ガールズ&パンツァー 逸見エリカの苦労日誌   作:まもる

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囚われのカチューシャ

 

 私は放課後、戦車倉庫を前に絶叫してた。

 

 「ハァァ!?なんで、大洗女子学園の38(t)があるのよ!」

 

 それも、そうだろ。

 

 だって、その戦車は私が大洗女子学園に願書を出しに行った時に実際に乗って戦ったからだ。

 

 その戦車は今、倉庫を背景に六台の戦車運搬車両から降ろされたばかりの十一両の38(t)C型タンカスロンカスタム(私が命名)だったからだ。そして、大洗女子学園から借りたヘッツァー、Ⅲ号突撃砲F型、三式中戦車も公式試合で使用する砲弾が降ろされていて、整備担当の生徒が聖グロリアーナ女学院のマークが入ったトラックから降ろされたばかりの砲弾を積んでいたのだ。

 

 私は隊長だけに気になり、整備担当者に聞いたのだ。

 

 「ねぇ、この砲弾はキャニスター弾よね?」

 

 筒状の砲弾は間違いないく対人用散弾のキャニスター弾だ。

 

 「はい、非殺傷性のキャニスター弾です」

 

 これを積まれこと事態が異常だ。

 

 一体、何処の軍団とやり合うのだか分からない。

 

 そして、もう一種類の徹甲弾は・・・・

 

 整備担当者に聞く前に見て理解したのだ。そして、内心で突っ込んだのだ。

 

 積み替えるのが気が早いと・・・・・

 

 「あっ!?」

 

 ドッガァァン

 

 どうやら、三式中戦車が新しい徹甲弾を試すべく私達の中等部の主力38(t)B型を相手に訓練していた。どうやら、38(t)に命中したところだったのだ。

 

 「えッ?何これ・・・・」

 

 そして、そんな光景を見て私は目を疑ったのだ。

 

 「いっ、いやぁぁぁぁ!?」

 

 「何よ!これ!」

 

 「もう、お嫁に行けない!」

 

 三式中戦車の放った主砲弾が命中し38(t)は装甲を貫通して爆発すると砲塔が吹き飛び、一緒に中から吹き飛ばされて出て来たのはパンツァージャケットがボロボロに破けてほぼ裸になった三人の同級生の姿だった。

 

 その、光景は正直に言えばエロい。

 

 それは、私ほど大きくはないが未成熟な二つの果実を腕で隠し、それぞれの趣味の紐だったり縞の破れ気味のパンツからはみ出ている、自己主張するほんのりピンク色の桃は男性がいたら見ていたいだろう。まぁ、見たらみたで私達が消し炭にするだろうが・・・・これぞ、消し炭流・・・・なんちゃって・・・・・・

 

 「「「貫通するって先に言ったのに、さつきのばかぁぁぁぁ!?うぇぇぇぇん!?」」」

 

 しかし、彼女達は胸を隠しながらその場に座り込み、羞恥心から激しく泣いていた。

 

 当然だろう。

 

 競技用の砲弾は貫通しないから安全だ。

 

 しかし、この砲弾は貫通して(75ミリ砲の砲弾だから貫通して当然だけど・・・)裸にされるのだ。恥ずかしいこの上ないだろう。

 

 私は一瞬、フリーズしたがハンドスピーカーで叫んだのだ。

 

 『全車両、訓練中止!」

 

 私は叫び様に次々と檄を飛ばしていく

 

 「亜紀ちゃんは瞳ちゃん達に毛布を持って来て上げて!」

 

 「はい!」

 

 「詩織は三式中戦車の四馬鹿にお説教を!」

 

 「うん、で楓ちゃんは?」

 

 「私は女子学園に行って文句言って来る!」

 

 「でも、お姉ちゃんにメールで確認したら車長級の会議中だよ?」

 

 「詩織、付属中の美学は?」

 

 「それよりも、後ろ・・・・・」

 

 詩織に言われ後ろを振り向くと監督、もといお母さんが仁王立ちして居たのだ。

 

 「楓、携帯は?」

 

 お母さんに言われ、ポケットの携帯を確認したら着信履歴にはみほ総隊長とエリカさんの着信が数件入っていたのだ。

 

 「すみません・・・」

 

 「まぁ、仕方ないわね。付属中は急だけどタンカスロンでの試合が決まったわよ」

 

 「えッ?試合?」

 

 「お母さん、相手は何処?」

 

 「もちろん、楓が嫌いなプラウダ高校とよ」

 

 私は一瞬、頭が真っ白になった。

 

 プラウダ高校だって?

 

 冗談じゃない。

 

 プラウダ高校のタンカスロンは数の暴力で相手を蹂躙してくる。

 

 「T-26の数の暴力に曝されるわよ!」

 

 「大丈夫よ。そのために、大洗女子から追加で私達がかつて使っていた38(t)C型を全部持って来たわよ」

 

 「プラウダ高校とやり合うなら38(t)に搭載できる弾薬も燃料だって足りない。いや、足りなくなる」

 

 「解決してるわ。聖グロリアーナ女学院から弾薬運搬戦車と燃料を満載したジェリカンとドラム缶も大量に用意してあるわ。後は、それらをどう隠すかだわ。それと・・・・・」

 

 「えッ?それをマジでやるの?」

 

 「うふふ・・・・楽しいでしょう?」

 

 「うっ、うん・・・・」

 

 私はお母さんから聞いた作戦に顔を引き攣るしかなかった。

 

 お母さんから聞いたのはプラウダ高校のタンカスロンでの部隊は砲塔にカラー色分けされているらしく、赤は風紀委員会所属、白はみほ総隊長が決勝でやり合うプラウダ高校のレギュラー陣の白百合戦車旅団のメンバーが中心で、白い車体に砲塔に黒いラインが入っているのは懲罰部隊らしい。

 

 まず、38(t)B型装備した部隊が囮で本隊を引き付け、脇から38(t)C型による一撃離脱で砲塔が赤く染められたT-26だけを真っ先に撃破するらしい。

 

 「さて、私も忘れていたけど、楓と詩織は作戦会議に召集が掛かっているわよ。さぁ、行くわよ」

 

 「えッ?霞達のお説教は?」

 

 「あっ・・・・そうね、霞、さつき、村雨、時雨の馬鹿四人は反省文を明日でに20枚書いて来なさい!」

 

 お母さん、マジで忘れてただろうと突っ込みたいが命が惜しいからしない。

 

 「「「「まっ、マジでぇぇ!」」」」

 

 「さぁ、行くわよ」

 

 私は詩織と一緒に女子学園の生徒会室へと向かったのだ。

 

 私達が生徒会室へ着く頃には、聖グロリアーナのダージリンさんとオレンジペコさん、アンツィオの安斎さん、継続高校のミカさんとそして、総隊長のみほさん、副隊長のエリカさんに愛里寿ちゃんが居て、現生徒会会長の角谷会長が座っていた。

 

 「付属中で最後だね」

 

 「遅れてすいません」

 

 私は角谷会長に謝りながらも座席に着いたのだ。

 

 「さて、みんな集まったし始めるよ。今回、付属中まで巻き込んだのはプラウダ高校から逃げ延びた生徒からの要請だった。私は説明が面倒だから、本人に説明して貰うよ。入ってきて!」

 

 角谷会長の一言に一斉にずっこけそうになるが何とか堪えた。

 

 ガチャリ

 

 「失礼しますわ」

 

 会議室に案内されて入って来たのはプラウダ高校の制服を着た生徒だった。その生徒は私やエリカさんの様に銀髪で髪が長く目は碧眼の生徒だった。思わず、綺麗と言いかけたが言わずに済んだ。

 

 「紹介するね。プラウダ高校の留学生で三年生のクラーラちゃんだよ。一昨日、うちの学園艦の総合病院で眼を覚ましたばかりだけどね」

 

 「この度、助けて頂きありがとうございます。私はプラウダ高校の三年生のクラーラです」

 

 眼を覚ました?

 

 私は彼女が病院で眠っていた事はお母さんからも聴いていないし知らなかった。

 

 「じゃあ、クラーラちゃんが救助された時から説明するよ。麗華ちゃん、説明頼んだよ」

 

 「杏様、ダージリンとお呼び下さいます?」

 

 「短期転入している間は悪いけど本名で呼ぶよ」

 

 「くっ、分かりましたわ。では、わたくしが僭越ながら説明しますわ。クラーラ様を救助したのはプラウダ高校との二回戦が終わった後ですわ。わたくしの元に航海科からパンツァージャケットを着た女子生徒が海で浮いている所を救助したと報告がありしたの。身元を確認をしましたところ、プラウダ高校の三年生のクラーラ様であるとアッサムを通じて分かりましたわ。一応、念の為に身体検査をしたところ、数々の暴力を振るわれた跡がございましたわ。プラウダ高校には報告する義務が在りましたが、何日も海に浮いいた為に衰弱が酷かったので治療を理由に保護しましたわ」

 

 そう、言って紅茶を口に含んでいた。

 

 「ありがとね。その後なんだけどね、三校合同合宿をしている間に学園長がうちの学園艦で引き取ったんだ。いろいろと臭っていたからね。まぁ、理由は逸見ちゃんや西住ちゃんの時の様な感じに見えたからさぁ、ついでに調べさせて貰ったんだ。いやぁ、真っ黒だったね。いろいろ出てくる出てくる。それは、午前中に説明した通りだよ。で、ここからが肝心なんだ。クラーラちゃんが目覚めた時にある程度の事情聴取をしたんだ。西住ちゃんと逸見ちゃんの気分が悪くしたらゴメンね。このことだけは黒森峰にも深く関わっていた事だから」

 

 「気にしなくて大丈夫よ」

 

 「うん、大丈夫です」

 

 「調べて行くうちに判ったのはプラウダ高校と黒森峰の決勝の事故は最初から作られたシナリオだったんだ。うちも大洗女子学園にも身に危険が及ぶから、あんまり深く足を踏み込みたくないけど、プラウダ高校の風紀委員会を利用していた政府の人物がいた見たいだね。後、隊長候補だったカチューシャとノンナはあの大会の事件を口実に口封じで懲罰クラスに送られている。そりゃあそうだよね。西住ちゃんの優しい性格とずば抜けた状況判断能力を逆に利用すれば絶対に逸見ちゃん達を助けに行くし、逆に逸見ちゃん達に何かあれば・・・・・そうだねぇ、例えるなら生徒の死亡とかね。そうしたら、黒森峰と西住流に何かしらの大ダメージは確実だね。でも、西住ちゃんは逸見ちゃん達を助けた。別に悪い事じゃない。だけど、優勝を逃した事で黒森峰は内部崩壊を起こして今回の大会を最後に一年間の出場停止を決めたんだ。西住師範の選択は良かったかも知れないね。西住流と黒森峰の大ダメージを回避が出来たからね。さて、本題だね。何故、うちらの決勝中に付属中がプラウダ高校にタンカスロンを仕掛けるかだね?」

 

 「そうね。私も気になったわよ。みほも知らない事だったわね」

 

 「逸見ちゃん、説明するから待ってね」

 

 「わかったわ」

 

 「最大の目的はカチューシャとノンナ達の旧プラウダ戦車道の生徒の解放だよ。その為には風紀委員会の連中をタンカスロンで倒す必要がある。暗号通信でプラウダ高校の生徒会には連絡してあるから、タンカスロンで決着が着いたら生徒会と白百合戦車旅団のメンバーが風紀委員会の捕縛に動くからね。付属中は絶対に無理しないでね」

 

 

 と角谷会長が締め、全体会議が終了したのだ。

 

 

 

 

 同じ頃、プラウダ高校

 

 ここは、風紀委員会や生徒会によって捕まり、粛清対象になった生徒達が収監されている木造の校舎にはプラウダ高校の旧戦車道の120名の生徒が収監されていた。プラウダ高校の制服しては余りにも程遠く質素で継ぎ接ぎだらけの囚人服を着せられていた。

 

 だけど、その中の一人の小さき暴君の瞳には闘志が未だに消えずに居たのだ。

 

 「ノンナ!今日の予定は?」

 

 「今日の予定は木の伐採作業です」

 

 「なら、目標は百本よ!切って、切って、切りまくって終わったら少しでも訓練するわよ!」

 

 「ですが、カチューシャ様?」

 

 「なによ?」

 

 「チェーンソーの燃料とオイルがありませんが?」

 

 「ノンナ、諦めたら終わりよ!無いなら無いで、斧でも鉈でも構わないから切るしかないわ!後、炭鉱に回される生徒は必ずポケットに石炭の欠片を入れて持って来なさい!あなた達だけが、寒さを凌ぐ希望よ!頑張りなさい!」

 

 そう、私はみんなに檄を飛ばすしかなかった。

 

 もし、戦車道の大会に出られたなら謝りたかった。

 

 西住みほに・・・・・

 

 私の傲慢で臆病な私だ。

 

 最初は正直になれないだろう。

 

 だから、試合の後に捨て台詞の様に言えたら最高だろう。

 

 だけど、私にそんな夢が果たせなくなった。

 

 抽選会が終了後に風紀委員会に拘束されたのだ。

 

 拘束された生徒は戦車道に関わっていた生徒がほぼ全員が拘束された。

 

 それは、関係の無い一年生まで及んだ。

 

 いつの間にか、収監する校舎は満員になっていた。

 

 それでも、増え続ける粛清対象者。

 

 それと同じく、プラウダから去る粛清された生徒。

 

 私は自ら説得して留まる事を頼み続けた結果、今の120名だけが残ったのだ。

 

 

 あれから二ヶ月も堪えに堪え忍びに忍んだ結果、私達にもチャンスが来たのだ。

 

 二回戦の後、クラーラが行方不明になった。

 

 クラーラは今の風紀委員会の現状を他校に知らせる為に脱走。風紀委員会にゴム弾を乱射され、撃たれながらも海へと身を投げたのだ。

 

 学園艦の最上甲板から身を投げたのだから死んだと私は思っていた。

 

 だけど、彼女は生きて居たのだ。

 

 私達に希望という名の光を持参して・・・・

 

 それを知ったのは、大洗女子学園が決勝に上りつめ、プラウダ高校も決勝へと駒を進めた事を知った翌日だった。私とノンナは連行される様に風紀委員室へと連れて行かれた。

 

 部屋に居たのは、風紀委員長と白百合戦車旅団の隊長のカツコフと私の後釜の副隊長のジェーコフだった。

 

 委員長は笑いながら、私達に言ったのだ。

 

 「聞いて、笑いなさい!大洗女子学園付属中学校からタンカスロンを申し込まれたわ!そして、決勝の相手も付属中の本校である大洗女子学園よ!カツコフ、あなたは大洗女子学園を血祭りに上げ上げなさい!ジェーコフ、あなたはタンカスロンの戦車部隊を指揮し、付属中を血祭りに上げてプラウダ高校の外庭に十字架に張り付けて晒して上げなさい!」

 

 タンカスロンって聞き、動いたのは大洗女子学園だと判った。今は島田流がバックに付き、かつての栄光を手にしていた戦車群を使用していた点から私は注目していた。

 

 「ちょっと、委員長。よろしいか?」

 

 「何よ?」

 

 「決勝だけにジェーコフの観察力は外せない。大洗女子学園の隊長は元とは言え、西住流。舐めて掛かると私達がスターリングラードの二の舞になりかねない。よって、タンカスロンの指揮はカチューシャに任せたいが?」

 

 「却下よ!何なら、私自ら指揮するわよ!カチューシャ!あなた達は風紀委員会の戦車隊の楯よ!全員を引き連れ、私の指揮下に入りなさい!」

 

 「うむ、それなら私は文句は言わない。カチューシャ、最後まで諦めるな」

 

 「カツコフ、あなただけには言われたく無いわ。委員長、やってやるわよ!大洗女子学園付属中なんて削って、削ってピロシキのお惣菜にしてやるわ」

 

 「では、こちらからも人員60名を置いて行きましょう。決勝に必要な110名は確保済みです。委員長の期待に添えられる働きをしてくれます」

 

 「あら、助かるわ。これで百両が用意出来たわね。カツコフ、あなたの旅団から戦車を少し売却してT-26を大量に買いたいわ。構わないかしら?」

 

 「えぇ、構いません。売却可能な八十両のリストは置いて置きます」

 

 カツコフは踵を翻して委員長室を後にしていた。

 

 私も訓練をさせたいと申請してT-26の慣熟訓練をしたのだ。

 

 慣熟も済み、私達の戦車に塗られていたのは戦車自体が白かったが砲塔には黒のラインが書かれていた。他にも、白百合は砲塔に白百合戦車旅団のロゴが描かれ、風紀委員会の戦車は砲塔は赤く染められていた。

 

 

 そして、タンカスロンか開かれる二日前は学園艦の物資搬入港には輸送船の往来が激しかったらしい。一つは、サンダース大学付属高校からはタンカスロンの見学を理由にM4A1と乗り組員が入り込み、同じくして聖グロリアーナ女学院からは砲塔の無いチャーチル戦車が戦車運搬車に載せられて来ており、アンツィオからは数台のトラックが、最後は大洗女子学園からは戦車が載せられた二十六台の戦車運搬車と生徒が乗っているバスが搬入されたのだ。

 

 逆に、同日に白百合戦車旅団は二十両の戦車を戦車運搬車に載せて決勝戦の会場である富士演習場へと旅立ったのだ。

 

 

 大洗女子学園付属中は雪上に慣れる為に徹底的に訓練を課していた。使用する戦車は38(t)B型と38(t)C型の混成の二十四両だった。しかし、38(t)C型だけは違和感が在った。

 

 38(t)C型の主砲は37ミリ戦車砲だったはずだ。しかし、砲身が長いのだ。

 

 そして、ノズルの形状から私はある結論を出したのだ。

 

 あの38(t)C型は一番危険だと。

 

 私は頭で理解しながらも嫌な予感だけしかしなかったのだ。




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