呂堺機
全長4㍍位のロボットだが完全に動かすために体全体を使うAT形式になっている。
羅堺機
全長は大型ワゴン車と同じくらいの動物タイプが多いが隊長クラスだと呂堺機と同じ全長4㍍のロボットである。
目が覚めたのは村の診療所だった、あまりベッドで寝たときは無いために軽く落ちそうになったがまず心配なのは今は何時何分だということだ。
時計を見ると6時50分をちょうど過ぎた頃だった、5時起きの俺には結構ヤバい時間だった。
「やっべぇ!急いで支度を…。」
「おい、何処に行くつもりだ。」
「誰ですか?」
「昨晩の呂堺機のパイロット…名はマノだ、お前も名乗れ。」
「…夜森葉棟、しがない定食屋の仮店主で学生だ。」
「学生か…これは都合が良い、夜森葉棟、お前には呂堺機のパイロットになって貰う。」
「え?ちょっ…何で俺がそんな事やんなきゃいけないんだよ。」
「…お前は悪魔と戦う資格がある、それだけだ。」
「ふざけるな、俺は呂堺機なんてだいっ嫌いなんだよ、あんなもの…只の人殺しの道具じゃねぇか…。」
「なんだと?それは我々を侮辱してるとして取るぞ?」
「構わねぇよ、やっていることは変わんないんだし…それに、俺は今そこで眠っている子の心配と遅刻ギリギリの時間に焦っているんだよ。」
「愚かな…国のため戦士として命を投げ出す勇気も無いのか?」
「全く無いね、俺はこの森や山に害が及ぶような事でしか動かないからな。」
「…お前はいずれ、天罰が下るであろう、そんな身の回りしか気にしない奴にはろくな未来が…。」
「悪いけど俺は信仰高い天使より道端のお地蔵さまの方が大切なんでな、おっと、一回帰って教科書取りに行かなきゃ…。」
「全く…気が変わったら私を呼べ、直ぐに手続きを済ませよう。」
変な奴だったな、まぁ天使だから仕方ないか…と言ってたら目の前に幼馴染みの夢張が歩いていた。
「夢張、今日は早いな。」
「おはよう夜森くん、今日は日直だからなるべく急いでね。」
「あっ、完璧に忘れてた、直ぐにバッグを持ってくるから先に行っててくれ。」
「出来るだけ急いでね、今日は幸信先生だよ?」
「やべぇ…今日は鬼の日か…チャリで行くわ、夢張、恒例のアレを頼む。」
「仕方ないな…位置についてー、よーい…どん!」
「いよっしゃぁ!」
夢張は体があまり良くなく結構な運動規制や日傘着用を義務づけられていたため運動が出来ない夢張にスタートの合図は全て任せられていた、だから聞き慣れているため中々心が高揚する。
おかげで活動限界に支障をきたさない時間で家に着いた。
「っはぁ…はぁ…5分かかんなかったぞ、えーと、今日は…ええい面倒くさい!全部持ってく!。」
持っている教科書を全てエナメルバックにぶちこむ。
「よし、こんなもんで…あ、忘れるところだった。」
昔に父親から渡されていた青い線が幾つも入っている正方形型のネックレスを急いで首にかける。
「…行ってきます。」
仏壇に挨拶をして速攻でママチャリに跨ぎ全力でペダルを踏み込む、まだ7時20分…ギリギリ間に合うか?!
「っはぁ…キツイ…。」
「あ、以外と早かったね。」
「夢張?!先に行ったんじゃないのか?」
「夜森くんだけ怒られるのは可哀想だと思って私も同罪になろうとしてたの。」
「…まだ日直の仕事を完了するまで10分ある、早く後ろに乗れ、怒られないハッピーエンドにするぞ!」
「私達の冒険は始まったばかりだ、なんちゃって」
「勝手に終わらせんな、飛ばすぞ!」
「あはは、無理しないでね。」
「大丈夫だっての…あれは…盃詩!」
アスファルトに加工された道の真ん中に居るのは友人の盃詩だった。
「HEYタクシーィィィィ!」
「作戦、退く。」
「んなっ!?」
盃詩は回転しながらぶっ倒れたが無視してペダルを漕ぐ。
「…良いの?」
「大丈夫だろ、あいつは頑丈だ。」
「ダチを引き殺す気かー!」
「凄いな、全力で漕いでるのに走ってついてこれるなんて。」
「へへーん、まあな。」
「あ、足元にカエル。」
「ぎゃぁぁぁ!」
頑丈なこいつの弱点はカエルである、姉から無理やりズボンのなかに殿様カエルを入れられてカエル自体ダメになってしまったのだ。
「5分で着いた…さっさとやっちまうぞ、俺は黒板全般やるから花瓶をよろしく頼む。」
「うん、そういえば昨日の夜凄い音がしたよね?何だったんだろ…。」
「裏山に隕石でも落ちたんじゃね?」
「…その顔、嘘ついてる顔だよ、なにか知っているでしょ?」
「あー…後で話すからまずは日直の仕事を終わらせてしまうぞ。」
「うん…。」
それからギリギリ完了して席に着き、普段通り過ごし四時講目が終わり昼休みになったので夢張とついでに盃詩と昼食を取りながら話すことにした。
「で、散々追いかけ回されて和解しかけたんだけど上から呂堺機の砲撃が有ったんだよ、何でもあのキャノン砲の名前はエリアルカノンとか言ったな。」
「エリアルカノン!!?あの装備は最近軍が作り上げた新作なんだよ、柔軟な金属を使い空気圧を六つ同時に放出し一つの弾丸を弾道ミサイル以上の威力に仕立てあげた現在最高威力の武器なんだよ!」
「ふーん、それで敵ってだれ?」
「お前そんな事も分かんないのか?」
「私も全然知らないよ?」
「これだから脳まで田舎に染まってるやつは…良いか?呂堺機の敵は羅堺機と言う動物と人間を掛け合わせた機械なんだよ、羅堺機の得意とすることは転送と変形だ、体に害が及ばずに変形する技術を掛け合わせていて…。」
長々と話しているが全然頭の中に入ってこない、その時遠くから白い物体が近づいてきていた。
「あれ?あの人は診療所の…茂利さーん!」
「小僧!小娘が目を覚ましたぞーい!だが少し問題が発生しているんじゃがどうすれば良い!」
「問題ってー?」
「記憶喪失じゃー!」
「…ええええええーっ!?」
本日最初の問題が発生した。
「…名前は?」
「………。」
「これまでの経緯は?」
「………。」
「…大福食べる?」
「………うん。」
「うわー、本物の記憶喪失とか結構変な感じなんだな。」
「本人が気にしていることは余り口に出さない。」
「ごふうっ…お前の手刀は殺人クラスの威力があるから封印したんじゃ…。」
夢張の手刀の次には俺からの精神的ダメージを与えよう。
「お前の部屋の畳の下の隙間に隠してあるエロ本ベスト3をカエル池に沈めるぞ。」
「それだけは止めてくれ!つかなんで俺の個人情報がボロボロに!?」
「恨むなら姉を恨むんだな。」
「小僧ども、バカをやっている暇は無いだろうが!」
そうだった…まずはこの子のこれからをどうするんだろうか…。
「うーむ、ざっと見たところ身長的には小学5年って位だな、葉棟、お前が責任もって面倒見ろ。」
「…良いのか?正直こんなことになったのは俺が逃げたからだし、面倒は俺が見ようと思ってたんだが…。」
「いや、そこは驚けよ…一応聞くが襲ったりしねえよな?」
「こんな子供体型に興奮するとでも?」
「そりゃそうか…お前は標準が一番好きだもんな。」
「………。」
「あ、すまん、ついほったらかしにしちまったな、どうした?」
「……名前、戻るまで着けて欲しい…。」
「あー…そうだな、よし、朴葉(ほおば)なんてどうだ?」
「………うん。」
朴葉は最近庭に生やしたばかりの木の名前で朴葉焼き等が有名である。
「さーて、今から店を開ける準備をしなきゃな。」
「森はどうする?何だったら俺がヤバめの木を切り倒してくるぜ。」
「よろしく頼む、切りにくくなったら古い刃を捨てて新しい奴着けて良いからな。」
「へいへーいっと、じゃあ行ってくるぜ。」
「さて、茂利さん、今日はありがとうございました、お礼にうちで食べに来ませんか?」
「そうじゃなぁ、タダ飯なら喜んで食いに行くぞい。」
「じゃあ席開けておくのでまた後程。」
「………。」
それから歩いて帰路につくが全然喋ろうともしない、そもそも記憶喪失なら母さんの事も聞けない、せっかくの手がかりが消えてしまった。
だけど記憶の戻る手がかりは無いと言うわけではない、あの羅堺機と言うやつを調べれば何か出てくるかもしれないしこいつの仲間も来るかもしれない、そしたらちゃんと話をしよう。
そんな事を考えているともう着いてしまった、少し会話したかったんだが…。
「ここが一応暮らしている家で店もやっている、外装は少しぼろいが我慢してくれ。」
「…怖くないの?」
「何がだ?お前から恐怖を感じることなんて…。」
「記憶が無くても…人が怖がる姿が…頭から離れない…。」
「あー…まぁ心配すんな、お前をそんな事をする奴は俺がはっ倒すし今のお前は朴葉だ、前のお前を戻す努力をするが今は朴葉で居てくれ。」
「…朴葉…誰も、苛めたりしない?」
「だからそう言ってんだろ、あー…娘持つとこんな感じなんだろうな…。」
「…パパ?」
決めた、この子は俺の娘だ、異論は認めん。
「見事に潰れていたな…こりゃあ特に残ってないかもしれないぞ。」
呂堺機の砲撃の跡を見渡したが完全に動かなくなっておりコックピットも見渡し辛い。
「これどうすっかな…動かすにしても大きさ的には大型ワゴン車位だから難しいし…。」
近づこうとすると首の真横に刀が構えられていた。
「動くな、動くと…首を撥ね飛ばす。」
綺麗に研ぎ澄まされた刀が月光に照らされていてより鋭利に見える。
「…誰だ?この羅堺機のパイロットの仲間か?」
「振り向くな、出来るだけ危害は加えない。」
「…悪いがこの羅堺機のパイロットは記憶が飛んでいる、迎えはもう少し後にしてくれないか?」
「…詳しく話を聞きたい。」
刀の仕舞う音が聞こえる、もう危害は加えないようだ。
「…振り向いてて良いか?」
「構わん、こちらも背中を見せられたままでは落ち着かん。」
「では失礼して…。」
「って貴方は…夜森様の息子様ではありませんか!」
「え?」
「知らずとはいえご無礼の数々、誠に申し訳ありません!」
地面まで付くくらいのポニーテールを揺らし突然膝を着き頭を下げながら謝られた、って息子様…?
「あの…顔を上げてくれませんか?それと母さんとはどういう関係で?」
「はっ、私は夜森麗葉様に助けていただいた羅堺機のパイロットで名はアモルです、以後お見知りおきを。」
「え、ええ…それより助けて貰ったって…。」
「ええ…我々羅堺に住まう者共は羅堺機の開発に熱心になりすぎてしまい衣類や植物、治療科学の発展が全く無くこのままでは自ら滅びる道に陥ってしまったのです、その時手を差し伸ばしたのが夜森麗葉様です。」
「まじか…。」
思ったより凄い人だったな、もっと普通なものだと思ってた。
「夜森麗葉様は全てお一人で難なくこなし、一ヶ月と経たないうちに呂堺の科学に負けない位力を身に付け、羅堺に住まう者達は夜森麗葉様を神と崇めるように…おっと失礼。」
携帯電話が鳴り、数メートル離れて会話している、どうやら態度的に部下だと思う。
「…了解した、では夜森様に伝えておいてくれ。」
「今のは?」
「夜森麗葉様の側近だ、伝言でこれ以上は自分の口から説明したいようだ、付いてきて…む?息子様の携帯も鳴ってますよ。」
「葉棟でいいよ、着信は…茂利さん?」
着信ボタンを押し少し耳から離して手を添えると丁度良い位に聞こえる。
「もしもし?」
『ようやく繋がったわい!小僧!雛屋の婆が急患で運ばれてき
た!ちょっと手伝いに来てくれ!』
「え!?今すぐいきます!すみませんが急用が出来たので失礼します。」
「…話しは聞かせてもらいました、葉棟様、私の夢霧丸(むぎりまる)なら30秒で着きます。」
「夢霧丸?名前が有るのか?」
「はい、夢に進むのを阻む霧を斬り(霧)捨てることからこの名にしました、それより時間がないのでは?」
「そうだった…じゃあお願いします。」
「…システム構築、バーニア、関節のロックをOFF…夢霧丸、起動!」
突如上から墜ちてきた機体は甲冑武者に鬼面となっていて不覚にも怖いと思ってしまった。
「さあ、掴まってください、振り落とさないようになるべく気を付けますが落ちる可能性は無いとは言えません。」
「むしろ振り落とすようなスピードで突っ切ってくれ、これ以上は無いってレベルでな。」
「…分かりました、リミッター89%解除、エンジンフルドライブ、システムバーニア…全開!」
「ぐっ…!」
目の前に凄いGが襲いかかり体が潰れそうな勢いで加速している、息も出来ないし正直腕の感覚も無い、死なないのが不思議なくらいだ。
「あの建物ですか?」
「っ……!」
喋れないから手をグッジョブにして答える。
「止まりますので反動で飛ばされないように気を付けてください。」
バーニアが逆噴射しギリギリぶつかる直前で止まった。
「着きました、大丈夫ですか?」
「ああ…お前は早くこの場から離れた方がいい、天使が居る。」
「了解です、では何かあったらこの連絡先に電話してください。」
「分かった、ありがとうな。」
「では失礼します。」
また更に速く加速し見えない所まで飛び去っていった。
「よし…茂利さん今着きました。」
「早かったな、お前は今のうちに物を退かして広めの空間を作っててくれ、わしは点滴の準備やらで忙しい。」
「分かりました、よし…やるか。」
それから盃詩と夢張も到着し、一応蘇生装置の準備を済ませ、茂利さんが準備を済ませる。
「よし、後はわしに任せて休んでおけ。」
「…一応聞きますが、松さんに会っても大丈夫ですか?」
「構わん、最後かもしれんからな…。」
「…ありがとうございます。」
別室のドアを開け横になっている松さんの近くに行く。
「…松さん、準備は終わったよ。」
「…葉棟君や、一つお願い事を頼めるかい?」
「何ですか?」
「好物だった漬物を廻利に…届けてくれないかい?」
「え?雛屋は…。」
「いつ帰ってきても…直ぐに食べれるように作ってたんだけどね…もう作れそうにも無いからねぇ…これは最後の頼みさ、頼んだよ。」
「松さん…。」
「終わったか?」
「茂利さん…俺、しばらくこの村を離れます。」
「…そうか、あの子はどうする?」
「連れてく、明日辺りにでも出発します。」
「…全く、親子変わらんな…このクソババアは任せとけ。」
「なんじゃと…このくそじじい。」
「…じゃあ、後はよろしくお願いします。」
「わかっとる、行くぞババア。」
「頼むぞジジイ…。」
ベッドから体を移動させ何かキャスターがついてるベッドっぽい物で部屋から離れていった。
「…さて、行くか。」
診療所を後にし天使の居るところに向かう。
「どうした?呂堺機に乗る気になったか?」
「…天使、呂堺機のパイロットになるかわりに色々教えて欲しいことがある。」
「ふむ…用件は飲み込めないものも有るが話しは聞こう。」
「一つ、人探しを兼用したいがこれは大丈夫か?」
「ああ、差し支えない程度であれば全く問題ない。」
「二つ、俺の生活はどうしたら良い、学校や住むところだ。」
「住むところはこちらで用意しよう、学校は呂堺機専門の学園がある、そこに転入するしかない。」
「三つ、朴葉を連れていくが差し支えないか?。」
「ああ、羅堺機に乗らない限り危害は無いと見た。」
「…俺からの質問は以上だ、何かそちらからも質問はないか?」
「…一つだけある、お前の首に引っ提げてる物はなんだ。」
「あー…このペンダントは…お守り?」
「なぜ疑問系なんだ…ちょっと貸してみろ。」
「ああ、因みにトンカチで叩いても凹みもしなかった。」
「乱暴だな…む?これは呂堺機専用ガレージの鍵じゃないか。」
「え?」
「この形式だと…何億通りのパスワードが組み込まれてるな、恐らく夜森麗葉の物だろう。」
「ちょっと待て、母さんはただ研究に関わっていただけじゃないのか?」
「何を言っている、文献によると彼女は16才から研究に参加し、呂堺機を完全に仕上げたのは彼女だ、知らなかったのか?」
「…全然知らなかった。」
「…まぁ、何を知ろうがお前の勝手だ、悪魔と関わる事があっても私は別に気にも停めないが…私は絶対悪魔を殲滅する、それだけの事だ。」
「そうか…店を開かなきゃならないから絶対に早く終わらせる、それが俺のすることだ。」
「ふふ、ではこれからよろしく頼むぞ?夜森葉棟。」
「ま、御手柔らかに頼む。」
俺は一人の戦士として戦う訳じゃない、俺は俺の為だけに戦うんだ、その為には何でも利用してやる。
次回 「ハイライト・バトル」