ストライク・ザ・ブラッド―真祖の守護者―   作:光と闇

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第四真祖に守護者がいたらどうなるか。そんなもしもの話。


未知の人形篇
真祖と人形


 真夏の街。

 その都市(まち)は絃神島と呼ばれた、太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人工島。

 この都市(まち)にはある噂話がある。

 

 世界最強の吸血鬼、第四真祖。

 それは不死にして不滅。一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する。世界の理から外れた冷酷非常の吸血鬼。過去に多くの都市を滅ぼした化け物、と。

 

 

 

 

「―――ったく凪沙のヤツ。こんな夜中にアイス買ってこい、とかないぜ」

 

 はぁ、と気怠げな表情で溜め息を吐く少年。

 彼がその噂の第四真祖なのだが、姿は化け物ではない。違いがあるとすれば、まるで狼の体毛のように、前髪の色素がやや薄い………という程度。至って普通の少年であり、年齢十五、六歳の高校生だった。

 その彼は白いパーカーのフードを被り、コンビニ袋をぶら下げている。近所のコンビニでアイスを購入したその帰りのようだ。

 そして凪沙、というのは彼の妹であり、その彼女がこんな夜中にアイスを頼んだ犯人だった。

 しかし彼は気怠げながらも妹の為にアイスを買ってあげている。それは彼が妹想いの良い兄なのか。それとも単なるシスコンなのか。

 

「………ん?」

 

 その帰り道、少年はふと、路上に転がっている人影を見つけて立ち止まった。

 彼は気になり近寄って見ると、其処には―――小柄な身体を真っ白な服で包んだ、真っ白い少女がいた。

 

「え………?」

 

 髪色は白。

 肌色も白。

 服装(ワンピース)も白。

 眉毛も睫毛さえ白。

 もしかしたら瞳の色まで白ではないかと思える程に白い少女―――否、幼女だった。

 白き幼女の顔立ちは人間というよりは人形に近い。

 そして、少年は彼女の白くて細い首筋へと視線を持っていき―――

 

「………ぐっ!?」

 

 少年は不意に呻いた。強烈な渇きと赤く染まる虹彩―――吸血衝動というものに襲われたのだ。

 本来は性的興奮により発生する症状だが、少女の首筋に目を向けた時に青く透ける血管を見つけてしまったがためだろう。

 更に相手が無防備なのが不味かった。気を失っているのか、寝ているのかは不明だが、早いとこ此処から離れないと彼女の血を―――

 

「……………っ!」

 

 しかし、その心配は無かった。それは、吸血衝動を緩和してくれる出来事が起きたからだ。鼻血の前兆が。

 少年は、自分の鼻先を押さえて、ホッと安堵の息を吐いた。が、

 

「………!やばっ!?」

 

 その指先から深紅の液体―――鼻血が零れ、少女の僅かに開いていた口の中に一滴、入ってしまったのだ。

 少女の顔を覗き込むような体勢を取っていったのが仇となったようだ。

 少年は、やってしまった、というような表情で少女を見つめた。

 見知らぬ人の血を、それも鼻血を飲まされたのだ。眠って(?)いるとはいえ、少女にとっては不愉快極まりない出来事だろう。

 

「……………」

 

 少年は、どうすればいいのか考え込む。このまま何事も無かったかのように少女を放置して帰宅するか。それとも少女を起こして不可抗力とはいえ鼻血を飲ませてしまったことを謝るべきか。

 

「―――う………ん……」

 

「!?」

 

 少年が悩んでいると、不意に少女が唸った。そして、閉じられていた瞼は開かれて白い瞳が―――否、青白い焔のように輝く瞳が現れた。

 少女の瞳は少年の瞳と合い、暫しの間、見つめ合う。

 長い沈黙の中、堪えきれなくなった少年は、空いている手を軽く上げて少女に挨拶した。

 

「………よ、よう」

 

「……………」

 

 しかし、少年の挨拶に少女は返事しなかった。じーっと、穴が開くほど少年を無言で見つめる少女。

 参ったな、と少年が頬を引き攣らせていると、少女はようやく口を開き―――

 

 

「……………(ヌシ)様?」

 

 

「…………………………は?」

 

 全く予想外の言葉が少女の口から零れた。

 少年は間の抜けた声を洩らして、暫くぽかんと口を開いた状態で固まる。

 そんな彼を、上体を起こした少女は不思議そうに見つめ小首を傾げた。

 

「………主様?どうしたのですか?」

 

 少女の言葉を聞いて、少年はハッと我に返る。そして直ぐ様、少女を睨みつけて吼えた。

 

「誰が主様だ!俺はあんたのマスターじゃねえよ!」

 

「………?主様は、僕の主様なのですよ?」

 

「―――え?〝僕〟?ってことはあんた、女装した男なのか!?」

 

 少年のその発言に、少女はムッと不機嫌そうな表情で睨んできて、

 

「失礼なのですよ主様!僕は女装したオス型ではないのです!歴としたメス型なのですよ!」

 

「そ、そっか。悪いな、疑ったりして―――ん?メス〝型〟?」

 

 怒る少女に謝罪する少年。だがふと違和感を感じて眉を寄せる。

 女でも、メスでもない、メス〝型〟と。これは一体どういうことなのか。

 少年はその疑問を、思い切って少女にぶつけてみることにした。

 

「………なあ、あんた。〝メス型〟っていうのは―――どういう意味なんだ?」

 

「………え?」

 

 少年の問いに、一瞬、少女は面食らったように驚く。が、直ぐに表情を戻すと、胸に手を置いて告げた。

 

「僕は人間でも、魔族でもないのです。僕は―――主様の人形(ドール)なのですよ♪」

 

人形(ドール)、か。俺のではないけどな!」

 

 少年が否定すると、人形の少女は首を振り、

 

「いいえ。主様は僕の主様なのです!僕は、主様の血を飲んで起動したのですから」

 

「……………はい?」

 

 少年は一瞬、聞き間違えではないかと思った。自分の血を飲んで目覚めた、と。

 確かに、少年の血は人形の少女の口の中に入った。鼻血だが。

 血を媒介にして動く人形など、聞いたことがなかった。況してやたったの一滴だけで。

 少年が頭を悩ましている中、人形の少女はニコリと微笑んで、告げた。

 

「これからよろしくお願いしますのですよ!主様♪」

 

「………勘弁してくれ」

 

 少年は弱々しく呟く。

 だが彼女を起こしたのは他でもない、少年だ。知らなかったとはいえ、起こしてしまった以上、彼が面倒を見なければならないだろう。

 少年―――暁古城は諦めて現実を受け入れ、人形の少女のマスターとなるのだった。


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