ガールズ&パンツァー 逸見エリカの苦労日誌   作:まもる

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誕生!魔改造戦車です!

 

 長崎の解体ドッグでエリカさん達と別れ、私はあんこうチームのメンバーと整備担当の板野さん達と一緒に実家にあるパパの工房に来ていた。理由は大阪のドイツU20選抜との試合で、今のままのティーガーⅡでは厳しいと感じからだ。

 

 私達、あんこうチームのティーガーⅡは隊長用にカスタムはされているがエンジンや足回りを重点的に改修したに過ぎない。

 

 そして、私に常に付き纏う不安。

 

 西住流では重戦車はエンジンや足回りが弱い事を散々叩き込まれて来たからかも知れない。

 

 それは、大阪での試合では顕著に表れた。

 

 何とか、島田かのんさんとマリアちゃんには何とか勝てはした。でも、早い相手には玩ばれるほどに苦戦してしまった。それに、足回りが物を言う機動戦や撤退戦では麻子さんにかなりの精神的にも肉体的にもかなり無理をさせてしまった。

 

 いつも、脳内に過ぎるのはいざという時にエンジンやトランスミッションの不調や重戦車であるが故の速度不足。

 

 そんな時、提案を出してくれたのは私のお父さんだった。

 

 「いっそのこと、装甲を薄くしたらどうだ?」

 

 「そんなこと、出来るんですか?」

 

 一番に驚いたのは板野さんだった。

 

 「板野君、昔の戦車道では良く使われた手だよ。まぁ、規定ギリギリまでしか薄く出来ないけどね。ティーガーⅡポルシェ砲塔タイプなら出来るかな」

 

 「流石は西住殿のお父様です!」

 

 「で、具体的にどれくらい、薄くするんだ?」

 

 「そうだね。まずは、車体だけど薄くするのは前面上部装甲を150ミリから110ミリまで薄くして、側面装甲は同じく80ミリから60ミリまで薄くするのはどうだい?砲塔はやっても、強度の問題から側面装甲を少し薄くするくらいだな。分かりやすく言えば、パンターを少しだけ厚くした感じって言えば判るかな?」

 

 図面を広げながら、私達に分かりやすく説明してくれる。

 

 「お父さん、改造はどれくらいで出来そうですか?」

 

 「そうだね、装甲を薄くするだけなら三日ぐらいかな?ヤークトティーガーを作る時に装甲板の型とコーティング済みの装甲材は用意してある。だが、このティーガーⅡは元々、茜さんの指揮と島田師範の操縦の癖に合わせたチューニングだからサスペンションやトランスミッションは冷泉さんに合わせたチューニングにしよう。試合を見ていたが、どうも見ても操縦がやりにくそうだったからね」

 

 「麻子さん、そうだったですか?」

 

 「隊長、正直に言えばかなりやりにくい。箇所をあげるなら、クラッチが繊細過ぎて繋ぎにくいし、ステアリングも敏感、カーブでアクセルワークを間違えるとドリフトする。でも、島田流の技をやるには非常に凄く乗りやすい。だから、チューニングするならもっと、ピーキーなチューニングにしても問題無い」

 

 「そうか?なら、調整はあの人に頼もうか?」

 

 「誰ですか?」

 

 「気になる」

 

 そんな時、沙織さんの悲鳴が聞こえたのだ。

 

 「キャァァァァ!?」

 

 振り向くと沙織さんが知らないおじさんに太股も触られていたのだ。

 

 「ホッホッウ・・・サナちゃんやかのんには程遠いが良い張りの肌じゃのう」

 

 「やだもぅ!どこ、触っているの!」

 

 「すみません、沙織さんが嫌がってます。やめて下さい!」

 

 沙織さんから離れ、私の前に来て体を嫌らしく見て回るが、お父さんがスパナ片手に軽く叩く

 

 「フェルドナンド博士、娘に嫌らしい目で見ないで下さいますか?スパナで叩きますよ?」

 

 パコン

 

 「アダァ!?常夫、既に叩いとるぞ!この娘が常夫としほの娘かのう。よう、似とる。それにしても、何じゃ!このティーガーⅡの履帯は張りすぎで履帯がはち切れるぞ!エンジンもそうじゃ!不協和音で美しくも無い!そのうち、エンジンブロー起こすぞ!誰じゃ!このティーガーⅡを整備しとるのは!」

 

 急に、私達のティーガーⅡを見ただけで激怒する博士と呼ばれるおじさん。

 

 「お父さん、誰ですか?」

 

 「みほに紹介しよう。整備士でもあり、戦車マイスターであるフェルドナンド博士だよ。以前、みほがティーガーⅡからヤークトティーガーにして欲しいって頼まれた時に博士を呼んでいたんだよ」

 

 「そうなんだ」

 

 「フムフム・・・・良かろう。可愛い常夫の娘に免じて、ワシが直々に改造してやろう。常夫、ワシは戦車道のルールはイマイチ判らん。だから、規定以内に納まる様に手伝え!」

 

 博士の元、私達のあんこうチームのティーガーⅡの改造が始まったのだ。

 

 

 燃料タンクからガソリンが全て抜かれ、解体されて行くティーガーⅡは砲塔がクレーンで外され装甲板は溶接跡を元に剥がされ、内部構造が向きだしになっていく。

 

 そして、ついでと言わんばかりに板野さんはトランスミッションや通常整備では手が行き届かない所や砲塔を回転させるモーターなどを新品のパーツに替えて行く。そして、エンジン周りを見ていた博士が叫ぶ。

 

 その中で最もくたびれていたのはエンジンだったのだ。

 

 「ウムゥゥ・・・やっぱり、ワシの目立て通りじゃな・・・・」

 

 「えっ!?」

 

 「嘘!?」

 

 私と板野さんがエンジンの状況を見て絶句する。

 

 ただの変態博士かと思っていたけど、エンジンに限っては酷い状態だった。これでも、大洗女子学園にあるマイバッハエンジンの中で一番調子が良く、状態の良いエンジンを板野さん達、整備班が徹夜してまで調整したエンジンだ。黒森峰でも一流の腕前から信頼しているから私でも驚きだった。

 

 「じゃが、これはお嬢さんが整備していたのかい?」

 

 「はい、私が自ら担当して整備していました」

 

 「君の腕前だったからここまで持ったと思って良い。君の思いと車長の思いがこのエンジンが頑張っていた証拠じゃ。だが、常夫でもこれは弄るのは骨だろう?」

 

 「はい、さすがにマイバッハエンジンのパーツはドイツから輸入しないと修理は無理でしたし、黒森峰で破棄されたエンジンから使えるパーツを見繕ってやってましたから・・・・」

 

 エンジンの話しの矛先は私に降られたのだ。

 

 「みほちゃんだったかな?」

 

 「はい」

 

 「おぬしは大阪で島田かのんとやり合ったそうじゃな?」

 

 「はい、とても強かったです。お姉ちゃんが居なかったらやられていたのは私でした」

 

 確かに強かった。

 

 お姉ちゃんと一緒にじゃなきゃ、やられて居たのは私だった。

 

 「それも、そうじゃろうな。かのんは野良中戦車同好会を立ち上げ、仲間と共にリングオブファイヤーに初出場して優勝した戦車乗りじゃ。それに、かのんの乗っていたパンターF型を完全に修理したのはワシじゃ。その時に使った同じエンジンで先行試作型マイバッハHL234 /4ストロークV型12気筒液冷ガソリンエンジンを持って来てやった。一応、日本戦車道連盟からの使用許可は常夫が取ってあるが、載せ変えるか?」

 

 博士は木箱を解体して出さしたのは一基のエンジンだった。

 

 「えっ!?先行試作型マイバッハ234ガソリンエンジンですか!あれは確か、マイバッハHL230P30の改良型のエンジンで1944年の試作段階でティーガーⅡに載せてテストして900馬力を出したエンジンですよ!まさか、実物を見られるなんて夢みたいですよ!」

 

 木箱からだされたエンジンを見て、興奮しながら解説する優花里さん。

 

 「ゆかりん、そんなに凄いエンジンなの?」

 

 「武部殿、今積まれているエンジンと比べたら月とすっぽんの違いですよ!しかも、一度は載せているからレギュレーションにも引っ掛かりません。さらに、付け加えたら以前のエンジンより重量が軽いのも魅力ですよ!」

 

 「もし、載せ変えたらスピードはどれくらいですか?」

 

 「そうじゃな・・・・45㎞から50㎞くらいはでるじゃろう。なにせ、ドイツ選抜チームが使っていたE-75やE-50と全く同じエンジンだからのう」

 

 「「「「「えっ!?」」」」」

 

 「西住殿、言い忘れてましたが、そのエンジンは本来Eシリーズに積まれる予定のエンジンですよ」

 

 「そうだったんだ・・・・」

 

 みんなと話している間にも博士とお父さんは手慣れた手つきでエンジンをティーガーⅡから降ろして行く。エンジンを降ろして、板野さんがエンジンルームの内部に入ってエンジン周りの部品の交換作業をしたり、摩耗した燃料パイプを交換して行く。博士は新しいエンジンを微調整しながら黙々と作業を進めていく。

 

 エンジンを載せると一度、エンジンを掛けて調整する。

 

 確かに、いつものエンジン音とは違い軽やかにして軽快なリズムを刻んでいるのが判る。

 

 次の作業はトランスミッションのオーバーホールだった。

 

 「全く、トランスミッションもか!」

 

 「博士、今日の作業はここまでにしましょう」

 

 気づけば、夕方の6時を指していた。

 

 道具を片付け、屋敷に戻る。

 

 あんこうチームや板野さん達にも今日は屋敷で泊まって貰う。

 

 みんなと夕飯を食べながら、お母さんはあんこうチームのメンバーに大洗に転校してからの話しを聞いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 場所も変わり、大洗女子学園

 

 無事に長崎を出た私達は解体業者の人に戦車倉庫に呼び出された。

 

 「済まないね。学園艦の最下層で戦車を見付けたから出して置いたんだ」

 

 確かに三両は戦車だ。

 

 しかし、書類には記載されていたが、何故、最下層に戦車が有るのだろうと私は不思議に思ってしまう。

 

 三両共、共通して言えるのは頼もしく思える事だ。そして、解体業者の話しでは三両一緒に隠されていたらしい。その、倉庫前に並ぶ三両の戦車の発見を聞いて飛んできたのは茜叔母さんだった。

 

 「やっぱり、在ったわね」

 

 「三両ともパンター系なのは分かるけど何なのよ?」

 

 「あら、エリカも居たのね」

 

 「最初から居るわよ!」

 

 「エリカちゃん、怒らない」

 

 「悪かったわ小梅。何で、叔母さんが来てるのよ?」

 

 「やっと、見つかったのよ!私達の代でも見付からなかった、先輩達の隠し財産・・・・ガスタービン仕様のパンターG型よ。だから、一目見たくてね」

 

 「叔母さん、残念だったわね。肝心のガスタービンエンジンは積んで無いわ。いえ、エンジンルームがからっぽだったわ」

 

 「えっ、そっ、そんな!」

 

 「多分、あの解体業者が知っていそうだけどね。なにせ、エンジンルームが綺麗過ぎるのはおかしいわ」

 

 冷や汗が止まらない解体業者に私と叔母の鋭い視線。そして、解体業者を取り囲む戦車道の生徒達

 

 「口が答えないなら・・・・・内法!おでんの餅巾着を買って来なさい!黒森峰流のアレをやるわよ!」

 

 「「「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 私の指示に一斉に驚く生徒達。

 

 黒森峰は良く戦車道の大会の前後では偵察で忍び込む生徒が後を絶たなかった。そこで、生徒会所属の秘密警察は躍起になって捕まえていたらしい。そして、過去に捕まえられなかったのは聖グロリアーナのMI6だろう。

 

 最近、聖グロリアーナと手を組んでから知ったが、アッサムがMI6に所属している。

 

 そして、大学選抜にして島田流の門下生であるツグミさんはBC自由学園出身だと聞いて居たが実は聖グロリアーナの生徒だった事がアッサムから聞いて驚いたのは最近の事だった。

 

 島田流の保護下である大洗女子学園では諜報にも、さらに力を入れはじめツグミさんを指導員に指導を受けている生徒が数名いる。あんこうチームの優花里も指導を受けている。

 

 「エリカちゃん、アレは止めよう!」

 

 小梅が止めに入るが、叔母はかなり乗り気だった。

 

 だって、既に・・・・・

 

 「ねぇ、ガスタービンエンジンはどうしたのかな?」

 

 解体業者にアイアンクローをして、尋問中だった。

 

 「ギャァァァァ!?こっ、答えるから離して!」

 

 「あら、そう♪」

 

 何故か、直ぐに吐いた解体業者だった。

 

 ガスタービンエンジンは良い金になるから、勝手にエンジンを降ろして売ってしまったらしい。

 

 それを聞いた叔母は・・・・

 

 ブッツン・・・・・

 

 何か切れた音がしたのだ。

 

 空気が一瞬で変わり、怯え出す生徒が出て来たのだ。叔母の表情はニッコリ笑顔から般若の表情に変わっていた。

 

 確かに怖いわね。

 

 今なら楓の気持ちが嫌と言うほど判るわね・・・・・

 

 そうじゃない!マズイ!

 

 「まずいわ!叔母を止めなさい!」

 

 絶対に死人がでると直感した私は叔母を止める様に指示。

 

 十人掛かりで押さえ付け、解体業者もその場でロープで羽交い締めにしたのだ。

 

 内容を直ぐに角谷学園長と杏会長に報告して事なきを得たのだ。

 

 解体業者にはガスタービンエンジンの弁償とパンターG型の修繕代を請求する事になり、解体業者の経営が傾く金額だったのは学園艦の一部を解体していた事が発覚し、その修繕費も加算されたからだ。

 

 正直、ご愁傷様だと言いたい。

 

 結局、三両のパンターG型は通常エンジンになったのは主砲の防楯があご無しだったため、あごありに改修して、ガスタービンエンジンより通常エンジンの方が燃費か良い事が分かり通常エンジンにしたのだ。

 

 そして、学園艦の修繕作業でしばらく大洗港から身動きが出来ない事になる。

 

 

 

 

 

 西住流の演習場では、改造が終わったティーガーⅡが疾走していた。隣に同じスピードで走るのは西住師範が乗るⅡ号戦車L型のルクスだ。そして、門下生達はルクスに並走しているティーガーⅡを見て開いた口が開いたままだった。

 

 まるで、見てはいけない物を見てしまった様な信じがたい光景を見てしまった表情だった。

 

 「麻子さん、水温計は大丈夫ですか?」

 

 「問題ない。むしろ、心地好い感じだ」

 

 「華さん、照準器はどうですか?」

 

 「いい感じです。砲塔の旋回スピードも上がりましたし、モーターも静かです」

 

 『みほ、今のスピードは45㎞を超えたわ。まだ、スピードを上げる?』

 

 お母さんからの通信。

 

 「はい、最高速度を把握します。麻子さん、スピードを限界まで上げて下さい」

 

 「任せろ」

 

 ぐんぐんスピードを上げるティーガーⅡに並走して速度を計るルクス。

 

 「隊長、55㎞で限界だ。サスペンションにはまだ余裕があるが辞めて置いた方が良い」

 

 「分かりました。麻子さん、慣性ドリフト行きます。華さん、ドリフトしながらですが進行間射撃行きます。優花里さん装填お願いします。沙織さんはお母さんからの通信を聞いてて下さい。異常があれば通信が来る手筈になってます」

 

 ドリフトしながら、的に射撃をしていく。

 

 三つの的に放つが当てたのは一つだけだった。

 

 「やっぱり、予測射撃は難しいですね」

 

 「そうですね。ですが、このスピードで当てたんですから凄いです」

 

 「それでも、全て当てたかったです」

 

 華さんは少し悔しそうにしていた。でも、スピードに慣れれば当てられる様になると確信したのだ。

 

 今度は門下生を相手に四対一での訓練だった。

 

 結果から言えば、二分で門下生は壊滅。

 

 島田流の辻切りから一両撃破して離脱。追わせる様に仕向けてからの慣性ドリフトによる進行間射撃で決めたのだ。さっきの慣性ドリフト中の進行間射撃が悔しかったのだろう。華さん、優花里さんが頑張り、三両のウィークポイントを正確に狙い撃ち撃破したのだ。

 

 慣熟訓練を終え、ティーガーⅡはお父さんが戦車道連盟での車検に出して受かれば使える様になる。待っている間は熊本の散策だった。

 

 夕方には戦車道連盟での車検が終わり、結果はもちろん合格だった。

 

 門下生にも手伝ってもらい、修理の終えた戦車は熊本港からチャーターした揚陸艦に乗せて、私達は大洗へと帰ったのだ。

 

 もちろん、学園に提出するティーガーⅡの仕様書を抱えて・・・・・

 

 

 ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔)あんこうチーム専用カスタム

 

 主砲   71口径88ミリ戦車砲

 

      砲塔前面110ミリ側面60ミリ

      車体前面110ミリ側面60ミリ背面50ミリ

 

 エンジン 先行試作型マイバッハ234 4ストロークV型12気筒ガソリンエンジン

 

 馬力   900馬力

 

 最高速度 55㎞/h

 

 重量   52t

 

 

 私は揚陸艦のデッキでエキシビションマッチが楽しみだと思いながら潮風に髪をなびかせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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