襲撃ポイントから眺める私は、B中隊のC小隊にいる四馬鹿の一人の椿の操縦技術には舌を巻くほどだった。普通に走ったらフラッグは飛んでしまうがスキーのモービルをするようにケツを振り砲弾を交わして行きながらフラッグを避けて走って後続が困らない様にしていたのだ。
霞達も私と同じ三年生。
来年には大洗女子学園へ入学することは決まっていた。
だけど、それはみほ隊長が率いる大洗女子学園が優勝しないと駄目らしい。
一応、私の戦車だけは決勝戦の会場からの無線が引っ切り無しに入って来ている。
大洗女子は窮地に立たせられているのだ。
しかし、私達もタンカスロンに勝たないといけない。
来年の学園への憂いを無くす為に・・・・・・
こうしている間にもプラウダ高校のT-26は騙されたかの様に霞達を追いかけていた。
そして、霞達が丸太を渡り切りプラウダ高校の後続が黄色いフラッグを通り過ぎたのが見えた。
「B中隊、今よ!B小隊、D小隊はワイヤーを引けぇぇぇぇ!」
無線越しに叫び、号令と共に丸太にくくり付けられたワイヤーは38(t)によって引かれ現れたのは夜中に掘った対戦車壕だ。
「たっ、対戦車壕!?全車、停止!エッ?滑って止まらない?じゃあ・・・・キャァァァァァ!?」
「キャァァァァァ!?」
「止まった・・・・キャァ!?押すな馬鹿!うわぁぁぁぁ!落ちるぅぅぅ!」
丸太が退かされて対戦車壕が急に現れた事に慌てるプラウダ高校の戦車隊。
「慌てても遅い!昔から言うでしょ。戦車は急には止まれないってね」
「楓ちゃん、それを言うなら車だよ・・・・」
先頭車両が急ブレーキをしても無駄だった。
勢いは止まらず、雪で滑りながら戦車壕に落下していくT-26や何とか止まれたが後ろから追突されて落下していく車両も在った。そう、雪崩のように・・・・・
既に、私を追いかけていた隊長車も戦車壕に落下していた。そして、落下した戦車は上がれない為に白旗を揚げるしか無かったのだ。最初、監督から聴いた時は、あまりのえげつなさから顔を引き攣ったのはこのためだ。
対戦車壕が渡れないなら後退する戦車が出はじめた頃に私は退路を絶つために起爆スイッチを押したのだ。
T-26が居る一帯にはロケット弾や榴弾が等間隔で埋めてある。
それが、最後尾から起爆したのだ。
プラウダ高校にしたら悪夢だろう。
コードで繋いだ起爆用の信管に替えた砲弾は次々と爆発を起こして、プラウダ高校の戦車隊を地面ごと吹き飛ばして行ったのだ。
前は対戦車壕で後ろからは起爆した砲弾の嵐。
最早、逃げ場は無かった。
戦車壕を無理矢理渡ろとすれば丸太を楯に隠れている38(t)からは砲弾が飛んでくる。
それでも、プラウダ高校の戦車隊を半分しか倒せていない。
しかし、それで十分だった。
「A中隊のC小隊、D小隊は突撃用意!」
『了解』
崖の角度は約60°だ。
崖の上からの襲撃は予想していないだろう。
「同じく、A小隊、B小隊も突撃用意!」
操縦手がエンジンを吹かしていく。
突撃をさせろと言っているかのように。
お望みならしてやろう。
「A中隊、突撃!私に付いて来なさい!」
「「「「「おぉぉぉぉ!」」」」」
「エッ!?崖の上から襲撃!?」
37ミリ機関砲を乱射しながらの突撃だった。
「撃ちまくれぇ!」
崖の上からの襲撃に浮足立つプラウダ高校。
機関砲だから、精密な照準なんていらない
いや、できない。
崖から突撃する私達は機関砲の砲身を上下するだけでT-26の上部装甲やエンジンルームを貫き白旗のオブジェクトに変えていく。マガジンを取り替える装填手は地獄かもしれないが十両による側面からの突撃のだ。
私が率いるA中隊が乱戦に持ち込んでいる間にB中隊は崖の上に素早く移動し、次のポイントまで撤退していたのだ。無論、乱戦に持ち込んだ私達もただは済まないのは分かりきっている。
「ノンナ!」
「はい、カチューシャ様」
あれは・・・・地吹雪のノンナにじゃあ、あの小さい子がカチューシャだ。
突入した私達に次第に数の暴力が牙を剥き始めた。
まずやられたのが、高い技量の同級生を中心にした私の小隊だった。
一両のT-26の体当たりを受けた四号車が六台のT-26に囲まれて一斉射撃を受けたのだ。
「まゆ、ちいちゃん、麗ちゃん、響ちゃん大丈夫!」
詩織が無線で叫ぶ。
「A小隊四号車!すいません、やられました!でも、みんな大丈夫です!」
「後は任せて!隊長車から各車へ!絶対に止まるな!速度を生かして一撃離脱に切り替えなさい!」
「「「「了解!」」」」
詩織の無線には各車から被害が次々と入ってくる。
「嘘!?ジャムった!?キャア!?C小隊一号車、やられました!」
「隊長ばかりにカッコイイ所を持って行かせるじゃないわよ!もっと、撃ちまくれ!エッ?何?砲身が焼き付いたですって!?D小隊一号車、砲身交換で離脱します!」
「B小隊二号車やられました!」
もう、そろそろ限界ね・・・・
「隊長車から各車へ!A中隊はKポイントまで撤退するわよ!」
私達が離脱を図る頃には私の一個中隊四個小隊が二個小隊まで激減したのだから・・・・・・
向こうは向こうで大打撃を受けていた。
「全く、風紀委員長が指揮を執っただけで何なの!酷い有様じゃない!」
私は最初からこうなる事を懸念していた。
相手が大洗女子学園の付属中だからだ。
数の差があるなら奇策やいろんな作戦を立てて来るのは分かり切っていた。
だけど、風紀委員長は数的有利なのだから作戦はいらないと言い切ったのだ。
何もせず、あぐらをかいていたせいで寝首をかかれたのだ。
そう、挑発に乗せられて全車両で突撃した挙げ句に対戦車壕に転落して自滅。
全く、笑えない。
癇癪すら起きない。
そして、止めに地面埋められた大量の爆発物で半数を失うなんて、うちのOGがもし見ていたら笑い者にされるだろう。だけど、冷静に考えたらタンカスロンだから出来る芸当かも知れない。
「ノンナ!部隊の立て直しにどれくらいかかるの!」
「カチューシャ様、先程の乱戦で被害は甚大。ですが、幸い残ったのは戦車道をしている二、三年生の去年の主力メンバーです。数もまだ二十両はあります。立て直しをはかると五、六分は必要です」
「遅いわ!動ける車両は私に付いて来なさい!」
私は付いて行ける車両のみで撤退する付属中を追ったのだ。
「それにしても、引き際も見事ね・・・・」
いつの間にか、見えなくなっていた38(t)に悔しさだけが残っていた。
私達のあんこう小隊は合流ポイントのEポイントに向けて走っていた。途中、レオポン小隊と合流に成功するもレイラの乗るパンターF型がボロボロなのが見て分かる。
「レイラ、パンター大丈夫なの?」
『G型だったらやられたかな。ただ、予備の履帯は砲塔に付いていたのは跳弾で吹き飛んだから履帯が切れたら無理かも』
「いま、丘に向かっているわ。ダージリン達がどれだけ残っているかで攻めに転じるか、市街地で迎え撃つかどちらかになるわね」
『エリカさんの言う通りですが、ダージリンさん達次第だとは思わず、先に電撃戦を仕掛けて丘を奪取して丘の上から対抗します』
『西住、それだと足回りが弱いティーガーⅡには荷が重いぞ』
『いや、みほの手が最良だ。電撃戦で丘を奪取して奇襲を受けるリクスを減らした方がいい』
愛里寿の一言で決まり、五両による電撃戦に切り替えたのだ。
先行したのはパンターF型だった。
この五両の中では最速だ。
私達もパンターを追う用に丘に進撃をしたのだった。
しばらくして、先行したパンターから無線が入った。
『こちら、かめさんチームのレイラ。丘にはIS-2が二両のみです』
『分かりました。では合流次第、仕掛けます』
レイラのパンターと合流すると丘の奪取を始めたのだ。
先行したのは愛里寿のセンチュリオンだった
『みほ、私が仕掛ける』
『分かりました。各車はレオポンチームの援護射撃を始めてください』
センチュリオンがIS-2の砲撃に曝される中、私のティーガーⅡも撃たせまいと砲撃を始める。しかし、IS-2は隠蔽壕を作っているらしく砲弾が当たっても装甲で弾かれるだけだった。
「撃ちまくりなさい!愛里寿がやられたらかなりきつくなるわよ!」
「エリカちゃん、叫ばなくても判ってるよ!でも、どうする?このままだと、いつ増援が来るか分からないよ?」
「小梅の言う通りね。みほ、聴こえる?」
『はい、聞こえます。エリカさんどうかしましたか?』
「みほ、私も仕掛けるわよ。小梅が増援の懸念をしてるわ」
『そうですね。沙織さん、くまさんチームにつながりましたか?』
『ダメ、みぽりん。繋がらない。でも、ぞうさんチームには繋がったよ!エッ?やだもぅー!くまさん小隊が全滅みたいだよ!』
『エッ!本当ですか?』
『ちょっと、待って!確認するね・・・・クロムウェルは集中砲火でやられて搭乗員は全員気絶したって!でも、大丈夫だって全滅したけどリクリリさん達が介抱してるよ』
『分かりました』
ダージリン達がやられたとなると、丘に陣取るIS-2は・・・・・・まさか!?
「みほ!まずいわよ!あれは、足止めよ!」
『どういう事エリカ!』
『ハッ!?そういう事か!逸見の言う通りだ!島田、西住まずいぞ!』
『エリカさん、アンチョビさんどういう事ですか?』
「みほ、いい?IS-2が足止めに徹しているのは、私達以外を撃破する事が目的よ!』
『西住らしくないぞ!どうした?』
「そうね。みほらしくないわね」
『ごめんなさい・・・・作戦が読まれた事に動揺してた・・・・・』
そういう事なのね。
みほにしたら初めて作戦を破綻させられ全て読まれた相手だった。
だから、試合前にあんなに怯えていた・・・・
久しぶりに言ってやろう。
あの頃の私の様に嫌みを・・・・・
「みほ、あんた馬鹿じゃないの!」
気付けば、咽頭マイク越しに叫んでいた。
『エリカさん!?』
止まらない・・・・私の心からの叫び・・・・・
「良い、聞きなさい!あんたは最初から読まれるかもって言っていたじゃないのよ!はぁあ?何?一度や二度くらい読まれた位で落ち込むの?動揺すんじゃないわよ!馬鹿!いつものあんたなら読まれて上等じゃないの?いつものあんたならボコボコになっても立ち上がるんじゃないの!そんな、みほは私が知っているみほじゃないわよ!いつも、私をボコボコにするあんたに戻りなさいよ!」
私はみほに言うだけ言って無線を切ったのだ。
「あっちぁ~いつものエリカちゃんになっちゃったよ」
「うるさいわね!小梅、久しぶりにやるわよ!さっさとIS-2を片付けるわよ!」
「うん、最後まで付き合うよ」
「悪いわね。なら、行くわよ!パンツァーフォー!」
私のティーガーⅡのエンジンは唸り上げてIS-2に突っ込んで行く。
「穴に入り込んでいるなら、引きずり出してやるわよ!」
斜面を駆け登り、IS-2からの砲撃が私のティーガーⅡに襲って来る。
「そんな弾当たらないわよ!」
側面の地面を虚しく叩き岩が装甲をノックする。
『エリカさん、それ以上の接近は危険です!』
みほがさっきから無線で叫んでくる。
でも、関係ない。
やる事をやるだけだよ!
掩蔽壕を無理矢理、よじ登りIS-2の上に乗っかってやった。
「ティーガーⅡの重さは72tよ!主砲の長いあんた主砲なんか、乗れば簡単に曲がるのよ!」
ベッキィィィ
ティーガーⅡに乗られたIS-2の主砲は乗られた事で主砲が撃てない角度に曲がり果てていた。
まだ、終わらない。
「ポルシェ砲塔の利点は主砲が車体より下に向けられるのよ!小梅、今よ!」
愛里寿が近寄れなかったIS-2を側面から撃ってやったのだ。砲弾は砲塔上部装甲に当たり、白旗が上がったのだ。
『エリカさん・・・・凄い・・・・』
「褒めても何も出ないわよ」
『エリカさん、丘の奪取には成功しましたが破棄します。向こうの隊長の考えは多分、市街地で決着を付ける可能性があります。なら、私もそれに乗ります』
『みほ、市街地に最短ルートで行く?』
『はい、森林を抜けて最短ルートで市街地に行きます。幸い、私達なら全速力で森林を走れるメンバーばかりです。なら、全速力で向かえば裏をかけます』
「判ったわよ。なら、条件があるわよ」
『何ですか?』
「私が殿を努めるわよ。良いしら?」
『はい、お願いします』
森林地帯を全速力で走り、市街地へと向かったのだった。
一方、プラウダ高校の白百合戦車旅団の隊長カツコフは・・・
「丘が墜ちたか・・・・仕方ない。大洗女子の行方は?」
「分かりません」
まさか、簡単に堕ちるとは思っていなかった。
しかし、これも楽しいものだと再確認できる。
野良試合とは違う戦い。
憧れた、西住みほとこうして戦える喜びに私は嬉しくなっていた。
赤軍中から本校の赤軍高校に上がってからも野良試合ばかりだった。
私を中学生時代に楽しませてくれた、島田かのんやバイパーがドイツに行き日本から居なくなってからは・・・・・そこからは、私と妹が生徒会の政治に利用された。いや、利用されるだけの生活だった。
つまらない試合ばかりだった。
今日はどうだろうか?
楽しくて、楽しくて堪らない。
だって、こんなに楽しい試合は島田かのん以来だったからだ。
今、思って見れば些細な事に気づけたからだ。
もし、気付かずにいたらと思うと一瞬で殲滅されて負けていた。
それだけに、好敵手に会えた事に感謝しよう。
だけど、カチューシャには本当に済まないと思っている。
私もあの試合は見ていたから西住みほに謝りたかったのは分かる。
そんな夢を奪った私にカチューシャは許してくれるだろうか?
いや、許しては貰えないだろうな
だから、そのためには優勝しなければならない。
IS-3を駆るジェーコフがやってきたようだ。
どうやら、お嬢様学校の連中を片付けたようだな。
「同士カツコフ!お嬢様学校の連中を始末しました!」
「ご苦労。それにしても、大洗女子はやるな」
「はい、まさか戦力の分散して来るとは思いもしませんでした。ですが、砲撃専用の部隊が居た事に驚きましたが良く気付かれました」
「リングオブファイヤーの経験からだな。島田かのんも奇策の達人だったし、西住みほの柔軟さは厄介だからな。ジェーコフも油断はするな。私も市街地に向けて進撃しよう」
残ったISU-152が三両とIS-3が三両、私が乗るT-44/100は市街地へ向けて進撃したのだった。
離脱を成功した私達はA中隊とB中隊が無事に合流を果たしたが、数はA中隊は残り五両でB中隊は対戦車壕を現すまでは砲撃に曝された為に八両まで減らしていた。
ここからは、狩猟部隊もいるから援護射撃も期待は出来るがプラウダ高校の隊長車後を引き継いだのがカチューシャだった。今よりもっと苦しい戦いになることは明らかだったし中学生である私達に疲労すら見えて来ている。
今、私達はKポイントで最後の補給をしていた。
「楓ちゃん、勝てるかな?」
沙織さんの妹の詩織が心配して、私に聴いてくる。
「ちょっと分からないかもだね。フラッグ戦だったら勝ちだったけど、今回は殲滅戦だからね。ちょっとだけ、読めない」
「うん、だよね・・・・でも、無線での会話だけどお姉ちゃん達、無事に危機を脱出して市街地に向かったよ」
みほ隊長は市街地で決着を付ける気のようだった。
私もプラウダ高校の連中が追い付き次第、KポイントからFポイントに移動して狩猟部隊の援護射撃を元に叩く予定だった。既に、サバイバルゲーム部はFポイントに陣取り応援している。あそこからなら、パンツァーファウストや投擲型吸着地雷が届くだろう。
あの連中も全国大会で優勝する猛者ばかりだ。
なにせ、野良中と木更津女子中、九十九里中の連合チームを破っている。
「補給、終わりました!」
霞達が補給を終わらせて待っていた。
そして
「プラウダ高校の追撃部隊接近!」
「よし、総員乗車!殲滅するわよ!我に続け!」
38(t)のエンジンをフルに唸らせて私達は最後の決戦に挑んだのだ。
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