デート・ア・ファンタジー   作:ノクトに幸せを……

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一巻分はやっておけと友人に言われたので一巻分は書こうと思います。


十香デッドエンド——遭遇

「ふぁーあ……ねみ……」

 

欠伸をしながら士道は空を仰ぐ。その空は全く雲がないといっていいほど快晴で、それに士道は眉をひそめた。

そんな彼を気に食わなかったのか琴里が食いかかってくる。

 

「もーおにーちゃん!お昼ファミレスなの忘れないでね!」

 

そう、士道は琴里と昼食をファミレスで食べる事を約束していた。

昼食はなにがいいかと琴里に聞いた時、彼女はファミレスのキッズプレートを所望した。士道も昼食を作るのが面倒だったので二つ返事で了承したが故に琴里は士道が約束を忘れるのではないかと心配だったのだ。

 

「はいはいわかったわかった。極力覚えとく」

「極力じゃなくて、絶対なの!絶対の絶対なの!」

「わーたからさっさと行け。遅刻するぞ」

 

しっしっと手で琴里を追い払う。むーっと頬を膨らませた琴里だったが、次の士道の行為でそれも萎んでしまう。

乱暴に、だが優しく士道は琴里の頭を撫でていた。

それも早々に切り上げ、士道は自身の通う学校の方へと歩き出した。

 

「んじゃ、ファミレスでな」

「うん!絶対だぞー!」

「おう」

 

琴里の方に振り向くことなく、軽く手を挙げ別れの挨拶をした士道。

これの一部始終を見ていた同じ学校の生徒にシスコン呼ばわりされたのは士道も琴里も知らない。

 

 

 

 

士道が学校に着いたのは始業数分前だった。

士道が通う高校は都立来禅高校だ。

空間震で更地になった一帯は最新技術のテスト都市として再開発がなされた。この高校もそうだ。

都立高校とは思えないほどの設備に加え、数年間に創立されたばかりなので内外装も損傷が無い、もちろん地下シェルターも最新のものが備わっている。と良いことづくめである。しかしその為か入試倍率は低くないが、適度な学力を持つ士道は難なく合格を果たし、今に至る。

 

そして、士道は自身にあてがわれたクラス……二年四組の教室へと足を踏み入れる。

そのまま、黒板に貼られている座席表を見ようとするが、その時……

 

「——五河士道」

 

後方から不意に静かで抑揚のない声がかけられた。

 

「……俺か?」

「そう」

 

誰も反応しないことを見て、ようやく自分の事かと気がつき振り返ると、そこには一人の少女がこちらを見ていた。

肩に触れるか触れないかぐらいの髪に人形のような顔が印象の少女だ。あまりにも表情が無さすぎる。

 

「初対面……だよな?」

「覚えてないの?」

「は?」

「そう」

 

士道が首を傾げると少女は特に落胆した様子も無く、そのまま彼の横を通り抜けた。

首をかしげる士道に直後、後ろから衝撃が襲った。何事かと後ろを振り返ると、そこには士道の友人、殿町宏人がいた。

 

「おう、セクシャルビースト五河。いや~~にしても士道。またお前と同じクラスになるとは・・・・・・この殿町宏人、運命を感じるぜ」

「うるせぇよ。つか気色悪い」

「酷っ!って言いたいが、言ってから俺もなに言ってんだろってなった」

「で?俺を叩いた理由は?」

 

叩かれた背中をさすりながら士道は殿町に説明を求めた。

 

「ああ、そうだそうだ。いつの間にどうやって鳶一と仲良くなりがったんだ?」

「鳶一?誰だそりゃ」

「とぼけなさんなって、今の今まで楽しくお話してたじゃねぇか」

 

そう言いながら顎をしゃくって窓際の席を示す。

そこには先程の少女が座っていた。

 

「……ああ、あいつが……であいつがどうしたんだよ」

「いや、お前ホント知らないのかよ」

「だから何がだっての!さっさと教えろって」

 

士道がそう言うと、殿町は信じられないといった具合に両手を広げ、驚いたような顔を作った。

そこらへん欧米人顔負けである。

 

「鳶一だよ、鳶一折紙。ウチの学校が誇る超天才。聞かんのか?」

「ああ、全然」

「成績は常に学年主席、この前の模試に至っちゃ全国トップとかいう頭のおかしい数字だ。しかも体育の成績もトップ、ついでに美人ときている。そんな有名人を知らないってどういう事だ?」

「興味ない」

 

そう斬って捨てた。これには流石の殿町も苦笑いを零した。

 

「じゃあなんで鳶一がお前の事知ってたんだ?」

「わっかんね。偶然じゃね?」

「お前なぁ……」

 

呆れ果てた殿町、だがそこでホームルームの開始を知らせるチャイムが鳴った。

それに殿町は慌てて、士道は至ってマイペースに席に着いた。

教室のドアがガラガラと開き、そこから緑の淵のメガネをかけた小柄な女性が現れ、そのまま教卓に着く。

 

「タマちゃんだ……」

「ああ、タマちゃんだ」

「マジで、やったー」

 

周囲から好意的なざわめきが聞こえてくる。

 

「はい、皆さんおはようございます。これから1年皆さんの担任を務めさせてもらいます、岡本珠恵です」

 

間延びしたような声でそう言う社会科担当のタマちゃんこと岡本珠恵教諭が頭を下げ、微妙に眼鏡がずれて慌てて手で押さえる。

生徒と同年代位に見える童顔に小柄な体躯、そしてのんびりとした性格で生徒から人気の生徒だ。

 

 

ふと視線を感じ横に目を向けると……折紙がじーーっと士道に視線を送っていた。

 

一瞬たじろいだが、すぐにどうでも良い事かと、意識を前に向けた。

 

「……こんな時プロンプトがいてくれりゃ茶化してくれたのかねぇ?……ん?プロンプト?」

 

その時、また士道を頭痛が襲った。

 

「またかよ……なんだってのホント……」

 

士道はそう愚痴った。

 

 

 

 

 

 

始業式を終え教室で士道が帰り支度をしている中、殿町が声をかけてきた。

 

「士道ー、どうせ暇なんだろ?飯いかねー?」

「悪いな、先約がある。また今度な」

「む?女か?」

「妹だバカ。あれを女と言うんじゃねぇ」

「なんだそうか。でも琴里ちゃんなら問題ねえだろ。俺も一緒に行っていいか?」

「ん?ああ、大丈夫だろうが……」

 

士道がそう言った瞬間、殿町が士道に顔を近づけ、ボソボソと告げ口をするように聞いてきた。

 

「なあなあ、琴里ちゃんって中二だよな?もう彼氏とかいんの?」

「あん?」

「いや、別に他意はないけど琴里ちゃん三つぐらい年上の男ってどうなのかと」

「知るかよ。仮に範囲だとしてもお前だけはねぇから」

「ヒッデェの。ま、流石の俺も兄妹団欒を突っつくほど野暮でもない。都条例に引っかかんねえ程度に仲良くしてきな」

「ホント一言余計だよなお前」

 

 

そんな時……

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーー

 

耳を劈く警報が窓ガラスを震わせた。

 

一気にシンとなる教室、そしてそこにアナウンスが入る。

 

『——これは訓練ではありません。これは訓練ではありません。前震が観測されました。空間震の発生が予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに最寄りのシェルターに避難してください。繰り返します——』

 

「空間震警報……っ」

 

殿町が額に汗をにじませながら乾いた声を出す。

だが、意外にもみんな緊張と不安を滲ませているものの比較的落ち着いていた。士道に至っては眉一つ動かしていない。正確には興味を示していなかった。

この街では30年前の空間震で深刻な被害を受けてからしつこいほど避難訓練を繰り返しさせられていたのだ。

しかもここには全校生徒を収容できる規模のシェルターがあるのだ。

 

「殿町、シェルターに行くぞ」

「わ、わかった」

 

士道の言葉に殿町は頷き、教室を出ていく。

廊下にはもうかなりの数の生徒がシェルターに向かって列を作っていた。

 

 

が、そんな中で一人だけ列とは逆方向、昇降口に向かって走っている女子生徒がいた。

 

「鳶一……?おい、何処に行く!」

「大丈夫」

 

士道の問いかけに折紙はそう答えるだけで、走り去った。何処に行ったのだろうか?そう考えたが、それも珠恵教諭の大声によって掻き消された。

 

「お、落ち着いてくださーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ!おーかーしー!おさない・かけない・しゃれこうべー!」

「しゃれこうべって……」

 

呆れる士道だったが、そんな珠恵教諭の姿が何故か妹に重なった。そして思い至り、スマホを取り出す。士道は電話帳から『五河琴里』を選び、電話をかける。

 

「ん?どうしたよ士道?」

「いや、ちょっとな……」

 

言葉を濁した。

 

 「……くそっ、だめか。繋がらねえ。ちゃんと避難してるよな?あいつ」

 

士道の頭は家族である琴里の事で一杯だった。何故ならば、士道の脳裏に「絶対だぞー!」という琴里の言葉が響き続けているからだ。

 

「頼む、頼むから……」

 

士道は琴里の携帯にGPSに対応した位置確認サービスに対応していたことを思い出すとすぐに携帯を操作して画面に街の地図と赤いアイコンが表示する。

 

「っ、嘘だろ……?」

 

琴里の位置を示すアイコンは約束のファミレスのド真ん前に停止していた。

 

「あっのバカ!!」

 

次の瞬間、士道は列から抜け出し、走り出す。

 

「お、おい!どこに行くんだよ士道!」

「忘れ物だ!」

 

そのまま士道は走り、昇降口に出る。

素早く靴を履きかえるとそのまま外に飛び出し、校庭を突っ切り校門を抜け、学校前の坂道を駆け下りる。

そこに広がっていたのは何とも不気味な光景だった。

 

車の通らない道路に人影のない街並み。

街路にも、公園にも、コンビニにも誰一人して残っていない。

つい先ほどまで、誰かがそこにいたことを思わせる生活感をのこしたまま、人間の姿が消えている。

その光景に士道は何やら既視感を覚えていたが、今はどうでもいいことだとすぐに振り払った。

 

「くそ、あのバカが!なんで残ってるんだよっ!」

 

ふと、彼の視界に何か動くものが見えた。それは人影のようであり、それが3つ4つと空に浮いていた。

 

なんだ?とそちらに意識を向けようとするも、そんな余裕はすぐになくなった。

 

突然進行方向の街並みが眩い光に包まれたからだ。

そして次の瞬間、耳を劈く爆音、そして衝撃波が士道を襲った。そして地面を転がり、何度も転がりながらも受け身を取る。

 

「なんだ……⁉︎」

 

すぐさま身を起こすと、その先にあったはずの街並みが消失していた。

街の風景が浅いすり鉢状に削り取られていた。それはまるで、否、まさしく空間震の跡である。それに気がついた士道はさっと顔を青ざめる。琴里がどうなったのか……。それだけが頭を占めていて、近づいてくる者に気がつけなかった。

 

「お前もか……」

「⁉︎」

 

まずは驚き、そして見惚れた。その暴力的なまでに美しいその姿に。

 

「……誰?」

「名、か……そんなものは、ない」

 

その少女は剣を振り上げた。

 

「……って、おい待てって!お前!何しようとしてやがる⁉︎」

「それはもちろん——早めに殺しておこうと」

「何でだよ⁉︎」

「なんで・・・・・・?当然ではないか」

 

少女は物憂げな顔で、

 

「だってお前も、私を殺しに来たのだろう?」

 

というものだから。

 

「はぁ?何言ってんだお前?」

 

士道は素でそう返していた。

 

「何———?」

 

少女は驚き、猜疑、困惑が入り混じった目を向けてくる。

そんな時、士道ははたと気がついた。

空から人が来ているのに。

 

「はぁー⁉︎」

 

士道は驚きの声をあげ、少女もまた、空飛ぶ人に気がついた。

空飛ぶ人々は、武装を次々と向けてきた。そのうちの一つ、ミサイルが士道と少女の元へと殺到する。

咄嗟に対ショック体勢を取った士道だったが、そんな必要はなく、少女が薄い膜のような障壁を張ることでミサイル群を受け止めた。

その煙に隠れて、空飛ぶ人の一人が肉薄していた。

 

そいつの名を士道は知っていた。

 

「鳶一、折紙……?」

「五河……士道?」

 

その名を呼ぶと、相手、折紙も士道に気がついたようだ。

しかし、それは一瞬の出来事で、すぐに折紙は視線をあの少女に戻す。

 

互いに睨み合い、そして刹那の空白は、士道の携帯が鳴ることで終わりを迎えた。

 

それを合図に、折紙は懐からビームサーベルのような武器を取り出して少女に斬りかかる。

 

そして黒髪の少女と激突し……その余波で士道は吹き飛ばされた。

 

ゴロゴロと転がった士道は頭を瓦礫に打ち付け、そのまま気絶してしまった。




感想ください。(切実)


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