変異特異点E 人理定礎値:A++ BC.30??
原初神王国家エジプト
遥かなる人の王
太陽の光を不気味に反射させて、侵略者の軍勢が迫ってくる。砂煙の上がり方からして、昨日よりは少数だろうか。昨日と同じように魔力を消費し、自らの宝具で軍勢を迎撃するべく私は玉座から徐に立ち上がる。
背後にある都まで到達する軍勢をなるべく少なくしなくてはならない。私独りでできるだけ食い止める。孤独というのは少々寂しいものだが、私は生涯通して孤独だった。私の一生というものは酷く悲しいもので、英霊となった今でも進んで思い出したいとは思わない。それは悲しいという理由以外に自分の醜さをまざまざと見せつけられるからというのがあり、非常に堪えるものがあるからだ。あまりに身勝手で、あまりに意地っ張りで、そして、自分から人が離れていくことに慣れてしまっていたあの自分をもう見たくないからだ。
生前誰からも心ある言葉ををかけられず、狂気の王と呼ばれた自分に声をかけてくれた、かの古代王を想う。誰からも目を向けられなかった狂気の王である、自分を真っ直ぐに見てくれた、あの純粋な瞳を思い出す。
「初めての召喚がこのようなものになろうとは…」
私は一人呟いて、この城の魔力残量をすり減らしていく。
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「どう考えてもおかしいだろ。どうなんだドクターロマン」
鬱陶しそうにフードを外して、エミヤがロマンに問いかける。
「うーんそうだなぁ。まあでもほぼ確実にそれが人理崩壊の要因だろうな。で、問題はその原因な訳だけど。」
ノイズが凄い通信越しにロマンが困ったような声を出す。接続が安定していない。しかし、ロマンの答えも至極最もだ。この異常の原因がすぐにわかるはずもない。もっと言えば見当もつかない。
雲1つ無い空には燦々と地を灼く太陽があり、そして目線を下に戻すと、最早干からびて砂漠となってしまっている地表が目に入る。
「並の英霊にこんなことできるやついないでしょ。」
ビリーはそう言い、寝そべって自身の顔に帽子を被せた。確かに、嫌になるほど暑い。汗が止めどなく流れ出てくる。
「このままでは私達はともかく、マスターがまずい。早いところ人の住んでいる場所を探さないと。」
「確かに、人の住むところなら多少なりとも水くらいはあるでしょ。」
デオンの言葉にビリーが頷くと同時に、アーラシュとヘクトールがちらりと遠くを見る。
「ありゃあ敵か?」
「鎧が動いてるの、オジサン見たこと無いんだけど。」
「どうなんだロマン?」
エミヤの問いかけにロマンは頷く。
「あれは敵と考えて差し支え無いと思う。何故ならこの時代に鉄はあるはず無いからね。」
「じゃあさっさと片付けちゃおうぜ」
かすれたロマンの返答を聞いて、アーラシュが矢を飛ばすとおよそ二桁の鎧が吹き飛んだ。それを合図にしたかのように、他のサーヴァントも一斉に動き出す。
「…ロンドンでのオートマタを思い出してしまった。あれは中々に不気味だったな。」
「でもこれ機械とかじゃなくて魔力人形とかそんな感じじゃないかねぇ?」
「…油断してると怪我をするぞ。」
「エミヤの言う通りだな。マスターのためにも無駄口は慎んで早く終わらせようじゃないか。」
鎧の人形兵達は、サーヴァントの前に次々と破壊されていった。
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「んー通信が安定しないなあ。映像はちゃんとこっちに来るんだけど。」
管制室でドクターロマンが悩ましげに呟く。しかし、パンと手を叩き合わせると、それはそれとしてと言い、管制室の入り口の方に振り向いた。
「何で君は今回藤丸君たちに着いていかなかったんだい?マシュ」
「えっとそれは…」
いつの間にかカルデアの制服を着て立っていたマシュが、言いづらそうに口ごもった。
「言いにくいのですが、私…藤丸さんを護る…いや護りたいと思えないんです。」
「それはアレかい?藤丸君の行動とかがってこと?」
「はい…。的確だとは思えない行動ばかりで、まるで自分の身を案じていないというか、勝ちにいっていないというか…。」
そのマシュの言葉を静かに聞いていたロマンは、軽く溜め息をついてマシュに語りかける。
「そっか。近くにいすぎてもわからないことがあるんだね。」
「…はい?」
マシュが怪訝そうに聞き返す。
「よし、今回は僕と一緒に彼等を見守っていようか。たまにはそういうのもいいだろう。」
「え、ドクター?」
「ほら、こっちにおいで。彼を、少し距離おいて見てみようじゃないか。」
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「アーラシュ、何か見えたか?」
「ああ都市みたいなのが見えるが……どうやらさっきの奴らの軍勢と戦っているようだな。」
「ここからどのくらいの距離なんだい?」
「んーマスターの足だとだいたい半日かかるかな。」
「それはまずいな。マスターのためにも、人理のためにもなるべく早く着かなければならない」
そう話している間にも、灼熱の太陽は俺から水分を奪い続けていく。体から水が抜けていくのがわかるようだ。俺は暑さによる気だるさを感じながら口を開く。
「川沿いだ川沿い。こんな状況だ。街があるとしたら水の近くだろう。人がいるってことはまだ干からびて無いはずだ。」
「じゃあそうと決まれば移動さね」
皆特に異論は無いようで、ゆっくりと腰を上げて川があると思われる方へと歩を進める。暑さのためそこら中で陽炎が揺らめき、此方の平衡感覚を刺激してくる。
「しかし、こんな異常気象にしちゃうって、神霊クラスかそのまんま神様かね。神様ってのオジサンいい思い出無いからごめん被りたいんだけどねえ。」
「でもそれはあり得るね。前回の嵐の王程かはわからないけれど。」
ヘクトールとデオンの会話に耳を傾けて気を紛らわそうとするものの、脱水というのは気の持ちようでは防げない。僅か一時間歩いただけで俺は死をすぐそこに感じていた。
「お?やっといい感じの倒木があった。」
アーラシュの声に目だけを動かしてそちらを窺うと、かなり大きめの倒木に手をかけて、引き摺ってきていた。
「おいそりゃあもしかして…」
「あんまり僕高いとこ好きじゃないんだけどなあ」
「さっさと河岸に着くためだ。少しくらい我慢しろ。ほら乗った乗った。」
あまり乗り気じゃ無い様子でサーヴァント達は木に跨がり始めた。
「ほらマスターも」
俺は軽く顔がひきつるのを感じながら、促されるままにそっと倒木に跨がった。
「お手柔らかにな?」
情けないことに声が震えてしまった。その様子を見た大英雄は、からからと笑って、弓矢を空へ向けて構えた。
「よし行くぞ?」
目の前のエミヤの背中が強張った気がした。意外な一面だと思った瞬間、
俺の意識はそこに置いていかれた。
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「む、これは軍師殿。何処へ行かれるのですかな」
「李将軍…。いや私は封神台へと行くところだ。」
「そうですか。しかし、都で起こっている事件聞きました?これは少し不味いのではないかと」
「わかっている。今それの対策をしに行くところだ。ところで李将軍。貴方は、どちらの李将軍なのかね?」
「やっぱりそっくりですか。私は貴方と共に戦った方ですよ。もう片方は今戦闘に出てます。」
「ふむ哪吒の父か。しかし丁度よい。顔見知りなら頼みやすい。少し頼み事をしたいのだがよろしいか?」
「ええ絶賛暇でしたので。」
「それはありがたい。では今封神台から喚ぶ者と都の事件を視て欲しいのだが。」
「かしこまりました。張飛、呂布とかなりの戦力を削がれていますからな。油断はしないようにしましょう。…と、おや?やはり貴方でしたか」
「ははは。これは李将軍。再び共に戦う事ができて光栄です。しかしあまりの荒事は勘弁していただきたい。」
「李将軍。都の方で任務の説明をよろしく頼む。」
「了解した。」
「ふむ…ではあと一人。開国武成王はいらっしゃるか。」
「……こっ恥ずかしいから普通に黄と呼んで欲しいんだが。」
「おお来たか。やぁ久しぶりだな黄将軍。」
「ああ、で?これはまたどういうことだ?」
「説明は後にまたする。その前に、だ。また私の下で働いてくれはしまいか?」
「ああまた戦争な訳だな。くく。それを貴方に言われて断る輩がそうそういると思っているのか?太公望?」
「…恩に着る。」