ガールズ&パンツァー 逸見エリカの苦労日誌   作:まもる

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学園への侵入者

 

 麻子と沙織さんを大洗埠頭で降ろした後、再び学園艦向けて飛び立った。

 

 ロープで簀巻き状態だったレイラは解放されて無線手を沙織さんの代わりに務めて貰っている。何故、私達が急ぎ学園に戻っているかは理由があった。最近、学園艦の間で戦車の盗難が相次でいたからだ。最近の被害で有名なのはプラウダ高校のKV-Ⅰが盗まれたと聞いた事があった。

 

 そして、私達の学園にも窃盗グループが来ているらしいと風紀委員会から連絡が来たのだ。

 

 今、学園に残されている戦車はⅣ号戦車H型、偵察戦車レオパルドが二両、エレファント重駆逐戦車が二両、アンツィオ高校のⅣ号戦車G型が四両に第二次探索で艦首の鉄屑置場で発見されたタンカスロン仕様の38(t)C型が十両の計十九両だった。後、忘れていたがヘッツァーと三式中戦車(長砲身)、Ⅲ号突撃砲は茜叔母さんの頼みから付属中へ貸し出している。

 

 新たに発見された38(t)C型はタンカスロン用の戦車に改造されて、主武装は対空兵装でおなじみの37ミリ機関砲が主砲として装備されていて、エンジンも足回りも最高速度は優に55㎞は出せる様に規定ギリギリの改造されていた。そして、驚いた事に戦車道の公式試合にも使用出来る事をみほの父親から聞かされていた。

 

 それを当時、改造した犯人は島田師範の旦那と西住師範の旦那だったりする。

 

 それは、茜叔母さんから聞いた話だ。

 

 大洗女子学園はあくまでも県立高校だった。当時、いくら強豪校でも資金繰りに苦労したらしい。そこで大会の無い冬季はどうしたかと言うと、タンカスロンで荒稼ぎをしていたらしい。同じ強豪で出ていたのは知波単学園とアンツィオ高校だったりする。

 

 私は黒森峰だったから何とも言えないが、操縦手と車長の臨機応変を養うためには絶好の訓練にはなるだろう。付属中時代の私も38(t)C型には散々お世話になっている。

 

 そして、タンカスロンでの隊長は叔母さんではなく、学園長の角谷弘子と島田師範が交互に兼任したらしい。

 

 話が逸れたが、タンカスロン仕様の38(t)C型の叔母さんから聞いた説明だ。

 

 晴空は今は学園艦上空に来ているが学園からの連絡はない。

 

 先程から管制室に無線を入れているが反応が無いのだ。

 

 そんな時、操縦室に来たのは杏さんだった。

 

 「逸見ちゃん悪いねぇ。管制室にいくら無線を入れても繋がらないよ。連絡先は風紀委員会本部に入れてくれるかな?」

 

 「えッ?大洗女子には管制室がないの?」

 

 「在ったけど、数年前に廃止になったんだよ。だってさ、うち県立じゃん。戦闘機道とか昔は在ったようだけど飛ばなくなって管制室を風紀委員会に兼任させているんだよ」

 

 「杏さん、質問だけど学園には降りられるの?」

 

 「それは大丈夫だよ。アメリカの輸送機C-5スーパーギャラクシーが離着陸出来るだけの長さはあるからね」

 

 それだけの長さがあれば安心だ。

 

 「レイラ、風紀委員会本部に無線入れて」

 

 「エリカちゃん、了解。こちら、大洗女子戦車道一行の輸送機晴空。校庭への着陸要請します」

 

 『こちら、風紀委員会本部です。機長の名前を確認したい』

 

 「了解、戦車道副隊長、逸見エリカどうぞ」

 

 『登録免許を確認。既に薄暗いため、校庭を滑走路のように照らす。5分ほど上空待機』

 

 「了解・・・・エリカちゃん、5分ほど上空待機してだって」

 

 「分かったわ。上空で旋回して待機するわ」

 

 そして、学園艦の上空を旋回して待機していると演習場の方でチカチカと光り、爆発が起きている事に気付いたのだ。

 

 これは、見て判る。

 

 戦闘している光りだった。

 

 晴空を操縦している手前、乗っている仲間の命を預かっている責任もある。こんな時、二式大艇か一式陸上攻撃機ならさぞ良かっただろう。だって、晴空は武装を全く積んでいないのだ。

 

 尚更、校庭への着陸は危険である。

 

 「レイラ、至急風紀委員会本部に連絡して!演習場での戦闘の説明を求めると!.」

 

 「えッ?演習場で戦闘?」

 

 私は双眼鏡をレイラに渡し、爆発で光る演習場を見て貰ったのだ。

 

 「エリカちゃん戦闘だね・・・・でも、爆発光が移動しているから追撃戦の最中だね。直ぐに確認するね。こちら、晴空。演習場での戦闘の説明を求む」

 

 『こちら、風紀委員会本部。こちらも状況を確認中です。ですが、着陸可能です』

 

 「了解。誘導に従い着陸します・・・・・・エリカちゃん、チャンスは今しか無いよ。着陸をして」

 

 着陸体勢になると、滑走路脇に自動車がライトを点灯して照らしていた。三点を着陸するため、マニュアルで操作しつつ慎重に降りたのだ。

 

 着陸に成功すると、邪魔にならない場所に駐機すると、ラッタルを降ろして学園に帰還したのだった。

 

 ただ、降りてビックリしたのが風紀委員会の面々だった。

 

 鉄兜を被り、MP-40やパンツァーファウストを装備してピリピリとした空気でいたのだ。

 

 私が黒森峰に居た時でも厳重体制では無いが泣く子も黙る秘密警察と警備科がある為に治安は比較的に良かった。

 

 そして、私達にも問題が起きたのだ。

 

 小梅がレイラをお持ち帰りした事が原因だった。

 

 そう、レイラは試合直後のパンツァージャケットのままで居たからでもあるが・・・・

 

 「何故、黒森峰の生徒がいるの?まさか、スパイ!?」

 

 ジャッキィ

 

 「ヒッィィ!?」

 

 MP-40の銃口を突きつけられるレイラは両手を速攻で上げて悲鳴を上げる。弾丸は各学園艦の共通のゴム弾だが当たるとかなり痛い。

 

 「ちょっと、待ちなさい!レイラは関係無いわよ!」

 

 「じゃあ、何故パンツァージャケットのままの?」

 

 「はいは~い、風紀委員は下がってねぇ!」

 

 「かっ、会長!」

 

 ラッタルから急いで降りてレイラの説明をしてくれたのだ。

 

 「楼レイラちゃんは今日から短期転入で来た生徒だから大丈夫だよ」

 

 「失礼しました。ですが、紛らわしいのでせめて制服に着替えて下さい」

 

 「はい・・・・・・・恐かった・・・・・」

 

 解放され、私達は急ぎ戦車倉庫へ向かった。

 

 そこで見たのは、風紀委員にロープで簀巻き状態で確保された他校の十数名の生徒と何者かにパンツァーファウストで撃破され、倉庫に突っ込む形のⅣ号戦車J型が二両と倉庫内で履帯を切られた大洗女子の戦車群だった。倉庫内には大量の薬莢が散乱しており、薬莢からして37ミリ機関砲だと判る。唯一、無事なのはⅣ号戦車H型と二両の偵察戦車レオパルドだけだった。

 

 「みほ、一両だけ38(t)C型が無いから無事なⅣ号戦車とレオパルドで様子を見に行ってくれる?」

 

 「エリカさんは?」

 

 「私はあそこで簀巻きになっている他校の生徒に聞き出すわ」

 

 「うん、分かった。愛里寿ちゃん、麻子の代わりに操縦頼める?」

 

 「最初からそのつもり。エリカ、お母様を呼んでおいたから、終わったら一緒に謝る・・・・」

 

 簀巻きになっている生徒を見て愛里寿は何かを隠しているようだったが、みほに連れられⅣ号戦車に乗り込んだのだ。

 

 「エリカちゃん、私はどうする?」

 

 「レイラは内法達と組んでみほの援護をしてくれる。レオパルドにも赤外線暗視スコープがあるから持って行ってよ」

 

 私と小梅が残り、みほはⅣ号戦車に乗り込み、レイラは内法達とレオパルドに乗って演習場に向かったのだ。

 

 「さて、小梅悪いけどコンビニでおでんを買って来てくれる?」

 

 「えッ!エリカちゃん、まさか巾着でをアレをやるの?」

 

 「拷問なんてやるわけ無いわよ。ただ、この連中はかなりお腹を空かしているから、ほっとけないだけよ」

 

 「じゃあ、おでんじゃなくて菓子パンにするね」

 

 小梅がコンビニに向かうのを確認して一人になると私は高校を聞きだそうとしたが制服で分かったのだ。 

 

 「ねぇ、あんた達は継続高校の生徒よね?」

 

 「違うわ」

 

 「その特徴的な制服は継続高校しかないわ」

 

 「だとしたら、どうするの?連盟に突き出す?」

 

 「馬鹿ね。しないわ」

 

 「じゃあ、どうして!」

 

 ラジオで聞いていたから判る。

 

 今日の準決勝はプラウダ高校が圧勝したのだ。そして、敗北した継続高校に有無を言わさずに継続高校所有のKV-Ⅰが二両とIS-2が一両にT-34/76が三両の他にSU-152が二両の計八両を全てプラウダ高校に没収されたのだ。

 

 そこで、事件が起きたのだ。

 

 そして、試合後にその八両が没収される事に抵抗しようとした継続高校の一部の生徒達がプラウダ高校の政治将校の服装をした生徒が持つ軽機関銃のゴム弾で蜂の巣にされた事が問題となっている事を試合を替わりに見て貰ったダージリンから知らされていた。

 

 問題はそれだけでは無かった。

 

 そして、戦車道にあるまじき行為だと怒りを露にするダージリンから決勝のみ生徒を短期転入で参加させて欲しいと聖グロリアーナ女学院生徒会を通じて打診も受けていたのだ。

 

 聖グロリアーナだけでなく、サンダース大学付属高校の隊長のケイもフェアプレーに欠けると怒りを表しており抗議している。

 

 レイラが送られた本当の理由にはもう一つあった。

 

 継続高校とプラウダ高校の試合内容を知った西住流家元の西住師範がまほさんに撃たれた生徒は元黒森峰の生徒達であると知らせたのだ。師範とまほさんは表立って動けない為、黒森峰女学院が抗議すると同時に副隊長であるレイラが送られたのだ。

 

 「答えは準決勝で負けて主力を担っていたソ連製の戦車を全て失った事とⅢ号突撃砲G型二両とⅣ号戦車J型三両にBT-42だけの戦力では話にならない。そこで目を付けたのが大洗女子だった。各試合で違う戦車を入れ替わりで投入していれば当然のように倉庫に戦車が残されている。違うかしら?」

 

 「ぐぅ、そうよ。私達は継続高校よ。だから何なの?」

 

 「そう、もう少しだけだから我慢してなさい。小梅が来たら、お腹の足しになるものでも食べてなさい」

 

 「甘すぎるわよ!」

 

 「黙りなさい!風紀委員!」

 

 「逸見エリカ!あなたも風紀違反で拘束するわよ!」

 

 「私は戦車道、捕虜待遇の協定を遵守するだけよ!」

 

 「ありがとうございます・・・・」

 

 「勘違いしない事ね。ただ、あくまでも普通に待遇しただけよ。それと、風紀委員会は協定を遵守しなさい」

 

 私はそう風紀委員に言い放つと、戦車倉庫の戦車の惨状にため息が出るばかりだった。

 

 「参ったわね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 少し遡る事、1時間前だった。

 

 私は放課後、お母さんに連れられて大洗女子学園に来ていた。

 

 理由は大洗女子付属中学で戦車道選択の私を含む三年生18名の願書を角谷学園長に渡す為、監督でもあるお母さんと来ていたのだ。ついでに、大洗女子学園の戦車を見ておきたい気持ちもあったのは事実だけど・・・・

 

 「飛騨生徒会長、確かに願書は受け取ったわ。来年はよろしくね」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 「そうだわ。戦車倉庫の戦車を見ていく?」

 

 「はい、是非お願いします!」

 

 「でも、準決勝で主力の戦車は出払っているけど、それでも、多少の駆逐戦車や戦車は残っているわ」

 

 私は学園長に連れられて三人で倉庫に向かったのだ。

 

 倉庫は私にしたら宝の山だった。

 

 「うっわぁぁ!エレファントがある!あっ、こっちは偵察戦車レオパルドだぁ!あれ、これはⅣ号戦車H型とⅣ号戦車G型だ。あっ、羨ましい!38(t)C型のカスタム戦車だ。良いなぁ!良いなぁ!37ミリ機関砲が主砲だよ。これなら、知波単のテケ車が怖くないよ!」

 

 

 私が倉庫で戦車を見学をしている中、お母さんと学園長は

 

 「悪いわね。三両も借りて・・・・・」

 

 「西住隊長から許可を貰ったから大丈夫よ」

 

 「それにしても、良く私達はこんなに隠したわね・・・・」

 

 「そうね。隠した本人だけに、ある意味尊敬するわね」

 

 「でも、まだ出て来るわよ。あの、カノッサの屈辱の時の先輩達の戦車群は未だに発見されてないのだから」

 

 「懐かしいわね。私達も資料を元に33B重突撃砲やパンターG型のガスタービン仕様を捜し回ったけど、あれのせいで逆に隠す側になったものね」

 

 カノッサの屈辱は私には聞き覚えがあった。

 

 確か、1980年代の初頭の冬に起きた事件だ。

 

 それは、腐敗する戦車道を正そうと立ち上がり、今の戦車道の礎となった直訴状を携えて黒森峰女学院と知波単学園に大洗女子学園の各生徒会と戦車道チームが合同で戦車道連盟に直訴を試みたが戦車道連盟本部の一階にある120ミリカノン砲の前で連盟本部の役員達が直訴状を開封せずに破り捨てた事が始まりの事件だった。そして、三高に対してその場で出場停止処分を下したのだ。そして、雪が吹雪く中を三日間を通い続けて直訴状の内容の承諾と出場停止処分を取下げる事に成功したのだ。

 

 当時のお母さんはまだ小学生でお姉さんの亜紀子叔母さんと西住師範と一緒に西住流の門下生として見守りに行っているからその時の話をお酒を飲んで酔った時に懐かしむ様に話していた。

 

 「だからなのよ。大洗女子学園の学園艦には私達や先輩方の戦車道や思い出が詰まっている。廃校なんてさせないわ。再び、大洗女子学園が強豪校として舞い戻って欲しいから」

 

 「弘子の言う通りだけど、私からしたら少し違うかな」

 

 「えッ?どうして」

 

 「戦車道は楽しんでこそよ。それを忘れたらダメよ」

 

 お母さんと学園長が昔話で盛り上がっていた時だった。

 

 ガッシャン

 

 「「「!?」」」

 

 第二戦車倉庫から扉が倒れた音がしたのだ。

 

 お母さんは何を察したのか私に言ってきたのだ。

 

 「楓、この鍵は第二弾薬庫の鍵だからそこから面白いものがあるから持って来なさい。場所はこの倉庫の左端にある扉がそうだから」

 

 「うん、分かった」

 

 私はお母さんに言われるままに第二弾薬庫に向かった。学園長が電話で風紀委員会に出動を言っていたようだが気にしなかった。

 

 弾薬庫にはお母さんが言った通り、面白い物が一杯あった。

 

 「へぇ、パンツァーファウストに吸着地雷じゃん。確かに面白いよ。タンカスロンなら喉から手が出る程欲しい装備だし・・・・」

 

 私は四本一箱になっているパンツァーファウストを担ぎ、お母さんの元に戻ったのだ。

 

 私が戻ると学園長とお母さんは38(t)C型に乗っており、大洗女子の戦車をⅣ号戦車でワイヤーで繋げてⅣ号戦車G型を持って行こうとしていたが行かせまいとワイヤーと履帯を機関砲で切っていたのだ。ワイヤーを切られたⅣ号戦車は肩透かしを受けた様に壁に激突していた。

 

 これは、撃破するチャンスだった。

 

 私もタンカスロンではパンツァーファウストを使ったり、戦車に飛び移りキュポーラのハッチを開けて催涙ガス入りの手榴弾やを投げ込んだりしていた。

 

 「あら、私はあのⅣ号戦車の撃破だね。後方確認よし、安全装置解除・・・・・ファイヤ!」

 

 バッシュゥゥ

 

 パンツァーファウストの弾頭部が飛んで行き砲塔の側面に命中してⅣ号戦車を撃破。

 

 もう一両のⅣ号戦車はワイヤーに繋げてエレファントを持ち出そうとしていたが、パンツァーファウストで履帯と転輪を吹き飛ばして沈黙させたのだ。しかし、まだ動けそうな感じだったのでⅣ号戦車によじ登り弾薬庫から持って来ていた催涙ガス入りの手榴弾をキューポラのハッチを空けて投げ込んだのだ。

 

 「てっ、手榴弾!?」

 

 「戦車道にありなの?」

 

 「何なのよ!この学園は!」

 

 「叫ぶより脱出よ!」

 

 しかし、ハッチを空けて脱出しようとしたが完全武装した風紀委員に取り囲まれており、直ぐに降伏したが全員ロープで簀巻きになって確保されたのだ。そこに、38(t)に乗ったお母さんが来たのだ。

  

 「楓、38(t)に乗りなさい。もう一両が演習場に逃げたから追撃するわよ。パンツァーファウストを載せて行くわよ」

 

 「うん行くよ!来年からお世話になるのにこんなことする奴はボコ見たくしてやる!」

 

 「そう?じゃあ、砲手は任せたわよ。もう一両倒せたら限定を買って上げるわ」

 

 「えッ!マジ!」

 

 「えぇ、マジよ」

 

 「よし、やる!」

 

 ボコを餌に乗せられた感はあったが、学園長が操縦する38(t)は全速力で走っているにも関わらず全く揺れを感じさせないほど丁寧かつ大胆に操縦していた。そして、演習場に逃げ込んだ戦車は履帯幅からお母さんが気付いようだった。

 

 「弘子、もしかしてBTシリーズかな?」

 

 「そうね・・・BTシリーズにしては足が早いわね」

 

 履帯の跡を元に追撃して15分ほど走ると履帯の跡が途切れたが、お母さんは何に気付いた様で私に言って来たのだ。

 

 「楓、3時方向に主砲を撃て・・・」

 

 背筋が凍るような錯覚がするお母さんの静かな命令。

 

 これが、私の知らない元大洗女子戦車道総隊長飛騨茜なのかと嫌でも思い知らされる瞬間だ。

 

 私はフッドペダルを踏み、言われた方向に調整用ハンドルを回して37ミリ機関砲を撃ち放つ。

 

 空の薬莢が金網の中で暴れる様に排出され、機関砲から弾丸が飛んで行く。

 

 茂みの中では弾が何かに命中したのだろか?

 

 跳弾してしているのが嫌でも判る。

 

 「居たわよ!機種判明、BT-42よ!弘子、追撃するわよ!」

 

 「了解」

 

 発見され、慌てて走り出すBT-42。

 

 お母さんは冷静尚且つ大胆な口調で追撃を命令する。

 

 急加速する38(t)

 

 空になった弾倉はお母さんが片手で抜き取り、下を見ずに新しい弾倉を挿していく。

 

 私には考えられなかった。

 

 37ミリ機関砲の弾倉は普通に6発入りで重さが15㎏は軽くある。

 

 それを片手で持つ腕力にある意味恐怖したのだ。

 

 それでも、逃げるBT-42を追撃して撃てるチャンスがあれば機関砲を撃っていた。

 

 「楓、エンジンルームではなく履帯を狙いなさい」

 

 「了解」

 

 しかし、履帯を狙う前にBT-42は履帯をパージしたのだ。

 

 「へぇ、珍しい戦車ね。履帯をパージしても装甲車の様に走れるのね。弘子、リミッター解除しても構わないわよ。どのみち、このままだと逃げられそうだしね」

 

 「じゃあ、やるわよ」

 

 「楓はエンジンルームに乱射しなさい。いくらでも弾倉は入れ替えるから仕留めなさい」

 

 「はい・・・」

 

 急加速する38(t)

 

 全速力で逃げるBT-42

 

 有効射程に入らせて貰えない事にいらついているお母さん

 

 「ちぃ、あのBT-42は軽く70㎞は出てるわね。リミッター解除して60㎞は出しているのに追いつけないなんてね」

 

 「茜がいらつくなんて珍しいわね」

 

 「確かにいらつくのは久しぶりね。まるで、千代の指揮を見ているみたいで非常にムカつくわね。でも、あの戦車の車長は間違いなく島田流の動きね」

 

 「えッ!島田流なの茜!」

 

 「うん、癖が千代に似てる」

 

 「お母さん、どうする?タイヤ狙う?」

 

 「楓、右方向に避ける様に牽制射程よ。弘子、池田流を使っても構わないわ。一発、体当たりをするわよ」

 

 私はお母さんに言われた通りに右に曲がる様に牽制射程をしたのだ。

 

 何度も弾倉を取替えるお母さん

 

 そして、BT-42は右に曲がり逃走をはかる。

 

 だが、逃げ込んだ先は林だった。

 

 お母さんは上空を見て、何かに気づきどんどん命令を出していく。

 

 「楓、今度は左に曲がる様に牽制射程」

 

 牽制射程してBT-42が曲がった先は岩があった。

 

 反応が遅れたBT-42は左側の転輪を岩にぶつけたのだ。

 

 転輪が外れたが、それでも逃走を図ったのだ。

 

 しかし、約30分ほど逃げ回ると逃走劇は終焉を迎えた。

 

 どこからか放たれた主砲の砲弾がBT-42の砲塔側面に命中して横に倒れたのだ。

 

 その主砲を放ったのはみほさんが乗るⅣ号戦車H型だったのだ。

 

 白旗を掲げ動こうとしないBT-42と機関砲を向けたままの38(t)と主砲を向けたままのⅣ号戦車とレオパルド。そして、Ⅳ号戦車の操縦手ハッチから降りて来たのは愛里寿ちゃんだった。

 

 何故か涙目の愛里寿ちゃん。

 

 プルプル震えた拳

 

 だけど、私は信じられない光景を見たのだ。

 

 「やぁ、愛里寿じゃないか」

 

 「・・・・出て来い!」

 

 バッキィ

 

 「つっ・・・・久しぶりの再開なのに酷いじゃないか」

 

 「もう一回言う。出て来い!」

 

 「ちょっと、乱暴しないでよ!」

 

 「そうだ!」

 

 「うるさい!これは、家族の問題だ!」

 

 BT-42のハッチをこじ開けると中で揉めてるようだったが、しばらくして中にいるチューリップハットを被った女性の手を握り引きずり出して来たのだ。

 

 「・・・・みんなに謝れ!」

 

 「ただ、風に・・・」

 

 バッキィ

 

 「ヒックゥ・・・お姉ちゃん!みんなに謝れ!」

 

 愛里寿ちゃんの悲痛な叫びだった。

 

 そこに止めに入ったのはみほさんだった。みほさんは愛里寿ちゃんを優しく抱きしめて止めたのだ。

 

 「愛里寿ちゃん良いよ」

 

 「うっ、うわぁぁぁぁぁ!?みほ、みほ・・・・やっと、お姉ちゃんに会えたのに・・・・こんなのあんまりだよ・・・」

 

 「ミカさん達はスパイとして連行します。良いですか?」

 

 「窃盗として捕まえない訳かい?」

 

 「はい、その前に師範が生徒会室でお待ちしてます」

 

 「そんなことに意味はあるのかい?」

 

 「あると思います。私がお姉ちゃんと和解したようにミカさんも愛里寿ちゃんと三人で話し合ってください」

 

 「そう、行こうか」

 

 迎えに来た回収車に三人は乗り込み、学園へと戻って行ったのだ。

 

 「さぁ、みんなは戦車を倉庫に戻すわよ!楓は38(t)の車長をやりなさい。私はⅣ号戦車を操縦して戻すわ」

 

 私は38(t)を指揮しながら倉庫に戻ったのだ。

 

 

 

 私は自動車部と倉庫である程度の残骸を片して、私も生徒会室に呼ばれた。

 

 一応、継続高校の生徒は風紀委員会が目を光らせるながらも食堂に誘導されて、その中でなら自由を認めていた。各々の生徒は解放された食堂で食事を取ったりしていたのだ。

 

 私が生徒会室で見たのは、継続高校隊長のミカさんを抱きしめる島田師範の姿だった。

 

 何故かミカさんの頬に青痣があったのかは気になるが、話の内容から敗北した継続高校には匿名で戦車を贈る事を言っていたが母親に甘えたくないミカさんの意地を見せる場面があったが泣きながらミカに説得する愛里寿の姿に渋々受けたのだ。

 

 そして、三人で水入らずでご飯を食べに行くと決まり出掛けたのだった。

 

 

 継続高校の窃盗未遂も無事に終えて自宅に戻ると部屋の荷物が無くなっていた。

 

 「あれ、荷物がない?」

 

 「うん、ベッドも無いね?」

 

 「「ボコが無い!」」

 

 「エリカちゃん達の部屋にしては荷物が・・・・」

 

 「あら、ゴメンね」

 

 後ろから来たのは叔母さんだった。

 

 「なんで、荷物が無くなっているのよ!」

 

 私が叫ぶと

 

 「シェアしてある人数が増えたから戸建てに替えたわよ」

 

 「はぁあ!?」

 

 「「「「えッ?」」」」

 

 得意そうな顔で自慢する叔母さん。

 

 「仕方ないじゃん!しほと千代から戸建に替えてって言われたから、学園の隣の戸建てを買ったから新しい新居だよ」

 

 どうやら、相当な額で買ったらしい。

 

 叔母さんの案内の元、新居に行くとそこでは師範と愛里寿、ミカさん達がご飯を食べて居たのだった。

 

 「お母さんの手料理・・・美味しい・・・」

 

 「母上も腕を上げたね・・・」

 

 呆然とする私達を余所に団欒を楽しむ島田親子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 おまけ

 西住家邸宅

 私は試合が終わり実家に戻ると玄関で待って居たのはお母様だった。

 「まほ、良く戻られました。さぁ、ご飯にしましょう」

 何故か私は暖かく迎えられたのだ。

 あんな間違った事をしたのに

 何故、許されるのだろうか。

 テーブルにはお母様が作ったカレーライスとサラダが並んで居た。

 久しぶりに食べるお母様の手料理。

 何故かいつもより塩辛く感じる。

 何故だろう。

 私には分からないでいた。

 そんな時、お母様に優しく抱きしめられたのだ。

 「まほ、ごめんなさい。苦しんで居たのに気付かないで・・・・」

 そうか、私は泣いて居たのだ。

 「ごめんなさい。お母様・・・・・うわぁぁぁぁぁぁ」

 私はひたすら、泣いてお母様に謝った。

 まるで、小さな子供が泣いて謝るように・・・・

 私が落ち着くとお母様から信じられない事を言われたのだ。

 「まほ、聞きなさい」

 「はい、お母様」

 「黒森峰は一年間の出場停止をすると学園長と話し合い決めました。その間にあなたを一から鍛え直します。よろしいですか?」

 「分かりました。お母様、私を一から鍛えて下さい」

 「分かりました。では、黒森峰戦車道の一年間の活動停止の決定と楼レイラは本日付けで副隊長を解任して大洗女子へ転校させました。まほには一年間の休学をさせます。留年にはなりますが、一から黒森峰を立て直しなさい」

 私は休学となり西住流家元でのキツイ修業の日々となるのだった。




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