まだあんまり判るようには書いてないんでアレですけど
ここはまるで、いつか本で読んだことのある古の中華の街並みのような、華々しい都だった。本を読んだ当時はこんな街で酒でも飲んでみたいと思ったものだが、まさか死んでから汗を流して走り回ることになろうとは思いもしなかった。
目の端に今回の標的の内の一人を捉える。もう一人は殺した後だったので、今回はこれを済ませれば一息つくことができるだろう。その男は赤ら顔の巨漢で、どうやら酒を飲んだ後のようである。名もわかっている。戦場で名乗りをあげていたのを聞いたそうだ。それは、かの三國志の英雄張飛だ。あの物語の英雄を実際にこの目で見ることができるのはとても嬉しいが、かの張飛と真っ向から斬り結ぶことができないことに、少々の落胆を感じる。
だが、
側を一瞬で駆け抜ける。
この、
そして、すれ違いざまに、生涯の結晶である不可視の居合いを放つ。
首を一瞬で刎ねる快楽の前には、
首が落ち、消滅するのを横目に見てそのまま走り去る。
その落胆も霞んでいってしまうのだ。
》》》》》》》》》》
「…やはり水位が低くなっているな。」
エミヤの言う通りナイル川の水位はかなり下がっていた。そして、そんなナイル川の岸を歩いて約2時間。やっと遠くに都市の輪郭を確認した。
「遠いな。オジサン歩くの飽きちゃったよ。」
「そこは疲れたとは言わないんだね。」
呆れた様子のビリーは、ハットを深めにかぶり眩しさを軽減させているようだ。
「あーあんまりこういう状況でこういうことは言いたくは無いんだが…」
少し気まずそうにアーラシュが皆に対して口を開いた時だった。
ピッ
「あ、やっと繋がった!」
「ドクターロマン?」
「ああどうも。でも今はあまり無駄話はできないな。恐らく敵性個体だと思われる生体反応が複数ある!それも君達を囲むようにだ。」
「何!?」
「俺もそれを言おうと思ったんだが…」
「何故もっと早く言わなかった。くそ、なるほど視認できるようになってきたな」
「ごめんなエミヤ。ただのデカイ野生のサソリだと思ったんだ。」
「二人ともとりあえずは目の前の怪物だ。早く終わらせるぞ。マスター指示を。」
「了解だデオン。」
俺は指示にあたる。ビリーとアーラシュには自分の側で狙撃にあたるよう言い、他のサーヴァントには前衛に出てもらう。
「さて、サソリの怪物に銃弾は通るかな」
ビリーがサンダラーのトリガーに指をかけて悪戯っぽく笑う。
「銃弾か。矢で殻が砕けんだからいけるんじゃないか?ほらこんな具合に。」
アーラシュの放つ矢が見事にサソリの甲を打ち砕いていく。それを見たビリーは呆れたように首を振った。
「まず君とは霊格が違うんだからっと。そうだな。隙間狙えばいけそうだな。ほらよっと。」
軽快な銃声と共にサソリの脚やら尾やらが弾け飛ぶ。
「よしやった!ん?どうしたんだいマスター」
「…いや、ヘクトール達が帰ってきたら話す。」
「マスター、噂をすればってやつだな。」
アーラシュの言葉に顔をあげると、前線組がさっさと終わらせて帰ってきていた。
「少し遅くなってしまったかな?」
「いやそうでもないさ。こっちも今しがた終わったとこだ。それよりマスターが話したいことがあるそうだ。」
「ほお?そりゃ珍しいな?」
俺は一度頷いてから、この戦闘で気になったことを話すべく口を開いた。
》》》》》》》》》》
「なぁ」
「なんでしょう」
自らが乗る壁の下には広大な砂漠が広がっている。所々に中華風の甲冑の残骸が転がっていて、どこかアンバランスさが醸し出されている。
「同じランサーとして、同じ騎士としてききたいのだが…。いや、君は騎士として考えてもいいのか?」
「はっ。俺は伝説の騎士ですよ。どうぞ騎士として扱って頂きたい。そうでなくては俺が憐れでならないですからね。」
隣の騎士は自嘲気味にそう言うと、自分の隣に腰をおろしてきた。
「ですが、俺は騎士として話は聞きません。あくまで一人の痛い男として聞きましょう。そうでなくては愚かな俺は己さえも制御できない。さぁ話を聞きましょう。貴方は騎士に話すつもりでお話しください。」
彼は晴れ渡る空を軽く見上げて先を促してくる。私は見られていないのを知りながら、軽く頷いて話しかける。
「この戦いで我々騎士に何ができるのだろうか。この戦場では騎士は欲されていない。欲されているのは優秀な指揮官だ。わからんのだ。どうすればいいのか。」
「はっはっは。そのような質問は俺の特質上あまり俺にすべきでは無いでしょうな。ですが、あくまで俺の中の一般論で答えさせて貰いますと、」
そこで言葉を切ると、男は遠くを眺めながら少し口角を上げた。しかし、それは人を馬鹿にするような表情ではなく、何かを諦めた、どこか哀愁を帯びた表情に見えた。
「騎士の十戒をお忘れですか?そう答えさせて頂きましょう。道に迷ったとき、貴方が騎士であるならば、自らに与えたその十戒に従うべきでしょう。それはどんなに暗い場所でも確かな道標になるのでは無いですか?」
私は目を壁の下へと落とす。
「君の方が余程素晴らしい騎士だと思うな。私は自分の十戒が欺瞞に感じてしまうのだ。それなのに、ここぞというときにはそれに頼ってしまう。一つの、そう、道標として」
それを聞いた男は瞳に憂いの感情を宿す。
「それでいいのでは無いですか?その十戒に頼れているのならば。それに、貴方はこの上なく素晴らしい騎士だと思います。俺なんかはただの一般人ですからあまり偉そうなことは言えませんが、貴方は後世の騎士や民間人が憧れたような騎士でしょうから、自分を卑下してはその方達に失礼が過ぎるというものです。そして、騎士でない者ほど騎士の十戒に夢を見るものなのです。その戒め、大切にしてください。」
「…さて、水でも飲みに行くか。」
「おや、結構話し込んでしまいましたね。」
「君は戻らないのか?」
「もう少しこの景色を見ていくとします。」
「…そうか。」
その男の背中は非常に頼りなさげに見えた。
》》》》》》》》》》
皆で歩きながら話し始める。
「さっきのサソリ、本能では動いていないな?ヘクトール」
ヘクトールが少し嬉しそうにニヤリと笑う。
「お、鋭いねえ」
「どういうことだマスター」
デオンの疑問も最もだろう。それは戦場を俯瞰しているからこそわかること。
「サソリの動きが戦略的だった。ってことだよね?」
ドクターの補足に頷きで答える。
「ああ確かに、群れて囲んでくるっていう悪趣味なサソリは聞かないな。」
「んーオジサンの勘だとアレ哨戒部隊の動かしかただと思うんだよねえ」
「哨戒。」
エミヤがダルそうに繰り返す。
「そう。多分第二波は来ないと思うよ。近くに彷徨いてるとしても」
「どうだいロマン?周りにいるかい?」
ビリーのその問いにはロマンは答えなかった。どうやら再び通信が切れてしまったようだ。
「はぁ全く間が悪い通信だなぁ。」
ふと、アーラシュが歩みを止める。
「どうした?」
その問いに顔を少し険しくしながら叫ぶ。
「何かが飛んできてる!注意しろ。ありゃ首がかっ飛ぶぞ!」
「ああ見えてきたな。アレは私が受けよう。」
「哨戒の結果を見てってとこか」
ヘクトールが俺の前に立ち、万が一のために槍を構える。
「来た!」
ビリーのその声と共に、物凄い勢いで何かが弾丸のようにデオンにぶつかり、鋭い金属音が響き渡る。
「くっ…」
デオンが食い縛り、飛んできた者を弾き返した。飛んできた者はくるりと宙返りすると、すたりと着地した。
「へぇやるじゃんあんたら。」
言葉を発したのは小柄な少年だった。
「君は誰なんだい?」
デオンが警戒をとかないまま語りかける。すると、その少年は小馬鹿にしたようにこちらを見る。
「お前らみたいな闖入者に名乗るような名前はねぇよ!」
言うが早いが少年は物凄い速さでデオンへと突進しようとした。時だった。
上空から鋭い声が飛んできて、少年の動きが止まった。
「何をしているのですホルアハ!その方々は客人です。早まるなと何度申しましたか!?」
「くっ…」
そのホルアハと呼ばれた少年を一喝すると、上空に浮かんでいる女性は徐にこちらに向き直り、言った。
「此度は失礼致しました。この時代の王ナルメルの配偶者ネイトホテプと申します。さぁ星見のお客人方、こちらへ。城へとご案内致しましょう。」
》》》》》》》》》》
「梁山泊からは我等五人か。」
「林教頭がいるだけで俺達の士気は違うってもんだ。」
「なんで宋の兄貴は来てくんなかったんだ。俺ぁそれが残念で仕方ねぇんだ。」
「黒旋風はいつまでもメソメソ。これどうにかなりませんかね。呉先生。」
「これの扱いは君の方が慣れているだろうに。それに戦闘では相も変わらず暴れてくれてるんだしいいだろう。」
「そうですがねぇ。まぁいいか。ところで教頭。あなた…」
「おっとそこまでだ。ここでは俺の武勇などたかが知れたもの。戦闘なら軍師殿の策略や、そこの花栄の万能性のほうが余程役に立つ。」
「林教頭に褒められるとは光栄だな。だけどな、俺のは器用貧乏とも言ったりするんだぜ。あまり当てにするな。」
「全く。器用貧乏なら不敗ということは無いだろう。僕なんてとんでもない失敗ばかりだ。もう少し有能がよかったな」
「おいおいそんなこと言ったら俺なんてどうなるんだよ!」
「お前はそのまんまでオッケーさ。」
「なんか馴れ合いみたいで嫌だが、お前は変えなくてもそのままでいいのだと思う。変わったら黒旋風では無いだろう。」
「それは同意しようか。」
「ん?あれは出陣を知らせる伝令さんかね。この会話もここまでか?」
「ああ、そうだな。そろそろ我々も出陣か。」
「今度こそあの面倒な城を陥としたいもんだな。ありゃあ策略云々でどうにかなるもんでも無さそうだけどな。」
「いや今回はあの城は迂回しようと思っている。」
「お?ここで今日の策を話すのか?」
「いや、君達ならその場で兵を動かしながらでも平気だろう。」
「当たり前の話だよなぁ!何せ俺達は最強の梁山泊なんだからな!そんじゃ行くか!」
「さて、存分に我等の恐ろしさ、敵に刻み付けてやろうではないか。」
「「「「応!」」」」
五人の男達はニヤリと笑い合い、肩を叩き合い歩いていった。
五人の無頼漢たちは戦場を地獄に陥れるために、
今、戦場を駆け抜ける。