いていなかった。
「隊長、あれは・・・・」
「そうだな。通過されたな・・・・・」
「まほさぁぁぁぁん!」
感想をお待ちしています。