大洗女子と黒森峰の準決勝の会場は周りが平原に囲まれた旧ベルリン市街を思わせるような市街地だった。合宿前に予定していたオーダーは白紙となり頭を抱えるみほと私に愛里寿の三人。
遭遇戦は当たり前の重戦車群を護りに使用するれば黒森峰が有利な地形。
そして、市街地に入れば何処から狙われるか分からない入り組んだ路地。
しかし、市街地を抜けてしまえば見晴らしの良い平原が広がっていた。
黒森峰のスタート地点は市街地の総統府の付近で私達のスタート地点はあろう事か平原からだった。これは、どう見ても黒森峰が有利な地形で数に劣る大洗が不利なのだ。
それでも、みほはしばらく考えた後に黒森峰戦で使用する戦車十一両の編成をまとめたのだ。
「エリカさん、愛里寿ちゃんどうかな?」
みほから渡されたオーダーは前回と同じくフラッグ車はみほのティーガーⅡだったが、何かが違うのだ。愛里寿は何かに気付き叫んだのだ。
「みほ、これ、本気なの!」
「うん、そうだよ」
「愛里寿、どういう事よ?」
「エリカ、オーダーにシュトルムティーガーとブルムベアーがある段階で気付かない?」
「えッ?」
確かに、オーダーにはシュトルムティーガーとブルムベアーが入っている。
みほの真意が分からないのだ。
何故?
「エリカには分からない様だから私が説明するよ。榴弾で建物を破壊して市街地を迷路に変えるの。逆に私達が迷えば各個撃破されるのが落ちだけど、逆に相手を迷わせる事が出来れば有利に立てる」
確かに、上手く運べば有利だと思う。
しかし、孤立する危険が拭えないのだ。
「えッ?みほ、危険よ!」
「大丈夫です。そのために、三小隊編成で挑もうと思います。あんこうチーム率いるのはティーガーⅡ三両、レオポンチームにはセンチュリオンとパンターF型が三両とパンターⅡを率いて主力とします。残りはカバさん、キリンさん、ヘビさんチームにはブルムベアーとシュトルムティーガーによる市街地に砲撃を行い、ポイントに沿って建物を破壊して進路を塞ぎ私達は二つに別れて進攻して確実に叩きます」
「みほ、作戦名はある?」
「愛里寿ちゃん、あります。巻貝の様に誘導しながら確実に叩くので、名付けてぐるぐる作戦です」
黒森峰戦に使用する戦車と作戦は決まり、私達は黒森峰戦に突入したのだ。
翌日、私達は車両の点検でガレージ前には11両の戦車がズラリと並び、20年の歳月を経て私が使用するティーガーⅡはマイバッハエンジンがいつもより調子が良かった。まるで、早く黒森峰の豹や虎を狩らせろと自己主張をしている様なエンジンの旋律だった。
そして、合宿後の大洗女子のパンツァージャケットも様変わりしており、島田流家元の島田師範が抱える大学選抜チームのパンツァージャケット一式をグレー基調から大洗女子が使用していた紺色にしたジャケットが全員に支給されていた。無論、同じく使用されているベレー帽とワイシャツにネクタイも一緒に支給されており大洗女子は完全に島田流の門下で在ることを対外的に主張していた。
それだけに、島田師範が大洗に対する熱意を強く感じられるのだ。
だけど、元黒森峰の生徒達には英国風のジャケットだけに不評だったが・・・・・・
因みに、パンツァージャケット一式のデザインは全く一緒で大学選抜チーム、大洗女子、聖グロリアーナはそれぞれ色が違うだけだったりする。大学選抜はスカートは黒にジャケットはグレーが基調で聖グロリアーナはスカートは黒でジャケットは赤を基調とし、大洗はスカートは白にジャケットは紺色が基調となっている。
と話しがずれたが、十一両の戦車はガレージ前で最終点検をしていたのだ。そんな時に黒森峰のパンツァージャケットを着た二人組が私の前に来たのだ。
「エリカちゃん、久しぶりだね」
確かに私には本当に久しぶりだと思う。
目の前に居たのは中等部から黒森峰から去るまで一緒だった楼レイラだった。でも、抽選会には出てなかった。何故・・・・・
「エリカ、試合前に挨拶に来たぞ。みほは何処にいる?」
以前より鋭い眼光を放つ黒森峰の隊長のまほさん
「みほなら、隊長車の点検してますよ」
「そうか、私はみほのところに行く。レイラはエリカと話でもしていろ。」
「はい、隊長」
「で、なんでレイラが居るのよ?」
「私?私は黒森峰の副隊長だよ」
「そう、私も大洗女子の副隊長よ。でも、抽選会にはいなかったわね?」
「そうなんだ。抽選会の時は風邪を引いて寝込んでいたんだ。それにしても、隊長がみほちゃんなのはともかく、一兵卒風情で大洗に行けば副隊長なんだね?」
「へぇ、レイラも言うようになったじゃない」
「えぇ、先輩にも仲間にも揉まれたおかげでね。でも、これだけはエリカちゃんには試合前に言いに言いたかったよ。みほちゃん達や皆が一気に黒森峰から去ってから危うく戦車道が出来なくなるところだった。なんで、私が苦しい時にエリカちゃんやみほちゃん、小梅ちゃんが居なかったのかって。私はエリカちゃん達の事を信じて居たのになんで、私には一言も相談してくれなかったの?隊長だって、あんな風になってしまったんだよ。全て、エリカちゃん達が悪いんじゃない!」
「黒森峰の事は知っているわよ。でも、先輩連中やOGが蒔いた種よ。あの時、倉庫で吊されていた私達が制裁を受けていた時に助けてって言ったのにしっぽを丸めて端っこで脅えて見てるだけのレイラには言われたくないわよ!」
「エリカちゃん、そうだよ!私はエリカちゃん達が殴られたり蹴られたりして、ドラム缶に沈められてて怖かったし、終わったら、次は自分じゃないかって脅えて見ていただけだった。でもね、今はみほちゃんが副隊長だった苦しみは嫌でも判るよ。だって、あんな重責は私には重過ぎるもん。でも、羨ましいな。だって、みほちゃんの隣にはエリカちゃんや小梅ちゃんが居たんだもん。だからね、最後にこれだけは言わせてね・・・・・・・・・・・エリカちゃん、私は何も言わずに去ったあなたを許さないから・・・・」
そう、レイラは私に言うと隊長の元に行ってしまった。
みほもアンチョビもまほさんに何かを言われたらしく、気が重いまま試合が始まったのだ。
試合が始まり、予定通りに急行したシュトルムティーガーとブルムベアーは市街地前の砲撃予定地点に到達して市街地を迷路に変えるべく砲撃を開始したのだ。シュトルムティーガーのロケット弾により、メインストリートを瓦礫の山にして遮断に成功。同時に着弾した跡により、対戦車壕のようなクレータを同時に作り出したのだ。それを複雑にするように、ブルムベアーの砲撃が市街地を瓦礫の山に変えて通路を迷路へと変えて行く。
ただ、余りにも作戦が上手く行き過ぎている事に私は嫌な予感がするだけだった。
そして、予感は的中したのだ。
みほの小隊と愛里寿の小隊が市街地に入ると事は一変していた。
市街地には黒森峰の戦車が一両も居ないのだ。
しかし、市街地から平原に出るにはこのメインストリートを通らなければ平原には出られない。
一番高い教会の塔から市街地を秋山が見渡しているが戦車のせの字も無いのだ。
在るのは、私達のみほの小隊と愛里寿の小隊の八両の戦車だけだった。
そんな時、キリンさんチームの板野から緊急の無線が入ったのだ。
『こちら、キリンさんチームの板野です。黒森峰の戦車群を発見!いや、私達に奇襲をかけて来てます!』
「板野、どういう事よ!」
私は無線越しに叫ぶが、既に三両は
『大洗女子、シュトルムティーガー、ブルムベアー二両、走行不能!』
撃破されていたのだから・・・・・
そして、板野達からは
『すみません!キリンさんチームやられました』
『同じく、ヘビさんチームやられました』
『カバさんチームもられた』
一気に三両も失ったのだ。
そんな中、キュポーラから身を乗りだして地図を見ていた愛里寿が何かを気づいたのだ。
『此処の会場って、ベルリン市街がモチーフだよね?』
『はい、1945年のベルリン攻防戦のベルリン市街がモチーフの会場です』
『みほ、仮説だけど地下排水路があった場合は戦車が通れる幅はあるの?』
『仮にそうだとすれば、幅と高さ的に大丈夫だと思います』
『みほ、直ぐに総統府方面に離脱しないと包囲される。地図には地下排水路の終わりは市街地の南南東にある川に出ている。だから、そこから出て来たなら非常にまずいよ』
つまり、黒森峰は地下排水路を使って、私達の後ろに現れた事になる。私達が合宿で会場の下見をしていない。だけど、黒森峰は徹底的に下見を行い地下排水路を見付けている。
それは、黒森峰に居た時もそうだった。
隊長と副隊長が下見をしている間は二軍や一年生が操縦訓練の為に走らせている。
もし、偶然にも地下排水路の入口をスタート地点の近くで見付けており、最後まで走ったら南南東にある川に出ている事を知っていたなら、今回の後ろからの奇襲に説明が付く。
市街地戦での最悪な事を想定したら、まずは進路の封鎖からくる各個撃破が想定しているだろうし、逆に防御戦にしても同じだ。もし、後ろから来るなら私達は逆に包囲される事になるのだから・・・・・
少し遡る事、試合開始前の黒森峰では・・・・・
「まさか、下見で地下排水路が在るとはな」
「はい、隊長。一年生には感謝ですね。多分、地下排水路は会場が1945年のベルリン攻防戦をモチーフにした会場です。ヒトラーの脱出用に作られた通路の可能性が在りますね。あと、一年生の報告では幅は5m、高さ4.5mもありマウスも通行可能との事です」
「そうか、なら地下排水路を使い、大洗女子の背後から電撃戦を仕掛ける」
隊長の言う通りなら、背後からエリカちゃんを襲える。挨拶の時に在ったシュトルムティーガーに積んでいたロケット弾は徹甲弾ではなく建物を破壊する徹甲榴弾だった。そして、今日の為にタングステン芯の徹甲弾を何時もよりも多い30発を積ませている。あれなら、ティーガーⅡは怖くないのだ。
私の愛車であるパンターでエリカちゃんを討ち取ってやるんだ。
「パンターを使用する者は暗視用スコープを装着して!地下排水路は暗いからパンターが先行して障害物を排除します」
「では、総員乗車!大洗女子を蹴散らす!」
「「「「「オォォォ!」」」」」
「戦車前進!」
そして、私達は地下排水路を使い平原へと抜けたのだ。
平原から出た私達は大洗女子を背後から奇襲するため全速力で市街地へと向かった。しかし、平原には大洗女子の姿は無かったが、市街地を見渡せるところにはシュトルムティーガーとブルムベアー2両が市街地へ砲撃していたのだ。
「大洗女子の戦車を発見!」
すぐさま、それぞれに照準を合わしていた。
「撃て!」
隊長の号令により、十五両の戦車の一斉射撃を行ったのだ。
一斉射撃の奏でる射撃音は大洗女子の戦車への死のレクイエムだった。
集中砲火浴びて爆煙に消える三両。
そして、爆煙が消えるとスクラップと言って良いほどズタボロになり白旗を上げて沈黙するシュトルムティーガーとブルムベアーだった。
次の獲物は市街地にいる大洗女子の本隊。
私達はパンツァーカイルを組み、市街地へと進攻したのだ。
私はみほと別れ、アンチョビのティーガーⅡとパンターF型を三両を引き連れて防御ラインの構築していた。既に、愛里寿が地下排水路の入口を榴弾で破壊していた。秋山は相変わらず、教会の塔から平原方面を見ており奇襲に備えていたのだ。
そして、黒森峰が死神の鎌を携えてやって来たのだ。
「小梅、砲撃準備・・・目標、先頭のパンターよ!レイラを先に黙らしてやりなさい!」
「エリカちゃん、了解」
こちらも、市街地の残骸を盾に砲塔を1時の方向に向けてショットトラップをさせないように回転させる。黒森峰のパンターG型は幸いにも初期型防楯だった。なら、パンターは小梅にしたら鴨にしかならない。
今の私のティーガーⅡの乗員は二名がアンチョビのティーガーⅡに行っている。装填手と無線手はアンツィオの元黒森の生徒が担っている。
近付いてくる黒森峰の戦車群・・・・
距離が約2500mを切った段階で小梅に命令したのだ。
「撃て!」
ティーガーⅡから放たれる主砲。
私は双眼鏡越しから確認する。
先頭を走るレイラのパンターG型の防楯下に砲弾が命中したのだ。
そして、防楯下に命中した砲弾は跳ね返り、吸い込まれる様に車体上部の装甲に命中したのだ。
「えッ?嘘でしょ!?」
撃破され驚きの表情をするレイラだった。
まだ、私の仕事は終わらない。
みほにはまほさんの元に行って貰うのだ。
だから、私はその取り巻きを食い散らかすのだ。
「次行くわよ!斎藤さん、榴弾の信管設定を短廷期に設定して!小梅は味方のパンターの援護射撃をするから跳弾射撃でパンターの履帯をガンガン破壊するわよ!」
「「了解!」」
「ワニさんチームからパンター各車へ。ワニさんチームとマングースチームが跳弾射撃による射撃を敢行するわ。パンター各車は順次、準備が出来次第射撃を開始!」
『こちら、内法。カメさんチーム了解!』
『こちら、澤。ウサギさんチーム了解です!』
『こちら、近藤。アヒルさんチーム了解です!』
『こちら、マングースチームの安斎だ。今、跳弾射撃って言わなかったか?「大丈夫、気にしなくて良いよぅ!以前に逸見ちゃんがやった短廷期信管でやった奴でしょ?任せて出来るから」おぃ、待て杏!ぐっ、仕方ない。安斎、マングースチームも了解した!』
指示を出し、榴弾は今日の試合は少なく積んでいたので不安が在ったのだ。
「斎藤さん、榴弾の残弾は?」
「はい、少し待って下さい・・・・・・・榴弾の残弾は20発です。徹甲弾は40発、タングステンの徹甲弾は10発です」
「分かったわ。これより、黒森峰を削るだけ削ったら引くわよ!」
ティーガーⅡ二両から射撃される榴弾。
パンターの転輪に命中して履帯ごと破壊され動きを止める黒森峰の戦車。
追撃するように三両のパンターF型が徹甲弾の雨を降らして、降った後には撃破されたパンターが残ったのだ。しかし、黒森峰も黙ってやられる程甘くなかった。
「くっ、ヤークトティーガーが前に出て来たわ」
「エリカちゃん、嘘でしょ?」
パンターを追い抜き前に出て来たのはヤークトティーガーだった。
虚しく弾かれるパンターの砲弾。
私のティーガーⅡの跳弾射撃もサイドアーマーで防がれるだけだった。
ここで、一両でもやられると厳しくなる。
なら、やることは一つだった。
「みほ、ごめん!パンターは三両は倒せたけど、ヤークトティーガーが追い付いて来たわ」
『エリカさん、それは予想していた事ですし仕方ないです。市街地の次のポイントまで撤退して下さい』
「ワニさんチームから小隊各車へ、次のポイントまで後退するわよ!」
『澤、ウサギさんチーム了解です!』
『安斎、マングースチーム了解した!』
『近藤、アヒルさんチーム了解!』
『内法、ヘビさんチームりょ・・・きゃぁぁぁぁ!?』
私は内法達の悲鳴にキュポーラから身を乗り出した。
「えッ?嘘でしょ・・・・・」
私が見たのは、二両のヤークトティーガーからの射撃をもろに直撃して私が乗るティーガーⅡの脇を吹き飛んでいた内法が乗るパンターF型だった。
パンターのやられ方を見て瞬時に理解したのだ。一撃目で履帯と転輪ごと吹き飛び、二撃目には浮いて下部を晒したところに車体下を狙われ直撃したのだ。そして、ティーガーⅡにぶつかる様に吹き飛ばした事も・・・・それが分かった瞬間、こいつらは殺りに来ているのではと恐怖したが、こいつらだけは絶対にみほの下に行かせてはいけないと、私の脳内には警鐘がなっていたのだ。
私はみほに後で謝らないといけない。
今からすることは完全な命令違反だ。
「ワニさんチームからマングースチームへ小隊の指揮権を委譲する」
『逸見!貴様、何を考えている!』
アンチョビが委譲の意味を一瞬で理解してまったのかキュポーラから身を乗り出して無線を片手に怒るのも無理も無い。だけど・・・・・
「アンチョビ、悪いわね。でも、負ける訳にはいかないのよ。だから、残ったパンターを連れてみほに合流して!」
『おっ、お前まさか!』
「そのまさかよ。私のワニさんチームは黒森峰本隊に特攻するわ。小梅並の技量の砲手がいるヤークトティーガーだけは野放しには出来ないわ」
無線を聞いていたみほからも無線が来たのだ。
『エリカさん!特攻は止めて下さい!』
「みほ、まほさんを正気に戻すんでしょ!なら、厄介なヤークトティーガーだけは絶対に野放しには出来ないわよ!それに・・・・」
私は迷ってしまった。
もし、負けたら大洗女子は廃校になる事を・・・・
いくら、島田流の息が掛かっているとはいえ廃校を免れる為に力を貸しているに過ぎない事も・・・・
『エリカさん?何か隠しているの?』
そんな時、答えたのは杏さんだった。
『逸見ちゃん悪いねぇ。それを言うのはあたしだよ」
「えッ?杏さん?」
『西住ちゃん達には楽しい学園生活を送って欲しかったから隠していたけど、負けたら大洗女子は廃校になる。逸見ちゃんは茜さんから話を聞いていたんだね』
『えッ!そんな・・・・廃校だなんて・・・・』
『西住ちゃんの負担にならない様に隠していたけど、西住ちゃんには戦車道を楽しんで欲しかったからね』
『杏さん・・・・・』
「だから、ゴメン。私は止められてもヤークトティーガーだけは倒すわ」
『止めてもダメだね。エリカさん、帰って来たら覚悟して下さい』
「えぇ、分かったわ。だから、みほゴメン!」
私は無線を切ったのだ。
「エリカちゃん、良いの?」
「悪いわね。小梅まで付き合わせて」
「大丈夫だよエリカちゃん」
「小山さんも斎藤さんも滑川さんもゴメンね。付き合わせて」
「気にしてないよ」
「そうです。気にしてないです」
「大立ち回りをしてやりましょう!」
本当に皆、ゴメン・・・・
「皆、行くわよ!パンツァーフォー!」
私はティーガーⅡで黒森峰本隊に突撃したのだ。
凄まじい、黒森峰の砲撃
弾け跳ぶ、サイドアーマーや予備の履帯
「まだ、終わらないわよ!小山さん、次のタイミングでドリフトかますわよ!」
「了解!」
「小梅、射撃準備!」
「うん、任せてエリカちゃん!」
パンターとすれ違い、ヤークトティーガーに肉薄したのだ。キュポーラから身を乗り出しまま、私はティーガーⅡを指揮して操る。ヤークトティーガーは128㎜の主砲が私のティーガーⅡを狙う。
「今よ!」
滑り出す、私のティーガーⅡは側面をさらけ出したヤークトティーガーに小梅がトリガーを引き撃破する。
「まず、一両!」
パンターが背後から狙いを定めていたがそのまま、信地旋回をさせて、正面装甲で受けて砲弾を弾きパンターの防楯下に主砲を放って沈黙させて、残りのヤークトティーガーへ突進したのだ。
ただ、黙ってやられる黒森峰ではないのは私は知っている。
ヤークトティーガーの前には二両のティーガーⅡがいたのだ。
そんなことなど、どうでもいい。
ただ、私がやることはヤークトティーガーを倒すだけだ。
ティーガーⅡから身を乗り出す黒森峰生徒は狂犬の意味を理解したのだ。
狙ったら最後まで噛み付きに来ると・・・・
逆にヤークトティーガーを失ったら、大洗女子の重戦車を狩るのが難しくなる事を理解して私をヤークトティーガーに行かせまいと主砲を出鱈目に撃ってくる。
装甲がボコボコになり始める、私が駆るティーガーⅡ
しかし、まだ終われない。
「全速力でティーガーⅡとすれ違える?」
「足回りがそろそろまずいかも・・・・」
後少しだけ、頑張って欲しい。
「最後の突撃よ!」
マイバッハエンジンは唸り上げ全速力でティーガーⅡとすれ違う。
目の前には目標であるヤークトティーガーがいる。
「今よ!」
ドリフトしたが履帯は切れて弾け飛び、転輪が弾けるボタンの様に飛んで行く。再びヤークトティーガーの後ろを取ったのだ。
「撃て!」
二両のヤークトティーガーを食い散らかしてやったのだ。
右側の履帯が切れ転輪を無くして動けない、私のティーガーⅡに待っているのは復讐心剥きだしの黒森峰の戦車群だ。
私は最後の命令を下した。
操縦手の小山さん、無線手の滑川さん、装填手の斎藤さんには頭を屈めて衝撃に備える様に言ったのだ。そして、私は装填手の手袋をはめたのだ。
車内に響き渡る砲撃の衝撃。
「小梅、悪いわね」
「エリカちゃん大丈夫だよ。最後まで、私達の意地を見せてやろうね」
「フッフフ・・・・そうね。狂犬と与一は健在だって教えてやるわ」
砲塔を回し、固定砲台化するティーガーⅡは少しでも道連れにするために主砲を放ったのだ。
パンターを一両撃破したところで、私は凄まじい衝撃に床に叩き付けられたのだ。
「うっぐぅ!?」
頭から生暖かいものを感じつつ、全身に痛みを感じながらも起き上がりキュポーラのペリススコープから覗くと左右の側面と後ろからティーガーとティーガーⅡにほぼ零距離からの砲撃を受けたのだ。
私のティーガーⅡは撃破されたのだ。
それでも、黒森峰に残った戦車はフラッグ車のティーガーとティーガーⅡが二両、パンターが三両だけだった。
「小梅、大丈夫?」
「イタタ・・・・うん、大丈夫だよ。エリカちゃん、頭から血が出てるよ!」
「そうね、出てるわね」
「エリカちゃん、これで血を拭いて」
小梅からハンカチを受け取り、私はみほに無線を入れたのだ。
「みほ、ヤークトティーガー二両とパンター一両を撃破したけど、私も撃破されたわ。ゴメンね」
『エリカさん、皆は大丈夫ですか?』
「えぇ、大丈夫よ。みほ、後は任せるわ」
『はい、必ず勝ちます』
無線を切り、キュポーラのハッチを開けたのだ。
気持ちい風に私の一部髪が朱く染まりながらもふわりとなびいていたのだった。
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