ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.5:作戦会議

  

 

 

 リべリオン主導で壮大な計画が目の前で掲げられるのを、リネットは半ばあっけにとられながら聞いていた。

 

 カールスラント奪還――ちょっと前までは考えられなかった、ネウロイに対する大規模反攻作戦だ。しかし欧州には依然として多くのネウロイの巣が存在し、とりわけベルリンの巣は強力と噂されていた。

 

 

(本当に、それだけの戦力が今の人類に……?)

 

 

 リーネが、そして恐らくは他のウィッチ達も抱くであろう疑問。それが顔にも出ていたのだろうか。眼鏡からのぞく蒼い瞳に、悪戯っぽい光が宿る。

 

 

「限定反攻とはいえ、各国から可能な限りの使用可能兵力を抽出した結果、ウィッチは最低でも100人以上、投入兵力の合計は地上戦力15万と後方要員75万を含む計90万に達する見込みです」

 

 

(ウィッチが、90人も……!? それに参加兵力も90万って、ブリタニアの総兵力より多いぐらいだよ……)

 

 最早どよめきすら起こらず、全てのウィッチが言葉を失っていた。多少の事では動じないエーリカやエイラですら、ぽかんと口を開けている。

 

 

「後方要員が多いのは、物資の大半をブリタニア経由でリベリオンから送り込むためです。実戦で運用される航空兵力はウィッチ90人と2000の航空機、海軍兵力は大・中型艦艇120隻、陸軍戦力は戦闘員30万と戦車1700両となります」

 

 説明を続けるドゥーリットルの背後で、プロジェクターが起動する。部屋の照明が落とされ、ヨーロッパの地図を詳細に浮かび上がらせた。

 

 

「今回の『インフィニット・ジャスティス』作戦は、大きく分けて五つの段階から構成されています。 第一段階は陽動を目的とした、カールスラント北部の港湾都市・キールへの上陸作戦――司令部はこれを『鋼鉄の空(アイアン・スカイ)』作戦と名付け、ガリア方面に対する敵の圧力軽減と戦力漸減を同時に達成します」

 

 カールスラント北部を拡大した地形図が映し出され、彼我の部隊を示す軍隊符号が置かれた。続いて自軍を示す青色符号は海岸線に並べられ、ネウロイを示す赤色符号が内陸部から海岸に向かって移動している。

 

「この作戦は言うなれば、ハンブルクにある“巣”の攻略に向けた布石です。我々は敢えて彼らの後方に上陸し、ネウロイをハンブルクの“巣”から引き離します」

 

 地図上にある“巣”から、ネウロイを示す符号が後方へと動かされる。

 

 

「続く作戦の第二段階、『鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)』作戦では、ベルギカのアルンヘム基地から地上部隊と共に進軍。ネウロイの正面圧力がキールへ吸引されている間に、ハンブルクの“巣”を攻略します」

 

 

 アルンヘムに置かれた沢山の部隊符号が、ハンブルクに向けて動かされた。しかし迎え撃つべきネウロイは先の『アイアン・メイデン』作戦によって遠くキールまで移動しており、戻ってくるまでの時間差で“巣”の攻略を行う計画だ。

 

 

「第三段階は第一段階と同様の目的で、ヴェネツィアからニュルンベルクの“巣”に向けて限定攻勢をかけます。作戦名は『鋼鉄の壁(アイアン・ウォール)』――ただし、今回は第一段階と違って敵兵力の吸引に留まらずに地域の確保、つまりヴェネツィア防衛の縦深確保も目指します」

 

 

 平坦なカールスラントと違って、ヴェネツィアの北にはアルプス山脈が広がっている。その地形を天然の要害としてうまく利用できれば、ネウロイに対して長期間防衛することも可能だ。

 

「そして第四段階にあたる『鋼鉄十字(アイアン・クロス)』作戦で、ガリアにあるディジョン基地から地上部隊が進軍し、敵主力がアルプス山脈で拘束されている間にニュルンベルクにある“巣”を攻略します」

 

 ドゥーリットルが再び指示棒を動かす。アルプスの山岳地帯で足止めをくらっているネウロイに対し、側面から一撃をかけるという寸法だ。

 

 

「そして、最後の第五段階」

 

 

 改めて、プロジェクター上に欧州の全体図と全軍の配置図が映し出される。しかし最初の地図と違ってネウロイは北と南に大きく移動しており、中央部が手薄になっていた。

 

 何人かのウィッチがそれに気づいて、あっと声をあげる。ドゥーリットルは満足したように頷くと、指示棒を置いて全員に向き直った

 

「ハンブルク、そしてニュルンベクを攻略した我々は、そのまま陽動として南北からベルリンの“巣”に圧力をかけます」

 

 

 当然、敵もそれに対応して部隊を2つに分けるはず。でなければ挟み撃ちにあってしまう。

 

 

 だが、その時こそ――。

 

 

「我々は満を持して、正面から全面攻勢『鋼鉄の嵐(アイアン・ストーム)』作戦を発動――圧力の減ったガリア正面から一斉攻撃をかけ、一気にベルリンまでを確保します」

 

 

 要するにネウロイの両側面に陽動をかけ、敵の注意がそちらに向いたところで正面突破を図るという訳だ。

 

 

 ガリア方面は地形が平坦であり、大軍が行動するのにはうってつけの場所である。それに元々先進国だったガリアならインフラにも問題はない。よく整備された道路や鉄道は再利用できるし、港がブリタニアから近いため海上輸送で大量の物資を素早く搬送できる。

 

 

「ちなみに『鉄の嵐』作戦では、ベルリンの“巣”攻略は必ずしも必要事項ではありません。最終目標は“3つの戦線の統合と再構築”であるため、戦線の連結が完了すればその時点で攻撃計画は終了します」

 

 

 それを聞いて、何人かのウィッチがほっと胸を撫で下ろした。攻撃には大まかにいって「敵の撃滅」と「陣地の奪取」という2つの目的があるが、今回の作戦では後者をとっている。

 

 つまり「3つの戦線の連結」という作戦目的さえ達成できれば、無理にネウロイと戦わなくても構わない。一見すると野心的だが、彼我の戦力差を踏まえた堅実な作戦だ。

 

 

 しかし逆にいうと、それだけの為に人類は90万もの大兵力を動員している事になる。

 

(限定反攻でこの規模……リベリオンにはどれだけの力が……)

 

 これはバルバロッサ作戦以降、最大の作戦となるだろう。戦力の6割はリベリオン軍で構成されているらしいが、それすら膨大な兵力を要するリベリオン軍の一部に過ぎない。海の向こうにある超大国の底力を見せつけられた気分だ。

 

 

「と、いう事で皆さん――欧州にあるネウロイの巣、ぜーんぶ火の海にしてしまいましょう」

 

 最後にさらっと物騒な事を呟いて、ドゥーリットルはいったん演説を終了した。彼女が演壇から退出した後も、興奮したウィッチたちのざわめきはしばらく収まりそうにもなかった。

 

 




 現実にはこの時代、米軍は複数の戦術的勝利をシンクロナイズさせて戦略的勝利を掴むという「作戦術」」の概念を理解しておらず、世界で唯一理解していたのはソビエト赤軍でした。

 ストパン世界だと人類は比較的仲良しなので、きっとオラーシャからリべリオンに伝えられたに違いない(適当)

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