緊張した面持ちで彼――藤丸 立香――は目の前の空間を見つめる。
「来るか、来るか来るか。来い!」
聖晶石から抽出された膨大な魔力が嵐の如く渦を巻き、人を越えた存在であるサーヴァントを座から現世に呼び出そうとしている。魔力は遂に臨界に達し、そのサーヴァントは姿を現した。
「サーヴァント、アサシン。風魔小太郎。このようなナリですが、どうぞよろしく…」
「ウヴォァー...」
......シリアスな場面でも現実はこんなものである。
「先輩、その...大変言いにくいのですが、残る聖晶石は6個です...」
「うん、ありがとうマシュ。ハハッ、現実を思い知らされたよ...」
藤丸 立香とマシュ・キリエライトは人理を救い、全ての歪みを正した。もうサーヴァントを召喚しなくても良いし、戦いに身を投じる必要もない。だが彼には予感があった。
''近いうちに厄介事が起こる''と。
故に彼とマシュは世界各地にレイシフトし、聖晶石を集めた。そうして先日まとまった数の聖晶石が集まったのだが、結果は惨敗。俗に言う爆死である。
「特異点での戦いじゃ折れずに頑張って勝ってきたけど、この結果には心が折れそうだよ...」
彼の不屈の心が折れかけるのも無理はない。目の前には夥しい数の礼装と既にカルデアに存在するサーヴァントの霊基。
厄介事に関しては勘でしかないが、これまでの戦いのなかで鍛えられた、サーヴァントの直感に比する勘である。その勘が警報を鳴らしているなか、戦力の拡充が出来ないのはあまりに痛い。
人理が救われた今、カルデアの独断でレイシフトを行うのは厳しい。ダ・ヴィンチちゃんが国連と交渉を行い、レイシフトの許可を得たが何度も行えるものでもない。次に許可を貰い、レイシフトをするのは問題が起こったときだろう。
「先輩、残る聖晶石も使いますか?...あの、また貯めてから召喚を行うほうがよろしいかと私は思います。」
「うん、そうだねマシュ...。」
マシュの意見を聞き、戦力の拡充を先伸ばしにしようとする藤丸。本来なら先伸ばしに出来ない問題だが彼とマシュはこれまでの戦いで培った経験や度胸がある。数々の出会いで結んだ絆、そのなかで育まれた強い精神がある。それらは容易く揺らぐことはない。幸い、人理修復後もカルデアに残ってくれた心強い仲間達もいる。
「じゃあ、召喚はこれで...ッ!」
―――呼ぶが良い―――
藤丸を助けてきた勘。それが今、五月蝿いくらいに鳴り響いている。召喚するべきだと。
「...いや、マシュ、後1回だけやってみよう。」
「はぁ、分かりました。」
急に真剣な表情をした藤丸にマシュは若干困惑しながらも慣れた手つきで聖晶石をセットする。
「召喚システム、起動します!」
聖晶石から魔力が抽出される。1つ消費すれば対城宝具や対界宝具の発動すら可能な規格外の魔力タンクを3つ使い、召喚を行う。
魔力が鳴動する。
莫大な魔力が大気を焼く。
神代の世界を思わせる魔力が収束し、ソレを形作っていく。
刹那―――世界が死んだ。
否、そう錯覚するほどの濃密な''死''の匂い。
その匂いを藤丸とマシュは知っている。
忘れる事など出来ない。あぁ、彼は――
「我は暗殺者、山の翁である。冠位は捨てた身なれど、我が剣、我が暗殺術に一切の曇りなし。契約者よ、結んだ縁により再び参上した。名はない故、好きに呼べ。」
今日この時より、カルデアに人類史でも最強の暗殺者が顕現した。
舞台裏にて
ぐだ男「キタァァァァァ!!フォォォォ!!」
小説って書くの難しいですね。長編を書いている作者さんには脱帽です。
なお、ぐだ男の石の数は作者の石の数とリンクしています。師匠欲しかったんや...