ストライク・ザ・ブラッド―真祖の守護者―   作:光と闇

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今回でこの戦いは終了です。


真夜中の闘い 後編

「ひ、姫柊!?」

 

 全く予想外の人物・雪菜の登場に驚愕する古城。

 なんで姫柊がここに!?凪沙を頼んだから来るはずがないはずだぞ!?

 そんな古城に振り返って雪菜が言ってきた。

 

「ご無事ですか、先輩!助けにきましたのでもう安心してください」

 

「あ、ああ………じゃなくて!凪沙はどうしたんだよ!?」

 

「凪沙さんなら、安心して眠りについています。ですから先輩はもう心配しなくても大丈夫ですよ」

 

「………!そ、そうか。それならもう大丈夫、なのか?」

 

 疑問形で返す古城。雪菜はクスッと小さく笑って頷き返した。

 先輩ってレイ好き(ロリコン)な上に、凪沙好き(シスコン)なんですね、と内心で思いながら。

 

「―――それよりも、先輩」

 

「ん?」

 

「どうしてレイさんと戦っていたんですか?彼女は、たしか先輩を慕っていたはずですよ?」

 

「ああ、それはな―――」

 

 古城は、どうしてレイと戦う羽目になっているのかを雪菜に説明する。

 雪菜は古城の説明を聞いて、そういうことだったんですね、と納得した。

 一方、レイは自身の魔力で形作った雷光の槍をいとも簡単に斬り裂き消滅させた雪菜の槍を見て、驚きを隠せないでいた。

 あの槍は、第四真祖の魔力さえ無力化出来る兵器だというのですか!?それに、あの力は―――まさか………!?

 レイは、雪菜の正体に気づきより警戒―――ではなく、逆に警戒するのをやめた。そして、不意に罪悪感に苛まれていく。私は、あの子に()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 突如、レイから強大な魔力の気配が消失したことに、古城と雪菜は訝る。

 急に力を消してどうしたのか?〝雪霞狼〟の一撃で消滅したとも思えない。何故なら、雪菜が斬り裂いたのはレイ本人ではなく雷光の槍だけだからだ。

 ならばどうして?という疑問が生じるなか、法衣の男は愉快そうに笑った。

 

「その槍………もしや七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)ですか!?〝神格振動波駆動術式(DOE)〟を刻印した、獅子王機関の秘奥兵器!よもやこのような場で目にする機会があろうとは!」

 

 法衣の男は口元に歓喜の笑みを浮かべた。眼帯のような片眼鏡(モノクル)が紅く発光を繰り返し、雪菜の槍の情報を直接投影する。

 雪菜は法衣の男を警戒するように見返して、

 

「あなたはいったい何者ですか?」

 

「む、私ですか?ふむ………本当は名乗るのは控えたかったですが、獅子王機関の剣巫ならばいいでしょう」

 

 法衣の男は雪菜の質問に答えることにした。

 

「我が名はロタリンギア殱教師、ルードルフ・オイスタッハです。娘よ、是非この私と手合わせを願います」

 

「ロタリンギアの殱教師!?なぜ西欧教会の祓魔師がこの絃神島に!?」

 

「我に答える義務はなし!」

 

 法衣の男・オイスタッハが大地を蹴って猛然と加速し、彼の振り下ろした戦斧が雪菜を襲った。

 

「な、姫柊!」

 

 古城が叫ぶが、雪菜は、大丈夫です、と笑って―――オイスタッハの一撃を完全に見切って紙一重ですり抜けた。

 そして、雪菜は攻撃を終えた直後のオイスタッハの右腕へと、槍を旋回させて反撃する。

 オイスタッハは、回避不能と判断した雪菜の攻撃を、鎧に覆われた左腕で受け止めた。

 魔力を帯びた槍と鎧の激突が青白い閃光を撒き散らす。

 

「ぬううん!」

 

 オイスタッハの左腕の装甲が砕け散り、雪菜はその隙に離れて距離を稼ぐ。

 

「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか!さすがは七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)―――実に興味深い術式です。素晴らしい!」

 

 破壊された左腕の鎧を眺めてオイスタッハが満足そうに舌舐めずりをする。片眼鏡(モノクル)は忙しなく点滅を繰り返す。

 そんな彼を見て、雪菜は表情を険しくした。そして、剣巫の直感が彼は危険な存在だと判断し、

 

「―――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

「む………これは………」

 

 雪菜が厳かに祝詞を唱えると、彼女の体内で練り上げられた呪力を〝雪霞狼〟が増幅させた。槍から放たれた強大な呪力の波動に、オイスタッハが表情を歪め、

 

「はあ―――ッ!」

 

 その直後、雪菜がオイスタッハに猛然と攻撃を仕掛けてきた。

 

「ぬお………!」

 

 閃光のように放たれた雪菜の銀色の槍を、オイスタッハの戦斧が受け止める。その腕に伝わる衝撃に、彼は驚愕の表情を見せた。

 雪菜の攻撃を受け止めきれずに数メートル近くも後退するオイスタッハ。過負荷によって各部の関節が火花を散らしていた。

 ………っ!なんと重い一撃ですか!昨夜の獣人の一撃とはまるで違いますね!

 オイスタッハは内心で喜んでいたが、雪菜の攻撃はまだ終わっていなかった。彼女の至近距離からの嵐のような連撃が彼を襲う。

 

「―――ッ!」

 

 オイスタッハは反撃の糸口を見つけることが出来ずに、防戦一方となっていた。

 そうなっている原因は、雪菜が霊視によって一瞬先の未来を視ることで、オイスタッハの攻撃パターンを見切っていたからだ。更に様々なフェイントを含む高度な武技と組み合わせることで、彼女の攻撃速度は彼の装甲強化服の人工知能を上回っているのだった。

 

「ふむ、なんというパワー………それにこの速度!これが獅子王機関の剣巫ですか!」

 

 見事です、とオイスタッハが賞賛する。そして、雪菜の〝雪霞狼〟の攻撃を受け止めきれずに、遂に半月斧(バルディッシュ)がひび割れると、音を立てて砕け散った。

 だがその瞬間、戦斧を失ったオイスタッハに攻撃するのを躊躇ってしまい、雪菜の手が僅かに止まってしまった。その一瞬の隙にオイスタッハは強化鎧の筋力を全開にして後ろへ跳躍した。

 

「いいでしょう、獅子王機関の秘呪、たしかに見せてもらいました―――やりなさい、アスタルテ!」

 

 オイスタッハの指示に従って、アスタルテが雪菜の前に飛び出してきて、

 

命令受諾(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)、〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟」

 

 虹色の半透明な巨大な腕を雪菜に向けて放った。雪菜はその腕を〝雪霞狼〟で迎撃しようとするが、

 

「やらせるかよッ!」

 

 古城が雪菜の前に飛び出してきて、アスタルテの巨大な腕の眷獣の攻撃を―――魔力を籠めた拳で力いっぱい殴り返した。

 

「………!」

 

 古城に力いっぱい殴られた巨大な腕は勢いよく吹き飛び、〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟の宿主たるアスタルテもその衝撃で転倒した。

 

「………え?先輩!?」

 

 ギョッとした表情で古城を見つめる雪菜。なんて無茶苦茶な攻撃なんですか!と呆れていた。

 そんな雪菜の気持ちを理解したように、古城は苦笑いを浮かべながら返した。

 

「俺にはレイみたいな芸当(まね)はできないから、こうすることぐらいしかできないけど―――これでさっきの借りは返したぜ、姫柊」

 

「先輩………ありがとうございます」

 

 少し嬉しそうな笑みを浮かべる雪菜。本当は自分でも対処出来たのだが、それよりも古城が護ってくれたことの方が何よりも嬉しかったのだ。

 一方、オイスタッハは、盲点でした、と呟いて古城を睨み、

 

「そういえば貴方もいましたね。第四真祖の少年」

 

「ああ。忘れてもらっちゃ困るぜ、オッサン。眷獣の腕の迎撃くらいなら、俺にだってできる」

 

 古城は笑ってオイスタッハを睨み返す。とはいっても、レイが俯いたままその場から動かずにいてくれるからこそ勝機を見出だせているだけなのだが。

 オイスタッハは暫し古城と雪菜を見つめ、自分が不利であることを悟った。

 天使を名乗る少女・レイは〝雪霞狼〟の力で魔力を無効化されてからずっと動かない状態で、とてもではないが彼女が自分を護ってくれるとは思えない。

 それに、〝雪霞狼〟のデータが録れたとはいえ、アスタルテの眷獣はまだ未完成。そのデータを組み込み、調整しなければ第四真祖とは渡り合えないだろう。

 潮時ですか、と思ったオイスタッハは、アスタルテに撤退を命じようとした、その時。

 

再起動(リスタート)完了(レディ)命令を続行せよ(リエクスキュート)、〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟―――」

 

 オイスタッハの意思とは裏腹に、アスタルテが再び人工的な声音で呟き〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟を操り始めた。

 

「ハッ、来るなら来いよ!何度でも打ち返してやるぜ!」

 

「待ちなさい、アスタルテ。今はまだ、真祖と戦う時期ではありません!」

 

 迎撃態勢に入る古城とは対照的に、オイスタッハが叫びアスタルテを制止する。

 アスタルテは困惑したように瞳を揺らすが、宿主の命令を受けた眷獣は止まらず、虹色の鉤爪を鈍く煌めかせ古城を襲った。

 

「先輩、下がってください!」

 

〝雪霞狼〟を構えた雪菜が古城を護ろうと前に飛び出した刹那、

 

 

退()()()()()、〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟」

 

 

「―――ッ!?」

 

 落ち着いた声音でアスタルテに告げるレイ。すると突如、アスタルテの巨大な腕の眷獣は見えない檻に阻まれたかのように動きを止めた。

 それと同時に、アスタルテはレイの青白い焔のような瞳に射抜かれて動けなくなった。

 

「む、どうしたのです、アスタルテ………!?」

 

 アスタルテの異変に驚愕し瞳を見開くオイスタッハ。一体何があったのか、と。

 その一方で、レイの全身から迸る銀水晶の魔力を見た古城と雪菜は、彼女が何をしたのか直ぐに理解した。

 あれは一昨日、〝若い世代〟の吸血鬼男の眷獣〝灼蹄(シャクテイ)〟の支配権を奪った―――他者の眷獣の支配権を奪う、精神支配の能力。

 もしかして、俺達を護ってくれたのか!?と古城はレイを見たが、彼女は古城ではなくオイスタッハへと向き直り、

 

「彼らは僕の標的です。盗らないでください、殱教師様」

 

「………っ!?」

 

 レイの言葉を聞いた古城は、途端に悲しくなった。彼の期待は見事に裏切られてしまったからだろう。

 雪菜は古城の震わせている拳にそっと手を添えて、大丈夫ですよ、先輩、と励ました。

 一方、オイスタッハはムッと眉を顰めてレイを見下ろし、

 

「アスタルテの様子がおかしいのは、貴女の能力でしたか、真祖の〝従者〟」

 

「はい。彼女の眷獣の支配権を奪いました。これで彼女は何も出来ない非力な人形(ホムンクルス)にすぎません」

 

 隠す素振りも見せずに、さらりと答えたレイ。それを聞いてオイスタッハは再び驚愕する。

 今度は精神支配ですか!?どれだけの能力を秘めているのですか、第四真祖の力は!?

 オイスタッハは少しの間、開いた口が塞がらない状態に陥ったが、直ぐに冷静になり、

 

「わかりました。我らの妨害をしたのならば、その落とし前をつけてきなさい」

 

「わかったのです」

 

 オイスタッハの言葉に頷くレイ。だが、その場から動こうとはせずに、代わりに彼を見上げて、

 

「殱教師様。〝雪霞狼〟に対抗するために、なにか武器を僕に貸してほしいのです」

 

「………む、武器ですか?―――ふむ、なるほど。確かに貴女の魔力では七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)の〝神格振動波駆動術式(DOE)〟に対抗する術はありませんでしたね」

 

 いいでしょう、とオイスタッハは小柄な彼女でも振るえそうな武器―――短剣を懐から取り出して渡した。

 

「こんなもので構いませんか?」

 

「大丈夫なのですよ、殱教師様。むしろ使いやすくて助かります」

 

 レイはニコリと微笑み、オイスタッハから短剣を受け取り、彼に背を向ける。

 オイスタッハはその頼りない背に不安を抱くが―――突如、レイの全身から迸った漆黒の魔力を見て、彼の不安は瞬く間に消失していった。

 レイは短剣を除いた全身に漆黒の魔力を纏いながら数歩進んだところで、雪菜を見つめた。

 

「姫柊雪菜………いいえ、()()()。僕と手合わせ願います」

 

「え!?」

 

 レイからご指名を受けて驚く雪菜。否、指名されて驚いたわけではない。彼女がフルネームではなく、名前で、それも様付けで呼んできたことに雪菜は驚いたのだ。

 それに、レイが雪菜に向けてきたのは殺気ではなく、まるで自分に古城を護る力があるのかどうかを量ろうしているかのようだった。

 そして何より、今朝の彼女の冷たさはなく―――まるで保護者のような温かさを雪菜は感じた。

 そんなレイの変貌っぷりに雪菜は困惑したが、それを振り払って古城の前に出た。

 

「ひ、姫柊………?」

 

 古城が不安そうな表情で雪菜を呼ぶ。しかし、雪菜はそんな古城に優しく微笑んで、

 

「大丈夫ですよ、先輩。レイさんは、わたしが取り戻してきます」

 

 ですから先輩は、待っててください、と告げて雪菜はレイの下へと数歩進んで止まった。

 そして両者は互いに見つめ合い、口を開いたのはレイだった。

 

「―――さあ、始めましょう。私たちの聖戦(たたかい)を」

 

 レイの開戦の合図と共に、雪菜は〝雪霞狼〟を構えた。それを確認したレイはクスリと笑い、トンと地面を蹴って―――

 

「―――え?消えた!?」

 

 唐突にレイを見失って焦る雪菜。すると、古城が雪菜に叫んだ。

 

「姫柊、下だ!」

 

「………っ!?」

 

 古城の声にハッと目を下に向ける雪菜。そこには、低い姿勢で雪菜の懐に飛び込んでいたレイの姿があった。

 ………ッ!?いつの間に!?

 ギョッとする雪菜に、レイは短剣を下から上に振り抜いた。迫る短剣の刃を、雪菜は上体を反らすことで辛うじて躱すことに成功した。

 不安定な体勢になってしまった雪菜に、レイはすかさず短剣を振るった。

 

「く………っ!」

 

 雪菜はレイの短剣を眼で捉えて、不安定な体勢のまま〝雪霞狼〟を振るい短剣を弾き返した。

 雪菜は短剣を弾くと直ぐに後ろへ跳んで距離を、

 

「え!?」

 

 距離を取れなかった。直ぐにレイが間合いを詰めてきたからだ。それと同時に彼女は短剣を振るってきて雪菜に休む暇も与えない。

 雪菜は霊視で一瞬先の未来を見て、レイの攻撃を〝雪霞狼〟で捌き続けていくが、

 ―――っ、この子、(はや)い!私の霊視じゃ追いきれない………!

 オイスタッハの強化鎧の人工知能とは比べ物にならないほどのレイの攻撃速度に、雪菜は防戦一方どころかしだいに追い詰められていく。

 

「姫柊!?」

 

 レイの剣技に追い詰められていく雪菜を見ていた古城は、酷く焦りを感じていた。

 ―――くそ!俺は、見ていることしか出来ないのか………!?

 古城は自身の無力さに苛立ちを覚える。何が世界最強の吸血鬼だ!女の子を一人も護れないなんて、俺は人間以下じゃねえか!

 そんな古城に、『何者か』が声をかけてきた。

 

 

 ―――あの娘を救いたいか?と。

 

 

 

 

 

 一方、雪菜は必死にレイの攻撃に耐えてみせるが、

 

「―――あ、」

 

 レイの短剣が遂に〝雪霞狼〟を弾き飛ばして、雪菜の手から零れ落ちてしまった。

 そして武器を失ってしまった雪菜を、レイは残念そうな表情で見つめて、

 

「その程度ですか、雪菜様?()()が救った貴女の力は、こんなものなんですか?」

 

「―――――ぇ?」

 

 レイの言葉に雪菜は石化したように固まる。

 ()()?私を救った()()………!?その()()って、まさか―――!?

 雪菜は驚愕の表情でレイを見つめ、

 

「レイさん………どうしてあなたが、()()を知ってるんですか!?」

 

「……………」

 

 しかし、レイは雪菜のその質問に答えなかった。代わりに、武器を持たない雪菜へと、レイは短剣を振り抜き―――

 

 

「姫柊ィ――――――ッ!」

 

 

 紫電の如き速さで奔った古城の拳が、レイの短剣を殴り飛ばした。

 

「………!?」

 

 予想外の横槍に瞳を見開いたレイは、咄嗟に後ろへ跳んで距離を取った。

 それは雪菜も同じで、あり得ないものを見るような表情で古城を見た。

 

「せ、先輩!?」

 

「大丈夫だ、姫柊。あとは、俺にやらせてくれ」

 

 そう言って古城は雪菜に笑ってみせると、彼女を庇うように前に出てきてレイを真正面から捉えた。

 

「悪いな、レイ。待たせちまって」

 

「………主様」

 

 立ちはだかる古城を、レイは何処か嬉しそうな表情で見つめた。

 古城はニヤリと笑うと、全身に雷光を纏い右腕を掲げた。その黄金の魔力は、レイの雷光の槍と全く同じ魔力ではなかったか。

 

「嫌でもうちに連れ帰ってやるぜ。だから覚悟しな、レイ!ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ」

 

 雪菜を護り、且つレイを取り戻す戦争(たたかい)を。

 そんな古城を、泣き笑いに似た表情でレイが見つめてきて、

 

「できるものなら、やってみるのです、主様。この私を―――倒してみなさいッ!!」

 

 そう言ってレイは全身から古城の纏っている魔力と全く同じ黄金を迸らせ、右手に巨大な雷光の槍を形作る。

 それを見た古城は、雷光を纏った右腕を掲げたまま吼えた。

 

「いくぜ。約束通り、力を貸してもらうぞ!」

 

 

 ―――ふん、いいだろう。我を召喚せよ、小僧ッ!

 

 

 古城の右腕から鮮血が吹き出し、それはやがて輝く雷光へと変わる。膨大な光と熱量、そして衝撃。

 無差別に撒き散らされるのではない。凝縮されて巨大な獣―――即ち眷獣が姿を現す。

 

疾く在れ(きやがれ)―――〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟ッ!」

 

 出現したのは雷光の獅子―――戦車ほどもあるその巨体は、荒れ狂う雷の魔力の塊。その全身は目が眩むような輝きを放ち、その咆哮は雷鳴のように大気を震わせる。

 本当は、古城にこの眷獣を召喚する資格はまだない。誰の血も吸ったことがない、この童貞吸血鬼(みけいけん)には。

 では、何故〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟は古城に力を貸したのか。それは―――雪菜(れいばい)レイ(てんし)を失うわけにはいかないからだった。

 そして、古城も〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟と想いは同じだった為、彼がこの眷獣を召喚できたのだ。

 

「な、なんという魔力………!これが第四真祖の眷獣ですか!」

 

 古城の眷獣の存在感に圧倒されるオイスタッハ。アスタルテも、凄まじい眷獣の魔力に瞳を見開いていた。

 ………これが、先輩の………第四真祖の眷獣―――!

 雪菜もまた、古城の眷獣が放つ圧倒的な魔力に魅入るように眺めていた。

 一人だけ、〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟を愛おしく、懐かしむようにレイが見つめ、

 

「最初は、貴女なんですね………()()()()

 

 眷獣の名ではなく、レイが〝―――〟に付けた名前で優しく呼びかけた。

 そして、雷光の槍を構えて〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟へと突貫した。

 古城も、レイが動くのを見て〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟に命じた。

 

「迎え撃て、〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟!」

 

 古城の命令に従って〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟は咆哮し、嬉々としてレイに突進を仕掛けた。

 そして、古城の雷光の獅子の眷獣と、レイの雷光の槍が衝突し、鬩ぎ合いを始め周囲に甚大な被害を齎した。

 

「ぬお………!」

 

「―――!」

 

「きゃあ………っ!」

 

 オイスタッハやアスタルテ、雪菜の三人が悲鳴を上げる。

 これはいけません!と思ったオイスタッハは、急いでアスタルテに撤退を呼びかけた。

 

「天使の娘は諦めます。いきますよ、アスタルテ」

 

「………命令受諾(アクセプト)

 

 アスタルテは人工的な声音で応えて、いつの間にか解放されていた眷獣を消滅させ彼の下へいく。

 そして、古城とレイが戦っている隙に、彼女に貸していた地面に落ちている短剣を回収し、撤退していくオイスタッハとアスタルテ。

 雪菜は〝雪霞狼〟の結界で自身を護るのが精一杯で、彼らを追うことはできなかった。

 それよりも、古城とレイの戦いが気になって仕方がない。第四真祖の魔力同士の衝突に、終わりが見えてくるのか?と。

 雪菜は、まるでギリシャ神話の()の獅子と英雄の戦いを彷彿させるような光景を見ている気がした。

 だが、そんな神話のような戦いは間もなく終わりを告げようとしていた。

 

「―――っ!」

 

 それは、レイの表情に疲労が見え始めてきたからだ。彼女は古城と違って有する魔力量が劣っているのだろうか。

 遂に、レイの魔力が底を突いたのか、片膝を突き、それと同時に雷光の槍が消滅した。そして、古城の眷獣〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟がレイを捉えて、雷光が彼女を呑み込んだ。

 

「せ、先輩!?駄目です!これ以上はレイさんが―――!」

 

 雪菜の悲鳴に似た叫びを聞いて古城は、ヤバッと慌てて〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟を解除した。

 すると、雷光に呑み込まれていたレイの姿が浮き出てきて―――彼女の着ていた白いワンピースが所々雷に焼かれて黒くなって破れていた。

 ゆっくり前に倒れようとしたレイを古城が慌てて抱き止める。不思議なことに、彼女の服以外は()()だった。

 そんなレイを見て、ホッと胸を撫で下ろす古城。

 ………あいつ、ちゃんと手加減してくれてたんだな。

 そんなことを思いながら古城は、自分の腕の中で健やかな寝息を立てているレイの頭を優しく撫でた。

 雪菜も〝雪霞狼〟をギターケースの中に仕舞うと、古城の下へ歩み寄りレイの寝顔を眺めてクスッと笑った。

 二人が見守るなか、眠っているはずのレイの口が不意に開き―――

 

「―――ありがとう、ございます。雪菜様………主様………ネメアス………」

 

 え?と古城と雪菜は一瞬驚いたような表情を見せたが、直ぐに笑って、

 

「「どういたしまして」」

 

 二人がそう返すと、レイは嬉しそうな表情で、再び寝息を立て始めるのだった。




レイは雪菜を救ったあの彼女にも接触しています。もちろん天使としてですが。

原作と違って古城が眷獣を召喚しました。今回限りの仮契約のような感じでですが。

描写にはなかったですが、このあと古城が瀕死の〝旧き世代〟の男の存在を雪菜に伝えます。

最後に、〝ネメアス〟は獅子座になったとされる〝ネメアーの獅子〟からとってつけており、某アニメの〝ネメシス〟風につけた名前だったりします。

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