ガールズ&パンツァー 逸見エリカの苦労日誌   作:まもる

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新しい新居と新しい住人

 

 茜叔母さんに案内され、新居へ到着した私達。

 

 叔母さんはジーパンのポケットから鍵を刺して開けようとするが、鍵が開いていた事に気付いたのだ。

  

 「あら、鍵が開いてるわね?」

 

 戸建ての新居の中は既に私達の荷物はアパートの時の様に配置されていた。

 

 だけど、アパートと違うのはリビングがとても広く大きなテーブルがある事だった。しかし、リビングには先客が居たのだ。

 

 「お母さんの手料理美味しい・・・・」

 

 「母上はまた腕を上げたね」

 

 「あら、そう?ミカも愛里寿ちゃんも沢山あるから食べてね」

 

 そう、何を隠そう島田親子がリビングで食事をしていたのだ。テーブルには愛里寿の席には好きなハンバーグとサラダが並び、ミカさんの席にはビーフシチューが置かれていた。師範は師範でエプロン姿のまま、各種揃えたチーズを肴にワインを愉しんでいたのだ。

 

 外食に行ったのではないのか?

 

 と私は思わず叫びたくなる。

 

 「あら、エリカやみほ達も帰って来たのかしら?」

 

 でも、そこは師範だ。

 

 私達が帰って来た事を気配で気付いたのだ。

 

 「あら、千代。外食に行ったじゃないの?あぁ、そういえば学園艦がまだ警戒体制で飲食店は軒並み休みになっていたわね」

 

 何故か嫌味の言い方が私とそっくりな叔母さん。たじたじになる島田師範は珍しい光景だろう。

 

 「あっ、茜、痛いこと言わないでよ。娘がしでかした事に私も・・・・」

 

 「茜さん、もしかしてお姉ちゃんの事を怒っているの?」

 

 「愛里寿ちゃん、ミカさんの事は怒ってないわ。ただ、千代に嫌味の一つは言わないとね気が済まないだけよ」

 

 「本当に済まない事をしたね」

 

 「愛里寿ちゃんがお姉ちゃんって言っていたけど?」

 

 小梅が気になるのも分かる。

 

 いつも、部屋で世話をしていたのもあるが愛里寿に甘えられるのが結構好きだったりしていたし、本当の姉妹の様に接していたからだろう。

 

 「そうだねぇ、アキやミッコが居ないから挨拶をしよう。私は島田千代の娘で長女の島田ミカさ。妹の愛里寿が世話になっているよ」

 

 「「「えッ!」」」

 

 まさかのカミングアウトだった。

 

 継続高校の隊長が島田師範の娘だったなんて私も知らなかった。みほも小梅も言葉を失い固まるだけだった。

 

 「ハァーそうよ。うちの放浪娘よ」

 

 ため息を吐きながら認める師範。

 

 「放浪娘は酷いじゃないか。ただ、風に流されているだけさ」

 

 「お姉ちゃん、ママが引退したら次期家元なんだから自覚持って。まだ、みほのお姉さんが潔い良いよ」

 

 「まほの事だね。まほなら試合が終わった日から休学することを私に言って来たよ」

 

 「えッ?お姉ちゃんが休学?」

 

 「どうやら、自身を鍛え直すらしいね」

 

 「あははは、お姉ちゃんらしいや」

 

 「ところで、何でうちの学園を狙ったのよ?」

 

 「それかい?この質問に意味があるとは思えないな」

 

 確かに意味はない。

 

 「お姉ちゃん、私も気になる」

 

 「そうかい?大洗女子は母上の母校だからね。探索すればいろいろお宝が出ると思ったのさ。学園の周りを探索する様に言ったんだけど、学園の倉庫の方に風に流されるように行ってしまったのさ」

 

 「確かに探索をする度にいろんな戦車が出て来るわよ。なら、隠した本人に聞いて見たら」

 

 「「えッ?私に振るの?」」

 

 「そうだね。私も気になる」

 

 「愛里寿ちゃんまで・・・茜、少しだけ話したら」

 

 「ハァー仕方ないわね。エリカ達、いや隊長と副隊長には話して置くわね。貴女達は私達の代の戦車は主力として今は使っている。そこは良い?」

 

 「そうね。叔母さんから船倉の鍵を預かったわね」

 

 「そして、何故か私の先輩連中は戦車を隠す事が伝統みたいなのよ。呆れるでしょ?そして、未だに発見されてないのはガノッサの屈辱の時の主力戦車だけなのよ。他の見付けた戦車は私達の代で半数以上は売却して、その資金で買い直してエリカ達が使っている戦車だけが私達の代の戦車よ」

 

 「その時の戦車は何だか分かるの?」

 

 「そうね。学園には一切の資料は無いはずよ。私達が戦車道が廃止になった時に教員達に売却されるのを阻止を目的に全ての資料と書類関係は焼却処理したし、今は手掛かりになるのは代々隊長だけに引き継がれる戦車道日誌だけよ。でも、私達が何とか分かったのはB33重突撃砲が二両とパンターG型後期型とヤークトパンター後期型のガスタービン仕様が四両ずつに五式中戦車が四両の計十四両だけね。後の十両は分からないわ」

 

 「叔母さん、呆れるを通り越して逆に尊敬するわね。総保有数なら黒森峰やサンダースよりあるんじゃないの?」

 

 「えッ?でも、エリカさん。未だに保有数の記録なら廃校になった湾岸ナイジェリア高校じゃないかな?」

 

 「みほ、あんな邪道の高校を知っているの?」

 

 「愛里寿ちゃん、黒森峰が九連覇する前は湾岸ナイジェリア高校だったの。ただ、バブル崩壊と一緒に廃校になった高校だよ」

 

 「あら、西住さん。訂正するとガノッサの屈辱の直後よ。バブルと同時に表れ、バブル崩壊と共に廃校になったわ。そのあとは私達と一つ上の代が奇跡の三連覇を果たし、四連覇をする前に失格となって戦車道が廃止になった。後は黒森峰の一強の時代よ」

 

 「師範、訂正ありがとうございます」

 

 「でも、廃校と同時に動いたのは当時の島田流家元だったわ。湾岸ナイジェリア高校が廃校と同じくして先代がパーシングやM24、シャーマン戦車76ミリ戦車砲搭載型をバナナのたたき売りの様にかなり安く買い取り、残りはサンダースが買い取ったわ。おかげで、茨城の筑波大を中心にした関東の大学選抜の戦車の確保が出来たわね」

 

 「だから千代は大洗女子から聖グロリアーナに転校して一段と腹黒くなったのね」

 

 「茜、ちょっと表に出ようか?」

 

 「望む所よ。また、高校の時のように完膚なきにボコボコにしてやるわ。それに、操縦手は装填手には勝てないわよ?」

 

 「そうだったわね。茜は黒森峰の時は装填手だったわね」

 

 お母さんもだったが、どうやら私の家系は装填手が多いようです。

 

 「エリカさん、どうしたの?何か、黄昏れているけど?」

 

 「みほ、私はつくづく装填手になる運命だったのねって思っただけよ」

 

 「でも、エリカさんはエリカさんだよ」

 

 「そうね」

 

 「じゃあ、エリカさん。今日は約束だから一緒にお風呂に入ろ?」

 

 「そうだったわね。まほさんに勝ったらお風呂を一緒に入るんだったわね」

 

 「うん、行こう」

 

 私はみほに連れていかれる形でお風呂に向かった。

 

 正直なところ、みほとはお風呂には入りたく無かった。

 

 かつて、黒森峰で制裁と名ばかりのリンチを受けた時にチェーンソーの切れたチェーンで叩かれ背中の肉をえぐられて付いた傷跡を見せる事になるし、みほの嫌な思い出を掘り起こしてしまうからだ。それでも、約束は約束。みほと入る事にしたのだ。

 

 脱衣所で制服を脱ぎ、ブラを外した時だった。

 

 「エリカさん、また胸が大きくなった?」

 

 みほは私の胸を見て言ってくる。

 

 「揉んで大きくしたのは誰よ!おかげでブラ貧じゃない!」

 

 私は恥ずかしくなり、胸を隠しながら叫ぶが

 

 「だって、エリカさんの揉み心地が良いだもん」

 

 「だからって、ひゃん・・・だからって・・・・・やん・・・・・・そうやって・・・・はぁぅ・・・揉むんじゃないわよ!」

 

 いつの間にか、みほのペースだ。こうして、気付けば揉まれている。

 

 気を許せばこの先までされてしまう。

 

 今日は人が多いから無理だった。

 

 だけど、いつもは薄暗い部屋でしていて背中の傷を見られる心配は無かったから許していたが、みほの甘えん坊モードは底を知らないのだ。

 

 だけど、みほが甘えて背中から抱き着いた時だった。

 

 とうとう、明るい部屋で見られてしまったのだ。

 

 「あっ、エリカさんの背中のその傷は・・・・」

 

 みほは初めて見るかも知れない。

 

 一生残る背中の傷。

 

 消えることの無い背中に唯一残された私の大きな傷跡を・・・・

 

 みほは確かめながら傷跡を指で優しく指でなぞられる。

 

 そして、気付いたのだ。

 

 これが、みほの身代わりにリンチを受けた跡だと・・・・

 

 「ひゃん!みほ、背中は弱いからやめっ・・・・」

 

 「その傷、私のせいだよね・・・・・ゴメンね・・・・エリカさん・・・・・ヒックゥ・・・・・ゴメンね・・・・・」

 

 私の背中に顔を埋めるように謝るみほ。そして、背中に温かく感じて流れているのはみほの涙だった。

 

 「馬鹿ね。私が気にする訳が無いでしょ。今は、こうして一緒に居られて、こうしてお互いの温もりを感じられるのよ。十分じゃない。それに、私は幸せよ。みほと小梅とまた戦車道が出来ているのだから・・・・」

 

 みほを優しく私の胸の中に抱きしめがら語る様に話したのだ。

 

 「でも、エリカしゃぁぁん!でも、でも!」

 

 涙で顔がボロボロのみほは泣き止む事は無い。

 

 再び、あの日の事を思い出して自分で責めているのだから・・・・・だから、私は結論付けたのだ。

 

 それを背負い、生きて行くと・・・・

 

 私達の運命を狂わせ、黒森峰が衰退する事になった事故を・・・・・

 

 「ほら、みほ聴いてみなさい。私は生きてるのよ。だから、大丈夫よ」

 

 「うん・・・・・エリカさんの心臓の鼓動が聞こえる・・・・・・」

 

 そのまま抱きしめ、私の心臓の鼓動を聴くみほ。

 

 「大丈夫でしょ?」

 

 「うん・・・・」

 

 私の心臓の音を聴いて落ち着いた様でよかったと思う。

 

 「ホラ、さっさと入るわよ。後がつかえるわよ。今日から大人数なんだからね。それと、覚悟しなさい!お返しにみほの揉んでやるわ!」

 

 「おっ、お手柔らかに・・・・」

 

 「逆に誘って、どうすんのよ!」

 

 私はみほと一緒にお風呂に入ったのだった。

 

 「愛里寿、お風呂空いたわよ」

 

 「うん、お姉ちゃん一緒に入ろ!」

 

 「そうかい。なら、甘えるとしよう。それにしても、お二人は随分、お盛りのようだね」

 

 「はぅぅぅ・・・」

 

 「なっ・・・・」

 

 私とみほがお風呂から出て、入れ替わる様に愛里寿がミカさんと一緒にお風呂に入ったのだ。

 

 ミカさんに言われた事に真っ赤にするみほと聞かれた事に羞恥心で一杯になる私・・・・

 

 何故か、チャンスだと思わんばかりにルンルン顔でほろ酔い姿の師範がお風呂に向かったのだ。

 

 その直後だった。

 

 お風呂場の扉が勢いよく開くと、全身びしょ濡れのままの愛里寿が叫び、裸のままお風呂場から走って逃げて来たのだ。

 

 「愛里寿ちゃんにミカ、久しぶりにお母さんと一緒に入りましょ?」

 

 「いや!ママとは絶対に入らない!」

 

 「ちょっと、愛里寿ちゃん!何で、ミカは良くて私は駄目なの!」

 

 それを追いながら、絶叫するバスタオル姿の島田師範。手にはバスタオルを抱えながら走っていった。

 

 さっさとシャワーを済まして何処から手に入れたのか大洗女子のジャージ姿のミカさん。その姿は貴重かもしれない。それを余所に逃げる愛里寿は嫌がる理由を叫んだのだ

 

 「だって、お酒とチーズ臭いだもん!」

 

 「これは、完全に母上が悪いね」

 

 確かに、師範は夕飯でチーズを肴にワインを飲んでいた。そして、愛里寿はチーズの臭いも味も苦手だ。

 

 私の周りで逃げる愛里寿とそれを追う島田師範。

 

 そして、二人の世界に入るのはテーブルで茹でたドイツソーセージを肴にノンアルコールビールを飲んでいる小梅とレイラは久しぶりの会話を弾ましていたのだ。

 

 「エリカさん、凄く賑やかになったね」

 

 「そうね。逆にうるさいくらいね」

 

 手を握り、微笑むみほを見ながら安堵する。だけど・・・・

 

 「愛里寿も師範も服を着なさい!」

 

 「服を着る前にママを何とかして!」

 

 「ほら、愛里寿ちゃん一緒にお風呂に・・・・」

 

 「母上・・・・」

 

 「はい・・・・分かりました・・・」

 

 ミカさんが懐から出したアルバムを見て、急に静かになる島田師範。そして、お風呂場に逃げ込み鍵を閉める愛里寿だった。

 

 「ミカさん、それは何なの?」

 

 「あぁ、これかい?母上の秘密さ」

 

 カンテレを鳴らし、1ページ目をめくり写っていたのは・・・・・・

 

 「えッ?・・・・お母さん・・・・・」

 

 「・・・・これは・・・・・」

 

 私とみほが見たのは若い頃の当時の大洗女子のパンツァージャケットを肩にかけて青いビキニ姿の島田師範と同じく、黒森峰のパンツァージャケットを肩にかけて黒いビキニ姿の西住師範のツーショットのグラビア写真だった。多分、年齢からして高校生の頃のだろう。題名も『二大流派の新星 西住しほ(17) 島田千代(17)』だった。

 

 「どうだい、驚いただろう。たまたま、長崎に立ち寄った時にフレンドリーな学園艦の図書館の月刊戦車道に在ったから回収したのさ」

 

 「ミッ、ミカ!それは、恥ずかしいから見せないでぇぇ!」

 

 絶叫しながら慌ててアルバムを取り上げようとするが、ミカは師範の手をひらりと交わしてバスタオルを剥ぎ取ってソファーに投げ捨てて、直ぐにアルバムを懐にしまい込むと寝室へと行ってしまった。バスタオルを剥ぎ取られた師範は豊満な胸を腕で隠してその場で座り込んでしまった。

 

 どうやら、島田師範にとっては黒歴史だったようだった。

 

 「みほさん、エリカさん、あれは見なかった事にしてくれるかしら?」

 

 師範の鋭い目に私とみほは頷くしか無かったのだ。

 

 「「はい・・・」」

 

 「それと、バスタオルを・・・・・」

 

 早くバスタオルを取ってと顔を真っ赤にしている師範だった。

 

 

 寝室は洋室で私とみほ、小梅で出し合って買ったキングサイズのベッドがあり、手狭だった本棚と箪笥には私とみほの荷物が分けて入れられていた。これは、師範からの贈り物だったらしく今まで段ボールで冬物や夏物も一緒に入れられる様になっていた。

 

 部屋割はみほと私が一緒の部屋で愛里寿と小梅が一緒の部屋だった。そこに新たに、レイラが加わりレイラだけは二階の和室を一人で使う事になった。

 

 師範とミカさんはそれぞれ一階の客間にて寝て貰っている。

 

 私はみほに優しいキスをされた後、みほは私を抱きまくらの様に抱きしめて眠っていた。

 

 やはり、疲れたのだろう。そもそも、まほさんとの試合もそうだが急ぎ帰ってからの継続高校の窃盗未遂も含んでいるのだろ。私も今日の試合と飛行艇の操縦に疲れたのかぐっすり眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 朝、私は体が動けない事に気付いた。

 

 「朝ね・・・起きて朝ごはんの準備を・・・・・あれ、動けない?何故?」

 

 頭に浮かぶのは大量のハテナマークだった。

 

 寝る時はみほに抱きまくらにされて寝ていたはずだ。

 

 なのに何故、動けないのだ。

 

 私は状況が分からず、確認するために瞼を開けると私は自分の部屋の寝室の床で眠らされており、布団で包まれロープで簀巻きにされていたのだ。

 

 一体、何故、私が簀巻きになっているのだろか?

 

 そして、みほはまだ眠っており、みほの隣には膨らみがある。

 

 そして、私の隣には服を脱いでそのままのロングスカートやカーディガンなどが散乱していた。

 

 一体、誰が侵入したのだろ?

 

 そんな疑問は直ぐに解決したのだった。

 

 「うぅぅん・・・・エリカしゃん、おはよう・・・・って、えッ?お姉ちゃん!?」

 

 みほは飛び起きて慌てて布団を退かす。そこに、下着姿で眠っていたのはみほの姉のまほさんだった。それでも、まほさんは起きる事なく眠っていたのだ。

 

 しかし、まほさんは休学して実家の熊本に戻っているとミカさんから聴いている。

 

 「みほ、驚いている所で悪いけど助けてくれる?」

 

 「あっ、エリカさんが簀巻きに・・・・うん、ちょっと待ってね」

 

 私はみほに助けを求め、簀巻き状態から解放されたのだ。

 

 しかし、私が簀巻きにされていた事にみほの拳はプルプル震えていた。

 

 状況からしてみほはかなりご立腹のようだった。

 

 しかし、疑問が残る。

 

 この新しい新居の玄関は電子ロック式で防犯も大丈夫なはずだ。

 

 そんな私の思考を次の一言で麻痺したのだ。

 

 「エリカさん、手伝ってくれる?」

 

 「えッ?みほ?」

 

 「罪にはならないので大丈夫です」

 

 「えッ?みほ・・・・」

 

 ゲッシィ

 

 「グッホォ・・・・Zzzz・・・・」

 

 そう言った瞬間にみほは、姉であるまほさんを私が簀巻きにされていた布団に蹴り落として、そのまま布団で包み込みロープで簀巻きにしたのだ。そして、何事も無かった様に携帯を確認していた。

 

 「はぁ・・・・やっぱり、お姉ちゃん家から抜け出してる・・・・」

 

 「みほ、見ても・・・」

 

 「はい」

 

 確かに西住師範からのメールだった。ここでも、師範が何故メールをしないのか分かってしまった。

 

 『まほいえにいないみほしらないか』

 

 ゆっくり読まないと分かりにくいメールだった。

 

 携帯をしまい、みほは客間で寝ているだろう島田師範を起こすのかと思ったが

 

 「すいません、お姉ちゃんをリビングに運びます」

 

 「えぇ、分かったわ」

 

 私はみほとリビングに運ぶと一枚の紙に『生物』と書いて巻かれていれ布団に貼っていたのだ。でも、どっちだろうか『なまもの』と読むのか『いきもの』と読むのか・・・・・

 

 程なくして、みほは師範の部屋に行ってしまったが、私は全員の朝食や弁当を作っているため、キッチンから離れられない。だけど、みほに呼ばれたのだ。

 

 「あっ、愛里寿ちゃん!」

 

 「キッャ!・・・・エリカさん、ちょっと助けて!」

 

 私はコンロの火を止めて師範が寝ているだろう客間に行くと、みほが島田師範の抱きまくらにされていたのだ。みほから事情を聞いたら体育座りでいじけている師範だったがみほが入って声をかけたら、みほを愛里寿と間違えたらしく抱きまくらにして眠ってしまったらしい。

 

 どんだけ、島田師範は愛里寿を溺愛しているのか分かった瞬間だった。

 

 それには流石に苦笑するしかない。

 

 私は悪いことを思い付いたのだ。

 

 「みほ、待ってなさい」

 

 「うん」

 

 私はリビングに戻り、簀巻き状態で放置中のまほさんを使おうと思ったのだ。

 

 私は心の中で謝りながらまほさんを引きずり、結束バンドで手足を固定するとみほを出して代わりにまほさんを寝かせたのだ。

 

 「ねぇ、これって・・・・」

 

 「まほさんに良い薬になるでしょ?」

 

 「うん、そうだね・・・・」

 

 私とみほはキッチンに戻り、朝食の準備を再開したのだ。

 

 朝食と全員の弁当を作り終わった頃に島田師範の部屋から悲鳴が聞こえて来たのだ。

 

 「ぬっわぁぁ!?」

 

 「きゃぁぁぁ!?」

 

 これを聞いたこの家の住民達は島田師範の部屋に集まっていた。

 

 「えッ!隊長!?」

 

 驚くレイラ

 

 「ママ、最低・・・・」

 

 絶対零度の冷えた目線で見つめる愛里寿

 

 「おや、これは見物だね・・・・」

 

 呆れた様に呟くミカさん

 

 「ちょっと、愛里寿ちゃんにミカ!これは濡れ衣よ!」

 

 「あれ、みほの部屋に忍び込んだはずだが?」

 

 「それより、何故、西住まほがいるの?」

 

 「島田師範、愚問です。みほに会うためなら、換気扇から忍び込むのは朝飯前です」

 

 盲点だった。

 

 まさか、換気扇から侵入したなんて・・・・

 

 「まるで忍者ね・・・・」

 

 呆れた島田師範の一言だった。

 

 いや、あながち間違っていない。

 

 忍道を極めた方が良いのではと思ってしまうのだが・・・・・

 

 「師範がそれを言いますか!」

 

 思わず、師範に突っ込んでしまった。

 

 「師範、すいませんがお姉ちゃんを頼めますか?確か、今日の予定はお母さんと会う予定でしたよね?」

 

 「えぇ、西住師範と会う予定だわ」

 

 「ちょっと待て!それではお姉ちゃんはお母様に叱られるではないか!」

 

 「お姉ちゃん、むしろ叱られて下さい」

 

 「みほぉぉぉ!?」

 

 まほさんが絶叫するのをみほは無視しながら再び、簀巻きにしていたのだ。簀巻きにすると今度は紙で『返却物』とまほさんのおでこに張り紙をしたのだった。

 

 朝飯を食べた後、私とみほ、小梅とレイラで簀巻きにしたまほさんをヘリコプターに投げ込み、ヘリコプターと共に島田師範と九州に戻って行ったのだ。

 

 そして、帰り際にもまほさんは

 

 「I shall retum!」

 

 と叫んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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