一回戦を勝ち抜いた夜から、みほの甘えん坊ぶりに拍車がかかった様な気がするのは気のせいだろうか?
いや、気のせいでは無かった。
だって、現に・・・
「エリカしゃぁぁん・・・」
別にみほが、またノンアルコールビールを飲んで酔っ払っている訳ではなく、腕を絡ませていつも以上に甘えて来るのだ。
小梅はそんな私とみほを見ては
「とうとう、エリカちゃんがデレた・・・・」
と私をツンデレ扱いするのだ。
「だから小梅、私はツンデレじゃないわよ!元からデレてるわよ!」
「だって、見てて砂糖吐きそうだもん。こうして、エリカちゃんを弄らないとね。ねぇ、愛里寿ちゃん?」
「うん、朝から砂糖を吐きすぎて、味覚が分からなくなりそう。だから、八つ当たりじゃないけど、みほを弄るよりエリカを弄る方が楽しい」
「二人共!どんな暴論よ!ほら、みほもなんか言ってやりなさいよ!」
「うん、エリカさんが一緒なら・・・えッへへ」
みほの頭の中がどうやらお花畑化しているようだった。
「あんたねぇ!プライベートなら構わないけど、学校と戦車道だけは分別を付けなさい!」
「はうぅぅぅ」
「おっ、いつものエリカちゃんだ!」
いつも、小梅を弄る側だっただけに小梅にいいように弄られる私。
立場逆転だろう。
でも、そんなにいつまでも弄られてる私ではない。
小梅にニッコリ笑い言ってやったのだ。
「小梅、ちょうど良くシュトルムティーガーが使える様になったから、砲弾の代わりに詰め込んであげるわ!」
「えっ?エリカちゃん、そっ、それだけは・・・・・」
小梅は顔を青ざめながら、私に拝みながら謝っていたのだった。
そう、次からはシュトルムティーガーも使用出来る様になったのだ。
次の対戦校はアンツィオ高校だった。
何故か、今年のアンツィオは強くなっており、一回戦の映像を見たがⅣ号戦車G型が四両とセモヴェンテda75/18が二両にセモヴェンテda75/46が四両の編成で勝ち抜いている。だけど、CV33が一台も出てないことに少し疑問になった。それに、あのⅣ号戦車は間違いなく黒森峰にあった戦車だし、Ⅳ号戦車で指揮していたあの顔立ちはまさかと思いたいが、アンツィオの隊長は強化合宿でまほさんと一緒だった安斎千代美さんじゃないだろうか?
もし、Ⅳ号戦車が黒森峰からなら、アンツィオ高校に貸与している事になる。
だけど、あの堅物のまほさんだけにアンツィオとの取り引きは有り得ない。
何故・・・・・・
場所も代わり、アンツィオ高校
一人の生徒が報告書を抱えて私に報告していた。
「総統アンチョビ、いよいよ三日後に大洗女子との対戦ですね」
「カルパッチョ、皆の士気はどうだ?」
「はい、新参者には負けないと息巻いています」
「大洗女子について、何か情報はあったか?」
「はい、大洗には西住流家元の娘の西住みほと元黒森峰の逸見エリカや赤星小梅などの生徒がいるようです。それと、大洗が使用していた重戦車の出所は不明ですね」
私は西住みほの名前を聞いた途端に嫌悪感に襲われた。あの、土砂降りの中でプラウダとの決勝は見ていたが、あの絶望的な濁流に呑まれたⅢ号戦車の乗組員を救助し戦車道の未来を守った事は称賛すべき事だろう。だが、勝てる試合を見逃した事に加え、試合後に彼女の身に何が起こったかは知らないが戦車道から背を向ける様に逃げて、再び違う学校で始めた事だけは許せなかった。
それだけではない。
私の手元にあるプロフィールが書かれたファイルには次期エースになるだろう生徒がこぞって黒森峰から逃げる様に転校した生徒にも怒りを感じたのだ。
黒森峰のマウスの暴発事故が引き金となった、機甲科や整備科の戦車道の生徒の大流出事件は学園長すら代わる前代未聞の事件で他校を騒がしたのはつい最近の話だ。だが、それは資金不足と慢性的な戦力不足だったアンツィオ高校戦車道には幸運をもたらしてくれたが・・・・
「・・・・・・・やっぱり、まほの妹も大洗に流れて居たのか。そして、元黒森峰の生徒も・・・・」
「総統?」
「いや、カルパッチョが気にする事じゃないさ。ただ、黒森峰から無期限でⅣ号戦車六両と資金を貸与する代わりに元黒森峰の生徒を20名ほど、貸して欲しいとまほから言われた時は驚いたからね。まぁ、おかげで軽戦車のCV33を二両だけ残して全部売却して、P40重戦車が二両とセモヴェンテ75/48が六両も買えたのだ。黒森峰には感謝しないとな。それにしても、うちの学校に外部組と内部組を合わせもの元黒森峰の生徒が流れ過ぎないか?確かに、私が転校希望の黒森峰の生徒を生徒会に受け入れを頼んだのは事実だが・・・・」
「そっ、そうですね。60名の手続きだけでも生徒会が徹夜だったと聞いていますね」
「そりゃあな、プラウダには絶対に行きたくないし、知波単にも行きたくない。行くとなれば、うちのアンツィオかサンダースか聖グロリアーナの三校だろうしな」
「ですが、大洗女子にも約20名ほど流れてますね。特に、今年の二年生と一年生の中でも次期エースクラスの生徒がほとんどです。しかも、西住みほに親しい人物ばかりですが・・・・」
だけど、大洗がティーガーⅡやパンターを所持している理由にはほど遠いな。
「カルパッチョ、他に情報は?」
「はい、まだ噂程度ですが、大洗女子学園は島田流の保護下に在るようです」
「しっ、島田流だと!?何故、早く言わないのだ!」
私は、机の鍵を開けて一冊のアルバムを出したのだ。
「総統?」
あるページを開くとカルパッチョに見せたのだ。
「これは・・・・・」
「そうだ。私の母親の写真だ」
「まさか、一緒に写真に写って居るのは島田流の島田師範ですか?」
「そうだ。あと、後ろのティーガーⅡを良く見ろ」
「えッ!?このティーガーⅡは一回戦で大洗が使用したのと全く同じ!?」
「そうだ、これが理由だ。私の母親は島田師範と同じ母校で大洗女子学園の戦車道の生徒で隊長車の通信手だった。そして、大洗女子学園の戦車道が復活することを信じて隠したのだろうな。全く、馬鹿な事をしてくれる。これでは、アンツィオが勝てる見込みが無いではないか!」
ガチャン
慌てた形相でペパロニが部屋に入って来たらしい。
「あっ、姐さん!次の会場が決まったっすよ!」
「ペパロニ!何処だ?」
「砂漠っすよ!」
ペパロニの報告に私は笑いたくなった。
「はっ、はっはははは!勝ったぞ!大洗女子は重戦車を使えない!」
「姐さんどうしてっすか?」
そうだった。
忘れていたが、ペパロニは馬鹿だった。
「良いか、砂漠では防塵処理とラジエターを何とかしないといけない!しかも、ラジエターに難があるパンターにそれの発展型のティーガーⅡはたとえ、防塵処理をしてもオーバーヒートは確実だ」
「難しい事は分からないっすけど、さすが姐さんっすよ」
「はぁ・・・・ペパロニに説明した私が馬鹿だった・・・・・・」
説明しても理解をしていないペパロニだった。
再び、大洗女子学園に戻り生徒会室
生徒会室では書類が空を舞い、一人の生徒が会場のくじの報告書が原因でキレており暴れながら絶叫していた。
「さっ、砂漠!?何なのよ!何の嫌がらせよ!雪原の次はなんで砂漠なのよ!」
「エリカさん!落ち着いて!」
「おい!誰か、逸見を取り押さえろ!」
そう、生徒会室でキレて暴れているのはマジギレ怪獣エリゴン・・・失礼、エリカちゃんだった。川嶋さんが生徒会のメンバーで取り押さえようとしているけど止まる気配はない。見かねたみほちゃんが宥めるけど、逆に・・・・
「みほ、良く落ち着いていられるわね!次の会場は砂漠なのよ!寒冷地仕様から砂漠仕様に変更しないといけないのよ!エンジン周りだって、ラジエターも強化しないといけないのよ!しかも、8台を寒冷地用の装備を外して砂漠仕様にしないといけないのよ!」
逆効果だった様で火に油だった。
「逸見ちゃん大丈夫だよ。既に整備班と自動車部の面々が二徹覚悟で作業してるよ」
「うん、杏さんの言った通りだよ。だから、エリカさん落ち着いて。板野さんから整備の関係でオーダー早く出す様に言われたから、砂漠戦でも大丈夫なオーダーを板野さんに出したんだよ」
「みほ、どんなオーダー出したのよ?」
私もみほちゃんが出したオーダーが気になっていた。
「みほちゃんどんなオーダー?」
「えっとね、試して見たい戦術があるから、ブルムベア後期型が二両、Ⅳ号戦車F2型、レオパルドが二両、三号突撃砲、三式中戦車に秘密兵器枠にシュトルムティーガーを入れます」
みほちゃんはシュトルムティーガーを投入するんだ。
ちょっと、みほちゃん。
私、嫌な予感がするよ?
だって、シュトルムティーガーってロケット弾だから弾道射撃を計算するから・・・・・
そんな、複雑な計算出来るのは私だけだから・・・・・
確実に砲手は私だよね?
そうすると、必然的に車長はエリカちゃんがなるから・・・・
「小梅ちゃん、シュトルムティーガーの車長兼砲手を頼めるかな?」
「えッ?」
まさか、私が車長なの?
私、車長の経験が無いから自信ないよ?
「小梅、私が車長じゃなくて装填手をやるわよ。どうせ、クレーンと玉掛けの資格があるのは私だけでしょ」
エリカちゃんが装填手?
そうだよね。
うん、だって350kgもある38cmロケット臼砲の砲弾だもんね。中の専用のクレーンで吊すだもんね。クレーンと玉掛けが無いと危険だもんね。戦車道のメンバーで資格あるのはエリカちゃんだけだもんね。
「いやぁ、逸見ちゃん。実は、自動車部と小山は玉掛けとクレーンは持っているよ。あと、西住ちゃんには朗報で、風紀委員会から三人ほど参加するからよろしく」
えッ?会長さん?
さりげなく流れたけど、私が車長が確定なの?
結局、私が車長をやることになり、二回戦の当日を迎えたのだ。
試合当日
私は試合前に大洗女子のガレージへと足を運んでいた。理由は言わずとも西住みほに文句を言いたかった。去年の大会の決勝では勝てる試合なのに人命を優先して敗北したことに加えて、ケーキ喫茶での話を全て聞いていたのもあるが、戦車道に一度、背を向けた事に怒りを感じていたからだ。
そして、ガレージの外には五両の戦車が止まっていた。そして、三つあるガレージは何か入っているようだったが覗くのはさすがに不作法だろうと思い覗かなかった。
「総統、あの方が生徒会長の角谷杏です」
「カルパッチョ、知っている」
生徒会長の角谷杏の前に行ったのだ。
「やぁ、アンチョビじゃないなか。今日の試合はよろしく頼むよ」
私も知っている。
大洗女子の生徒会長の角谷杏だった。
「あぁ、よろしく。ところで、西住みほは居るか?」
「「西住ちゃん(さん)!?」」
「お~い!西住!」
眼鏡を掛けた生徒が西住みほを呼び出す。
銀髪の長く背の低い生徒と姉に見えるもう一人の銀髪の生徒と三人で話し合っていたのだ。
姉に見える生徒はファイルで確認して判る。
元黒森峰女学院の逸見エリカだ。
もう一人の逸見エリカの妹に見える生徒はファイルの中に情報が無かったが、カルパッチョが見て何かを気付いたらしい。
「総統、あの子が例の島田流の島田愛里寿です」
「そうか、カルパッチョ」
やはり、噂は本当だった。
島田流家元の娘である、島田愛里寿が大洗女子学園に居る意味は保護下にする意味でもあるが、11月に行ったドイツのプロリーグとの対外試合で重傷を負っている。
だが、今は島田愛里寿には用は無い。
用が在るのは・・・・・
「お前が西住みほだな?」
やはり、姉妹だけあってまほに似ている。
彼女も私に気付き
「何でしょうか?」
ここで、はっきり言ってやろう。
もし、気づけたなら彼女はもっと強くなるはずだ。
だから・・・・
「西住みほ!貴様の戦車道は弱い!」
「えッ!?」
「ちょっと、あんたねぇ!」
やはり、逸見エリカも狂犬のままだな。何時、私に噛み付きそうな良い目をしている。今の姿を強いて言うのなら、飼い主を馬鹿にされ唸り続けるご主人に忠実なドーベルマンだろうか?
だけど、あなたが甘いままだとみほが弱いままである事に気付いて欲しい。
「後、お前もだ!島田愛里寿!」
用は無いと言ったが、心底、あの敗北でいじけたままなのだろか?
「っ!?」
その反応は、やはり図星か・・・・・
「西住みほに島田愛里寿!この際だからはっきり言ってやる!去年の決勝と対外試合を見させて貰った。そして、確信したよ。一度、戦車道に背を向けた者に我々は負けない!せいぜい、覚悟するのだな!はっ、はっははははは!」
私はマントを翻し、彼女達の前から笑いながら立ち去ったのだ。
だだ、過去の心の傷を思い出し、みほと愛里寿は顔を真っ青にしていたのだ。
私はみほと愛里寿に対して一つだけ思う。
私を糧に立ち直って欲しかった。
もし、立ち直れるなら喜んで勝利を授けよう。
そして、勝つために手段を選ばずに暴走している私の大親友のまほを止めて欲しいのだ。
あんな試合は戦車道では無い。
ただの蹂躙劇だ。
だけど、私も人の事は言えない。
私もアンツィオの為に利用出来るものは徹底的に利用したのだから。
そう、抽選会が終わった夜だった。
「まほから電話するなんて珍しいね」
「みほの事と学校の事で相談したい」
「みほの事はケーキ喫茶で全部聞いている。学校の事は何だ?」
「アンツィオに元黒森峰の生徒が多数いるな?」
「居るけど、あんなにどうしたのよ?普通じゃない!」
「頼む、何も聞かないでくれ。学園長と生徒会には話は付けてあるから、元黒森峰の戦車道の生徒を20名ほど貸して欲しい。代わりに、黒森峰からはⅣ号戦車G型の無期限の貸し出しと強化合宿で話していた車両を買えるだけの資金を提供する。このままでは・・・・・」
そう、まほからの電話で全てが判ってしまったのだ。
今回の一件に私はアンツィオの為に利用したのだ。
転入して来た元黒森峰の生徒から事情を全てを聞いていたが、20名の生徒に黒森峰に貸し出すという愚行をしたのだ。だが、その生徒達は
「総統の為なら!」
「そうだ!行き場のない私達を拾ってくれたのだ!」
「再び、地獄(黒森峰)に行っても心はアンツィオだ!」
「我等の心は総統の為に!」
「「「「総統!総統!総統!」」」」
と叫び、学校の為に行ってくれたのだ。
返礼に黒森峰からは要らなくなったⅣ号戦車G型を六両を無期限の貸し出しを理由に貰い、セモヴェンテ75/48が八両とP40が四両が纏めて買えるだけの資金提供があったのだ。
しかし、一括で買った為にバラバラのパーツで来たが、急ぎ組み立てたが間に合ったのはセモヴェンテ75/48が四両とP40が二両だけだった。
ここに来た、黒森峰の生徒はある意味幸せだろう。
今まで、女子高生らしく遊ぶ事を知らず、美味しい物を食べて喜ぶ事を知らずにいたのだ。
ここに来てからの生徒達は遊びを知り、美味しい物を食べて感動することを知ったのだ。
だから、勝ち負けよりも戦車道を楽しんで欲しいのだ。
そう、泥をかぶるのは私とまほで充分だから・・・・・
しかし、試合前にも関わらず、何故か気持ち悪い感覚にいらついていたのだ。
何故、イライラするの?
全くわからないままで試合に臨むのだった。
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