運命の渦   作:瓢鹿

3 / 8
どうもです!第3話です!
ようやく物語が進み始めたり……?


ある冬の朝

―――リリリリリリリ。

 

朝の到来を告げる目覚ましのアラームがけたたましく鳴る音で目が覚めた。

2月の初頭、季節が冬にもなると、毛布に身をくるんでいてもそれでは些か寒さに耐えるには難しい。

幼い頃の夢を見たせいか、額に触れると、夥しい量の汗が出ている。シャツは汗を吸って、体に張り付いている。少し気持ちが悪い。

幼い頃の夢、それは10年前に起きた大火災の事だ。火災の後すぐの頃はよく見ていたが、ここ最近見ることはなかった。あの惨状。もう思い出したくもない地獄絵図。

だめだ。気分が悪くなる。この不快感を流すためにもシャワーを浴びたいなと思い、時計を見れば7時半。

……入るには少し遅いか。

手近にあった携帯の電源を入れると、予備用のアラームまでも稼働していた。

それに加え、今からだと朝飯を作って食べるには明らかに遅い。

「しょうがないか……」

朝飯を諦め、汗による不快感も諦め、学校へ行くための用意を始める決心をして、ベッドから抜け出して、リビングへ。

テレビを付けると、アナウンサーが昨日の出来事を機械のように視聴者に向け話している。

数々のニュースの中、一つだけ目を引くものが。

それは、ローカル局のニュース番組にて、

「昨日新都にてガス漏れ事件が発生―――

従業員多数が昏睡状態に陥り、病院へ搬送されました。死者はいないということです。」

という、まあ、最近では良くある工場での事故みたいなものだった。

しかし。時期を考えるとどうしてもそれが自然的に起きたものと考えることが出来ない。

「そろそろか……」

この時期。

と言うのも、俺の左手の甲に浮かび上がっている一つの紅い刻印が原因だ。

この刻印の名は令呪と呼ばれる魔術刻印に分類されるものだ。

この刻印が宿るということは、ある舞台へ上がることを許された資格と言っても差し支えないだろう。

その舞台とは、どんな願いも忽ちに叶えてしまう魔法の杯。万能の願望機。それをサーヴァントと呼ばれる使い魔とともに、自らがそれを使役するマスターとなって、他の選ばれた六人のマスター達と雌雄を決する、聖杯戦争と呼ばれるものだ。

因みにあの大火災も前回この冬木で起きた第四次聖杯戦争が原因らしい。それは昔ある男から聞いた話だ。

 

「八幡。あの火災はね、ある争いのせいなんだよ。それには僕も参加していた。何なら僕も加害者として裁かれるべき立場だ。それでも君は僕を許すかい?」

そう、衛宮切嗣という男に問いかけられた事があった。

それは火災後数年経ってからで、その頃の俺は同い年の奴らと比べ、達観していたからか、目の前できっと彼が引き起こしたことではないはずなのに見せる、沈痛な面持ちを見てか、

「別に、アンタが張本人て訳じゃないなら何も問題無いだろ。許す許さないの話で、俺がもし許さないのならとっくにアンタに襲い掛かってるし」

と言ったと思う。

その言葉を聞いた切嗣の色んなものが綯い交ぜになった表情も。

そして、そこからきっと経緯としては俺が要求したからだと思うが、聖杯戦争の様々な話を、ひいては魔術に関しての知識も学んだ。

衛宮切嗣がどんな生き方をしてきたか、魔術師としてどんな非道を行ったか、どんなものを見てきたのかを。

俺は切嗣の話を聞いて涙せずにいられなかった。

それもそうだ。切嗣の生き様はあまりにもヒトとして哀しいものだったからだ。

自身を機械として使役し、血も涙も無く、冷血に徹して、冷酷に接し、冷淡に数々の仕事をこなした。

そこには、自身の正義に殉ずる信義者と、その信義者が積み上げた正義の為の生贄が正道という道の端にまるで石ころのように転がっていたのだ。

それはきっと世界としては「絶対悪」の代物なのだ。けれど。

俺は不覚にもそんな自己犠牲を、尊く、美しいユメとは思わずにはいられなかった。

それは間違いなく、「正義の味方」

聖杯とやらが起こす奇跡の担い手として、誰よりも切嗣こそ相応しいと思った。

そして切嗣もその聖杯に奇跡を願った。

しかし、聖杯は応えず、切嗣が知り得る答えのみで解決を導き出そうとした。それは、全人類の破滅。

全員が0点を取ってしまえば、平均点が0になるように、切嗣以外を全て消滅させることで、その正義をこの世へ反映させようとしたのだ。

切嗣が願ったのは、救済で。破滅ではなく、切嗣は、自身の令呪を使用し、聖杯を破壊するに至った。

 

これが前回の聖杯戦争の結末だ。

あまりにも悲運で、非業なそんな終わり方。流れた血は無為に終わって、大きな戦禍の爪痕だけが残った。

それはこの時の為に様々な自らをも含んだ犠牲を払ってきた切嗣にとっては報われないことこの上ないだろう。

しかし、そんな報われずして終わりを迎えるその時に、俺ともう一人の生存者を見つけたことによって、報われず終わることは無かったのだ。

それはまるで、しがみつく為の一縷の希望。はたまた暗闇に差す一筋の光明か。

きっとそのどちらもだ。

俺を助け出した時の切嗣の表情を俺は10年経つ今でも明確に思い出すことが出来る。それどころか目蓋にしっかりと焼き付いてさえいる。

彭湃と流す涙に目もくれず、ただ、ありがとうと、対象の分からない感謝をうわ言のように言っていた。

まるで救われた人のように。

その表情に一体どれほど憧れたことだろう。俺にもいつか救われる日が来るだろうかと、やってくるかも分からない、不明瞭な救済を待ち焦がれたことさえある。

けれど、それは切嗣へ向けての救済であるのなら、もっと大掛かりなもので良かったはずだ。

それこそ、切嗣の求めてやまなかった理想の世界、あらゆる闘争が排除された、誰もが心の内で希った世界を、具現して初めて救済と呼べるのだ。

でもそれは、結局やって来なかった。

努力したものが報われない。そんな世界は間違っている。

切嗣は、それでもいいと言ったけれど、俺には到底許せない。

こんな間違えた世界を、俺は。

―――――ぶっ壊してやる。

 

と、誰にいうでもなく、幼心に誓ったのだ。

 

そしてその願いを胸に俺は聖杯戦争へと挑むのだ。

多数の誰かを救うことを俺は決して望んでいる訳では無い。

――――――その男を知ったから。

――――――その生き様を認めたから。

唯、一人の男。不器用ながらも、願った世界を実現しようと、あらゆる研鑽を身を粉にして、もはや、その世界の為に要らない全てを自分から排除して、積み重ねた、一人の人間。

そんな一人を救う為に俺は全てを排除する。

それはいつか願われた世界ではなく、最も遠ざけた世界だ。

けれども、それを俺は実現させる。

 

――――――衛宮切嗣を、正義の味方を救う為に。

 

時計を見れば8時前。

そろそろ出なくては。

汗を吸い、濡れてしまったシャツを脱ぎ捨て、制服へと着替え、足早に家を出た。その際にテレビを消すことを忘れない。

その時にも、未だニュースではガス漏れ事件について触れており、俺も早く戦争に向けての準備を進めなくてはならないという焦燥が俺の心を苛み始めた。

時は2月、季節は冬。

身を刺す様な冷たい空気が満ちた外は、雲一つない青空で、戦争の口火を切ったとは、到底思えない美しさをしていた。

 

「おはよう比企谷」

玄関を出た側、不意に見知った声をかけられた。

「うす、お前か。衛宮」

予定調和となりつつある、挨拶を済ませ、肩を並べて学校へと歩き始めた。

彼の名は衛宮士郎。

切嗣と同じ苗字をした、10年前のあの日、切嗣に助けられ、今日まで生きてきた、俺の唯一の友とも呼べる存在である。

「どうした比企谷?そんな俺の顔を見つめて」

「何でもねえよ」

衛宮も、また戦争の口火を切ったことを知らない。

この空と同様に。

 

「平和だなぁ……」

空を見上げ、何も知らない隣の衛宮と、世間に向け、不平を洩らすように呟いた。

 

 




残念!切嗣に助けられたのは1人ではありませんでした!
クロスオーバーらしくこれからはもっとゴチャゴチャしていきたいと思います!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。